日本貨物鉄道株式会社[1](にっぽんかもつてつどう[4]、英: Japan Freight Railway Company[5])は、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(JR会社法)に基づき、鉄道貨物輸送事業等を運営する日本の鉄道事業者である。通称および公式の略称はJR貨物(ジェイアールかもつ)[1]で、英語の自社表記としてJRF[6](JR Freight)を使うこともある。1987年(昭和62年)4月1日の国鉄分割民営化に伴って日本国有鉄道(国鉄)から鉄道事業を引き継いだJRグループの企業の一つで、日本全国規模の貨物輸送を担うため、地域別に設立されたJR旅客6社とともに発足した[7]。全株式を日本国政府が実質的に保有する特殊会社であるが、株式上場による民営化を将来的な目標としている[7]。
貨物列車を日本のほぼ全国で運行する唯一の事業者であり[6]、JRグループ7社のうち日本の主要四島(北海道、本州、四国、九州)すべてで鉄道事業を展開しているのはJR貨物のみである。その路線網は他のJR各社や第三セクター鉄道への乗り入れを含めて75線区(営業キロ7954.6 km)、貨物取扱駅241駅に及ぶ(2021年4月1日時点)[1]。そのほか、遊休地となった操車場跡地を利用しての不動産賃貸業や社宅跡地を利用してのマンション分譲も行っており、不動産デベロッパーとしての側面もある。
コーポレートカラーは「コンテナブルー」(青22号)。四国旅客鉄道(JR四国)以外のJR各社と同様に、ロゴの「鉄」の字は、金を失うという意味を避けるため「金偏に矢」という「鉃」の文字を使って「日本貨物鉃道株式会社」としているが、正式な商号は常用漢字の「鉄」である。社章であるJRグループ共通のJRロゴマークのほか、独自のサービスマーク「JRF」ロゴも使用していたが、知名度が低く、ブランドイメージ統一の一環として2017年以降公式には使用されなくなった。なお、「JRF」ロゴの色には19A形以降のコンテナに使用されているJRFレッド(ワインレッド)が用いられる場合があった。
概説
国鉄のJRグループへの移行に際し、全国6つの会社に分割された旅客事業とは異なり、貨物事業は全国規模での営業を続けることとなり設立された、JR会社法に拠る特殊会社である。北海道旅客鉄道(JR北海道)、四国旅客鉄道(JR四国)と同様、経営基盤が弱いことから、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構国鉄清算事業本部(発足当初は日本国有鉄道清算事業団)が全株式を保有しており、株式上場の目途は立っていない。JR貨物は、まず黒字を出せる体質にして、経営的に自立することが目標であるという見解を示している[7]。
設立の際、両端が旅客線に接続する貨物線や、旅客化する計画のある路線、廃止が決定している路線はその地域を管轄する旅客鉄道会社が保有することとされ、JR貨物自身が第一種鉄道事業者として保有する路線は必要最小限に抑えられた。2024年4月1日時点ではJR貨物が第一種鉄道事業者として保有する路線は8線区29.1kmである[1]。そのため、JR貨物が列車を運行する路線のほとんどは旅客鉄道会社やJR路線を転換した第三セクター鉄道が保有しており、JR貨物はそれらの会社に線路使用料を払って第二種鉄道事業者として貨物列車を運行している。旅客鉄道会社への線路使用料は「アボイダブルコスト」によって決められており、第三セクター鉄道会社への使用料についても移行前に比べ上昇しているもののその差分について鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)から補填を受けている。
貨物列車の運行については、基本的に自社の乗務員や機関車を使って行っているが、かつては路線によっては旅客鉄道会社の乗務員や機関車で運行する場合もあった。また、逆にJR貨物の乗務員や機関車で旅客列車を運行する場合もあった。旅客鉄道会社の客車をJR貨物の機関車が牽引していた例として、客車時代の夜行急行「ちくま」の名古屋駅 - 長野駅間や、「かいもん」の門司港駅 - 西鹿児島駅間、磐越西線、筑豊本線などがある。しかし、少数の夜行寝台列車(ブルートレイン)を除いて客車による定期旅客列車が消滅した後は、車両故障時の救援で運行される程度である。なお、関門トンネルを潜る下関駅 - 門司駅間を走行する旅客列車の牽引を九州旅客鉄道(JR九州)から受託しており、JR九州所属の機関車EF81形400番台2両がJR貨物の門司機関区に常駐している。
貨物輸送量は、高速道路整備による大型トラックでの貨物輸送の増加や航空機での貨物輸送の増加、さらには国鉄時代の度重なる運賃の値上げやスト権ストをはじめとするストライキによる鉄道貨物への信頼失墜などの影響を受けて、年々減少を続けていた。かつてJR貨物会長を務めた伊藤直彦は、日本において本来鉄道が得意とする500km以上の遠距離輸送においても鉄道貨物が衰退していった理由を幾つか列挙した際、その一つに、このストによる信頼失墜を挙げている[8]。荷主がいったん離れた鉄道貨物の復権は容易ではなく、大阪のある大手メーカーには当時「もう二度と鉄道は使わない」とまで言われたエピソードも残っている[9]。しかし近年は環境への負荷が少ないモーダルシフトや、深刻になっているトラック運転手不足問題から、特に長距離輸送において貨物列車が再評価されている。JR貨物は、東京貨物ターミナル駅などに他社テナントが利用する「レールゲート」を併設するなど、トラックやコンテナ船、航空機を含めた陸海空物流ネットワークの一部を担うことで取扱貨物量や収益を増やす戦略をとっている[7]。他の物流企業、特に内航海運との連携は、鉄道の不通など輸送障害時における代替手段を確保するためにも重要である[7]。
2000年代には、貨物列車の増発や速度向上、IT-FRENS&TRACEシステムの導入、貨物駅のE&S方式への改良、M250系貨物電車の運行など、ソフト面・ハード面の充実でサービスアップを図った。また中国の最大手海運企業である中国遠洋海運集団 (COSCO) と提携を行って、「航空機より安く、コンテナ船より速い」をコンセプトにした国際複合一貫輸送「SEA&RAILサービス」を2006年3月から開始した。
2010年代以降も、業務の効率化・輸送サービス改善のため業務システムの改良や新規システムの開発、IoT技術の導入等を進めたほか、自然災害等による輸送障害を局限するための迂回運行や代行輸送の体制整備、トラックとの接続輸送を促進するための駅施設整備等の対策にも取り組み、トラックドライバー不足によるモーダルシフト需要の取り込みを図っている。
JR貨物が列車を運行しているのは日本国内のみだが、日本政府や国際協力機構(JICA)に協力して外国の鉄道整備・運行に必要な調査や人材育成を支援しているほか、商業ベースで海外貨物鉄道事業への参入を探っており、2021年にはタイ王国首都バンコクに駐在員事務所を設立した[10]。
事業所
2021年6月22日時点[1]
JR貨物
本社
支社
本社組織
2021年6月22日時点[1]
- 監査部
- リスク統括本部
- 安全統括本部
- 鉄道ロジスティクス本部
- 戦略推進部
- 営業部
- コンテナ部
- 海外事業部
- 総合物流部
- 運輸部
- 車両部
- 保全管理部
- 事業開発本部
- 経営統括本部
- 経営企画部
- インフラ整備推進部
- 業務創造推進部
- 技術企画部
- 情報システム部
- 調達部
- 財務部
- 人事部
- 総務部
- 中央研修センター
歴史
歴代社長
社歌
社歌は会社発足20周年を記念して2006年に制定された『春夏秋冬』である。歌詞は社内公募で選ばれたものに三浦徳子が補作。作曲と編曲は服部隆之が行った[15]。
俳優の山本耕史が歌う非売品のCDが存在するほか、2017年3月29日にキングレコードから発売された『JNR to JR〜国鉄民営化30周年記念トリビュート・アルバム』で廣田あいか(私立恵比寿中学・当時)がカバーした。
2019年には日本経済新聞社が主催する社歌コンテストである「NIKKEI 全国社歌コンテスト」で「心に残る音楽賞」を受賞した[28]。
路線
営業路線
2024年4月1日時点[1]
- 営業線区:75線区(うち第一種鉄道事業:8区間)
- 営業キロ:7805.5 km(うち第一種鉄道事業:29.1 km)
第一種鉄道事業路線
第二種鉄道事業路線
廃止路線
第一種鉄道事業路線
第二種鉄道事業路線
保有駅・施設
2020年3月14日時点で、241の駅と37か所の自動車代行駅(オフレールステーションならびに新営業所)を保有している。大半の駅は旅客鉄道の旅客駅と共有しており、またおよそ半分の駅では定期貨物列車の設定が無い。
各支社記事の「管内の駅」の節を参照のこと。
全国6か所の貨物駅構内に物流施設を保有しており、テナント1社専用のBTS型施設「エフ・プラザ」と複数企業が入居するマルチテナント型施設「レールゲート」を全国展開中である[34][35]。レールゲートでは、鉄道利用に応じ倉庫賃料を割引く制度の導入などが予定される。
また、貨物駅の廃止・縮小に伴う跡地に商業施設を開業させるなどした例もあり、飯田町駅と小名木川駅の再開発がこれにあたる。
- エフ・プラザ
-
- レールゲート
-
ダイヤ
ダイヤ改正については3月に実施することが多く、他のJR各社に合わせて実施される。具体的な運行ダイヤは市販の『貨物時刻表』で公表されている。
車両
全国規模で貨物列車を運行しているため、貨物輸送用の機関車、貨車、電車を主に保有している。
2021年4月1日時点の車両の保有数は、電気機関車(直流専用・交流専用・交直流両用)417両、ディーゼル機関車149両、貨物電車(M250系)42両、貨車がコンテナ車7,140両、その他の貨車53両(荷主企業などが保有する私有貨車2,107両は含まず)である[1]。
車両ではないが、鉄道用コンテナの多くはJR貨物が保有している(「JR貨物のコンテナ形式」参照)。コンテナは61,398個(荷主企業などが所有する私有コンテナ10,753個は含まず)、トップリフターやフォークリフトといった荷役機械は596台を保有する[1]。
車両の動向について、機関車に関しては他の鉄道事業者と同様に鉄道雑誌等への資料提供を行っているものの、貨車については2009年度以降公表していない[注 9]。
現業機関
車両・乗務員基地
廃止基地
車両工場
郡山総合鉄道部部品センターは車両の空気ブレーキ機器の検修を、愛知機関区稲沢派出は機関車のディーゼルエンジンの検修を、それぞれ専門に所管。
廃止工場
JR貨物発足時点の8車両所のうち、輪西・新小岩(現・川崎)・広島を除く5所は旅客会社の車両工場との併設であり、そのうち大宮は資産の所有関係が区分され機関車検修に必要な機関車主棟等の主要施設をJR貨物が保有しているものの、大宮以外の4所は機関車・貨車(郡山・名古屋は機関車を所管せず)検修用の施設まで含めて資産はすべて旅客会社の所有でJR貨物所有部分がなく(公表された平面図でJR貨物の区画と表示された部分も所有権はない)、検修に要する資産は旅客会社から借用する関係にある[39]。また、併設関係にある車両所の多くでは、電装品やエンジン等の検修機能は旅客会社の工場にあり、JR貨物は旅客会社にこれらの検修を委託する関係にあった[39]。過去には車両の検修全体を旅客会社の工場に委託する箇所もあった(JR東日本土崎工場・JR西日本鷹取工場・同松任工場等)[39]。施設を借用している箇所や委託検修箇所においては、旅客会社に関係のないJR貨物の新形式機関車に合わせた検修設備の刷新が困難であった[39]。このことから、新形式機関車では地上検査設備への依存を減らすため、車上自己検査機能の充実を図っており[39]、また新形式機関車の全般検査は、DF200、HD300-500番台およびDB500を除きJR貨物が施設を保有する車両所が担当している[40]。DF200およびHD300-500番台も、苗穂車両所が全般検査を担当するが、エンジンや電装品の検修は所外で行われる(エンジンの一部機種は愛知機関区稲沢派出。その他の機種のエンジンと電装品は外部委託先)[41][42]。DB500は、製造メーカーの北陸重機工業に全般検査等を委託している[40]。
旅客会社の工場施設を借用する車両所は、2010年代以降、旅客会社側による工場の建て替え・大規模改修の際に借用を解消し、機能をJR貨物の他の現業機関に移して廃止となるケースが発生している(2015年(平成27年):名古屋。2023年(令和5年):郡山)。
保線・施設保全部門
2021年(令和3年)4月現在[43]。
支社 |
現業機関
|
北海道支社
|
北海道保全技術センター
|
札幌工事支所
|
東北支社
|
東北保全技術センター
|
盛岡メンテナンスステーション
|
仙台工事支所
|
仙台工事区
|
関東支社
|
関東保全技術センター
|
東日本工事管理事務所
|
東京メンテナンスステーション
|
新潟メンテナンスステーション
|
南松本メンテナンスステーション
|
東海支社
|
東海保全技術センター
|
名古屋工事支所
|
静岡メンテナンスステーション
|
関西支社
|
関西保全技術センター
|
西日本工事管理事務所
|
金沢メンテナンスステーション
|
広島メンテナンスステーション
|
南福井工事区
|
九州支社
|
九州保全技術センター
|
北九州工事支所
|
業務システム
2000年代頃から、新たな業務システムの構築やIoT技術の導入を進め、業務の効率化・輸送サービス改善・安全性の向上等を図っている。
FRENS・IT-FRENS(コンテナ情報システム)
FRENS(Freight Infomation Network System)は、列車情報・コンテナ予約情報・コンテナ所在管理・運賃計算等を司るコンテナ貨物営業管理の基幹システムで、国鉄時代開発(1986年(昭和61年))のEPOCS(Effectial Planning and Operation Container System)に代わる基幹システムとしてJR貨物発足後に開発され、1994年(平成6年)1月から稼働している[44][45][46]。2019年(平成31年)1月には、システム更新に際しメインフレームからオフィスコンピュータ系のプラットフォームへの移行が行われた[47]。
IT-FRENSは、FRENSと連携するサーバーシステムで、2005年(平成17年)8月から本格稼働した[45][48][49]。IT-FRENSの導入前は、輸送予約・列車指定に係る調整を人手に依存しており、輸送ルートの指定等が担当者の判断に委ねられ、要急送品とそうでないものの予約調整等に多大な労力と時間を要していた[46][48][49]。IT-FRENSは、システムに自動ルート選択機能・自動枠調整機能を持ち、利用運送事業者等への最適な貨物列車の予約情報の提供・予約申込受付等を行うほか、後述のTRACEやPRANETSとの連携により、コンテナの所在や列車の運行状況データを取り込み、列車の遅延状況や到着見込み時刻、コンテナの状態や所在等を利用運送事業者等に提供する[45][48][49]。また、後述のT-DAPにもこれらの情報を出力する[45][48]。
TRACE(駅構内ロケーション管理システム)
TRACEは、コンテナ荷役用のフォークリフトに、コンテナ・貨車・トラックのID読取機能と位置・ID情報等送受信機能、荷役指示機能を搭載し、IT-FRENSと連携してコンテナの所在・状態の把握やフォークリフトオペレーターへの荷役指示等を行うシステムである[45][48][49]。
1990年代後期まで、コンテナ列車の組成や列車へのコンテナの積載状況、駅構内のコンテナの所在等は、係員の目視による番号把握と端末への手入力、紙の車票・荷票取付けによって管理しており、多くの労力を要し、誤読・誤入力のリスクや駅構内に係員と車両が混在する危険性も伴っていた[46][48]。1990年代末頃から、番号把握・入力作業の改善のため、コンテナや貨車にRFIDタグを取り付け、主要駅にハンディタイプのIDタグ読取機を配備して目視・手入力からの脱却を図った[46][48][50]。
TRACEはこれを更に発展させ、荷役用フォークリフトに、GPSによる位置把握機能、コンテナや貨車のRFID読取機能、位置情報・ID情報等送受信機能を設け、コンテナの所在をリアルタイムで把握しIT-FRENSに取り込むと共に、搭載するPC端末に、IT-FRENSからの情報に基づき、扱うべきコンテナの位置や、積載又は取卸すべき貨車の位置等の作業指示を表示する[45][48][49]。これらにより、コンテナの所在管理をリアルタイムで正確に行えることとなり、日常のコンテナ操配・棚卸しの正確・迅速な実施が可能となった[45][48][49]。
2004年(平成16年)1月から一部機能の稼働を開始し、2005年(平成17年)8月から本格稼働した[45][48][49]。2013年度(平成25年度)にはシステムの更新が行われ、フォークリフト車載端末と駅システムとの通信を自社構内無線LAN(大規模駅)又はPHS回線(小規模駅)からUQ WiMAXのWiMAX回線に移行するとともに、フォークリフト車載PC端末の刷新・高機能化やドライブレコーダー搭載などの改良がなされた[45][51]。2021 - 2022年度(令和3 - 4年度)には、通信キャリアの障害発生時の冗長性を確保するため、通信機器を複数キャリア対応機種に交換した[46][52][注 10]。
PRANETS(運転支援システム)
PRANETSは、GPSにより列車の位置情報を常時把握し、IT-FRENSに列車の位置情報を取り込み、利用運送事業者等への列車の遅延状況・到着見込み時刻等の案内や、輸送障害発生時のコンテナの所在・状態把握を可能とする他、列車側でも位置情報を基に運転士に運転支援情報を伝えるシステムである[53]。
1990年代後期まで、JR貨物には貨物列車の所在を独自に把握する手段がなく、各JR旅客会社の指令情報に依存しており、特に事故や災害等による列車運行混乱時には迅速な列車位置の把握が困難で、対策の立ち上げが遅れ、適切な対応が取れない事態がしばしば発生していた[54]。阪神・淡路大震災での大規模な輸送混乱の経験を踏まえ、危機管理体制強化策の一環として、事故・災害時の貨物列車の位置・状態等を迅速に把握する体制を構築することとなり、当時アメリカのオムニトラックス社が提供していたGPSナビゲーションシステム(車両のGPS位置情報を衛星通信で収集・把握し、提供する)を、貨物列車位置検知システムとして採用し、重要度の高い東海道・山陽線を対象に、機関車への機器搭載・FRENSへの機能追加等を行って、1996年(平成8年)10月から導入(本格稼働は1997年(平成9年)3月)した[54][55][56]。対象線区はその後2001年度(平成13年度)末までに津軽海峡・東北・高崎・上越各線にも拡大した[57]。
PRANETSでは、列車位置検知の対象を日本全国に拡大するとともに、機関車からの位置情報の送信を常時2分に1回程度に高頻度化(従前システムは通常時は30分に1回。異常時に2分に1回)して位置精度を向上させ、また、機能として地上側での位置情報の活用のほか、車上でもシステムに徐行箇所予告や駅発車時刻案内、速度超過警告、交直切換注意喚起等の運転支援情報を保持し、位置情報に基づき運転席モニターへの表示・音声出力を行う[53]。機関車の位置情報の通信手段については、衛星通信から携帯電話会社の通信網利用に変更となった[53][58]。
関連するシステムとして、運転情報伝達システムのACTISが開発された[53]。
2008年(平成20年)3月末から、運転支援機能の一部について東海道線の東京 - 大阪間で使用を開始し、その他の全機能は2009年度(平成21年度)末までに全国の主要線区で使用を開始した[53]。鉄道の運転支援システムとしては、旅客会社等に先立つ日本国内での最初の導入となった。その後2017年(平成29年)から2018年(平成30年)にかけてシステムの更新が行われ、車載端末の更新・簡素化、OS更新、機関車位置発信二重化、運転支援データダウンロード方式の変更(USBメモリ使用から携帯通信網による順次ダウンロードへ)等がなされた[59][60]。
T-DAP(トラックドライバー用アプリ)
T-DAPは、駅発着コンテナを輸送するトラックドライバー向けの業務支援スマートフォンアプリである[61][62][63]。IT-FRENSから出力される貨物列車の位置・遅延情報や駅構内のコンテナの位置情報、駅から提供する作業番線や入線時刻の変更情報などを、トラックドライバーが所持するスマートフォンで随時取得できるようにすることで、駅外での情報受信・確認を可能とし、輸送サービスの向上・トラックドライバーの構内待機時間の削減を図る効果や、駅構内でのドライバーの降車機会を削減し安全性の向上を図る効果等が期待されている[61][62][63]。
T-DAPの開発以前からIT-FRENSにはトラックドライバーの業務支援システムが設けられており、ドライバーが駅の端末でIDカードを利用して伝票を出力することにより、構内でのコンテナの積み卸し位置等の作業指示がなされ、端末から列車の遅延状況や到着見込み時刻等の情報も取得可能ではあったが[45]、これらが可能なのは駅への入場後であり、トラックから降車する必要があった[61]。T-DAPは、駅外で随時これらの情報の取得を可能とするものである[61][62][63]。
2022年(令和4年)1月より全国6駅で試験運用を行い[62]、2023年(令和5年)6月から全国のコンテナ取扱駅79駅(オフレールステーション・新営業所・臨海鉄道線内取扱駅を除く)で本運用を開始した[63]。システム上は上記機能に加え、積卸作業のための入構時刻の事前予約機能も設けられており、2022年(令和4年)8月より全国6駅で試験運用を行っている[63]。
リモートモニタリングサービス
手ブレーキ検知システム
手ブレーキ検知システムは、貨車の手ブレーキ装置に緊締・解除の状態を検知し送信するIoT機器を取り付け、緊解の状態のデータを自動的に地上サーバーに伝送することにより、手ブレーキの緊締・解除確認の自動的・集中的な実施を可能とし、緊締・解除の失念による事故の発生を防止するシステムである[64]。
貨車には、機関車から切り離され空気源が絶たれた状態で留置中の転動防止のため、1両ごとに留置ブレーキとして手ブレーキや側ブレーキが設けられており、人力で緊締・解除を行う[64]。緊解の状態の確認は貨車個々に目視で行う必要があり、時間と労力を要し、従前は確認もれを検知するバックアップもなかった[64]。手ブレーキ検知システムは、各貨車のIoT機器から伝送された手ブレーキのデータを、IT-FRENSやPRANETS等のシステムとの連携により、貨物列車ごとのデータとし、駅や機関車運転台のモニターに手ブレーキの状態を表示する他、手ブレーキを解除していない車両を含んだままで列車が発車しようとするとモニター画面に警告を表示する[64]。
システムは、KDDIの協力を得てJR貨物とJR東日本コンサルタンツが共同で開発した[64]。機器は2022年度(令和4年度)までにJR貨物が運用するコンテナ車約7,200両への取り付けを完了し[65]、2024年(令和6年)3月からシステムの運用を開始した[66]。2024年度(令和6年度)からは、コンテナ車以外の貨車への展開を検討することとしている[67]。
車両管理システム
車両管理システムは、従来、おもに紙媒体を用いて行われていた鉄道車両等の検査データの記録・管理を電子データ化し、管理の一元化を行うことで、検修データ・履歴の把握・共有の容易化、転記・集約作業の削減、検修計画作成・管理の自動化等による効率化を図る他、システムによるチェックを加えることで、検査や作業の誤りを防ぎ、一定の水準を維持した適正な検修実施を担保することを目的に開発されたシステムである[68]。
システムは富士通と共同開発し[69]、2018年(平成30年)10月から機関車・貨車等を対象に運用を開始した[70]。2021年(令和3年)6月からは管理の対象をフォークリフト等の荷役機械にも拡大した[70]。2024年(令和6年)3月からは、富士通との共同により、このシステムの他の鉄道事業者向けの導入展開も進めている[69]。
保全管理システム
JR貨物が保有する駅や貨物線等の線路や電力・電気通信設備、土木工作物、建築物、機械設備等の維持・保全管理について、データの記録・管理を紙媒体から電子データ化し、管理の一元化を行うシステムである[68]。検査データ・履歴の把握・共有の容易化、転記・集約作業の削減、保全計画作成・管理の自動化等による効率化や、チェック機能による検査漏れ防止等を目的としている[68]。後述の社内ITインフラシステム整備により職員ごとに配備されたモバイル端末やスマートフォンからも使用することができる[68]。
社内ITインフラシステム
2010年代に運用していた社内ITインフラシステムのサーバー・OSのサポート終了(2020年(令和4年)1月)を契機に、業務効率の向上・経営基盤強化や働き方改革への対応等を図り、モバイルICTを活用した新たな社内ITインフラシステムを構築することとした[71][72]。
新たなシステムにおいては、固定電話・有線回線は一部を除いて廃止し、従来の有線回線を使用するノートPCに代わり、職員全員に対して1人につきモバイル端末(タブレット)1台とスマートフォン1台を配備するものとした[71][72]。モバイル端末・スマートフォンは、2018年度(平成30年度)までに本社・関東支社・東北支社の非現業部門の職員に、2020年(令和2年)2月までにそれ以外の各支社非現業部門職員と各現業機関の助役以上の職員に、2022年(令和4年)9月までに各現業機関の職員に、それぞれ配備を完了した[71][73][74]。配備を受けた職員は任意の就業場所において社内オンラインシステムにアクセスすることが可能となり、新型コロナウィルス感染症対策としての在宅勤務やWeb会議等が円滑に実施でき、現業機関においては、運転士の規程類携帯義務について紙媒体の規程集・マニュアルの携行が不要となり負担が軽減される、各種業務システムへの活用が可能となり事務所に戻らず現場で業務を行える等の効果が発揮された[73][74]。
この移行により、通信手段は移動端末に一本化し、非現業部門(本社・支社・支店)の固定電話は2021年度(令和3年度)までに廃止した[73]。
関係会社
()内の数値はJR貨物による出資比率。
- 臨海鉄道
- JR貨物と、沿線自治体の共同出資で設立された第三セクター鉄道を指す。
- 倉庫業
-
- 鉄道利用運送事業
-
- 鉄道業務受託事業
-
- ジェイアール貨物・北海道物流
- ジェイアール貨物・東北ロジスティクス
- ジェイアール貨物・北関東ロジスティクス
- ジェイアール貨物・南関東ロジスティクス
- ジェイアール貨物・新潟ロジスティクス
- ジェイアール貨物・信州ロジスティクス
- ジェイアール貨物・東海ロジスティクス
- ジェイアール貨物・北陸ロジスティクス
- ジェイアール貨物・西日本ロジスティクス
- ジェイアール貨物・中国ロジスティクス
- ジェイアール貨物・九州ロジスティクス
- 関連事業
-
- ジェイアールエフ商事
- ジェイアール貨物・不動産開発
- 東京貨物開発 - ジェイアール貨物・不動産開発に吸収合併
- 北九州貨物鉄道施設保有(49.0%)[75]
- 運送保証協会
- その他出資会社
- グループ会社[76]ではないが、JR貨物が出資している。
提供番組
脚注
注釈
- ^ JR東日本が運転支援。
- ^ 管理・運航はセンコーグループのセンコー汽船と愛媛県今治市の神宝汽船が担当。通常はNSユナイテッド内航海運が用船して日本製鉄関連の原材料・鋼材輸送に使用し、災害等による貨物鉄道路線不通時にJR貨物が代行輸送に投入する[19]。2024年(令和6年)9-10月の豪雨災害による羽越本線不通への対応時から、代行輸送としての運航を開始した[20][21][22]。
- ^ 長らく根室線に属していた(第一種鉄道事業者のJR北海道では石勝線と重複していたが、JR貨物としては単独区間)。この区間の2024年度以降の路線名に関する明確な資料を欠くため、別記する。
- ^ かつては旧入江駅 - 新興駅間 (2.7 km) を営業キロに含み11.2 kmとしていた。入江・新興両駅とも廃止されてからも暫くキロ程は変更なく、平成28年度版『鉄道要覧』p.61には「鶴見, 新興駅, 桜木町 11.2」と記載。ただし、旧・入江駅 - 新興駅間の営業キロ設定は2019年中に廃止された模様であり、令和元年度版『鉄道要覧』p.61では「鶴見, 東高島, 桜木町 8.5」と記載されている。
- ^ 『鉄道要覧』では「伊勢鉄道線」と表記されている。
- ^ 南海電鉄分界点 - 和歌山市駅間は元々南海電気鉄道の「国社連絡線」だったが、国鉄分割民営化時に同区間の施設を丸ごとJR西日本に貸与した扱いとなり、JR西日本の第一種鉄道事業区間となっている。一方JR貨物は旧分界点までの免許となっていたため、分界点から和歌山市駅までは南海からJR貨物およびJR西日本に委託した配給列車扱いだった。
- ^ a b あくまで災害対応に伴う期間限定措置だった模様で、国土交通省監修の令和元年度版『鉄道要覧』には開業の旨も含めて記載されていない。
- ^ 当該区間の貨物営業については、同日より第一種鉄道事業者となった平成筑豊鉄道に継承され、2004年4月1日まで続けられた。
- ^ ただし、貨車のうちコンテナ車については、2018年度末をもって国鉄から承継した形式がすべて廃車となったことがJR貨物の安全報告書により判明しているほか、2020年までは毎年安全報告書において貨車の更新率を公表していた[37][38]。
- ^ 2022年(令和4年)7月にKDDIの大規模な通信障害が発生した時点では、複数キャリア対応通信機器への交換の進捗率が1割程度と低く、通信障害の影響を大きく受けたため、交換を前倒しし、年度内に完了させるものとした[52]。
出典
関連項目
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
日本貨物鉄道に関連するカテゴリがあります。
|
---|
|
×は廃止された施設・路線・設備等 カテゴリ |