|
この項目では、日本の道路運送法上の定期観光バスについて説明しています。観光周遊バス全般については「観光バス」をご覧ください。 |
定期観光バス(ていきかんこうバス)とは、日本の道路運送法において、一般乗合旅客自動車運送(乗合バス)事業に分類されるバス事業の一種[1]。具体的には路線定期運行を行うバスのうち、定期観光運送に係る運賃(道路運送法施行規則第10条第1項第1号イ)を適用するものをいう[2]。
定期観光バスの中には「観光周遊バス」として運行されているものもあるが、統計やデータベースでは定期観光バスを「観光周遊バス」から除外しているもの(「観光周遊バス」を予約不要で観光地を循環する形態で1日に数便運行される形態などに限る)もある[3]。なお、定期観光バス(道路運送法)に類似するものに募集型企画旅行(旅行業法)があるが両者は異なるものであり、日本の周遊バスには路線バスの一形態として定期観光バスで運行されるものと、旅行商品として募集型企画旅行の形態をとるものの2通りがある[3]。
概要
広義の観光バスのうち、道路運送法の分類では一般貸切旅客自動車運送(貸切バス)に属するものに狭義の貸切バスや都市間ツアーバスなどがある[1]。一方、一般乗合旅客自動車運送(乗合バス)事業に分類されるものが定期観光バスである[1]
法律上は乗合バスであり、路線バスに分類されるバスの運行形態である[3]。ルートは予め設定されておりガイド等が同乗することが多い[3]。
法的には路線バスであるため、基本的に乗客が途中乗車・途中下車をすることもあるが、交通手段よりも旅行商品としての性格が強く予約制であることが多い[3]。また旅行商品としての性格から途中の観光地の入場券や食事をセットにして販売されているものが一般的である[3]。
定期観光バスの運賃は時間距離併用制を原則とするが、定期観光バスの系統が1系統しかない場合や、2以上の系統がある場合でも運行距離と所要時間が概ね比例している場合には距離制によることができるとされている[2]。
歴史
各地での歴史
- 東京
- 東京で初めての定期遊覧乗合バスは、1925年(大正14年)12月15日に運行開始された[4]。日本記録認定協会の日本記録名では「日本で初めての定期観光バス」とされている[4]。東京遊覧乗合自動車および東京乗合自動車による運行で、上野を起点として日比谷公園・銀座通り・愛宕山・明治神宮などを遊覧した[4]。戦時色が濃くなる1940年(昭和15年)9月18日まで運行されていた[注釈 1]。
- 別府
- 別府温泉の「別府地獄めぐり」が「国内で最も長い歴史を持つ定期観光バス」とされることもある[5]。亀の井遊覧自動車の運行で1928年(昭和3年)1月に始まった。後の亀の井バスで油屋熊八によって別府地獄めぐりの遊覧輸送目的に亀の井旅館のバス事業部として設立された[5]。また、女性バスガイドは油屋熊八が発案した「地獄めぐり遊覧バス」で最初に導入された。現行の亀の井バスの別府地獄めぐりコースでも当時の七五調ガイドが一部に用いられている[6]。
- 京都
- 京都市の京都定期観光バス(運行会社:京阪バス)は京都遊覧乗合自動車(京都定期観光バスの前身)によって、1928年(昭和3年)4月18日に開業した[7]。1935年(昭和10年)には嵐山への運行を開始した[7]。1951年(昭和26年)には会員制の京都市内夜の観光バス営業開始した[7]。
鉄道周遊券との関係
国鉄時代からJR初期に発売されていた一般周遊券・グリーン周遊券では、周遊指定地だった地域で運行されている定期観光バスの指定コース[注釈 2] を周遊券に組み込むと、周遊指定地1箇所訪問の条件を満たしていた。[注釈 3] こともあり、日本の主要観光地では定期観光バスが運行されていた。しかし後述する観光形態の多様化や1998年の周遊きっぷの登場に伴う一般周遊券・グリーン周遊券の廃止、バス業界の経営環境の変化などが影響して、定期観光バスが運行されている都市や観光地は減少傾向にある。
導入
定期観光バスの導入経緯には次のような例がある[8]。
- 観光客の増加による開設[8]
- 博覧会開催時に遊覧バスとして開設後、観光地の遊覧バスとしてコース新設[8]
- 国際都市として観光客誘致のために開設[8]
- 観光・文化施設(博物館、美術館、伝統工芸館等)の公共交通のアクセスが良くないため周辺観光・文化施設を周遊するバスを運行[8]
運行形態
定期観光バスの運行形態には次のような区分がある[8]。
- 営業主体による区分
- 公営、民営、第三セクターがある[8]。
- 運行ルートによる区分
- 単一ルートと複数ルートまたはシャトル型と循環型に分けられる[8]。
- 運行エリアによる区分
- 一市町村内型(狭域型)と複数市町村経由型(広域型)がある[8]。
- 運行期間による区分
- 通年型、季節型、日祝日型、期間限定型に分けられる[8]。
- 運行頻度・時間帯による区分
- 1日1便型、朝昼各1便型、多頻度型(都市型)に分けられる[8]。
- 所要時間による区分
- 半日コース、1日コース、泊り掛けコース(2日以上)に分けられる[8]。
- 立寄り先による区分
- 見物型と体験型がある[8]。
運行している地域と事業者
季節運行を含め運行されているものを例示する。地域・観光スポットは大まかなもの。一般路線バスの一種である観光周遊バスは除外する。
北海道
-
北海道中央バス(札幌市)
-
北海道中央バス(小樽市)
-
宗谷バス(稚内市)
-
根室交通(根室市、納沙布岬)
-
網走バス(網走市)
-
阿寒バス(摩周湖・阿寒湖・釧路湿原)
東北
関東
-
はとバス(東京都および近郊)
-
日の丸自動車興業(東京都)
-
東急トランセ(東京都)
-
江ノ電バス藤沢(鎌倉市)
-
京浜急行バス(鎌倉市)
-
東武バス日光(日光市)
中部
近畿
-
京阪バス(京都市)
-
京都市交通局(撤退)(京都市)
-
近鉄バス(大阪市)
-
神姫バス(姫路市)
-
明光バス(白浜町)
山陽・山陰
四国
九州・沖縄
募集型企画旅行扱いで運行される地域
過去に運行していた地域と事業者
廃止後は観光周遊バスに移行されたケースが多い。
北海道・東北
関東
中部
近畿
山陽・山陰
四国
九州
課題
- 定期観光バスは一般の路線バスや高速バス、貸切バスに比べると利益率は相対的に低い。そのため特に公営バス事業者においては、本業の路線バス事業が赤字の状態で定期観光バスを維持することが疑問視されることがある[16][17]。
- また地方自治体が路線バス事業者に対して交付する路線維持補助金についても、公共交通機関の範疇から外れる定期観光バスは補助の対象外となっている。
このほか以下のような問題・課題が指摘されている。
脚注
注釈
- ^ 当時は大卒クラスの男性バスガイドが案内していた。女性バスガイドによる案内は、後述の「亀の井遊覧自動車」(のちの亀の井バス)が第一号である。
- ^ 全国版時刻表で円または正方形で囲まれた「遊」マークのコース。
- ^ 周遊指定地2箇所以上、特定周遊指定地は1箇所訪問が条件。
- ^ 地元出身の漫画家、さくらももこのデザインによるラッピングバスで運行(現在[いつ?]運休中)。
- ^ 両備バス・岡山電気軌道・下津井電鉄・中鉄バスなど共同出資した会社で、募集などを同社が行い、運行自体は各バス事業者に委託していた。
- ^ 2022年12月19日より運行再開予定[13]。
- ^ 現在は[いつ?]首里城と沖縄戦跡を回るAコース、古宇利島・海洋博記念公園を回るBコースのみ運行。リニューアル前の中部エリア観光Cコースもかつてはあった。
- ^ 沖縄県那覇市泉崎1丁目10−16
- ^ 那覇バスと同じく第一交通産業の系列会社となったため、琉球バス交通では定期観光の運行は行っていない。
- ^ 2004年9月末をもって全コース廃止。その後2006年10月より土・日・祝日のみの運行として熊本市内の1コースが復活したものの、2009年1月末日を以って再び廃止。2010年10月からは九州産交バスの子会社である産交バスに移行、ならびに運行車両の小型化・バスガイドを置かないなど、以前に比べ運行形態は異なるが事実上の復活となるも、2014年3月末日をもって廃止。
出典
関連項目
外部リンク