アカデミー作品賞 (アカデミーさくひんしょう、Academy Award for Best Picture)は、アカデミー賞 の部門の一つで、映画作品自体へと賞が贈られるアカデミー賞の最重要部門である。
その年のアメリカで上映された最も優れた映画10本を候補に選び、その中の1本にこの名誉が与えられる。アカデミー賞の候補投票は会員がそれぞれ属する分野のみの投票であるが、作品賞は全会員が10本候補を選んで投票する。ちなみに、受賞するのは、作品のプロデューサーである。
歴史
名称の変遷
第1回 は「作品賞(Outstanding Picture)」と「芸術作品賞(Best Unique and Artistic Picture)」の2部門に分かれており、それぞれ3本ずつ候補作が選ばれていた。その結果、前者はエンタメ大作『つばさ 』が、後者は芸術映画『サンライズ 』が受賞した[ 1] 。
しかし、1927年に公開された『ジャズ・シンガー 』がヴァイタフォン 方式によるトーキー映画 であったため、どちらにもノミネートすることができず、最終的にはアカデミー名誉賞 が贈られることとなった[ 2] 。
それを受けて、翌年には「芸術作品賞」が撤廃されて、『つばさ 』が受賞した「作品賞」を最高賞と改めて決定。名称はOutstanding Pictureのままであったが、『ジャズ・シンガー 』のようなトーキー映画 もノミネートできるように許可した[ 3] 。その後は何度か名称を変更し、1962年以降は単に「作品賞(Best Picture)」とだけ呼ばれるようになった。
ノミネート数の増加
第2回 からは候補を5本選ぶようになったが、第5回 では8本になり、第6回 には候補作の数は10本となった。第17回 からは従来の5本へと戻り、64年間この形態で続いていたが、第81回 で『ダークナイト 』や『ウォーリー 』といった高い評価を得た大衆映画が作品賞にノミネートされなかったことに対して批判が増加し、翌年の第82回 では10本になった[ 4] 。
第82回 から最終選考法については最も優れた単数選考の選挙 方式とされるインスタント・ランオフ・ヴォーティング が採用された。これは票割れの弊害を防ぐ方式である。
第84回 には会員の投票の5パーセント以上の得票率を得た作品の中から5本から10本の間で選ばれるようルールが変更された[ 注 2] 。第94回 からは10本に固定となった[ 5] 。
受賞と候補作一覧
以下は 受賞作 と 候補作 の一覧である。
1920年代
1930年代
1940年代
1950年代
1960年代
1970年代
1980年代
1990年代
2000年代
2010年代
2020年代
各種記録
以下にアカデミー作品賞関連の様々な記録を記す。
演技賞関連の記録
作品賞を受賞した中で、主演男優賞 と主演女優賞 を同時に受賞した作品は、『或る夜の出来事 』、『カッコーの巣の上で 』、『羊たちの沈黙 』の3本のみであり、そのすべてが「主要5部門 」を制覇している。作品賞はノミネート止まりでの同時受賞は、『ネットワーク 』、『帰郷 』、『黄昏 』『恋愛小説家 』の4本のみである。
演技4部門(主演男優賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞)全てで候補になった作品は、『襤褸と宝石 』、『ミニヴァー夫人 』、『誰が為に鐘は鳴る 』、『ジョニー・ベリンダ 』、『サンセット大通り 』、『欲望という名の電車 』、『地上より永遠に 』、『バージニア・ウルフなんかこわくない 』、『俺たちに明日はない 』、『招かれざる客 』、『ネットワーク 』、『帰郷 』、『レッズ 』、『世界にひとつのプレイブック 』、『アメリカン・ハッスル 』の14本。そのうち作品賞を受賞したのは『ミニヴァー夫人 』と『地上より永遠に 』の2本のみ。
演技部門で最多3部門(助演を含む)を受賞した作品は、『欲望という名の電車 』と『ネットワーク 』、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』の3本のみだが、作品賞を受賞したのは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』の1本のみである。
なお演技部門で4人以上がノミネートされたにもかかわらず、作品賞ノミネートを逃した作品は、『襤褸と宝石 』『ママの想い出 』『オセロ 』『ダウト〜あるカトリック学校で〜 』の4本である。
外国作品及び外国語作品関連の記録
作品賞にノミネートされた外国語映画は、現在まで14本しか存在せず、そのうち作品賞を受賞したのは第92回 の『パラサイト 半地下の家族 』が唯一である。また『硫黄島からの手紙 』と『ミナリ 』は、アメリカが製作のため外国語映画賞にはノミネートされていない。
アメリカ以外の国で製作された映画が、作品賞を受賞したのは『ハムレット 』、『トム・ジョーンズの華麗な冒険 』、『わが命つきるとも 』、『炎のランナー 』、『ガンジー 』、『ラストエンペラー 』、『スラムドッグ$ミリオネア 』、『英国王のスピーチ 』、『アーティスト 』、『パラサイト 半地下の家族 』の10本で、うち8本はイギリス映画である。
監督関連の記録
作品賞を受賞した96本のうち、69本が監督賞 を受賞している。一方で、作品賞を受賞しながら、監督賞にノミネートすらされなかった作品は『つばさ 』、『グランド・ホテル 』、『ドライビング Miss デイジー 』、『アルゴ 』、『グリーンブック 』、『コーダ あいのうた 』の6本のみである。
また2名以上の監督がクレジットされた作品賞受賞作は『ウエスト・サイド物語 』(ロバート・ワイズ &ジェローム・ロビンズ )と、『ノーカントリー 』(ジョエル&イーサン・コーエン )、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート )の3本のみである。
同じ監督の作品が同時に2つ以上ノミネートされたのは、第47回 の『ゴッドファーザー PART II 』『カンバセーション…盗聴… 』(フランシス・フォード・コッポラ )と、第73回 の『トラフィック 』『エリン・ブロコビッチ 』(スティーヴン・ソダーバーグ )のみである。
ジャンル別の記録
作品賞にノミネートされた映画のうち、アニメーション映画 は『美女と野獣 』、『カールじいさんの空飛ぶ家 』、『トイ・ストーリー3 』の3本のみ。SF映画 は『時計じかけのオレンジ 』、『スター・ウォーズ 』、『E.T. 』、『アバター 』、『第9地区 』、『インセプション 』、『ゼロ・グラビティ 』、『her/世界でひとつの彼女 』、『オデッセイ 』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード 』、『メッセージ 』、『ドント・ルック・アップ 』、『DUNE/デューン 砂の惑星 』、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター 』、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』の15本だが、そのうち『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 』が初めて作品賞を受賞した。
なおSF映画と同様に作品賞を受賞しづらいとされていたファンタジー映画 も、これまで何度かノミネートされており、21世紀に入ってからは『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 』と『シェイプ・オブ・ウォーター 』の2作品が受賞に至っている。ホラー映画 は、これまで『エクソシスト 』、『ジョーズ 』、『羊たちの沈黙 』、『シックス・センス 』、『ブラックスワン 』、『ゲット・アウト 』の6本がノミネートされており、そのうち『羊たちの沈黙 』が作品賞を受賞した。
また、第1回アカデミー賞 で『チャング 』が芸術作品賞にノミネートされて以来、ドキュメンタリー映画 が作品賞にノミネートされたことは一度もない。
続編・前日譚・リメイク・翻案関連の記録
これまで作品賞にノミネートされた続編作品は、『聖メリーの鐘 』、『ゴッドファーザー PART II 』、『ゴッドファーザー PART III 』、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔 』、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 』、『トイ・ストーリー3 』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード 』、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター 』、『トップガン マーヴェリック 』の9本。前作が候補になっていない作品は『トイ・ストーリー3 』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード 』、『トップガン マーヴェリック 』の3本のみである。
また『ブラックパンサー 』は、独立した単体の映画ではあるものの、厳密には「マーベル・シネマティック・ユニバース 」シリーズの18作品目に位置しており、続編作品と取ることもできる。
リメイク作品の受賞は『ベン・ハー 』、『マイ・フェア・レディ 』、『ディパーテッド 』、『コーダ あいのうた 』の4本のみ。うち『ディパーテッド 』と『コーダ あいのうた 』は、外国語映画のリメイクである。
またノミネートのみは『戦艦バウンティ 』、『クレオパトラ 』、『天国から来たチャンピオン 』、『トゥルー・グリット 』、『レ・ミゼラブル 』、『アリー/ スター誕生 』、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 』、『DUNE/デューン 砂の惑星 』、『ナイトメア・アリー 』、『ウエスト・サイド・ストーリー 』、『西部戦線異状なし 』の10本。そのうち作品賞受賞作のリメイクは、『戦艦バウンティ 』、『ウエスト・サイド・ストーリー 』、『西部戦線異状なし 』の3本のみである。
技術関連の記録
作品賞を受賞した中で、サイレント映画 は『つばさ 』と『アーティスト 』の2本のみ。また『アーティスト 』は、『アパートの鍵貸します 』以来51年振りの完全白黒映画の作品賞となった。
ストリーミング配信映画 は、これまで『ROMA/ローマ 』、『アイリッシュマン 』、『マリッジ・ストーリー 』、『Mank/マンク 』、『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ- 』、『シカゴ7裁判 』、『コーダ あいのうた 』、『ドント・ルック・アップ 』、『パワー・オブ・ザ・ドッグ 』、『西部戦線異状なし 』、『マエストロ: その音楽と愛と 』の11本がノミネートされており、そのうちの9本がNetflix である。また『マンチェスター・バイ・ザ・シー 』は劇場公開作品ではあるものの、Amazonスタジオ 配給のため、ストリーミングサービス が保有する最初の作品賞ノミネートとなった。
レイティング関連の記録
他のアカデミー賞関連の記録
他の賞・映画祭と関連する記録
最高値の記録
ノミネート数ランキング
太字 は作品賞受賞作
受賞数ランキング
太字 は作品賞受賞作
興行収入ランキング
作品賞受賞作のみ
順位
作品名
世界興行収入
1位
タイタニック
$2,264,750,694
2位
ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
$1,156,598,523
3位
オッペンハイマー
$960,362,215
4位
フォレスト・ガンプ/一期一会
$678,226,465
5位
グラディエーター
$465,387,186
6位
英国王のスピーチ
$484,068,861
7位
ダンス・ウィズ・ウルブズ
$424,208,848
8位
風と共に去りぬ
$402,382,193
9位
スラムドッグ$ミリオネア
$378,411,362
10位
アメリカン・ビューティー
$356,296,601
最高値
備考1:^ 第23回アカデミー賞 (1950年 )までは作品賞は映画を製作したスタジオに贈与されていたが、第24回アカデミー賞 (1951年 )よりプロデューサーとしてクレジットされている者に贈られるようになった。また1943年までは毎年10作品が候補となり、その後5作品となったが、2009年より再び10作品となった。複数のプロデューサーが共同で受賞したのは1973年の『スティング 』の3名が初めてであり、2010年までで最多は1998年の『恋におちたシェイクスピア 』の5名である。その後、候補対象となるプロデューサーは1作品につき3名までに制限された。しかしながらこの制限は特別な事情がある際に解除される場合があり、例えば2008年にアンソニー・ミンゲラ とシドニー・ポラック が他界した際、両者が生前にプロデューサーとして参加していた『愛を読むひと 』は4名が候補に挙がった[ 注 8] 。
備考2:^ スティーヴン・スピルバーグ は『E.T. 』『カラーパープル 』『シンドラーのリスト 』『プライベート・ライアン 』『ミュンヘン 』『硫黄島からの手紙 』『戦火の馬 』『リンカーン 』『ブリッジ・オブ・スパイ 』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 』『ウエスト・サイド・ストーリー 』『フェイブルマンズ 』『マエストロ: その音楽と愛と 』のプロデューサーをしている。
備考3:^ 厳密にはエキストラとしてだが、『ゾラの生涯 』『我が道を往く 』『失われた週末 』『紳士協定 』『イヴの総て 』『地上最大のショウ 』『80日間世界一周 』の7本に出演したという記録が残っている。次いで多いのはベス・フラワーズ の5本、ロバート・カーネス の4本だが、どちらもエキストラである。クレジットのある俳優としてはジョン・カザール 、ダイアン・キートン 、シャーリー・マクレーン 、モーガン・フリーマン 、ジャック・ニコルソン 、コリン・ファース 、レイフ・ファインズ の3本が最多。
備考4:^ こちらはクレジットのある俳優のみで換算。ロバート・デ・ニーロ は『ゴッドファーザー PART II 』『タクシードライバー 』『ディア・ハンター 』『レイジング・ブル 』『ミッション 』『レナードの朝 』『グッドフェローズ 』『世界にひとつのプレイブック 』『アメリカン・ハッスル 』『ジョーカー 』『アイリッシュマン 』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 』に出演している。次いで多いのが、レオナルド・ディカプリオ の11回。そしてジャック・ニコルソン 、トム・ハンクス 、ケイト・ブランシェット の10回である。
備考5:^ 『ベン・ハー』『タイタニック』『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』に次いで受賞したのは『ウエスト・サイド物語 』(1961年)の10部門。
備考6:^ 主演女優賞と助演女優賞において2人ずつノミネート。
備考7:^ 歌曲賞において2作品がノミネート。
備考8:^ 『ひとりぼっちの青春』に次いで多いのが『ポセイドン・アドベンチャー 』(1972年)『未知との遭遇 』(1977年)『ラグタイム 』(1981年)『ドリームガールズ 』(2006年)『ダークナイト 』(2008年)の8部門。
備考9:^ 『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』に次いで受賞したのは『恋の手ほどき 』(1958年)『ラストエンペラー 』(1987年)の9部門。
備考10:^ 『グランド・ホテル』に次いで少ないのは『コーダ あいのうた 』(2021年)の3部門。
備考11:^ 『キャバレー』に次いで受賞したのは『スター・ウォーズ 』(1977年)『ゼロ・グラビティ 』(2013年)の7部門。
備考12:^ 『悪人と美女』に次いで受賞したのは『サンライズ 』(1927/28年)『スパルタカス 』(1960年)『ファニーとアレクサンデル 』(1983年)『ロジャー・ラビット 』(1988年)『ターミネーター2 』(1991年)『マトリックス 』(1999年)の4部門。
備考13:^ 主演女優賞において2人がノミネート。
備考14:^ 助演女優賞において2人がノミネート。
備考15:^ 『グリーン・デスティニー』『ROMA/ローマ』に次いで多いのは、『西部戦線異状なし 』(2022年)の9部門。
備考16:^ 『風と共に去りぬ』(1939年)は上映時間(音楽を除く)が221分(3時間41分)だが、序曲、インターミッション、幕あい、ワークアウト音楽を含むと234分(3時間54分)に達した。対し、劇場公開版の『アラビアのロレンス 』(1962年)の上映時間(音楽を除く)は222分(3時間42分)を超え、『風と共に去りぬ』よりもわずかに長い。また、追加要素を含んだ完全版の『アラビアのロレンス』は約232分(3時間52分)である。ただフィルム自体の長さならば『アラビアのロレンス』の方が長い。この他に上映時間が長い作品賞受賞作としては、212分(3時間32分)の『ベン・ハー 』(1959分)、201分(3時間21分)の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 』(2003年)がある。
備考17:^ 他の部門も合わせて最も上映時間の長いアカデミー受賞作は、長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『O.J.: Made in America 』(2016年)で、467分(7時間47分)である。
備考18:^ 『マーティ 』に次いで短い作品賞受賞作は『アニー・ホール 』(1977年)で、93分(1時間33分)である。
備考19:^ 『タイタニック 』に次いで高い作品賞受賞作は『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 』(2003年)の11億ドルである。
備考20:^ 作品賞受賞時の記録だと『ハート・ロッカー 』(2009年)の1470万ドルが最低である。またストリーミング配信映画 を含むと、『コーダ あいのうた 』(2021年)の190万ドルが最も低い興行収入となる。
備考21:^ 『アバター 』に次いで高い作品賞候補作は『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター 』(2022年)の20億ドルである。
備考22:^ 『シマロン 』の1月26日や、『カヴァルケード 』の1月5日などもあるが、当時のアカデミー賞は前年に公開された作品もノミネート対象であったため記録としない。
備考23:^ 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(原題: Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance))に次いで長いのは、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 』(原題:The Lord of the Rings: The Return of the King)の35文字。
備考24:^ 『オッペンハイマー』(原題: Oppenheimer)に次いで長いのは、『カサブランカ 』(原題:Casablanca)、『許されざる者 』(原題:Unforgiven)、『ブレイブハート 』(原題:Braveheart)の10文字。
備考25:^ それぞれ『Gigi』『ARGO』『CODA』となる。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
1927–1940 1941–1960 1961–1980 1981–2000 2001–2020 2021–現在