この項目では、天体 について説明しています。
月 (つき、英 : Moon 、羅 : Luna 、独 : Mond 、仏 : Lune )は、地球 で唯一の安定的に存在する天然の衛星 である(地球のその他の衛星については、「月以外の地球の衛星 」を参照)。
太陽系 惑星の恒久的に存在する衛星の中で、最も内側に位置する衛星であり、太陽系で5番目に大きい衛星でもある。地球から見て太陽 に次いで明るい[ 5] 。
古くは太陽 に対して太陰 とも、また日輪( = 太陽)に対して月輪(げつりん)とも言った。
概要
太陽系 の中で地球 に最も近い自然の天体 であり、人類 が到達したことのある唯一の地球外天体でもある。
地球から見える天体の中では太陽 の次に明るく、白色に光って見えるが、これは自ら発光しているのではなく、太陽光 を反射したものである。
名称
ドイツ語 では Mond (モーント)、フランス語 では Lune (リュヌ)、英語 では Moon (ムーン)、ラテン語 では Luna (ルーナ)、サンスクリット語 では चंद्र (チャンドラ)、ギリシャ語 ではΣελήνη (セレーネー)と呼ばれる。古くは太陽 に対して太陰 ともいった。日本語 では「ツキ」というが、奈良時代 以前は「ツク」という語形だったと推定されている。
なお、漢字 の「月」は欠けた月の形を描いた象形文字 である[ 6] [ 7] 。
また「月」は、広義には「ある惑星 から見てその周りを回る衛星」を指す。例えば、「フォボス は火星 の月である」などと表現する[ 注 1] 。
運行
月は天球 上の白道 と呼ばれる通り道をほぼ4週間の周期で運行する。白道は19年周期で揺らいでいるが、黄道帯とよばれる黄道 周辺8度の範囲に収まる。月はほぼ2週間ごとに黄道を横切る。
恒星 が月に隠される現象を掩蔽 、あるいは星食 という。惑星や小惑星 が隠されることもある。一等星 や惑星の掩蔽はめったに起こらない。天球 上での月の移動速度 は毎時0.5度(月の視直径 )程度であるから、掩蔽の継続時間は長くても1時間程度である。
暦との関係
暦 と月の関係は近代に至るまで密接であった。月の《満ち欠け》を元に決めた暦は太陰暦 と言い、地球から月を見ると月の明るい部分の形は毎日変化し約29.5日周期で同じ形となっており、この変化の周期を元に暦を決めたものである。
歴史的に見れば元々は太陰暦を採用していた地域のほうが多かったのであり、現代でも太陽暦 と太陰暦を併用している文化圏はある。月を基準に決めた暦というのは、漁師 など自然を相手に仕事をする人々にとっては日付がそのまま有用な情報をもたらしてくれるものである。
日本 でも、明治 5年までは太陽太陰暦 を主として使用していた。明治5年に公的な制度を変えた段階でこれを「旧暦 」と呼ぶようになったが、その後も長らく旧暦のカレンダー は販売され、両方を併用する人々は多かった。今でも一般の太陽暦のカレンダーに旧暦を掲載したものは広く使われる。
日本語 では暦を読むことを「月を読む」「ツキヨミ(ツクヨミ )」「月読」と言った。暦と言えば近代まで太陽太陰暦であったため、暦を読むとはすなわち月を読むことであった[ 注 2] 。
物理的特徴
性質
主要な太陽系の衛星の比較。他の衛星と比べても月は大きく、月は母惑星地球に対し不釣合いなほど大きな衛星であることが分かる。
月の直径 (3,474km) は、木星 の衛星ガニメデ (5,262km)、土星 の衛星タイタン (5,150km)、木星の衛星カリスト (4,800km)、イオ (3,630km) に次ぎ、太陽系の衛星の中で5番目に大きい[ 10] 。また、惑星に対する衛星の直径比率で言えば、月は地球の約1/4であり、ガニメデが木星の約1/27、タイタンが土星の約1/23であるのに比べて桁違いに大きい[ 10] 。かつては、衛星が主星の大きさの50%を超える冥王星 とカロン の組に次いで2番目だったが、冥王星が準惑星 に分類変更されたので、地球と月の組が1番となった。
月はその規模や構造といった物理的性質から、星そのものは地球型惑星 だと考えられている[ 11] 。定義のしかたによっては月のような大規模の衛星が惑星に分類されてしまう可能性もあるが、「衛星とは、惑星を周回する天体である」という「衛星」の定義を「惑星」とは別途設けることにより、惑星とは区別される[ 12] 。このため太陽系の8惑星 を分類する意味で「地球型惑星」と言った場合、月は含めないのが普通である。
従来、地球に対する月は、衛星としては不釣合いに大きいので、二重惑星 とみなす意見もあった。月の直径は地球の4分の1強であり、質量 でも81分の1に及ぶからである。月と太陽の見た目の大きさ(視直径)はほぼ等しく、約0.5度である。したがって、他の惑星の場合とは異なり、太陽が完全に月に覆い隠される皆既日食 や、太陽の縁がわずかに隠されずに環状に残る金環日食 が起こる。
月の形状はほぼ球形だが、厳密にはわずかにセイヨウナシ 形をしている。月面の最高点は平均高度より+10.75km、最低点は-9.06kmで、共に裏側にある。質量 はおよそ地球の0.0123倍 (1/81)。表面積 (3793万km2 )は地球の表面積の7.4%に相当し、アフリカ大陸 とオーストラリア大陸 を合わせた面積よりもわずかに小さい。
月と地球の距離およびそれぞれの直径 月と地球の間の距離は38万4,400km、これに対し地球の直径は1万2,756km、月の直径は3,474km。
月の秤動(ひょうどう) この画像は27日分の月の映像を時間を縮めて表示し、月の見かけ上の揺れ(秤動 )の様子を示す。月が楕円軌道 を巡り地球との距離が変わるので、見かけの大きさも変化する。
アメリカ合衆国 のアポロ計画 やソ連 のルナ計画 で月面に設置された反射鏡 に地球からレーザー 光線を照射し、光が戻ってくるのに要する時間を計れば月までの距離を正確に測定できる。この測定は月レーザー測距 (LLR)と呼ばれ、1969年にアメリカのマクドナルド天文台 で初めて行われた。地球中心から月の中心までの平均距離は38万4,403km(約1.3光秒 )であり、地球の赤道 半径の約60.27倍である。21世紀に入ってからも各国の天文台 で測定が続けられており、月は平均して1年あたり3.8cmの速さで地球から遠ざかっていることが明らかになっている[ 13] [ 14] 。
月は、太陽系の惑星やほとんどの衛星と同じく、天の北極 から見て反時計 周り(地球の自転、公転と同じ)の方向に公転している。軌道 は円に近い楕円 形。自転周期 は27.32日で、地球の周りを回る公転周期 と完全に同期している(自転と公転の同期 )。つまり地球上から月の裏側 を直接観測することは永久にできない。これはそれほど珍しい現象ではなく、火星の2衛星、木星のガリレオ衛星 であるイオ、エウロパ 、ガニメデ、カリスト、土星の最大の衛星タイタンなどにも見られる。ただし、一致してはいても、月の自転 軸が傾いているうえに軌道離心率 が0ではないので、地球から見た月は秤動 と呼ばれるゆっくりとした振動運動を行なっており、月面の59%が地上から観測可能である。逆に、月面からは地球は天空のある狭い範囲(秤動に応じて東西南北およそ±7°程度の範囲[ 15] )に留まって見える(一点に静止して見えるわけではない)。特に、スミス海 や東の海 のように地球から見て月の縁に位置する地点では、秤動によって地球から見えたり隠れたりするのに応じて、逆に地球が月の地平線から昇ったり沈んだりして見える[ 注 3] (「地球の出 」の画像は月面からではなく、月周回軌道 を回る宇宙船や観測機から撮られた物である)。
2014年5月に発表された研究成果によれば、月の自転軸は40億年前から現在までに数十度ずれていた事が分かったと発表された[ 16] 。
月内部の構造はアポロ計画の際に設置された月震 計で明らかになった。中心から700 - 800kmの部分は液体 の性質を帯びており、液体と固体 の境界 付近などでマグニチュード 1 - 2程度の深発月震が多発している。また、浅発月震と呼ばれる地下300km前後を震源とする揺れは、マグニチュード3 - 4にもなるが、発生原因の特定はできていない。表面から60kmの部分が地球の地殻 に相当し、斜長石 の比率が高い。月の内部は地球型惑星 と同様に岩石 と金属 からなり、深さによって密度ごとに成層した(分化した)天体である。
月はナトリウム やカリウム などからなる大気 を持つが、地球の大気に比べると1017 分の1(10京分の1)ほどの希薄さであり、表面は実質的に真空 であるといえる。したがって、気象 現象が発生しない。月面着陸以前の望遠鏡 の観測 からも月には大気がないと推定されていたが、1980年代 にアメリカ航空宇宙局 (NASA)によって実際は希薄ながらも大気が存在することが確認された。
水 の存在も観測では確認されていなかったが、2009年 11月にNASAによって南極 に相当量の水が含まれることが確認された。ただし、水は極地 に氷 の形で存在するだけであって、熱水 (鉱化溶液)による元素 の濃集は起きないとされており、熱水鉱脈 は存在しないと推定されている。しかしながら、マグマへの濃集は起きていたためチタン などの含有量が非常に多い地質体も存在する。
現在は月の火山活動 (英語版 ) は認められず、マントル対流も存在しないが、少なくとも25億年前までは火山 活動があったことが確認されている。溶岩流によって形成された月の溶岩洞 (溶岩チューブ)も確認できる[ 17] 。
磁場 は地球の約1/10,000ときわめて微弱である。月には全球的に明瞭な固有磁場が存在せず、局所的に、磁場が異常に強い地域と弱い地域が混在している[ 18] 。月はかつて全球的に磁場を有していたが、液体の金属核の凝固に伴って消滅し、局所的な磁場だけが残ったと考えられている。2014年5月に発表された研究成果によれば、現在の月には大規模な磁場はないが、約40億年前の月中心部では溶けた鉄が活発に運動し磁場を発生させていたことがわかった[ 16] 。
表面
表側(地球から見える側)
裏側 黒っぽく見える海が少ない
月の北極周辺 夏期 ルナー・リコネサンス・オービター による写真の合成イメージ
月の南極周辺(南緯70-90度)クレメンタイン (探査機) による写真の合成イメージ 常に日光が当たらない領域(永久影)が中心のクレーター内に見られる。
月の表側(地球から観測される側)の北緯 60度 - 南緯 30度にわたる領域は光をあまり反射せず黒く見えることから、海 と呼ばれている。海は月表面の35パーセントを占めるが、月の裏側にはほとんど存在せず、高地 と呼ばれる急峻な地形からなる。月の海は、まだ内部が熱く溶け、地表の下に溶岩 がある時代に隕石 の衝突によって生じたクレーター の底から玄武岩 質の溶岩がにじみ出てクレーターが埋められたものとされている。約20kmの厚みがある冷えて固まった黒っぽい玄武岩の層で覆われているために光をあまり反射せず、他と比べて暗く見える。表側にのみ海が存在するのは、そちら側に集中して熱を生み出す放射性物質 が存在したためであるとか、また、地球からの重力 の影響により、より強い重力の働く地球側でのみ溶岩が噴出したためとする説も存在するが、現在のところ定説はない。 [要出典 ]
海以外の部分は、小石が集まった角礫岩 から構成されている。これは太陽系初期から残った微惑星 の衝突によって生じたものである。月には大気がほとんど存在しないため、微小な隕石もそのまま月面に衝突してクレーターをつくる。また水や風、動植物による物理的な浸食 や地殻変動 の影響を受けることもないので、更に他の物体衝突が無い限りほとんどのクレーターがそのまま残る。
大気が少なく、磁場 が弱いために宇宙線 や太陽風 なども直接月面に到達するため、月面での生命活動に際しては、これらを防ぐ必要がある。また、昼夜の表面温度変化も大きく、赤道付近で昼は約110℃、夜は約-170℃となる。自転軸の傾きにより多少の季節はあるが、気象現象は無いので表面温度変化は月の1日を通じてほぼ一定の変化をする[ 19] 。なお、月の公転周期が約27.3日であるのに対して、満ち欠けが約29.5日となっているのは、月が公転する間地球も太陽の周りを公転しており、その分余計に公転しなければならないためである[ 20] 。
月面は砂(レゴリス )によって覆われている。レゴリスは隕石などによって細かく砕かれた石が積もったものであり、月面のほぼ全体を数十cmから数十mの厚さで覆っている。これはおよそ200kgの体重と装備が、重力によりおよそ30kg相当となった人間が残した足跡からも観測できる。より新しいクレーターなどの若い地形ほど層が浅い。その粒子は非常に細かく、宇宙服 や精密機械などに入り込みやすく、問題を起こす。しかしその一方でレゴリスの約半分は酸素 で構成されており、酸素の供給源や建築 材料としても期待されている。また太陽風によって運ばれた水素 やヘリウム3 が分布密度は小さいものの吸着されており、核融合 燃料になると考えられている。
両極 付近のクレーター内には「永久影」と呼ばれる常に日陰となる領域があるため、氷が存在している可能性が高いと言われている。
2009年9月、無人月探査機チャンドラヤーン1号 (ISRO :インド )および土星探査機カッシーニ と彗星探査機ディープ・インパクト (いずれもNASA :アメリカ )の3探査機 によって、月に水もしくは水の基となるヒドロキシ基 が存在していることが確認されたと発表された。存在範囲は月面全体に薄く広がっている状態で、月において水もしくはヒドロキシ基を約1リットル集めるのに、月の土壌約0.76立方メートルが必要だと試算されている。確認された水もしくはヒドロキシ基は、太陽風によって運ばれた水素イオン が月面にある酸素を含んだ鉱物やガラス 様物質に衝突した結果生じたものと考えられ、将来の月面探査・月面基地 計画において、抽出して水素と結合すれば真水 を生成可能とされている[ 21] [ 22] 。
同年10月9日 、NASAの月探査機エルクロス が月の南極付近にあるカベウスクレーターに衝突した。衝突による閃光や噴出物を観測したところ、上層部分からは細かい塵や水蒸気 が、下層部分の土砂からも水分が確認された。合計水分量は約95リットルだという。
同年10月24日 、日本の宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は、月探査機かぐや が撮影した画像の解析で、月の表側にある平地「嵐の大洋 」の中央部にあるマリウス丘に月面初となる地下溶岩トンネル に通じる縦穴を発見したと発表した。今回発見された縦穴は「嵐の大洋」において火山活動が活発だったことが分かっている地点に存在しており、直径約70m、深さ約90mの垂直な穴で、穴底部分は少なくとも横幅400m、内高20mを超えるトンネル になっているとしている。JAXAは、今回の発見は将来的な有人探査において天然の基地としての有力候補になったとしている[ 23] 。
2010年9月7日、NASAによって、月面において初となる「天然の橋」が確認された[ 24] 。NASAのルナー・リコネサンス・オービター (LRO) のカメラ (LROC) が撮影に成功し、その画像が公開された。画像では、橋の右側くぼみから橋下を通過した光が、左側くぼみの底に三日月形に映っている姿をとらえている。地球上においては風や水による浸食現象で形成される自然橋 だが、月面で見られるこのような地形は、通常、太古の火山活動によってできた溶岩洞が崩落した結果と考えられている。ただし、今回発見されたケースでは、この天然の橋は溶岩洞の崩落によるものではなく、クレーターを形成した隕石の衝突熱で岩が融解して形成されたものと考えられている[ 24] 。
2020年10月、アメリカ航空宇宙局 (NASA)は成層圏赤外線天文台 (SOFIA)を用いて行われた観測で、南半球にあるクラヴィウス・クレーター (英語版 ) から水が検出されたと発表した。極地域の永久影領域を除いた太陽光に照らされることがある地域で水が検出されたのはこれが初めてで、極地域だけではなく、月全体に水が存在する可能性を示す観測結果となった[ 25] [ 26] 。
TLP
月面に一時的な発光現象が起こることがあり、一時的月面現象 (英語 : TLP, Transient Lunar phenomena) と呼ぶ。過去数百年の間に地球上からおよそ1500件の観測報告がなされているが、錯覚によるものや望遠鏡の鏡筒内異物による乱反射であったり、レンズ の色収差 など観測者側に何らかの原因があったりする場合の誤認が多いとされている[ 27] [ 28] 。
実際に生じている月面での発光現象の原因として明らかになっているものが幾つかある。
隕石の衝突[ 29] - 規模や持続時間の点からTLPは隕石衝突と区別される[ 30] 。
月、太陽、地球の位置関係 - 月面斜面に横から太陽光線が当たると、地形・高低差によりそれまでは太陽光を反射していなかった場所で反射が生じ発光しているように見える[ 27] 。
レゴリス - 太陽風によって帯電 したレゴリスが舞い上がる[ 31] 。
ガス噴出 - 月の地殻に含有されているウラン (238 U)が核分裂 を起こし、分裂生成物であるラドン (222 Rn)ガス噴出に伴う発光[ 28] (第18族元素 の特徴的性質)。特にアリスタルコス ・クレーター付近で顕著な現象。ガスの噴出は地表近くに溜まったガスが突発的に月面の砂を巻き上げるもので、アポロ計画 で発見された月面上のガスの漏出地点と、TLPが頻発に報告される地域が一致するという研究がある[ 30] 。
影響
月の重力 は地球に影響を及ぼし、潮の満ち引きを起こす(潮汐 作用)。なお、月よりも格段に大きい質量を持つ太陽も潮汐作用を起こし地球に潮汐力を及ぼすが、地球からの距離が月より遠距離にあるため、その影響力は月の力の半分程度である(潮汐力は距離の3乗に反比例する[ 32] )。
月の潮汐作用により、主に海洋 と海底 との摩擦 (海水 同士、地殻 同士の摩擦などもある)による熱損失から、地球の自転速度がおよそ10万年に1秒の割合で遅くなっている。また、重力による地殻の変形を介して、地球-月系の角運動量 は月に移動しており、これにより、月と地球の距離は年間約3.8cmずつ離れつつある[ 33] 。この角運動量の移動は、地球の自転周期と月の公転周期が一致するまで続くと考えられるが、そこに至るまでにはおよそ50億年を要する[ 33] 。
逆に言えば、かつて月は現在よりも地球の近くにあり、より強力な重力・潮汐力の影響を及ぼしており、また地球(および月)はより早く回転していた。サンゴ の化石 の調査によれば、そこに刻まれた日輪(年輪 の日版)により、4億年程前には1日は約22時間で、1年 は400日程あったとされる[ 33] 。
視覚的特徴
地表近くの満月
月の明るさは満月 で-12.7など 、半月でも-10等前後に達し、夜間における最も明るい天然光源 である。
地球上から月を観察すると、月の大きさが変わっているように見えることがある。空高くに位置する場合と地平線 または水平線 近くに位置する場合とは、明らかに大きさに変化があり、前者の場合は小さく見え、後者の場合は大きく見える。
この現象は人間の目の錯覚 によるものである。カメラとは異なり、人間の目は視界に入るすべての物体を鮮明に見るべく、常に焦点位置を調節し、脳で画像を合成している。このため近場から遠方に連なる風景の先端に月が見える場合,ズームレンズを動かしながら見るように、人の認識する月が巨大化する。逆に空高くに位置する場合は、比較となる対象物が存在しないために、小さく(実質的な目視上のサイズとして)見えるのである。
実際の月の視直径は、腕を伸ばして持つ五円玉 の穴の大きさとほぼ同じである。空高くに位置する時の小さな姿は、五円玉の穴にその全てが収まってしまいそうに見える。地平線近くにある大きな月の場合は、五円玉の穴に入りそうもなく思えるが、実際は小さな月と同じように五円玉の穴に全てが収まってしまう。
なお、月の公転軌道は楕円形であり、近地点約36万kmに対して遠地点約40万kmであるため、見かけの大きさは月の軌道上の位置により実際に変わる。また、赤道上の地上から見ると一日のうちでも厳密には距離が変化する。月を天頂付近に見る時が一日のうちで最も月に近く、月を地平線付近に見るときは、それよりもおよそ地球の半径(約6,000km)離れるので、それだけ僅かに小さく見える。
月は一時間あたり、恒星に対して東へ0.5度強だけ動いていき、24時間では13度である。つまり、毎夜、月は前の夜より13度だけ東へ動いていく[ 34] 。
地球照
地球照の仕組み
太陽光が当たっていない、欠けた部分も肉眼でも薄っすらと見えることがあるが、これは地球照 (ちきゅうしょう、earthshine)と呼ばれるもので、地球で反射した太陽光が月を照らすことによって生じるものである。月は大気や雲がなく岩石のみであり、満月が明るく見えるといっても、月のアルベド (太陽光を反射する割合)は7%程である。それに対して地球(満地球)は面積で約16倍大きく、また、アルベドが20-30%(雲や氷雪が良く光を反射する)であり、地球の方がずっと強い光を放っている。肉眼での確認が容易な期間は、新月を挟む月齢 27から2(三日月)前後の、月の輪郭が小さな時である。ただし新月の際には目印となるものがなく、発見が困難である。もっとも、皆既日食 の際には地球照の確認が可能で、写真撮影すれば地球照で地形の見える月の周囲に太陽のコロナ が写る。また、半月くらいになれば肉眼で地球照を確認することは難しいが、露出時間を長くして影の部分を写真撮影すれば地球照が写る。
月の出・月の入りの頃などに赤い月が観測されることがあるが、これは朝焼けや夕焼け と同様の原理で、月が地平近くにあることから月からの光が大気の中を長く通り、赤以外の光 が散乱 してしまうことによる。月食によっても発生することがある。
月の公転軌道は地球の公転軌道に対して5度ほど傾いている。この傾きが周期的に月食・日食を引き起こしている[ 35] 。
起源
古典的学説
月がどのようにつくられ、地球を巡るようになったかについて古くは3つの説が唱えられてきた。
親子説(分裂説・出産説・娘説)
自転による遠心力 で、地球の一部が飛び出して月になったとする説。
兄弟説(双子集積説[ 36] ・共成長説)
月と地球は同じ材料物質から、同時に作られたとする説。
他人説(捕獲説 ・配偶者説)
別の場所で形成された月と地球が偶然接近した際、月が地球の引力 に捕らえられたとする説。
だが、いずれの説も現在の月の力学的・物質科学的な特徴を矛盾なく説明することができなかった。まず、親子説では地球-月系の現在の全角運動量 を原始地球が単独で持っていたとは考えにくい。兄弟説では月の平均密度から推定される全体的な組成が、地球と比較して金属鉄に乏しいことを説明できない。また、他人説では地球の重力圏外から進入する月が、地球からちょうど良い距離に接近して衛星軌道へ捕らえられる可能性が低い。また、アポロ計画 により採取された月の石 の分析結果から判明した地球のマントル と月の石の化学組成や酸素同位体 比の類似性も、他人説は説明できない。一方で、月の石 の放射年代測定 により月が約45億5000万年前に誕生したこと、月の高地が斜長岩からなることから月はその歴史の初期に高温だったことが明らかとなった。これらの証拠から、有力視されるようになったのが巨大衝突説である。
巨大衝突説
巨大衝突説(ジャイアント・インパクト説 )は、地球と他の天体との衝突によって飛散した物質が地球周回軌道上で集積して月ができたとする説である。この説の標準的な設定では、地球がほぼ現在の大きさになった頃、火星 程の大きさの天体 (テイア と名付けられている) が斜めに地球へ衝突し、その衝撃で蒸発 ・飛散した両天体のマントル物質の一部が地球周回軌道上で集積して月が形成されたとする。
この説を用いると、以下のことが説明できる。
月の質量が現在程度になること。
地球・月系の全角運動量が現在程度でも不思議はないこと。
月の比重 (3.34) が地球の大陸 地殻を構成する花崗岩 (比重1.7 - 2.8)よりも大きく、海洋地殻を構成する玄武岩 (比重2.9 - 3.2)に近いこと[要出典 ] 。
地球と比べて揮発性 元素が欠乏していること。月形成環境が高温であったことで説明できる。
月のコア が小さいこと。地球やテイアのマントルを主とする軽い物質が集積したとすれば説明できる。
一方で、詳細な計算によると月岩石の同位体比は巨大衝突説で説明しづらいことが示されている。巨大衝突の数値計算結果から、月質量を再現する標準的な設定では、月の成分の5分の1は地球に由来し、残る5分の4は衝突天体の物質が寄与することが分かっている。しかしながら、実際には、地球と月の岩石の酸素などの同位体比はほぼ同一であることが知られており、巨大衝突説には物質科学的な困難が存在する。
これに対して、衝突時の原始地球はマグマの海 に覆われており、その物質が効率よく地球周回軌道へと飛散することで月の主成分となり、同位体比の類似性が説明できるという仮説が提唱されている[ 37] [ 38] 。
このほか、次の複数衝突説が提唱されている[ 39] 。
複数衝突説
複数衝突説は、月は巨大衝突説が唱えるように1回の大規模衝突によって形成されたのではなく、微惑星の小さな衝突が20回程度繰り返されて月形成がなされたとする説である。このシナリオでは、衝突のたびに原始地球 の周囲にデブリ 円盤が形成され、円盤物質の集積で小衛星が形成される。こうした小衛星の数々は最終的に合体し、単一の月が形成される[ 39] [ 40] 。
複数衝突説によると、単独の衝突よりも地球から多くの物質がえぐり取るような衝突が考慮できる。これに加えて、多数の小衛星組成の平均が最終的な月組成となることから、単一衝突シナリオよりも月組成を地球に類似させやすいとされる[ 39] [ 40] 。また、月質量以上の周地球デブリ円盤を作る必要がないため、単一の衝突で月を作るよりも緩い条件で月形成を達成できるという利点もある[ 40] 。
なお、巨大衝突説や複数衝突説以外の月の形成に関する新たな学説として「月は2つあった」とする学説が提示されている[ 41] 。
月齢と呼び名
中心の青い球体が地球 、図の右方に太陽 があり、地球の周りに配置される球体が1か月間に公転 する月の位置を示す。図の1の球体が朔 の月の位置を示す。地球から見て、月と太陽が同じ方向にある。図の3の球体が上弦 、図の5が望 、図の7が下弦 の月の位置をそれぞれ示す。
地球から見て、太陽と月が同じ方向にある瞬間を、朔 (さく)又は新月 という。日本や中国の旧暦で用いられた太陰暦 ・太陰太陽暦 では、朔を含む日を月初(第1日)とする[ 注 4] [ 注 5] 。
朔からの経過時間を日単位で表した数値を月齢 という。朔の瞬間を月齢0として、朔を含む日(朔日)を「1日 」とするため、日本で用いられる旧暦の日付は、その日の午前0時の月齢に1を足したものとなる[ 注 6] 。なお、通常、カレンダーなどで示される月齢は、当日正午 時点の数値である。例えば、2009年9月19日は日本標準時 午前3時44分に朔となるため、この時点が月齢0となり、同日は旧暦8月1日となる。朔から24時間後の同年9月20日午前3時44分には月齢1となる。カレンダーなどで示される月齢は、それぞれ正午時点での数値となるため、2009年9月19日は月齢0.3、翌20日の月齢は1.3となる。
月には、月相 (月の満ち欠け)に応じて、様々な名称がある。まず、天文学的に用いられる名称としては、「朔 、上弦 、望 、下弦 」の4つがある。太陽と月の黄経差が、それぞれ0度の状態を朔、90度を上弦、180度を望、270度を下弦と呼ぶ。なお、月相は通常0度から360度までの角度で示されるが、月齢との比較を容易にするため、0度から360度までの角度を0から28までの整数の値に換算して示すことがある。この場合、朔は0、上弦は7、望は14、下弦は21となる。この月相の数値と月齢は必ずしも一致しない(詳細は月相 を参照)。
このほか日本では、旧暦の日付に対応する名称(三日月 、十三夜の月、十五夜 の月、十六夜の月など)や月が見える時間帯に関する名称(立待月、居待月、寝待月、夕月、有明月など)、形状に対応する名称(満月 、弦月 、半月、弓張月など)、年中行事に関連する名称(芋名月、栗名月)など、月には多くの名称(月名、げつめい)がある。
旧暦15日の月(ほぼ満月)は日没頃に昇り、以後数日間も夜間に上るため月見 に適しており、特に様々な名称が付された。日没後しばらくしてから上る旧暦16日 の月は「いざよい」(ためらう、なかなか進まないの意)、以後、「立待」(立って待っていると出てくる)、「居待」(座って待っていると出てくる)、「寝待」(寝て待っていると出てくる)、「更待」(ふけまち。夜が更けてから出てくる、あるいは更に待つと出てくる)と、月の出が遅くなるごとにふさわしい名称が付けられている。なお、「夕月」は日没前後に見える月の総称であり、「有明の月」は明け方 になってもまだ残っている月の総称である。
月は毎日平均約50分ずつ遅れて出るため、「月の出」がない日や1日に2回起こる日がある。そのため、月の呼び名は、旧暦の日付ではなく朔日を1とする「月の出」の回数(月の出数) によって決められる。そうしないと欠番が出たり、同じ月でも地域により呼び名が異なったりするからである。なお、月の出の時刻が0時前後になる旧暦の24日ごろ以降は、旧暦の日付と月の呼び名が1日ずれる ので注意が必要である。「月の出がない日」といっても、その日に「月の出」がないだけで月が見えないわけではない。その日が始まる午前0時には既に月が出ているので、東から月が出る「月の出」がないのである。
月相
およその月齢
月の出数
主な名称
0・朔
0
1
新月
1
1
2
二日月、既朔(きさく)
2
2
3
三日月 (みかづき)
7・上弦
7.5
7
半月、七日月、弓張月
12
12
13
十三日月、十三夜月
13
13
14
十四日月、小望月(こもちづき)、幾望(きぼう)、待宵の月(まつよいのつき)
14・望
14
15
十五日月、十五夜、望月(もちづき)、満月 [ 注 7]
15
15
16
十六夜(いざよい)、十六日月、既望(きぼう)
16
16
17
十七日月、立待月(たちまちづき)
17
17
18
十八日月、居待月(いまちづき)
18
18
19
十九日月、寝待月(ねまちづき)、臥待月(ふしまちづき)
19
19
20
二十日月、更待月(ふけまちづき)
21・下弦
22.5
23
半月、二十三日月、弓張月
月の出入り時刻の例 (2009年9月、時刻は日本標準時 )
日付 (旧暦)
月齢[ 注 8]
東京
京都
説明
月の出
月の入り
月の出
月の出数
月の出
月の入り
月の出
月の出数
9月10日(7月22日)
20.7
10:45
20:46
22
10:59
21:04
22
東京 ・京都 とも、前日に出た月が午前10時台に没し、午後 9時頃にまた出てくる。「月の出」は 1回なので、「月の出数」は1増える。
9月11日 (7月23日)
21.7
11:51
21:37
23
12:05
21:55
23
東京・京都とも、前日に出た月が正午頃に没し、午後 9時台にまた出てくる。「月の出」は 1回なので、「月の出数」は1増える。
9月12日 (7月24日)
22.7
12:54
22:36
24
13:08
22:55
24
下弦 。半月。 東京・京都とも、前日に出た月が午後 1時頃に没し、午後10時過ぎにまた出てくる。「月の出」は 1回なので、「月の出数」は 1増える。
9月13日 (7月25日)
23.7
13:51
23:44
25
14:06
-
東京では、前日に出た月が午後 2時前に没した後、当日中に再び出てくる。そのため、「月の出数」は 1増える。これに対して京都では、前日に出た月が午後 2時過ぎに没した後、当日中には再び月が出てこない。そのため、「月の出数」は増えない。
9月14日 (7月26日)
24.7
14:42
-
0:02
14:56
25
東京では、前日に出た月が午後 2時過ぎに没した後、当日中には再び月が出てこない。そのため、「月の出数」は増えない。これに対して京都では、未明に出た月が午後 3時前に没している。そのため、「月の出数」は 1増える。
9月15日 (7月27日)
25.7
0:55
15:25
26
1:14
15:40
26
東京・京都とも、未明に出た月が午後 3時台に没する。「月の出」は 1回なので、「月の出数」は 1増える。
9月16日 (7月28日)
26.7
2:08
16:02
27
2:27
16:18
27
東京・京都とも、未明に出た月が午後 4時台に没する。「月の出」は 1回なので、「月の出数」は 1増える。
9月17日 (7月29日)
27.7
3:21
16:36
28
3:39
16:51
28
東京・京都とも、未明に出た月が午後 4時台に没する。「月の出」は 1回なので、「月の出数」は 1増える。
9月18日 (7月30日)
28.7
4:32
17:07
29
4:49
17:23
29
東京・京都とも、未明に出た月が午後 5時台に没する。「月の出」は 1回なので、「月の出数」は 1増える。
9月19日 (8月1日)
0.3
5:42
17:37
1
5:58
17:54
1
朔 。新月。 東京・京都とも、日の出後に出た月が午後 3時台に没する。朔となったので「月の出数」は、 1に戻る。
和暦 や中国暦 の太陰太陽暦 では、月の約29.5日の周期を大の月(30日間)と小の月(29日間)で調整する。このため、毎年月ごとの日数が異なり、煩雑で記憶できない。そこで、毎年、暦(大小暦 )を作成して参照した。日本では、大小暦に絵を描いたものが、後に浮世絵 になった。
月の初日( 1日)は「朔日(ついたち、さくじつ)」と呼び、月の最終日(29日 又は30日 )は「晦日 (みそか、つごもり)」と呼ぶ。「ついたち」とは「月立ち(つきたち)」、「つごもり」は「月隠り(つきこもり)」が音変化した語である。また、一年の最終月の最終日(29日又は30日)は、「大晦日 (おおみそか、おおつごもり)」である。
日本の童謡 の「お月さん幾つ、十三ななつ」はこれだけでは意味不明であるが、沖縄民謡 の童謡『月ぬ美しゃ 』に由来するとの見方がある。そこでは「月ぬかいしゃ、10日3日。みやらびかいしゃ10ななつ」とあり、13日の月、つまり成熟前が美しいとの意とされ、月齢を年齢になぞらえている。
月齢と人間的事象の関連性
現代においても、詳細なデータなど明確な根拠を示さず、テレビ・雑誌などで、月齢が、人間の生理 的、精神的な事象(例えば出産 や、自殺 、殺人 、交通事故 の起こりやすさなど)に影響を及ぼしているのではと語られることがある。
月齢と暴力行為の因果関係については、2007年初頭にポーランド の科学者Michal Zimeckiが確認したとされるが、その一方でシドニー大学 とニューサウスウェールズ州 のManly病院の研究者らが、心理学専門誌Australian and New Zealand Journal of Psychiatry 誌に1998年に発表した内容では「両者間に特別な関連性はみられない 」とされたという。2007年6月5日、「満月の日には犯罪が増える 」とイギリス の英南部サセックス州警察のある警察署 が発表し、満月の日に警察官を多めに配置すべきだとの見解を表明したというが、懐疑的に見る人が多かったという[ 43] 。
人間との関係史
古代ギリシア
古代ギリシア の人々は、月食 が起きるのは満月の時であること、また月食時に月の表面に丸い影が徐々に現れることを観察して、それらのことからその影というのは自分たちの住む地の影で、地は球体であると推定したといい、アリストテレース の時代(紀元前4世紀)には、その知識はギリシア世界では広く行き渡っていたという。
古代ギリシアから中世にかけての宇宙論 。(ペトルス・アピアヌス 画、アントワープ 、1539年 )
アリストテレースも地球の周りを月、太陽、および他の惑星が回っているという宇宙論を説いた(地球中心説 )。
ギリシア神話 の月の女神 は元々セレーネー であるが、後にアルテミス やヘカテー と同一視され、月が満ちて欠けるように3つの顔を持つ女神とされるようになった。ローマ神話 ではルーナ がセレーネーと、ディアーナ がアルテミスと同一視されたので、ここでも月神は2つの顔を持つとされた。これらの神々は一般にあまり区別されない。ルーナ Luna の名はロマンス語 ではそのまま月を表す普通名詞となった。また、英語などではセレーネーから派生した selen- , seleno- という月を表す語根 ・接頭辞 が存在する。元素周期表 でテルル (地球)の真上に位置し、あとから発見されたセレン はこの語根から命名された。
ヨーロッパの伝統文化
古来より月は太陽 と並んで神秘的な意味を付加されてきた。ヨーロッパ文化圏では太陽が金色 ・黄色 で表現されるのに対し、月は銀色 ・白 で表されることが多い。西洋では月が人間を狂気 に引き込むと考えられ、英語 で "lunatic "(ルナティック )とは気が狂っていることを表す。また満月の日に人狼 は人から狼 に変身 し、魔女 たちは黒ミサ を開くと考えられていた。
北ヨーロッパ では呪われて月に送られた男と見立てられており、『マザー・グース 』に収録されたThe man in the moon は、その伝承を基にしたものである[ 44] 。安息日 を無視して薪を背負っていた、キャベツを盗んだなど、男が呪われた理由は地域によって異なる。
この他、月の模様をカニ の姿や編み物をする老婦人とみたものがある。北アメリカ 、東欧 では白い部分を女性の横顔に見たてている。
西洋占星術
月は七曜 ・九曜 のひとつで、10大天体 のひとつである。また、月は惑星ではなく地球の衛星であるが、西洋占星術では他の天体と同様に「惑星」として扱われ、巨蟹宮 (かに座 )の守護惑星 で、吉星(ベネフィック)である。西洋占星術において月は太陽と並んで最も重要な惑星として扱われ、象徴するキーワードは「感情」「感受性」「保護」「安らぎ」「プライベートな領域」「内面の意識」「不安」「嫉妬心」「浪費」などで、象徴する人物は「母親」「妻」「一般大衆」「庶民的な人」「保護者」などがあり、特定の人物を読む場合には太陽と対を成す、その人自身の個性の根幹的存在を表すとされる[ 45] [ 46] 。
イスラム文化
赤地に白い三日月と五芒星をあしらったトルコの国旗
トルコ共和国 、パキスタン 、モルディブ 、マレーシア などの国では国旗 に新月 (一般的には三日月と認識されることが多いが、地球の北半球 から見る月の向きから考えると新月直前の27 - 28日月である)が描かれている。これらの国ではムスリム が国民の圧倒的多数を占める、ないしイスラム教 を国教 としているため、新月はイスラム教の意匠であると思われることが多いが誤解である(偶像崇拝 の禁止が定められているため、月の崇拝も禁じられる)。コンスタンティノープル においては古くから新月がシンボルとして用いられており、オスマン帝国 によってイスラム教共通の意匠として広めようと試みられた。今日、月を国旗に採用しているイスラム国家がそれほど多くはないのは、帝国の衰退とともに独立した諸国が、新月を採用しなかったためとされる。太陰暦 であるイスラム暦 との関連性を指摘する説もある。
また、赤十字社 の十字の意匠は偶像崇拝を禁ずるイスラム教ではキリスト教 信徒のイエス崇拝に繋がるという理由から長らく忌避され続けてきたため、イスラム圏では赤新月が用いられ、名称も赤新月社 としている。
東洋の伝統文化
東洋では、月の海をウサギが餅つき をしている姿に見立てることがある(月の兎 )。月とウサギとの由来はインド仏教 説話集『ジャータカ 』からとされる。古代中国では、月のことを玉兎(ぎょくと)と呼ぶ。また、玉兎の他に仙女(嫦娥 )や蟾蜍(ヒキガエル )だという言い伝えもある。
中国 の伝説では、月には桂 の木が生えているとされ、呉剛 という男が切ろうとしているとも言われる。また、夫の羿 を裏切った嫦娥 の変じた蝦蟇(ヒキガエル )が住んでいるともいわれる。そのほか、中国でも月の模様をウサギの姿とする見方がある。また、月の通り道にそって28の星座 を作り、これを「二十八宿 」と呼び、月は1日にこの星座を1つずつ訪ねて天空を旅していくと考えられていた。タイ には、月の町と呼ばれるチャンタブリー県 があり、その県章 には月とウサギが描かれている。
月は陰 の象徴となり、女性 と連関すると考えられていた。故に月経 と呼ばれた [要出典 ] 。
日本
『古事記 』では黄泉の国 から戻ったイザナギ が禊を行った時に右目を洗った際に生まれたツクヨミ (月読の命)が月の神格であり、夜を治めるとされている。同時に左目から生まれたのがアマテラス で、太陽 の女神である。
『竹取物語 』では竹 から生まれた絶世の美女かぐや姫 は、月の出身と明かし、月に帰っていった。他に、『今昔物語集 』の天竺部に記されている「三獣、菩薩 の道を修行し、兎が身を焼く語(こと)」という説話 の結末で、帝釈天 が火の中に飛び込んだウサギ を月の中に移したとされており[ 47] 、日本 にも月にはウサギ が住んでいるという言い伝えがある。
月見
主に秋、月を愛でる行事。代表的なものとして、中秋の名月・十五夜がある。なお中秋の名月は満月とは限らない。旧暦 8月(グレゴリオ暦 9月頃)は乾燥して月が鮮やかに見え、また月の昇る高さもほどよく、気候的にも快適なため観月に良い時節とされた。
季語としての月
俳句 の世界で単に「月」と言った場合、それは秋の月をさし、それ以外の季節の月は「春の月」「夏の月」「梅雨の月」「盆の月」「冬の月」などと呼び区別する。秋の月は、春 の花 に対して、冬 の雪 とともに雪月花 とよばれる「三大季語」の一つである。「木の間よりもりくる月のかげ見れば心づくしの秋は来にけり 」よみ人しらず (『古今和歌集 』)、「月見れば千々にものこそかなしけれ我が身ひとつの秋にはあらねど 」大江千里 (同)など、秋の月を賞し、月に物思うこころは古くから和歌 に作られている。
例句
秋もはやはらつく雨に月の形(なり) 松尾芭蕉
月天心貧しき町を通りけり 与謝蕪村
傍題
上弦
下弦(かげん・げげん)
弓張月(片割月・弦月・半月)
月の舟
月の弓
上り月
下り月(降り月・望くだり)
有明(有明月)
朝月(朝月夜(あさづくよ))
パラオ
パラオの国旗
パラオの国旗 は、明るい青の上に黄金色の満月 を描いている。シンプルなデザインではあるが、パラオ の人々にとっては特別な意味を含んでいる。黄金色の月は、パラオ人の機が熟し独立国となったことを表し、また月はパラオの人々にとって収穫 や、自然の循環、年中行事に重要な役割を果たしている。
ネイティブアメリカン
ネイティブアメリカン (インディアン)には、月の模様を女性の顔と見る慣習がある。
月を見ることに関する伝承
北欧 において「妊娠 した女性は月を見てはいけない」、あるいは「イヌイット の娘は月を見ると妊娠するから月を見ない」、アイスランド において「子供 が精神障害 になるから妊婦が月に顔を向けてはいけない」など、女性が月を見ることを禁忌とした伝承はいくつかある。
17世紀以降の月理学の発展
ガリレオ・ガリレイ のスケッチ (1610年 )
「月の研究は望遠鏡による観察と、月面図の作成という形で始まった [要出典 ] 。これを月理学 と呼ぶ。
最初の月面図 を作成したのはイギリスのウィリアム・ギルバート だと考えられている [要出典 ] 。ウィリアム・ギルバート は1603年 に亡くなっており、観察自体は1600年 頃のものだと考えられている。月面図自体が出版されたのは1651年 と遅かった。ギルバートの観察は裸眼によるものであり、月理学 のさきがけと言える。最初に望遠鏡で月面を観測したのは、イギリスのトーマス・ハリオット であった。ハリオットの月面図は1609年 7月に作成された。ガリレオ・ガリレイ による有名なスケッチは1610年 に描かれ、同年3月13日に出版された「星界の報告 」で発表されている。先駆者の仕事と比較すると、特徴的な地形を精密に描いたこと、「山」の影の長さを計測し、「標高」を推定したことにおいて優れている。彼の計測により、月面の山が地球上の山よりも高いことが分かった。 [要出典 ]
月旅行を描いた小説
ギリシャ時代に書かれたルキアノス の『イカロ・メニッパス』では、翼をつけてオリンポス山 から飛び上がることで月に行く様子が描かれている。
シラノ・ド・ベルジュラック も1656年 に『月世界旅行記 』を書いている。ムルタ・マクダーモット は1728年に『A Trip to the Moon』を出版した[ 48] 。
1865年 、1870年 にはフランス の作家ジュール・ヴェルヌ は小説『月世界旅行 』を発表した。これは、南北戦争 終了後のアメリカ合衆国において、「大砲クラブ」なる火器の専門家集団が巨大な大砲を製造して、人間が入った大きな砲弾に着陸・帰還用のロケットエンジンを搭載して月に撃ち込むことで人を送り込もうとする、という物語である[ 注 9] 。
1901年 には『月世界最初の人間 』がハーバート・ジョージ・ウェルズ によって著された。
そのほかにも、ジョン・W・キャンベル 『月は地獄だ!』やロバート・A・ハインライン 『月を売った男』のように初の月面到達を描いた小説はいくつも書かれている。
日本では1882年 6月に貫名駿一 が『星世界旅行 千万無量』[ 49] 、1888年 に井口元一郎 が『夢幻現象政海之破裂』[ 50] 、1906年 に羽化仙史 が『月世界探検』[ 51] 、1915年 には石松夢人が『怪飛行艇月世界旅行』を著した[ 52] 。
冷戦時代の無人探査と有人探査
冷戦 の影響下で、有人探査にむけてアメリカ合衆国 とソビエト連邦 の間で熾烈な競争(宇宙開発競争 、スペース・レース)が行われた。当初宇宙開発競争はソ連が先行しており、人類初の有人宇宙飛行は1961年4月12日、ソ連のボストーク1号 に乗るユーリ・ガガーリン により行われ、初めて地球周回軌道に入った。これに対抗してアメリカも宇宙開発を進めており、有人宇宙飛行計画としてマーキュリー計画 が進められていた。
月に接近した最初の人工物体は、ソビエト連邦のルナ計画 によって打ち上げられた無人探査機ルナ1号 で、1959年 1月に月近傍5,995 kmを通過した。ソビエト連邦は引き続き無人探査機ルナ2号 で月面到達に成功した。ルナ2号は1959年9月13日 に月面へ着陸・衝突している。月の裏側 を初めて観測したのは1959年10月7日 に裏側の写真を撮影したルナ3号 。初めて軟着陸に成功したのはルナ9号 で、1966年2月3日に着陸し月面からの写真を送信してきた。1966年3月31日 に打ち上げられたルナ10号 は初めて月の周回軌道に乗った。
月面を歩くバズ・オルドリン 1969年7月20日
しかし、人間を月に送ることに成功したのはアメリカである。アメリカは1959年3月3日 に打ち上げられたパイオニア4号 で初めて月の無人探査に成功し、1961年5月25日に行なわれた「アメリカは10年以内にアメリカ人を月に送り、無事地球に帰還させることを約束すべきだと信じます。」というケネディ 大統領の声明もあって、ジェミニ計画 を経てアポロ計画 が行われることとなった。レインジャー計画 (衝突)、サーベイヤー計画 (軟着陸)、ルナ・オービター計画 (周回)などにより有人機の着陸に適した場所が選ばれ、1969年7月20日、アポロ11号 が静かの海に着陸しニール・アームストロング 船長が人類で初めて月面に降り立った。このアポロ計画は1972年 のアポロ17号 まで続けられた。なお、アポロ13号 は事故(液化酸素タンクの爆発)により、月面に着陸せずに、月軌道 を周回して不要になったロケットパーツを月に落下させて人工地震 を起こさせただけで、地球に帰還した(帰還のミッション は非常に困難なものであった)。
しかしこのような探査には高度な技術と莫大な費用が必要であり、アメリカではアポロ20号まで予定されていたが、予算の削減で17号で終わった。ソ連は1970年 から1974年 にかけて、ルナ16号 、20号 、24号 で月の土壌を採取し地球へ持ち帰ること に成功、ルナ17号 、21号 で無人月面車 を送り込んだが、有人月面探査計画であるソユーズL3計画 は1974年6月23日、正式に中止が決定した。
アポロ計画終了以後
アポロ計画終了以後人類は月面を歩いていないが、各国による無人探査が行われている。2004年 2月、アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュは2020年 までに再び月に人類を送り込む計画を発表し、NASAによりコンステレーション計画 が発表されたが、後に予算の圧迫などを理由に中止されている。その他には、欧州宇宙機関 (ESA)、中国国家航天局 (CNSA)、日本 の宇宙航空研究開発機構 (JAXA)、インド宇宙研究機関 (ISRO) でも月探査計画 がある。
中国 は月面探査に積極的な姿勢をとっており、特に月面でヘリウム の同位体 であるヘリウム3 の発掘を行い地球でエネルギー資源として用いることを狙っていると言われる。2019年には探査機嫦娥4号 が月の裏側に着陸した。
日本ではLUNAR-A とSELENE(かぐや) の2つの計画があり、月探査計画LUNAR-Aではペネトレータと呼ばれる槍状の探査機器を月面に打ち込み、月の内部構造を探る計画だったが、2007年 に計画中止が決まった。月探査周回衛星計画SELENEは月の起源と進化の解明のためのデータを取得することと、将来の月探査に向けての技術の取得を目的としている。2007年9月14日 に打ち上げられ、2009年6月11日まで月を周回してデータを集めた。
なお2006年 には、それまで解析されずに放置されていたアポロ観測データが発掘された[ 53] 。この観測データの解析の結果、従来の知見を覆すような結果が得られ始めている。このアポロ観測データと日本のかぐやなど、世界の月周回探査衛星による観測データを合わせた解析によって、より月の起源について理解が深まることが期待される。
また、より長期の計画として月面基地 建設の構想もある。NASAは2006年12月、上記のコンステレーション計画の一つとして2020年までに月面基地の建設を開始し、2024年 頃には長期滞在を可能とする計画を発表したが、こちらも中止されている。またロシア連邦宇宙局 は2007年8月、2025年 までの有人月面着陸と、2028年 - 2032年 の月面基地建設を柱とした長期計画を発表した。JAXAの長期計画にも有人の月面基地が含まれる。
各国が月での開発を行うにあたり、安全に首尾よく探査するため、そして、政治的緊張を緩和し、事故を防止するため、過去現在将来に渡る「月活動登録簿」を作成することをオープン・ルナー・ファウンデーション[ 54] が提案している[ 55] 。
1990年代以降の月探査機一覧
地名
クレーター
山・山脈
海・大洋
その他の地形
物理学の未解決問題
月の離心率 の増大: 月は潮汐摩擦 によってゆっくり遠ざかっているが、同時に軌道が少しずつひしゃげていることがレーザー観測から判明している。力学的モデルとは一致しないこの離心率のわずかな拡大の原因は何か?という未解決問題があり、天文学の研究者および物理学者による議論があるものの解決には至っていない。
第2の月
しばしば小惑星が地球 -月に接近し、「第2の月」と呼ばれることがある。確実性の高い自然物としては2006 RH120 と2020 CD3 が知られ、2024年9月末には2024 PT5 も加わる見込み[ 58] 。
脚注
注釈
^ 「月」は「他の惑星の衛星」という意味がある[ 8] 。
^ 「コヨミ」は「カヨミ(日を読むこと)」が転じた語彙という説が有力である[ 9] 。
^ 地球から見て月が±7°程度秤動して見える以上、月から見ればその角度だけ地球の視位置が変化していることであり、「月から見て地球は天空の一点に静止して見える」というのは誤りである。特に、秤動により地球から月面の59%が観測できるということは、地球が見えたり沈んだりする月面上の場所も存在することを意味する。月周回軌道の宇宙船や観測機でなくとも、月面上で地球の出・地球の入りは観測できる。ただし、地球で見える日出・日没や月出・月没と違い、地球の出と地球の入りはほぼ同じ方位となる。
^ 太陰暦をもとにしたローマ暦 では、月初を「カレンダエ (Kalendae)」、月の第13日又は第15日を「イードゥース (Īdūs)」、その9日前の第5日又は第7日を「ノーナエ (Nōnae)」と呼び、この3日を特別視した。ただし、ローマ暦における月の第1日は、必ずしも新月とは一致しない(参照:ローマ暦#ローマ暦の日付の数え方 )。
^ 太陰太陽暦をもとにしたユダヤ暦 では、月の第1日を「ローシュ・ホーデッシュ Rōš Hōdheš 」と呼んだ。
^ ただし、朔日を除く。朔日の午前0時時点では朔を迎えていないため、いまだ月齢0となっていないからである。
^ 必ず十五夜に満月(望)になるわけではない。太陰太陽暦では、14日から17日までが満月となりうる[ 42] 。
^ 日本標準時正午時点の月齢。
^ 大砲を使用して宇宙へ行くという概念はヴェルヌよりも137年早くムルタ・マクダーモット が自身の著作に記していた。また、当時、既に兵器としてではあったものの、ロケット は存在しており、宇宙旅行の道具としてシラノ・ド・ベルジュラック やアシール・エアーオード の作品でも移動手段としてロケットが扱われていた。
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参考文献
関連項目
外部リンク
通常の衛星 一時的な衛星(自然) 一時的な衛星(人工) 準衛星 その他
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