ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス (ラテン語 : Gāius Iūlius Hygīnus [ˈɡäːius ˈi̯uːlʲiʊs̠ hʏˈɡiːnʊs̠], ガーイウス・ユーリウス・ヒュギーヌス)は、ラテン語 の著作家 。
生涯
人物については明確ではないが、一説によれば出生はスペイン かアレクサンドレイア とされる。奴隷であったがローマ に連れてこられ、アレクサンデル・ポリュヒストール の講義を聴講し、のちに奴隷から解放されたという。スエトーニウス によると、皇帝アウグストゥス によってパラティーヌス の図書館長に任命された。詩人のオウィディウス と友誼を結ぶが、やがて皇帝の不興をかい貧窮に陥り、クラウディウス・リキニウス (Gaius Clodius Licinus ) から援助を受けたとある。
作品
ヒュギーヌスは多作家であった。ジャンルも地形学から伝記、詩人ヘルウィウス・キンナ (英語版 ) やウェルギリウス の詩についての注釈、農業・養蜂に関する論文と多岐にわたって著作活動を行なったが、それらの原本はすべて失われている。
ヒュギーヌスの名前で現存するのは『神話集』と『天文詩』[ 注釈 1] の二つで、これらは、おそらくヒュギーヌスの神話論を略記した学生の覚え書きであると思われる。ただし、作者のヒュギーヌスとガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスは別人だという説もある[ 3] 。
神話集 (Fabulae)
300程の神話と天界の系譜についてのエピソードが短く、そっけなく、そして粗雑に語られている。当時の編者たちはこの作品の価値を、ギリシア悲劇作家の失われた作品についての"adulescentem imperitum, semidoctum, stultum"(無教養な若さ、半端な知識、愚か)[ 4] と評した。両アントニヌス時代(138年 - 180年)[ 注釈 2] の教育を受けたローマ人なら誰でもギリシア神話 を知るべきと期待されていたため、ヒュギーヌス[ 5] はぞんざいな形式で、最低限のことだけを書いたのかもしれない。ギリシア神話には内容が部分的に異なるバージョンが多く存在していたとされるが、それらの多くが失われている現在、『神話集』は貴重な文献である。
しかし、『神話集』の大半も失われている。900年 頃にベネヴェント書体 (英語版 ) で書かれた写本が1冊だけバイエルン州 フライジング (英語版 ) の修道院に残っており[ 6] 、1535年 にはその写本を基にして最初の印刷版が作られるが、Jacob Micyllus [ 注釈 3] は不注意かつ無批判的に書き写した。ちなみに、"Fabulae" という題名をつけたのもMicyllusである。15世紀 と16世紀 、印刷の過程で写本は印刷所でばらばらにされ、生き残ったのはたった2つの断片のみであった。1つは1864年にレーゲンスブルク で、もう1つは1942年にミュンヘン で発見された。両方ともミュンヘンで保存されている[ 9] 。なお、バチカン図書館 には15世紀に写された不完全なテキストがある。
Ratdolt版の『天文詩』。木版画はカシオペヤ座 とアンドロメダ座 。アメリカ海軍天文台 蔵
天文詩 (Poeticon astronomicon )
最初に出版されたのは1482年 のヴェネツィア で、出版者はErhard Ratdolt 、題名は"Clarissimi uiri Hyginii Poeticon astronomicon opus utilissimum"だった。星座の星々を一覧にしたものであるが、語られる主な事柄は星座にまつわる神話である。エラトステネス 作とされる『カタステリスモイ 』などを基にしている。
両方の作品とも要約である。文体(スタイル)、ラテン語の能力のレベル、初歩的な間違い(とくにギリシャ語の翻訳)は、ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスのような著名な学者の作品とは思えず、別人説の根拠となっている。
日本語訳
脚注
注釈
出典
^ Edward Fitch, reviewing H. I. Rose,Hygini Fabulae in The American Journal of Philology 56,4 (1935), p 422.
^ H.I. Rose 1934
^ Arthur L. Keith, reviewing H. I. Rose Hygini Fabulae 1934 in The Classical Journal 31.1 (October 1935) p. 53。「アイスキュロス の多数の劇、リウィウス の歴史の大部分など値段もつけられない消えてなくなった財宝を与えられた幸運の一方で、この学生の勉強は研究者の努力の精神的な糧となるべく存在する」。
^ A Codex Freisingensis, noted by Fitch, reviewing Rose, Hygini Fabulae 1934:421.
^ M.D. Reeve on Hyginus, Fabulae in L.D. Reynolds, ed., Texts and Transmission (Oxford) 1983, pp 189f.
参考文献
外部リンク