エンバク (学名:Avena sativa )は、イネ科 カラスムギ属 に分類される一年草 。漢字では燕麦 と書かれる。円麦という漢字やえんむぎという読みは誤り。また英語名の「Oat」(オート)からオート麦 /オーツ麦 とも呼ばれる。
形態学的にはエンバク属の Avena には二倍体のサンドオート(Avena strigosa )と六倍体の普通エンバク(A. sativa )がある[ 1] 。このうち普通エンバクの祖先野生種として、一般には、いずれも六倍体である野生型のオニカラスムギ(A. sterilis )と雑草型のカラスムギ (A. fatua )が知られている[ 1] 。野生種カラスムギ(A. fatua )の栽培種であるとして、価値が高い・本物という意味のマ(真)をつけてマカラスムギ とも呼ばれる[ 2] 。ただし、伝播の違いなどから栽培エンバクが雑草型のカラスムギから進化したという点には否定的な説もある[ 1] 。なお、二倍体種(A. strigosa Schreb. )のほうは主に緑肥用でヘイオーツとして知られるが野生エンバクとも称されている[ 3] 。
種子は穀物 として扱われる。オートミール として食用になるほか、飼料として栽培されることもある[ 4] 。
特徴
稈長は60-150cmとなり、止葉の上の節間が長い。葉は幅広く、葉耳を欠く。穂長は20-25cm程度で、穂型は一般的には散穂型であるが、片穂型の品種もある。1個の小穂は2個の苞頴を有し、小花1-4を包む。エンバクの穀粒は頴に強くはさまれており容易に外れないものが一般的であるが、東アジアで栽培されるものはこれが外れやすい、いわゆる裸性のものが主流である。
栽培は秋蒔きと春蒔きとに分かれる。エンバクは冷涼を好むものの、ライムギ とは異なり耐寒性は高くないため、寒冷地では凍害を受け冬を越せないことが多い。そのため、温暖な土地では秋蒔き、寒冷地では春蒔きを行うことが通例である。エンバクは寒冷でやせた高緯度地帯で栽培されることが多く、世界的には春蒔きによる生産が多い。ムギ類のなかでは湿潤を好み、生育には多量の水を必要とする。また、ムギ類のなかでは乾燥に最も弱く、生育期に乾燥が激しくなると悪影響がある。腐植土を好むが、生育地の幅は広い。酸性に強く、酸性土壌で広く生育するが、アルカリ性土壌にも耐えられる。よく成長するが、その分倒伏しやすい。
栄養
エンバクは一般的に健康的な食品とみなされ、それを利用した健康食品は栄養価が高いとして宣伝されている[ 8] 。エンバクの水溶性食物繊維の大部分はβグルカン である。エンバク由来のβグルカンについて血中コレステロール 値上昇抑制作用、血糖値 上昇抑制作用、血圧 低下作用、排便促進作用、免疫 機能調節作用などが欧米を中心に多数報告されている[ 9] 。このコレステロール低減という特質が確定されたこと[ 10] [ 11] も、健康食品としてエンバクが受け入れられる理由となった。また、エンバクはコムギと比べたんぱく質 や脂質 が多く含まれているうえ、もっとも利用されるオートミールが全粒穀物であるため、精白された他の穀物と比べてさらに多くの食物繊維 やミネラル を取ることができる。逆にこれらの含有量が高いため、デンプン の割合はほかの穀物に比べて低く、エネルギー量はやや低いが、これもまたエンバクが健康的であるとされる理由のひとつとなった。
歴史
原産地は地中海 沿岸から肥沃な三日月地帯 、中央アジア にかけてであり、この地方には現代でも野草型のエンバクが広く分布している。エンバクの栽培化は遅く、6000年から7000年前の肥沃な三日月地帯の遺跡においては栽培の痕跡がみられていない。しかしこの地方にはエンバク野生種は自生しており、コムギ やオオムギ 畑に入り込んで雑草として生育するようになった。やがてこの雑草型エンバクが休眠性や非脱落性といった穀物の重要な特性を獲得していき、約 5,000 年前に中央ヨーロッパで作物となったと考えられている。この時は厳しい環境でも収穫できることから荒地での栽培や不作時の保険としてコムギなどと混ぜて播種されていたが、初期鉄器時代 に本格的に栽培されるようになり、厳しい気候の北ヨーロッパで作物のエンマーコムギ に置き換わって栽培されるようになってから、栽培型の普通エンバクが成立した。このような成立過程によりヴァヴィロフ は二次作物と分類している。
一方、エンバクは東方にも伝播していき、パミール高原 などの中国山岳地域において脱穀のしやすい、いわゆる裸性を獲得し、裸性栽培型エンバク(ハダカエンバク)の起源となったと考えられている。このハダカエンバクは莜麦(ユーマイ)と呼ばれ、中国北部の内モンゴル自治区 などで広く栽培されている。一般のエンバクは「燕麦」と書かれ、莜麦とは区別されるが、中国で栽培されるエンバクのほとんどは莜麦である。
エンバクは栽培化された中央ヨーロッパを中心に栽培され、ローマ帝国 がこの地方に進攻するとともにローマにも伝えられた。ローマにおいては飼料用にしか使用されず、人間の食用となることはなかったが、一方ローマの北方に居住していたゲルマン人 はエンバクを栽培し、人間の食用としていた。中世ヨーロッパ において三圃式農業 が成立すると、エンバクはオオムギとともに1年目の春耕地に蒔かれ、主に飼料用として利用された。エンバクが三圃式農業の作物に組み込まれたのは、ローマ時代には軍馬としてしか使用されなかったウマが、農法の進歩によって農作業や輸送用として農村部で広く使用されるようになり、各農村において飼料の需要が急増したためであった[ 15] 。また、エンバクのわらはウマなどの敷料としても用いられた。以後も19世紀 にいたるまで、利用は馬 の飼料用が中心であり、主に食用とするのはスコットランド などいくつかの地域に限られていた。スコットランドにおいてはすでに5世紀には広く利用されていた記録があり、主にオートミール やオートケーキなどとして食べられていた。このほか、エンバクはアイルランド やウェールズ 、スウェーデン 、ノルウェー 、フィンランド など、気候が厳しくコムギの収量が多くは望めない地域において主要な穀物となっていた。ただしアイルランドにおいてはジャガイモ の伝来によって主食の地位はジャガイモへと交代した。中世 のフランス においても、湿潤な高地においてはエンバクが主に栽培される穀物であった。また、中世のエール にはオオムギ麦芽のほかにしばしばエンバクの麦芽が使用された。オートミール を食用とするのは貧しい農民が主だったが、これは穀物を粉に挽かなければならないパン とくらべ目減りが少ないうえ、石臼を持つ粉屋やパン屋 から手数料を差し引かれる必要もなく、価格も安いためであった[ 19] 。北アメリカ大陸 には17世紀 にはすでに移入されていたものの、スコットランド移民中心の地域を除き食用とはされていなかった。18世紀 に入ると気候の寒冷化と人口増加により食生活に変化が起き、スコットランドでは肉 の消費量の急減と時を同じくしてエンバクの消費量が急増した。19世紀に入るとエンバクの近代的な品種改良 が開始され、20世紀初頭に本格化したことで収量や耐倒伏性、病原菌への抵抗性などが大幅に向上した。
エンバクの薬効は古くから知られていたものの、19世紀まではアメリカの料理本にはオートミール はほとんど載っていないほどであった。しかし、1870年代にフェルディナンド・シューマッハがエンバクを工業的にフレーク 化する技術を開発し、エンバクの押麦 (ロールドオーツ)が発明される[ 20] ことでエンバクは手軽に調理できるものへと変化した。さらにヘンリー・クローウェルがこれを「クエーカーオーツ」の名で商品化し[ 20] 、クエーカーオーツカンパニー が設立されると、食品会社がオートミール の大量生産に乗り出し、19世紀末以降アメリカ中に急速に普及した。さらに1880年 ごろにジョン・ハーヴェイ・ケロッグ が、それまでグラハム粉 を使用していたグラニューラという食品をエンバクのフレークを使用するように改良し、グラノーラ が誕生した。グラノーラはいわゆるシリアル食品 のはしりであり、以後さまざまなシリアル食品が開発される元となった。ついで1900年 ごろにはスイス人医師のマクシミリアン・ビルヒャー=ベンナーがミューズリー を開発した。グラノーラやミューズリーはコーンフレーク などほかのシリアル食品に押されて生産が減少していたが、1960年代 のヒッピームーブメント によって健康面から見直されるとともに改良が加えられ、多く消費されるようになった。1980年代後半になるとエンバクのふすま (オートブラン)が健康食品 としてブームとなり、エンバクの人気はさらに高まった。
生産
世界のエンバク生産図
2005年の全世界生産は2460万トンで、小麦 、稲 、トウモロコシ 、大麦 、ソルガム についで6番目に生産高の多い穀物である。世界で最も生産高が多いのはロシア で510万トンとなっており、以下カナダ 330万トン、アメリカ 170万トン、ポーランド 130万トン、フィンランド 120万トンと続く。冷涼で湿潤な夏の気候に適応しているため、高緯度地帯で多く生産される。北アメリカ大陸 においては、とくにカナダの大平原地帯およびアメリカ北中部の諸州に生産が集中しているが、これら諸州においては春まきのエンバクが栽培されている。それに対し、より温暖な南部諸州やテキサス州 、カリフォルニア州 においては秋播きのエンバクが主に栽培されている。しかしこれら秋播き諸州のエンバク生産量は少なく、春まき地帯に集中しているエンバク処理工場への輸送費が引き合わないため、ほとんどが地元で飼料として消費されるにとどまっている。
現在はロシアを除いてどの主要生産国でも生産量は減少を続けており、1965年 から1994年 までの間に生産量は世界全体で23%、作付面積は27%も減少し、生産量ではソルガムに抜かれた。生産減少の理由としては、まずエンバクの主要用途であったウマ の飼料用需要が急減したことによる。ウマは軍馬 として、また輸送用の家畜として需要が高く世界各国で飼育されていたが、20世紀中盤以降戦車 などの登場によって軍馬がほぼ不要となり軍需が消滅したうえ、モータリゼーション によって輸送用需要もほぼトラック などの自動車 にとってかわられ、こちらの需要も激減したため、ウマの用途が競走用やスポーツ用を主体としたわずかなものに限られてしまい、飼育数が減少した。そのため、ウマの飼料を主目的としていたエンバク生産もそれにつれて急減した。さらに残った需要も、大豆 やトウモロコシ といった新たな飼料作物の登場によって競合が起き、その需要も減少した。ただし、現代においても飼料用、とくにウマの飼料用需要がエンバクの最大需要であることには変わりがない。エンバクの生産量のうち79%は現代においても飼料用として消費される。ただし健康志向のたかまりやオートミールの普及などによって食用需要の比重は高まり続けており、アメリカにおいては42%が食用や種子用として生産されている。
エンバクの1人当たりの消費量が最も多い国はフィンランドであり、次いでデンマーク 、スウェーデン 、イギリス とヨーロッパ北部の国々が続く。ただし、最もエンバクの食用消費量の多いフィンランドにおいても年間消費量は1人当たりわずか3kgにすぎず、食用穀物として大きな比重を占めているとはどの国においても言い難い。これは、エンバクの主要な食用用途がオートミールにほぼ限られており、コムギやライムギのように単独でパンにすることができず、主食用としてほぼ使用されないためである。
利用
種子 は飼料 または食用 として、また、藁 は飼料として利用される。
食用
オートミールはエンバクを食用とする際のもっとも一般的な調理法である
食用とする場合、エンバクは利用しやすいよう押し麦や挽き麦とするか、製粉される。脱穀し乾燥させて粒としたあと、加熱してローラーをかけるとフレーク(ロールドオーツ)となる。エンバク粉にする場合、粒としたあと、加熱して製粉をおこなう。この粉をふるいにかけ、エンバク粉とフスマ(オートブラン)とに分けて、どちらも食用とする。
穀物食品の中ではミネラル ・タンパク質 ・食物繊維 を最も豊かに含むが、ビスケット などには使われるものの、グルテン を持たないため小麦 ほどパン の原料には向かない。粗挽きもしくは圧扁したもの(オートミール )を水や牛乳 などで炊いた粥 は、エンバクの食用時の利用法として最も一般的なものであり、エンバク栽培地域である北欧や東欧では古くからどこでも食されてきた。塩味をつけることもあるが、砂糖やジャムなどを入れて甘くして食べることも広く行われている。さらに19世紀後半にアメリカにおいてエンバクのフレーク化技術が開発されたことで調理にかかる手間が大幅に軽減され、軽く煮るだけで調理できるオートミールは朝食として定番のシリアル となった。このオートミールは開発国であるアメリカはじめ、ヨーロッパ諸国などでも広く食されている。こうしたオートミールにはいわゆる押し麦であるロールドオーツや、エンバクの粒を2つか3つほどにカットしたスティール・カット・オーツがあるほか、この調理過程をさらに簡略化し、お湯を注ぐだけでオートミールができあがるインスタント・オートミールも市販されている。
また、オートミールに玄米 や麦 などを混ぜ、蜂蜜 や油 を混ぜて焼き、さらにドライフルーツ を混ぜてできあがったものがグラノーラ であり、フレーク状で食される。またそれを固めて棒状にしたグラノーラ・バーもおやつや健康食品 として市販されている。また、ふやかしたオートミールに果物 やナッツ を混ぜたミューズリー もシリアル食品となっている。グラノーラとミューズリーの差は、加熱処理の有無である。こうしたシリアル食品とは別に、オートミール自体を製菓原料とすることもある。パン やクッキー 、ケーキ などの生地に混ぜ込むほか、オートミール・クッキーなどは代表的なエンバクの菓子であり、欧米では各社から販売されている。イングランド の北部においてはオートミールと糖蜜 からパーキン と呼ばれるケーキが作られる。
他には、エンバクのフスマ をオートブランと呼び、欧米では水溶性食物繊維 の代表格として健康食品となっている。
この他、植物性ミルク として、他の穀物と同じように代替乳 を作ることができ、オーツミルク として市販されている。またビール やウィスキー の材料としても使われる。
エンバクを食用に主に用いていた国は、スコットランド やベラルーシ などである。
スコットランド
スコットランドにおいてはエンバクは主穀であり、主にポリッジ(粥 )として食べられた。現代においてもスコットランドにおいてオートミール のポリッジは一般的なものである。また、ポリッジをさらに水分を多くしてやわらかく炊いたグルーエル(重湯 )とすることもある。エンバク粉に小麦粉を混ぜて焼き上げたオートケーキも、古くからスコットランドで利用されてきた[ 28] 。オートケーキは甘みがなく塩味で、エンバクは膨らまないために薄く焼き上げられており、主に軽食用とされる。オートケーキのほかに、同じく小麦粉にエンバク粉を練りこんで砂糖を加え甘く焼き上げたビスケット も多く販売され、こちらは菓子となっている。また、ベーキングパウダー や塩 を入れて作るバノック と呼ばれるクイック・ブレッドの材料ともなる[ 29] 。スコットランドの名物料理であるハギス は、ゆでたヒツジ の内臓 のミンチにタマネギ とハーブ を刻み入れ、つなぎとしてエンバクを入れたのちに牛脂 と共にヒツジの胃袋に詰めてゆでる[ 30] か蒸すかしたプディング である。スコットランドにおいては、エンバクはブラックプディング のつなぎとしても使用される。また魚料理の衣に混ぜてさくっとした食感を出すのに使われたり、スープに入れとろみ をつけるのにも用いられる。
アイルランド
アイルランド においてはジャガイモ の伝来まではエンバクはもっとも広く用いられた穀物であり、ジャガイモ伝来によってとってかわられたのちもオートミールやオートケーキを食用とする習慣は残った。
ベラルーシ
ベラルーシにおいてはエンバクは最も利用された穀物であり、主にカーシャ (粥)に使用された。ただし、パンを焼くときはより膨らみやすいライムギ が主に使用された。また、ベラルーシの伝統的スープであるジュールはエンバク粉から作られる[ 31] 。
アルプス
アルプス山脈 の農村においても、エンバクは主な食料とされた。この地方ではエンバク、ライムギ、コムギをつくっていたが、コムギはほとんど取れず、ライムギの収量もそれほど多くはなかったので、日常食としてエンバクを食べ、ライムギパンも日常食ではあるがより高級なものとして扱い、そしてコムギのパンは祝日にしか食べていなかった。この地方ではエンバクはパンまたは粥にして食べていたが、パンといってもエンバクは上述の通り膨らまないので、小麦粉をつなぎに少しだけ使用して厚さ2cm程度の薄いパンというよりビスケット状のものにして食べていた。これは風味は良かったが非常に硬いものであり、1950年代から1960年代にかけて交通網の整備などにより安いライムギ粉や小麦粉が入ってくると、この地方でエンバクを食することはほとんどなくなった[ 32] 。
アメリカ
アメリカにおいては、エンバクはスコットランドからの移住者によって持ち込まれたものの、食用利用はスコットランド人の多い地域に限られ、ほとんどの地域では食用とはされていなかった。これが変化するのはロールドオーツをはじめとする19世紀後半の技術革新以降であり、さらにケロッグ やクエーカーオーツカンパニー をはじめとする食品企業がこれを大規模な広告戦略とともに売り出したため、19世紀末以降に急速に食用として普及した。現代においてはオートミール やグラノーラなどのシリアル食品が簡便で健康的な食品として広く利用されているほか、オートミール・クッキーやオートミール・マフィンなどは一般的な菓子として広く親しまれている。
中国
中国においてエンバクを使用するのは内モンゴル自治区 や山西省 など北西部の一部に限られるが、食用とする地域においては麺 や餃子 をはじめ、エンバク粉を用いた多彩な料理が存在している。
日本
日本には明治時代 初期に導入され、特に北海道において栽培された。日本での利用は馬の飼料、特に軍馬 の飼料として栽培が奨励されたため、太平洋戦争前には栽培面積が10万ヘクタールを割り込むことはなく、特に太平洋戦争中の1940年から1944年にかけては13万1,080ヘクタールを数え最高を記録したが、太平洋戦争後は軍馬の生産がなくなり軍需が消滅したうえ、モータリゼーションの進展による自動車の普及によってウマの飼育が激減し、ウマの飼料が主要目的だったエンバクの栽培面積も激減した[ 34] 。
人間の食用とされる例は少ない。その数少ない例として、昭和天皇 の洋食 タイプの朝食 にはいつもオートミール が供されており[ 35] 、映画『日本のいちばん長い日 』によると、1945年 8月15日の朝食もオートミール であり、思いのほか質素な食事であると作中で言及されている。しかし21世紀を迎えたころから、シリアル食品の普及によりオートミール やグラノーラが国内企業によって生産されるようになり、エンバク食品が国内で広く流通するようになった。さらに健康志向の高まりによってグラノーラ・バーやオートブラン配合の健康食品なども各社から発売されるようになった。
現在、日本においては北海道で生産されており、国内向けのオートミール 用に出荷されている。ほかに日本各地で栽培はおこなわれているが、輪作 の一環として飼料用や緑肥用[ 36] とされるのがほとんどであり、食用としての収穫はほぼなされていない。飼料用としての栽培は多く、サイレージ 用や青刈りなどで牧草 として使用され[ 37] 、冬作飼料作物としての栽培はイタリアンライグラス に次ぐものである[ 38] 。主に温暖な地域では秋播きして越冬させるが、寒冷な地域では春播きして夏または秋に収穫する[ 39] 。
また、一般的に「猫草 」として売られている物の多くは燕麦である。
飼料
エンバクの用途のうち最も重要なものは飼料用であり、特に馬 の飼料として盛んに利用されたが、軍馬の生産がほぼ停止し輸送用の需要も急減した現代では馬の飼育数が激減し、そのためエンバクの栽培が減少傾向をたどる主因ともなっている。ただしエンバクはウマがよく好む飼料であり、食物繊維の含有量も高く、ウマの濃厚飼料 としては現代においても最もよく使用されるものである[ 40] 。エンバクが飼料として好まれるのはウマの嗜好のほか、エンバクはでんぷんが少なくエネルギーが低いため、厳密な飼料の計算が必要ではなく扱いやすいということも挙げられる。日本でのウマの飼育においては、国産のほかオーストラリア 産、カナダ 産、アメリカ 産のエンバクが主に使用される。ウマの飼料としてはエンバクの穀粒そのもののほか、押し麦も使用される。押し麦は消化が良くなるものの栄養素が穀粒に比べやや損なわれる[ 41] 。それ以外の動物、たとえばニワトリ の飼料原料の一つとして使用されることもある[ 42] 。
なお、エンバクの新芽を食べる猫がいることから、飼い猫用に猫草 栽培キットとして、またはすでに10数cm程発育したものがペットショップやDIYショップなどで売られていることもある。[ 43]
緑肥
緑肥 としても利用され、透水性などの土壌物理性の改善や硝酸態窒素の水系への流亡抑制などの効果がある(Avena sativa のほかAvena strigosa も利用される)[ 4] 。
その他の利用
カドミウム をはじめとする重金属 の吸着にすぐれている性質を利用して、稲やソルガム(モロコシ )と共にカドミウム による土壌汚染 の修復(バイオレメディエーション )に利用される。
オオムギとエンバク、およびそれらを原材料とする食品
エンバクの穂。風媒花 の特徴をもち、よく風になびく(品種:ミエチカラ)
文化
イングランドの詩人・批評家のサミュエル・ジョンソン は出版業者から辞書作りを依頼され、1755年 に英語辞典 A Dictionary of the English Language(2巻)として刊行された[ 44] 。このサミュエル・ジョンソンの辞書には個人的主張が強く出た項目が含まれていることで知られ、その有名な項目の一つがOats(エンバク)の項目である[ 44] 。
Oats - A grain, which in England is generally given to horses, but in Scotland appears to support the people. (Samuel Johnson, 1755, A Dictionary of the English Language )
訳:エンバク - 穀物の1種であり、イングランドでは馬を養い、スコットランドでは人を養う。
これにはスコットランド人も激怒し、サミュエル・ジョンソンの弟子でもあったジェイムズ・ボズウェル はお返しに、ユーモアを込めて次のように反論したという。
Which is why England is known for its horses and Scotland for its men.
訳:それ故に、イングランドはその産する馬によって名高く、スコットランドは人材において名高い
スコットランド英語 においては、エンバクは「コーン」(corn)と呼ばれることがある[ 45] 。これは、英語 においてはその地方で最も重要な穀物をしばしばcornと呼ぶことがあるからである[ 46] 。なお、アメリカ英語 においては、他国で「メイズ 」(maize)と呼んでいたものを「インディアンコーン」と呼び、これが転じて「コーン」はトウモロコシ のことを指すようになった[ 46] 。
画像
エンバク
エンバク
穀に包まれているエンバクの麦粒
脚注
注釈
出典
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参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
エンバク に関連する
メディア および
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ウィキスピーシーズに
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外部リンク