地方交通線(ちほうこうつうせん)とは、日本国有鉄道(国鉄)・JRの鉄道路線の分類の一つ。一般的な月刊冊子型の時刻表に記載されている索引地図では、地方交通線は青の太線で表示されている。
国鉄の末期、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」(国鉄再建法)に基づいて国鉄の路線は幹線と地方交通線に分類され、異なる運賃を適用することになった。これらの分類のうち、地方交通線は、「幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準に該当するものを除いて、その運営の改善のための適切な措置を講じたとしてもなお収支の均衡を確保することが困難であるもの」と定義されている。
これによって1981年4月以降より、国鉄の路線は幹線と地方交通線に分類される。これ以降、従来全線で一律だった国鉄運賃は、幹線と地方交通線とで異なる運賃を適用されることになり、その分類はJRにも引き継がれている。
指定基準
以下のいずれの条件にも当てはまらない路線を指す(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法施行令第1条・第2条)。
- 1980年3月末現在で人口10万人以上の都市(=主要都市)を相互に連絡し、旅客営業キロが30kmを超え、すべての隣接駅間の旅客輸送密度(=1977年 - 79年度3年間平均の1日1kmあたりの輸送人員)が4,000人以上である区間を有する線。
- 1.の条件にあてはまる営業線と主要都市とを相互に連絡し、旅客営業キロが30kmを超え、すべての隣接駅間の旅客輸送密度が4,000人以上である区間を有する線。
- 旅客輸送密度が8,000人以上である線。
- 貨物輸送密度(1977年 - 79年度3年間平均の1日1kmあたりの輸送貨物トン数)が4,000t以上である線。
1981年4月、国鉄は175線(10,169.5km)を地方交通線として運輸省に申請し、承認された。さらに、地方交通線の中でも旅客輸送密度4,000人未満の路線は、原則として廃止対象の特定地方交通線に指定された(詳細は該当項目参照)。
制定以降に開業した路線については、利益予測を元にするなどして幹線・地方交通線の別を決定[注 1]している。
神奈川県・滋賀県[注 2]・大阪府・香川県のJR線には地方交通線が存在せず、全ての路線が幹線である。その一方で富山県内のJR在来線は2015年の北陸新幹線金沢駅延伸開業に伴う北陸本線のあいの風とやま鉄道線への転換により全て地方交通線となっており、続いて2024年に北陸新幹線の金沢 - 敦賀間延伸開業に伴う北陸本線敦賀 - 金沢間の第三セクター鉄道への転換により、石川県のJR在来線全区間、並びに福井県の北陸本線滋賀県境 - 新疋田駅 - 敦賀駅の2駅間未満を除くJR在来線の殆どの区間が地方交通線となった。
実態との乖離
幹線と地方交通線の分類は1981年の制定以来原則として改訂が行われていないため、秋田新幹線が毎日10数往復するようになった田沢湖線や、青函トンネルを越える高速貨物列車が多数運転される津軽線[注 3]、閑散区間の廃止が行われた可部線・札沼線[注 4]、後に当時の「幹線系線区」となる輸送密度の基準(8,000人/日以上)を上回った武豊線・八高線や東金線などが地方交通線のままになっていたり、貨物輸送の実績で幹線に指定されたものの、後にその貨物列車が廃止された美祢線・宇部線が幹線のままであるなど輸送実態の変化に合わなくなった事例も生じている。
2016年3月22日以降定期旅客列車の設定がなくなった海峡線は旅客営業規則上は引き続き地方交通線として残されている[3]が、多くの部分で線路を共用する北海道新幹線の奥津軽いまべつ - 木古内には幹線運賃が適用される形となった。
運賃計算
北海道旅客鉄道(JR北海道)・東日本旅客鉄道(JR東日本)・東海旅客鉄道(JR東海)・西日本旅客鉄道(JR西日本)の4社では国鉄時代の運賃計算方法を踏襲しているが、四国旅客鉄道(JR四国)・九州旅客鉄道(JR九州)の2社では1996年1月10日に実施された運賃改定により制度が改められているため、計算方法が異なる。
なお、日本貨物鉄道(JR貨物)では、貨物運賃計算で使うキロ程は旅客運賃の営業キロと同じであり、換算キロ・擬制キロは使用しないため、地方交通線を経由する貨物列車に対して割増の運賃が適用されることはない[4]。
JR北海道・JR東日本・JR東海・JR西日本
幹線用の運賃表と別に地方交通線用の運賃表(概ね幹線の約1割増の額)が用意されている。
地方交通線のみを乗車する場合は地方交通線用の運賃表が適用される。通過連絡運輸により他社線を跨いだ場合でも、乗車するJR線区間が全線地方交通線であれば地方交通線用の運賃表が適用される。
幹線と地方交通線とを乗り継ぐ場合は、地方交通線については営業キロを約1割増した換算キロを用い、これと幹線の営業キロとを合算した運賃計算キロを元に、幹線の運賃表で運賃を求める。ただし、全乗車区間の営業キロが10km以下の場合は営業キロで地方交通線の運賃表を適用する。
- 例:水郡線(JR東日本・地方交通線)常陸津田駅と常磐線(同・幹線)勝田駅の相互発着の場合(水戸駅経由)、常陸津田駅 - 水戸駅間の営業キロは4.1km、と水戸駅 - 勝田駅間の営業キロは5.8kmで合計9.9kmとなるため、地方交通線10km以下の210円となる。水郡線の換算キロ(この場合4.5km)と常磐線の営業キロを足した運賃計算キロ(10.3km、240円)とはならない。
JR東日本・JR東海・JR西日本の本州三社の地方交通線の運賃は同額だが、JR北海道は本州三社よりやや割高な運賃となる。JR東日本ではICカードを利用して乗車した際は別の運賃が適用される。
なおJR東日本が運営する気仙沼線・大船渡線BRTにおいては、BRT転換前の鉄道線に合わせ、地方交通線と同様の運賃体系を採用している。ただし、普通運賃については鉄道線と乗り継いだ場合の通算はできず(鉄道線との並行区間である前谷地駅 - 柳津駅間を除く)、それぞれ別建ての運賃となる[注 5]。
JR四国・JR九州
運賃表は単一であり幹線・地方交通線で分かれていない。
地方交通線の運賃計算には営業キロを約1割増した擬制キロを用いる。ただし、乗車区間の擬制キロと営業キロの値によっては、特定運賃が適用される。
幹線と地方交通線とを乗り継ぐ場合は、地方交通線については擬制キロを用い、これと幹線の営業キロとを合算した運賃計算キロを元に、運賃表で運賃を求める。
JR四国とJR九州では運賃が異なる。
営業中の地方交通線一覧
JR北海道
JR東日本
JR東海
JR西日本
JR四国
JR九州
経営分離・廃止された路線
※特定地方交通線は除外(該当項目を参照)。また、存続路線の部分廃止区間は一覧の備考欄を参照。
JR北海道
JR東日本
- 岩泉線:2014年4月1日廃止(2010年7月31日より災害により全線運休)
JR西日本
脚注
注釈
- ^ 例として、1988年開業の瀬戸大橋を渡る本四備讃線が幹線に分類された一方、青函トンネルを通る海峡線は地方交通線に分類された。また、1986年に内子線を挟む形で開通した向井原 - 内子間および新谷 - 伊予大洲間は予讃線として幹線に分類された。
- ^ 過去には信楽線が該当したものの、特定地方交通線として1987年に信楽高原鐵道に転換された。
- ^ 江差線の五稜郭 - 木古内間も、2016年3月の経営分離までは同様であった。
- ^ a b 両者とも現存区間の2022年度の輸送密度は地方交通線でありながら14,000人/日を超える[1][2]。
- ^ 定期旅客運賃については営業キロを通算した運賃が適用される。
- ^ 定期旅客列車が運行していた2016年3月25日までは、津軽線青森 - 中小国間・江差線木古内 - 五稜郭間および函館本線五稜郭 - 函館間と合わせて津軽海峡線の愛称が付けられていた。
- ^ ただし、同年11月30日までの同区間の鉄道代行バス(DMV導入工事による)はJR四国が運行した。
- ^ 鉄道復旧断念は決定しているが、鉄道事業の廃止申請はなされていない。
出典
関連項目
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歴史 |
前身 | |
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1940年代 | |
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1950年代 | |
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1960年代 | |
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1970年代 | |
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1980年代 | |
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後身 | |
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組織 |
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組合 | |
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