ケフェウス座 (ケフェウスざ、ラテン語 : Cepheus )は、現代の88星座 の1つで、プトレマイオスの48星座 の1つ[ 2] 。古代ギリシア の伝承に登場するエチオピアの王ケーペウス をモチーフとしている[ 1] [ 2] 。地球 の歳差運動 により、γ星エライ、α星アルデラミンは今後数千年の間に順に北極星 になるとされる。
特徴
ケフェウス座の全景。画像上部にはカシオペヤ座 、右部にはこぐま座 の星が見えている。
東をカシオペヤ座 ときりん座 、北をこぐま座 、西をりゅう座 、南をはくちょう座 ととかげ座 に囲まれている[ 7] 。20時正中は10月中旬頃[ 4] だが、領域の南端でも赤経+53.35°と天の北極 の近くに位置しているため、北緯37°より北の北半球の中高緯度地域では星座全体が年中地平線に沈むことのない周極星となる[ 7] 。
由来と歴史
この星座のモチーフとされたケーペウスは、古代ギリシア の伝承に登場するエチオピア 王で[ 注 1] 、カッシオペイア の夫、アンドロメダー の父であるとされる[ 2] 。紀元前3世紀 前半のマケドニア の詩人アラートス の詩篇『ファイノメナ (古希 : Φαινόμενα )』では、アルゴス の王でイーオー の父であるイーアソス の子孫であるとされた[ 8] 。ケーペウスの父親については諸説あり、紀元前5世紀 頃の古代ギリシアの歴史家ヘーロドトス の『歴史 』や伝アポロドーロス の『ビブリオテーケー 』ではポセイドーン とリビュエー の息子ベーロス [ 9] [ 10] 、ノンノス の『ディオニュソス譚 』ではベーロスの双子の兄弟アゲーノール [ 11] 、1世紀 初頭の古代ローマ の著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス の『天文詩 (羅 : De Astronomica )』では紀元前5世紀頃の古代ギリシアの劇作家エウリーピデース の伝える話としてアゲーノールの息子フェニックス[ 12] であるとしている。
ケフェウス座に属する星の数は、紀元前3世紀 後半の天文学者エラトステネース の天文書『カタステリスモイ (古希 : Καταστερισμοί )』、ヒュギーヌスの『天文詩』では19個、帝政ローマ 期の2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオス の天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希 : ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας )』、いわゆる『アルマゲスト 』では11個とされた[ 12] 。
1922年 5月にローマ で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Cepheus 、略称は Cep と正式に定められた[ 13] [ 14] 。
中東
正確な描像は明らかではないが、紀元前500年 頃に製作された粘土板文書『ムル・アピン (英語版 ) (MUL.APIN)』では、はくちょう座 からケフェウス座に跨ってヒョウ の星座が置かれていたと考えられている[ 15] [ 16] 。
中国
ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー (英語版 ) (戴進賢)らが編纂し、清朝 乾隆帝 治世の1752年 に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、ケフェウス座の星は、天の北極近くの区域である三垣 の1つで天の北極を中心とする「紫微垣 」と、二十八宿の北方玄武 七宿の第五宿「危宿 」、第六宿「室宿 」に配されていたとされる。
紫微垣では、HD 5848・HD 217382の2星が天帝 の紫微宮を守る護衛軍を表す星官 「勾陳」に、HD 212710が天帝を表す星官「天皇大帝 」に、HD 30338が奇門遁甲 を表す星官「六甲」に、HD 18438・HD 16458・HD 19978 の3星が五帝 を祀る祭壇の順を表す星官「五帝内座」に、HD 223274が食客 のための宿舎を表す星官「伝舎」に、それぞれ配された[ 18] 。危宿では、δ・ζ・λ・μ・ν の5星が周の穆王 に駿馬を献上した御者を表す「造父」に、4・θ・η・α・ξ・26・ι・οの8星が天のカギを表す星官「天鉤」に、それぞれ配された[ 18] 。室宿では、HD 206267・13・ε の3星が空を飛ぶ蛇身の怪物を表す「螣蛇 」に配された[ 18] 。
神話
星図カード集『ウラニアの鏡 』(1824年)に描かれたケフェウス座
ケーペウス自身を中心とする話は伝えられていない。エラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩』では、エウリーピデースの伝える話として「娘のアンドロメダー を生贄 に差し出したが、そのアンドロメダーがペルセウス に助けられたおかげで、アテーナー に意志により星座の1つとなった」とされている[ 2] [ 12] [ 19] 。
呼称と方言
世界で共通して使用されるラテン語の学名は Cepheus、日本語の学術用語としては ケフェウス とそれぞれ正式に定められている。
明治初期の1874年 (明治7年)に文部省 より出版された関藤成緒 の天文書『星学捷径』で セフュース という読みと「王 」という解説が紹介された[ 21] 。また、1879年 (明治12年)にノーマン・ロッキャー の著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では セフェウス と紹介された[ 22] 。それから30年ほど時代を下った明治後期には ケフェウス と呼ばれていたことが、1908年 (明治41年)4月に創刊された日本天文学会 の会報『天文月報』の第1巻1号に掲載された「四月の天」と題した記事で確認できる[ 23] 。この訳名は、東京天文台 の編集により1925年 (大正14年)に初版が刊行された『理科年表 』にもそのまま引き継がれ[ 24] 、1944年 (昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も ケフェウス が継続して使用されることとされた[ 25] 。
これに対して、天文同好会 [ 注 2] の山本一清 らは異なる読みを充てていた。天文同好会の編集により1928年 (昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑 』第1号では、星座名 Cepheus に対して ケフェウス という読みを充てていた[ 26] が、翌1929年(昭和4年)刊行の第2号では セフェ [ 27] 、さらに1931年(昭和6年)刊行の第4号からは セフェ王 [ 28] と改め、以降の号でもこの表記を継続して用いた[ 29] 。これについて山本は東亜天文学会の会誌『天界 』で以下のような見解を開陳していた[ 30] 。
Cepheus を「セフェウス」,Perseus を「ペルセウス」,Eridanusを「エリダヌス」と書くのは,ラテン語の發音を寫すのであつて,大して間違つたこととは思はないが,しかし筆者は必ずしも其の通りにしなければならぬとは思はない.日本語として,簡單に明瞭に,原語の意を寫せば好いのだから,「セフェ」,「ペルセ」,「エリダン」,(叉はエリダン河)でも好いと思ふ.之れが日本語だと決めて了へば宜いのだから.
(中略)因みに,CentaurusやCepheusやPerseusや,Taurusや,Pegasus等の語尾のは,ラテン語の男性名詞を表はす語尾なのだから,此等を日本語に譯する場合には必ずしも性に囚われる必要はない.(元々,日本語には性の區別は無いのだから.)只,「センタウル」,「セフェ」,「ペルセ」,「牛」,「ペガス」で好いのである.
— 山本一清、「天文用語に關する私見と主張 (2)」『天界 』1934年4月号[ 30]
この山本らの主張は受け容れられず、戦後も継続して「ケフェウス」が使われ続けた[ 31] 。1952年 (昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」とした際も Cepheus の日本語名はケフェウス のまま維持され[ 33] 、以降も継続して ケフェウス が用いられている。
現代の中国では、仙王座 [ 35] と呼ばれている。
方言
香川県 坂出市 の櫃石島 には、ケフェウス座の主要な星が形作る五角形 を農具 の箕 に喩えた「ビゼンノミ(備前の箕)」という呼称が伝わっていた[ 36] 。
主な天体
恒星
1個の2等星と4個の3等星が五角形に並んでいる。地球 の歳差運動 により、今後数千年の間にγ星やα星が北極星 となるものと考えられている[ 37] 。
2023年 10月現在、国際天文学連合 (IAU) によって4個の恒星に固有名が認証されている[ 38] 。
このほか、以下の恒星が知られている。
星団・星雲・銀河
いわゆる「メシエ天体 」は1つもない[ 71] が、5つの天体がパトリック・ムーア (英語版 ) がアマチュア天文家の観測対象に相応しい星団・星雲・銀河を選んだ「コールドウェルカタログ 」に選ばれている[ 72] 。
1996年 11月にキットピーク国立天文台内のWIYN天文台にある3.5 メートルWIYN望遠鏡で撮影された
惑星状星雲 NGC 40 。
2009年 8月末にキットピーク国立天文台にあるメイヨール4 m望遠鏡で撮影された
反射星雲 アイリス星雲 (NGC 7023)
2010年にレモン山スカイセンターの80 cmシュルマン望遠鏡で撮影された
散光星雲 Sh2-155 (洞窟星雲、Cave Nebula)。
ハワイ州 マウナケア山 の
ジェミニ北望遠鏡 のジェミニ多天体分光装置 (Gemini North Gemini Multi-Object Spectrograph, GMOS-N) で撮像された
渦巻銀河 NGC 6946(花火銀河、Fireworks Galaxy)。
流星群
ケフェウス座の名前を冠した流星群 で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものは一つもない[ 6] 。
脚注
注釈
出典
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参考文献
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