指宿枕崎線(いぶすきまくらざきせん)は、鹿児島県鹿児島市の鹿児島中央駅から同県枕崎市の枕崎駅に至る九州旅客鉄道(JR九州)の鉄道路線(地方交通線)である。JRグループで最も南を走る路線である。
薩摩半島の東岸と南端を廻り、県都鹿児島市と温泉地指宿市および港町の枕崎市を結ぶ観光の足となっているほか、鹿児島市への通勤・通学路線となっている。
路線データ
- 管轄(事業種別):九州旅客鉄道(第一種鉄道事業者)
- 路線距離(営業キロ):87.8 km
- 軌間:1067mm
- 駅数:36(起終点駅含む)
- 指宿枕崎線所属駅に限定した場合、起点の鹿児島中央駅(鹿児島本線所属[4])が除外され、35駅となる。
- 複線区間:なし(全線単線)
- 電化区間:なし(全線非電化)
- 閉塞方式:特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)
- 交換可能な駅は駅一覧を参照。
- 保安装置:
- 最高速度:85 km/h[2][3]
- ロングレール区間:鹿児島中央 - 郡元間の鹿児島車両センター構内の一部、宇宿 - 坂之上間のうち高架区間など点在3か所
- スラブ軌道区間:なし
全線が鹿児島支社の管轄である。
鹿児島中央駅 - 喜入駅間ではIC乗車カード「SUGOCA」の利用が可能である[5][6]ほか、2023年10月4日から鹿児島中央駅 - 指宿駅間でクレジットカードなどのタッチ決済による列車利用の実証実験が行われている[7]。当初は実証期間は2024年3月までとなっていたが、後に延長された[8]。列車位置情報システム「どれどれ」は、鹿児島中央駅 - 西頴娃駅間のみ対応している[9]。
利用状況
平均通過人員
各年度の平均通過人員(人/日)および旅客運輸収入は以下のとおりである。
年度
|
平均通過人員(人/日)
|
旅客運輸収入 (百万円/年)
|
出典
|
全区間
|
鹿児島中央 - 喜入
|
喜入 - 指宿
|
指宿 - 枕崎
|
1987年度(昭和62年度)
|
3,751
|
8,253
|
3,687
|
942
|
|
[10]
|
2016年度(平成28年度)
|
3,207
|
8,332
|
2,477
|
301
|
1,246
|
[11]
|
2017年度(平成29年度)
|
3,269
|
8,474
|
2,551
|
306
|
1,341
|
[12]
|
2018年度(平成30年度)
|
3,283
|
8,555
|
2,537
|
291
|
1,352
|
[13]
|
2019年度(令和元年度)
|
3,184
|
8,346
|
2,405
|
277
|
1,310
|
[14]
|
2020年度(令和02年度)
|
2,492
|
6,631
|
1,661
|
255
|
794
|
[15]
|
2021年度(令和03年度)
|
2,466
|
6,558
|
1,674
|
240
|
865
|
[16]
|
2022年度(令和04年度)
|
2,682
|
7,168
|
1,862
|
220
|
1,036
|
[10]
|
線区別収支
平均通過人員が2,000人/日未満の線区(喜入駅 - 指宿駅間、指宿駅 - 枕崎駅間)における各年度の収支(営業収益、営業費、営業損益)は以下のとおりである。▲はマイナスを意味する。
喜入駅 - 指宿駅間
年度
|
収支(百万円)
|
出典
|
営業収益
|
営業費
|
営業損益
|
2020年度(令和02年度)
|
116
|
364
|
▲248
|
[17]
|
2021年度(令和03年度)
|
130
|
314
|
▲185
|
[18]
|
2022年度(令和04年度)
|
171
|
425
|
▲254
|
[19]
|
2023年度(令和05年度)
|
211
|
443
|
▲232
|
[20]
|
指宿駅 - 枕崎駅間
年度
|
収支(百万円)
|
出典
|
営業収益
|
営業費
|
営業損益
|
2018年度(平成30年度)
|
43
|
448
|
▲405
|
[21]
|
2019年度(令和元年度)
|
43
|
397
|
▲354
|
[22]
|
2020年度(令和02年度)
|
28
|
550
|
▲522
|
[17]
|
2021年度(令和03年度)
|
28
|
522
|
▲494
|
[18]
|
2022年度(令和04年度)
|
29
|
365
|
▲337
|
[19]
|
2023年度(令和05年度)
|
32
|
494
|
▲462
|
[20]
|
沿線概況
鹿児島中央駅からしばらくは鹿児島市内南部の商業・住宅地帯を通り、谷山駅までは鹿児島市電とほぼ並行している。定期券では市電の全線定期券よりもJR定期券の方が大幅に安くなることから当線の利用も少なくない。
市街地が途切れる五位野駅からは住宅地や畑の中が主な車窓である。平川駅あたりから宮ケ浜駅あたりまでは鹿児島湾の海岸線沿いを走り、対岸には桜島や大隅半島が見える。
指宿駅近辺で一旦内陸に入った後、山川駅でまた海岸沿いを通る。その後、南側(枕崎方面進行左側)に開聞岳が見えるようになる。このあたりはほぼ畑の中を抜けていくが、台地状の起伏が多く高低差もあり、トンネルまたは切通しになっている箇所も多数ある。線路脇の樹木の成長が早く、低い列車頻度と相まって線路脇の樹木が列車にぶつかる箇所もある。
御領駅以西ではリアス式海岸を避けて内陸寄りの高度のある場所を走っているため渓谷を跨ぐ橋梁やトンネルも多いが、視界が開ける場所では太平洋が望める地点もある。
山川駅から枕崎駅までは、時間帯により市職員を配置している西頴娃駅を除きすべて無人駅である。
運行形態
多くの普通列車・快速列車でワンマン運転を行っているが、朝の一部の列車は車掌が乗務している。また、鹿児島本線と直通する鹿児島発着の列車も平日の朝に1往復、夕方から夜に2往復ある。
鹿児島中央駅 - 喜入駅間は15 - 40分間隔の運行である。喜入駅 - 指宿駅・山川駅間はほぼ1時間間隔(ただし、指宿駅 - 山川駅間は時間帯により2時間ほど開く)となる。夕方には鹿児島中央駅 - 慈眼寺駅間、平日夜と毎日深夜時間帯は鹿児島中央駅 - 五位野駅間の区間列車も運行される。2022年3月改正においての最短運転間隔は喜入駅における7分であり、同駅での上り特急の直後に同駅で折り返す上り普通がこれに該当していたが、2024年3月改正で特急が喜入駅を通過するようになったため、このような光景は見られなくなった。
2016年3月改正で慈眼寺発着1往復が設定されたことで平日の鹿児島中央駅基準の運転本数は特急を含めて上り49本・下り51本[注 1]となり、単線非電化のローカル線でありながら複線電化である鹿児島本線伊集院方面の鹿児島中央駅基準の平日上下各42本(貨物列車を除く)や昨今県内でも人口増加の目覚ましい姶良・霧島地域を通る日豊本線加治木方面の平日37往復(貨物列車、鹿児島駅発着を除く)を大幅に上回るなど、九州新幹線を含めて鹿児島中央駅を発着する路線で最大の運転本数がある。運転本数のみでなく始発列車がローカル線では異例の4時台(2018年3月以降は下りのみ)と早いのが特色で[注 2]、これは国鉄時代からのものであった。山川駅 - 枕崎駅間は運行本数が1日5 - 8往復と少なく、5 - 8時間以上列車のない時間帯がある。鹿児島中央駅 - 枕崎駅間を直通する列車は1日下り3本・上り4本だけで、ほかは指宿駅または山川駅で乗り換えとなる。指宿駅または山川駅 - 西頴娃駅間の区間列車もある。
ワンマン運転の普通列車・快速列車(1・2両編成)の乗車方法は、交通系ICカードの通用エリアの鹿児島中央駅 - 坂之上駅間では列車のホーム側のすべてのドアから乗り降りでき、駅で改札を受けるいわゆる都市型ワンマンであるが、五位野駅 - 枕崎駅間においては無人駅および有人駅での営業時間外の停車時に関しては、前の車両のドアのみ開き(中扉は開かず・後ろ乗り前降り)、乗車時に後ろのドアから支払い手段に関係無く整理券を取り、降車時に運賃等とともに運転士に渡す必要がある。なお、五位野駅 - 喜入駅間における交通系ICカード決済および五位野駅 - 指宿駅間におけるクレジット決済の場合は、降車時に運転士に整理券を渡して使用するカードを提示した上で改札口の当該機器で決済する。2006年(平成18年)3月17日までは鹿児島中央駅 - 喜入駅間でもこれに準じており、2023年頃より不正乗車防止の観点から五位野駅 - 喜入駅間における全ドア乗降取り扱いを取り止めた。
特急「指宿のたまて箱」・快速「なのはな」
鹿児島中央駅 - 指宿駅間に特急「指宿のたまて箱」が3往復、鹿児島中央駅 - 山川駅間に快速「なのはな」が下り4本・上り3本運転されている。
指宿枕崎線の快速はキハ200系気動車が投入される1992年7月15日のダイヤ改正まで「いぶすき」の愛称で運行されていた。2004年3月13日のダイヤ改正には観光利用を念頭に置いた指定席連結の特別快速「なのはなDX」が登場した。
使用されるキハ200系気動車のうち、キハ200-9および1009は「なのはなDX」専用塗装であったが、現在はほかの車両と同じ側面に大きく「NANOHANA」と書かれた塗装に戻されている。「なのはなDX」の指定席に使われていたキハ220形は1102の1両しかないため、同車両が検査や故障時は指定席車なしの「なのはな」として運転されていた。なお、キハ220形1102は「なのはなDX」廃止後、指宿枕崎線の運用から外れている[注 3]。
「なのはなDX」は、2011年3月12日のダイヤ改正で新設された観光特急「指宿のたまて箱」によって置き換えられた[23][注 4]。
使用車両
以下に示す車両はいずれも気動車で、全車が鹿児島車両センターに所属している。
- キハ40系(キハ40形・キハ47形・キハ140形・キハ147形):全線で運用される[25]。
- 1984年(昭和59年)、当線で運用されるキハ47形の塗色変更車キハ47 90(当時は鹿児島鉄道管理局鹿児島車両所の所属)に対し全国で初となる冷房改造が施工され、これに続きキハ40形も施工される。冷房化はバス用クーラーエンジンユニットが2エンド側床下に装着され、当初は室内の暖房用立ち上がりダクトを活用して床下から天井へ冷風を送る方式であったが、冷房効果を高める目的でJR他社で導入が進んでいたバス用の室内天井設置型クーラーへ順次変更された。これにより所属のキハ40系全車が冷房化された。
- キハ47 1078は、2009年3月22日より「カツオ号」としてカツオのイラストが描かれたラッピングがされていた[26]。デザインは鹿児島水産高校の生徒が発案したもので、1年間運行された。なお同車(その後の機関換装によりキハ47 9078に改番)は2023年現在、外観は標準塗装ながらも沿線自治体である鹿児島・指宿・南九州・枕崎の各市の大判PR広告を車内のドア上および車端妻面のスペースに掲出している[注 5]。
- 2024年3月18日より、肥薩線開業120周年、吉都線開業110周年、指宿枕崎線開業60周年を記念して、キハ40形1両を国鉄色に復刻し、指宿枕崎線全線で運転されている[注 6][27][28]。
- 2011年3月12日に運行を開始した当線初の特急列車「指宿のたまて箱」も、キハ47・キハ140[29] の改造車を使用している。
- 2007年頃、鹿児島中央発山川行きの定期普通列車を土休日に限り延長運転する形で、キハ40系列2両編成で鹿児島中央駅 - 西頴娃駅間に下り片道のみながら愛称付き普通列車「いせえび号」が運転されていた[30](「西頴娃駅」の項目で詳説あり)。これは愛称付き列車としては日本最南端を走っていた列車である[注 7]。
- キハ200系:主に鹿児島中央駅 - 山川駅間で運用される[25][注 8]。
- 1992年に筑豊地区に続き0・1000番台(クロスシート車)4編成が新製投入され、1997年に香椎線系統から500・1500番台(ロングシート車)3編成が移籍した。いずれも当初は「赤い快速」塗装であったが、順次黄色の「なのはな」塗装に変更された。その過程ではユニット(2両)単位での混色編成も見られた。
- クロスシート車とロングシート車はダイヤ上区別して運用されているほか、鹿児島中央駅の終端式ホームを主に使用する関係で、両者が併結される際はロングシート車が鹿児島中央寄りに連結される(2016年3月改正までは両者が逆で、指宿寄りにロングシート車が連結された)。ただし2016年3月に10+1010の編成、2018年1月には9+1009の編成のロングシート化が完了したため、クロスシート編成が当初の4編成から2編成に半減し、クロスシート限定の運用にも多くの頻度でロングシート車が充当されるようになっていたが、2018年3月改正より限定運用のダイヤがクロスシート車2編成に対応したものに見直されている。
- 2021年3月のダイヤ改正で長崎支社の佐世保車両センターより、556+1556、565+1565の2編成(いずれもロングシート車)が転属している。2021年12月までに、この2編成は長崎で運用されていたころの「シーサイドライナー」塗装(青色)から他車と同一の「なのはな」塗装(黄色)に変更された。その過程では青(シーサイドライナー塗装)と黄色(なのはな塗装)の混色編成も見られた。
歴史
改正鉄道敷設法別表第127号「鹿児島県鹿児島附近ヨリ指宿、枕崎ヲ経テ加世田ニ至ル鉄道」の一部にあたる。なお別表第127号の枕崎 - 加世田間は1931年に南薩鉄道(のち鹿児島交通)枕崎線の一部として開業したが、1984年に廃止されている。
山川駅 - 西頴娃駅間では1960年の開業時に実キロの1.6倍の擬制キロを採用し割増運賃が適用されたが(翌1961年4月6日の運賃改定で1.2倍に軽減)[37]、翌年5月に国鉄新線建設に対し補助金が出ることになったため擬制キロによる割増運賃は廃止された[37]。また、指宿駅 - 枕崎駅間は第二次世界大戦前に鹿児島南海鉄道という会社が鉄道敷設免許を取得したが、資本金を集められずに解散し免許が失効した区間となっている。
駅一覧
- 停車駅
- 普通…すべての駅に停車
- 快速「なのはな」…●印の駅は全列車が停車、|印の駅は全列車が通過
- 特急は「指宿のたまて箱」の記事を参照
- 線路(全線単線) … ◇・∨:列車交換可、|:列車交換不可
- 全駅鹿児島県内に所在。
- ^ 日豊本線の正式な終点は鹿児島駅だが、すべての列車が鹿児島中央駅に乗り入れる。
過去の接続路線
脚注
注釈
- ^ 上下で本数が異なるのは、深夜時間帯の下り列車の一部が旅客扱い終了後に回送で戻っているためである。2018年3月に実施されたいわゆる減便ダイヤ改正により、上りが2本減の47本、下りは1本減の50本となった。
- ^ 2018年3月改正まで上りの始発となる山川4時42分発が最も早かったが、同改正で喜入駅始発に短縮され消滅。始発時刻が早いのは鹿児島中央駅前で戦時期から開かれている「指宿線朝市」への行商人が多く利用していたことからとされている。しかし高齢化や出店者減少によるテナント費用の負担額増加などが要因で2018年3月28日をもって市は廃止された。
- ^ かつて所属していた熊本車両センターへ返却の後に元の赤い塗装に戻され、肥薩線の普通列車として運用後、2023年10月に多機能検測車BE220形に改造された。
- ^ a b ダイヤ改正日の3月12日は前日発生した東北地方太平洋沖地震による津波警報発表で指宿枕崎線が運休となっていたため、運転開始は翌13日から[24]。
- ^ 中吊りスペースは一般広告枠であるため、いわゆる広告ジャックとは異なる。
- ^ 当線のほかにも、日豊本線(宮崎 - 都城間、国分 - 鹿児島中央間)、肥薩線(隼人 - 吉松間)、吉都線などでも運転。
- ^ 他に臨時列車では指宿駅 - 西頴娃駅間で運転されていたトロッコ列車「アドベンチャー号」がある[31]。
1970年代に急行「錦江」の一部が枕崎発で運転されていたことがあるが、日本最南端区間は普通列車として運転[32]。
また、快速「なのはな」の前身である快速「いぶすき」のうち、上り1本が枕崎発で運転されていた(指宿まで各駅停車)[33][34][35]。
カシオワールドオープンゴルフトーナメントがいぶすきゴルフクラブで開催された際には、開催日に「カシオワールドオープンゴルフ」の愛称の普通列車が運転されていた(1992年に運行されたものは、定期列車の喜入・山川 - 開聞間を延長運転する形であった)[36]。
- ^ 山川駅 - 枕崎駅間では線路脇の草木が著しく繁茂しており、車体と接触して傷がつく事象が多発することから、同区間にはキハ200系が乗り入れないとされている[25]。
出典
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
指宿枕崎線に関連するメディアがあります。
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新幹線 | |
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鹿児島線 | |
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日豊線 | |
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長崎線 | |
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筑肥線 | |
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※在来線の通称線名は除外した。 △全区間を他社移管 ▽一部区間を他社移管 ×廃止 |
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北海道 | |
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東北 | |
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関東・甲信越 | |
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北陸・東海 | |
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近畿 | |
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中国・四国 | |
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九州 | |
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路線名称は指定当時。この取り組みにより廃止された路線には、「*」を付した。
- ^ 現在の只見線の一部を含む。
- ^ 旅客営業のみ廃止し、路線自体は日豊本線の貨物支線として存続したのち1989年廃止。
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