1970年代初めに現れた海賊盤の中では有名なものとして、1963年以降のBBCラジオでの演奏から14曲が収録された『Yellow Matter Custard』[4]や、「ゲット・バック・セッション」の音源が2枚組のアルバムに収録された『Sweet Apple Trax』[5]が挙げられる。1978年には、デッカ・レコードでのオーディション・テープが海賊盤業者に買い取られ、これを音源にした45回転のシングル盤が多数出回った[5]。この時期の海賊盤業者は、他の業者の海賊盤をコピーしたり、包装を変えたりして再発売することが多かったため、有名な海賊盤の中には、複数の海賊盤レーベルから発売されたものも多かった。1970年代のビートルズの海賊盤レーベルで大規模だったものには、「The Amazing Kornyfone Record Label(TAKRL)」、「ContraBand」、「Trademark of Quality」、「Wizardo」などがある[6]。
1980年代終わりには、ビートルズのスタジオ・アウトテイクを専門とするレーベル「Yellow Dog」も、『Ultra Rare Trax』と似たCDシリーズ、『Unsurpassed Masters』を発売した。「Yellow Dog」と「Swingin' Pig's」は共に「Perfect Beat」社の子会社で、同社はルクセンブルクで登記されている。同国はEU加盟国の中で、著作権に関する法律が最も寛容な国である[9]。「Yellow Dog」は1991年には1968年の「キンファウス(イーシャー)・デモ」のテープから22曲を収録した『Unsurpassed Demos』を発売したが、そのうちの何曲かは、1988年に始まったラジオ番組『The Lost Lennon Tapes』で、既に放送されたことのあるものだった[7]。
1993年、ビートルズのBBCラジオでの演奏音源を収録したCD9枚組のボックス・セット が、イタリアの「Great Dane」レーベルから発売された。1994年から1996年にかけて『Live at the BBC』及び『The Beatles Anthology』が発売され、それまで海賊盤として出回っていた多くの音源が、より高音質で公式に流通するようになっても、新たな海賊盤は相変わらず出回り続けている。「Silent Sea」レーベルは1999年から、スタジオ・アウトテイク音源を再編纂し、上質な外装とライナーノーツを付属したCD-Rの発売を開始した。[10]。2000年には、「Vigatone」レーベルが、以前に出していた「ゲット・バック・セッション」のCD8枚組セットの内容を拡充し、17枚組のCDセット『Thirty Days』を発売した[11]。2000年代初めには、DVDの登場によりライヴ映像、テレビ番組、プロモーション・フィルムやさらに珍しい映像が、海賊盤ビデオとして流通するようになった[12]。
1957年7月6日のライヴ音源クオリーメン(ビートルズの前身)がウールトン(リヴァプール郊外)のセント・ピーターズ・パリッシュ教会の祭で演奏したときの音源で、この日、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが共通の友人の紹介で初めて出会った日の録音として特に有名である。退職したある元警察官が、ショーの会場で自らグルンディッヒ社製のポータブル・テープレコーダーの試し録りをしたテープを1994年に再発見した。テープにはひどい音質で、クオリーメンによるVernon Dalhartの「Puttin' On the Style」とエルヴィス・プレスリーの「Baby Let's Play House」の演奏が収められていた。後年、テープがサザビーズでオークションに出品された際に、「Puttin' On the Style」からの30秒間の抜粋が宣伝として公開された。テープはEMI により78,500ポンドで購入され、オークションで販売された録音テープとしては最高値を記録した。EMIはテープの音質が『The Beatles Anthology』に収録するには悪すぎると判断した。テープには復元作業が加えられ、2007年6月26日にBBCが放送したラジオのドキュメンタリー番組『The Day John Met Paul(ジョンとポールが初めて出会った日)』の中で、上記2曲の抜粋が放送された。
1962年8月から12月までのいつごろかに、ビートルズが当時レギュラー出演していた地元のキャヴァーン・クラブで、自分達のリハーサルの模様を録音した音源である。収録曲は「I Saw Her Standing There」、「One After 909」(2ヴァージョン)、「Catswalk」(2ヴァージョン)である[19]。
1962年8月22日、グラナダ・テレビ(英語版)の撮影班が、「Scene at 6:30」という番組での放送用にビートルズのキャヴァーン・クラブでのライヴ演奏を撮影した。ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーによる楽曲「Some Other Guy」の演奏が2テイク撮影された。しかし、撮影されたフィルムの音質に難があるとされたため、翌9月5日、グラナダ・テレビの音声録音班が再びキャヴァーンを訪れ、より高音質のライヴ演奏を先に撮影されたフィルムにシンクロするように録音した。この時には「Some Other Guy」の再録音に加え、「Kansas City/Hey-Hey-Hey-Hey」の演奏も録音された。この撮影はビートルズが公式に撮影されたものとしては最初期のものであり、テレビ初出演にもなるはずであった。しかし、フィルムは1年以上も倉庫にしまわれたままとなり、ビートルズが全国的な名声を得てから初めて放送された。映像は『The Beatles Anthology』などのドキュメンタリーで使用されているほか、両日の録音が海賊盤として流通している。
ビートルズのBBCのラジオ番組への出演は、1962年3月7日録音の『Here Teenager's Turn – Here We Go』から1965年5月26日録音の『The Beatles Invite You to Take a Ticket to Ride』までで、88曲が演奏され、通算275回が放送された[4]。これらの演奏の初期の海賊盤は、ラジオ放送を家庭用のレコーダーで録音したものを音源としていた。BBCにはセッション・テープや番組のマスターテープを保管する慣例はなかったものの、1980年代にBBCラジオの特別番組の製作のために調査が行われ、BBC内の様々な部署に保管されていた高音質の配布用コピーが発見された[21]。
1980年代から1990年代初めの間には、上述のBBCセッションのコピーを音源とする海賊盤が多く多く出回ることとなった。最も有名なものには、放送の著作権保護期間が切れたイタリアの「Great Dane」レーベルから1993年に発売されたCD9枚組のボックス・セット『The Complete BBC Sessions』である[22]。これら高音質の海賊盤が広く流通したため、アップル・コアはBBCセッションの公式盤を早急に発表する必要に駆られ、1994年、CD2枚組のアルバム『Live at the BBC』が発売された。このセットにはスタジオ等では録音されず、BBC出演時以外の録音が残っていない36曲のうち30曲が収録のほか、26曲の既発表曲やメンバーと司会者の会話も収録されている。
1981年にEMIのエンジニア、ジョン・バレット(John Barrett)は、ビートルズが7年もの間に遺したテープ素材の完全な収集と分類を任ぜられた。この作業は2つの企画のためであった。1つはアビー・ロード・スタジオで一般公開の下行われた、音と映像のプレゼンテーション「The Beatles Live at Abbey Road」(1983年7月18日開始)、そしてもう1つはアウトテイクを集めたアルバム『Sessions』であった。『Sessions』には、それまで海賊盤として出回っていたカセットに収録されていた曲に加え、「Not Guilty」、「What's the New Mary Jane」、「How Do You Do It」、「Besame Mucho」、「Mailman, Bring Me No More Blues」、「While My Guitar Gently Weeps」(デモ)、そして「Ob-La-Di, Ob-La-Da」と「I'm Looking Through You」の別テイクが収録される予定であった[25]。アルバムの発表は1985年に計画されていたが、その後ビートルズのメンバー拒否により発表は見送られた。アビー・ロード・スタジオでのプレゼンを参観者が盗み録りしたものや、流出した『Sessions』の促販用アセテート盤、おそらく企画準備の段階で流出したテープのコピーが海賊盤業者の手に渡り、『Ultra Rare Trax』や『Unsurpassed Masters』といった海賊盤CDにこれらの楽曲が収録された。これらの楽曲のほとんどは1995年と1996年に、『The Beatles Anthology』に収録、公式に発表された。
スタジオ・アウトテイクの新発見は現在も続いている。2009年2月には、「Revolution」のテイク20のセッション・テープの10分46秒の完全版が、海賊盤CD『Revolution: Take... Your Knickers Off!』に収録、発表された[26]。これは記念碑的レコーディングと称されているもので、5分にも及びフェード・アウトに続き、最後にレノンとオノ・ヨーコの会話が収録されている。
ワシントン・コロシアム公演(1964年) 1964年2月11日にワシントンD.C.で開催されたビートルズ最初のアメリカ公演で、白黒で撮影され、後に映画館で公開された[28]。『The Beatles Anthology』や公式ビデオ、『The Beatles: The First U.S. Visit(英語版)』にも断片が使用されているが、2003年に「Passport Video」レーベルから発売された DVD『The Beatles in Washington D.C.』にほぼ完全に収録された。ほぼ完全版は他にも非公式DVD『Beatles Around the World』にも収録されている[28]。これらの画質はビデオ収録されたマスターテープをフィルムにキネコ変換されたもので全て「暗い、粗い、チラチラしている」が[28]、2005年にマスターテープの原版がオークションに出品され、将来、高画質版が発表される可能性がある[29]。2010年、ビートルズ全オリジナル・アルバムがiTunesから配信販売された際、セット販売のみリマスターされた完全版ビデオが付属された。
シェイ・スタジアム公演(1965年) 1965年8月15日に行われたシェイ・スタジアム公演はフィルムに撮影され、テレビ番組『The Beatles at Shea Stadium』として放送された。このテレビ番組やその音源が様々なフォーマットの海賊盤になっている。そのうち「Everybody's Trying To Be My Baby」のみ1曲が、『The Beatles Anthology 2』に収録され、公式発表されている。最近になりオリジナル音源の完全版が発見され海賊盤で出回っている。
ビートルズは多数のテレビ番組にも出演しており、その抜粋の多くが『The Beatles Anthology』にも使用されている。これら多くの番組が完全な形で海賊盤になっている。最も有名なところでは、1964年と1965年に4回出演した『The Ed Sullivan Show』があり、後年何度も海賊盤として流通した末に、2003年に公式DVD『The Four Complete Historic Ed Sullivan Shows Featuring The Beatles』が発売された[32]。
その他に海賊盤ビデオになった有名なテレビ番組には、1963年10月のスウェーデンの番組『Drop In』出演時のもの(4曲の演奏)や[33]、1964年4月のイギリスの特別番組『Around the Beatles』[34]、同年6月のオーストラリアの特別番組『The Beatles Sing for Shell』(7曲が完全な形で現存、あとの2曲は断片のみが残る)[35]などがある。また、1968年9月の『Frost on Sunday』出演時の音源[注釈 2]は、複数のテイクが流通した[36]。
1969年1月、ビートルズはイギリスのテレビ・ディレクター、マイケル・リンゼイ・ホッグの監督の下、1966年以来初めてとなる公演のリハーサルの様子を撮影するために集まった。リハーサルとコンサートは、テレビのドキュメンタリー番組や、次回のアルバムの素材となるはずだった[39]。しかし、メンバー間の意見の食い違いにより、計画の大半は破棄された。予定されていた企画は縮小され、アップルの屋上で1969年1月30日に行われた(いわゆるルーフトップ・コンサート)。撮影された演奏の模様は映画『Let It Be』として公開され、同名のアルバムが1970年5月に発売された。
リハーサルとレコーディングはトゥウィッケナム映画撮影所(英語版)、1月2日から14日まで)と、アップル(1月21日から31日まで)で行われ、撮影されたフィルムと、そのサウンドトラック用に録音されたテープは100時間以上に上った。これらのテープがゲット・バック・セッションの大半の海賊盤の音源になっている[39]。このセッションでは、後にビートルズによって公式に発表されたもの以外にも何百ものカバー曲・オリジナル曲が演奏された。しかし、その多くは短く(演奏時間が10秒に満たないものもある)、オリジナル曲も大半はアイデアがまだ煮詰まっていない段階での即興的な演奏であるため、「無意識に手が勝手に描いた落書きの音楽版」とも評される[39]。リハーサルのテープの一部は、2003年の公式アルバム『Let It Be...Naked』のボーナス・ディスクに収録された。
無数に出されたゲット・バック・セッションの海賊盤の中で特筆すべきは、1980年に発売されたLP5枚組、『The Black Album』である(収録内容は、これよりも高音質の海賊盤が以前にも出回っていた)[12]。2000年代初めには、「Yellow Dog Records」レーベルにより、従前のものより改善された音質で、セッション・テープを完全に収録したCD38枚からなる『Day by Day』シリーズが発売された。2003年1月には、凡そ500本のオリジナルのセッション・テープがイギリスとオランダで警察の手により回収され、5名が逮捕された[41]。この捜索の後も、「Purple Chick」レーベルは、自分達が有するテープ音源を『A/B Road』と題して、オンラインで無償配布を続けている。
解散後
解散後のメンバーのソロ時代の音源も数々の海賊盤になっているが、特筆すべきものに、ビートルズ解散後にレノンとマッカートニーが共演、録音したものとして唯一知られている音源がある。スティーヴィー・ワンダー、ハリー・ニルソンらと行われたこのジャム・セッションは1974年3月28日、ロサンゼルスのバーバンクにあるスタジオ[42]で行われた[43]。このときの音源は、1992年に出た海賊盤『A Toot and a Snore in '74』[43][42]で、初めてその一部が明らかになった。音源は、演奏の出来よりもその歴史的重要性により知られている。
ビートルズが発表した公式レコード盤の中には『The Beatles at the Hollywood Bowl』(2016年初CD化)など、長年CD化されていなかったものが幾つか存在する。一部の海賊盤業者はこれらのレコード盤を前述した非公式リマスター盤と同様に状態の良いものをオーディオ機器で再生、デジタル化してCDとして販売している。
クオリーメンが当時のメンバーであったコリン・ハントン(英語版)の家で行ったリハーサルのテープのように、録音されたが音源が失われたか、もしくはもともと存在しなかったと思われるものもある。BBC の文書には、「Sheila」と2ヴァージョンの「Three Cool Cats」が録音された記録があるが、放送はされていない。テープは、1963年終わり頃より以前のスタジオでのセッション・テープと同様、再利用されたか廃棄されたと思われる。アメリカのロカビリー歌手カール・パーキンスは、1964年6月1日の深夜に、スタジオでビートルズとジャム・セッションを行ったと述べているが、これは録音されなかった可能性が高い。ポール・マッカートニーは1960年に手紙の中で、「Looking Glass」、「Years Roll Along」、「Keep Looking That Way」など、レノン=マッカートニー作の数曲の題名に言及しているが、それらの曲のリハーサルが当時録音されたことを示す証拠は見つかっていない。
最後にもう1つ未流出の音源として、1994年から1995年の間に行われた『The Beatles Anthology』一連のセッションがある。公式に発表された2曲のほかに、もう2曲のレノンのデモ、「Now and Then」と「Grow Old with Me」[注釈 13]にも、残る3人のビートルズにより追加録音が行われた。「Now and Then」は『The Beatles Anthology 3』の3曲目の新曲になる寸前だったが、その前に発表された2曲よりもさらに多くの作業が必要であったため、未完成に終わった[47]。また、マッカートニーとハリスンによる新曲「All for Love」も、このセッションで3人によって録音されたと伝えられているが、未完成となっている。「グロー・オールド・ウィズ・ミー」は2019年にスターがカバーし、マッカートニーがベースとバックコーラスで参加したほか、ハリスンが作曲した「Here Comes The Sun」の一節が加えられた[48]。「ナウ・アンド・ゼン」はAI技術を使用してレノンのボーカルを抽出し、マッカートニーとスターが新たに録音された楽器のパートを加えて完成させ、2023年に「ビートルズ最後の新曲」として発売された[49]。
この楽曲の音源は、1970年にアップルのゴミ箱の中から発見されたと伝えられている[52]。1973年に初めて登場し[53]、数十年にわたって数多くの海賊盤に収録された[52]。ビートルズの伝記作家であるマーク・ルイソン(英語版)(『The Complete Beatles Chronicle』)やダグ・サリピー(『The 910's Guide to The Beatles' Outtakes』)は、それぞれビートルズを題材とした著書の中で本作について触れていないが、リッチー・アンターバーガー(英語版)は、著書『The Unreleased Beatles: Music & Film』の中で、ビートルズの楽曲であるという可能性が僅かにあるとしたうえで、「驚くべき証拠が見つからないかぎり、ビートルズの未発表曲ではないと仮定しなくてはならない」と述べている[54]。
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