集中豪雨(しゅうちゅうごうう)とは、局地的で短時間の強い雨、つまり限られた地域に対して短時間に多量の雨が降ることを言う。現在の日本においては一般にも学術用語にも用いられるが、雨量などに基づいた定量的な定義はない[1][2][3][4]。
日本の気象庁は以下の2つの用語を使い分けているが、一般的にはどちらも「集中豪雨」と呼ばれる[5]。
本項ではこの両方について述べる。なお気象庁は、災害の恐れのある雨を「大雨」[8]、著しい災害に至った雨を「豪雨」[9]と呼んでいて、「豪雨」「集中豪雨」は過去の災害に対してのみ用い、これから起こる大雨に対しては用いない[7][9]。
学術的には、「大雨」は単に大量の雨が降ること、「豪雨」は空間的・時間的にまとまって災害をもたらすような雨が降ること、「集中豪雨」は空間的・時間的な集中が顕著な豪雨を指すとされるが、区別は明確ではない[4]。
似たような言葉として、雨の降る範囲に関係なく短い時間に多くの雨が降る事を指す「短時間強雨」[10]、雨の継続時間に関係なく狭い範囲に多くの雨が降る事を指す「局地豪雨」、予測が困難な突発的な大雨を指す「ゲリラ豪雨」[11]がある。これらは、集中豪雨とされる事例に対しても用いられる場合がある。
集中豪雨の概念は各国共通のものではないが、類似語がある。英語には突然の激しい雨、土砂降りを意味する"cloudburst"[12]、"downpour"などの言葉がある。韓国語では日本語がそのまま移入され"집중호우"(集中豪雨)として用いられている。
集中豪雨という用語が初めて公に使用されたのは、1953年8月14日-15日にかけて京都府の木津川上流域で発生した雷雨性の大雨(南山城豪雨、南山城水害をひきおこした)に関する、1953年8月15日の朝日新聞夕刊の報道記事とされている。この報道以降、主に新聞などで使われはじめ、一般語としても気象用語としても定着していった[1][13]。また、用例はあったが普及していなかった「ゲリラ豪雨」という呼称は、集中豪雨が日本国内各地で続発した2008年夏以降一般に広く使用されるようになった[注 1]。
一般的に、地面に対して水平方向に発達する層状の雲(乱層雲など)に比べて、地面に対して垂直方向に発達する積雲や積乱雲の方が、激しい雨(驟雨)をもたらす。これには、積雲や積乱雲の内部の対流(積雲対流)が関係している。積雲や積乱雲がもくもくと発達して急激に雲頂の高さを増すことからも分かるように、積雲対流中の上昇流の速度は他の循環による上昇流に比べて桁違いに大きく[注 2]、これによって雲中で雨粒や氷晶の急激な発達が起こり、激しい雨となる[14]。
先の説明の通り積雲や積乱雲は激しい雨をもたらすものの、そうした雨の多くは、散発的で急に降りだしてすぐ止んでしまう一過性の雨(にわか雨[注 3][15])である[16]。例えば、日本の場合は夏に散発的な積乱雲が発生しいわゆる夕立をもたらすが、その多くがにわか雨で、夕立の積乱雲のすべてが集中豪雨を降らせるわけではない[5]。
これは、にわか雨の時には、複数の積乱雲の塊(降水セル)が雑然と集まっていてそれぞれが独立的に活動しているからである。このようなタイプの降水セルをシングルセル(single cell、単一セル)といい、雷雨の分類上は「気団性雷雨」という。上空が単一の気団に覆われていて、一般風[注 4]の鉛直方向でのシアーが弱いときに発生しやすい[16]。
降水セルの大きさはふつう、水平方向に5 - 15km、寿命はおおむね30 - 60分ほどで、雨はその中でも30分程度しか続かない。そのため、降水セルが雑然と集まっただけでは雨が長続きしない[17][18]。
しかし、大気が不安定であるなどの要因で積乱雲が発達すると、雨量が増して数十分で数十mm程度に達する。このような雨を気象庁の呼び方では「局地的大雨」という[5][6]。
そしてさらに条件が整うと、1時間で数十mmの局地的大雨が数時間あるいはそれ以上継続し、総雨量が数百mmに達して気象庁が呼ぶような「集中豪雨」となる。その条件は、寿命が限られた積乱雲が世代交代をして次々と発生・発達し、かつその積乱雲群が連続して同じ地域を通過することである[5]。
局地的大雨も集中豪雨も、1つ1つの積乱雲(降水セル)の寿命は30 - 60分ほどであるが、集中豪雨では積乱雲が世代交代ながら連続して通過することで大雨が数時間以上に亘る[17]。なお、特に前線や台風などで、豪雨をもたらす大気場がほとんど変化しない状況下、稀に十数時間から数日に亘って強い雨が続く場合もある。ただその場合も、雨量は例えば2 - 3時間の周期で増減するなど変化を示すことが知られている[19]。
このような世代交代は、降水セルが線状あるいは団塊状にまとまるマルチセル型雷雨にみられるほか、単一の巨大な降水セル(スーパーセル)によるスーパーセル型雷雨にも見られる。マルチセル型雷雨はメソ対流系と呼ばれる複数セル間の相互作用により生じ、一般風の鉛直方向でのシアーが強いとき[注 5]に発生しやすい[16][20]。
また、集中豪雨の範囲は、おおむね水平方向に2 - 200km(メソβ(ベータ)スケールからメソγ(ガンマ)スケール)程度である[21]。日本における梅雨前線帯での豪雨でも、個々の事象は概ね100km程度である。しかし年によっては、梅雨前線による豪雨が日本列島各地を右往左往しながら数週間もの長期に亘り断続的に豪雨をもたらすことがある(例えば、昭和47年7月豪雨などがある)[19]。
数時間にわたって強い雨が続く「集中豪雨」をもたらしうるのは、既に述べたとおり積乱雲が世代交代するマルチセル型雷雨やスーパーセル型雷雨である[4][20]。
マルチセル型雷雨の分類は研究者により異なる。Bluestein, Jain(1985)はアメリカ オクラホマでの気象レーダー観測をもとに、破線(Broken line)型・バックビルディング(Back building)型・破面(Broken areal)型、埋め込み(Embedded areal)型の4種類に分類されるとした[22][23]。これに対し、マルチセル・ライン(Multicell line)型とマルチセル・クラスター(Multicell cluster)型の2種に分けられるとする資料もある[24]。小倉(1991)はBluesteinらの分類を踏まえて1980年代の集中豪雨13例を分類し、ほとんどがバックビルディング型であることを報告している[25]。日本で発生する集中豪雨では、クラスター型も観測されているが、バックビルディング型のものが多い。
バックビルディング型とは、成長期・成熟期・衰退期など異なるステージの複数の降水セル(積乱雲)が線状に並びつつ一般風の方向に移動しており、成熟期や衰退期のセルからの冷気外出流により移動方向とは反対の風上方向に新たなセル(積乱雲)が生まれる[注 6]タイプのものをいう。日本の梅雨期の事例として、加藤、郷田(2001)は1998年8月上旬に新潟県下越・佐渡で起きた集中豪雨(平成10年8月新潟豪雨)を解析し、梅雨前線上の一部で対流活動が一定以上継続すると収束が生じ、風上方向に新たなセルを生む原因になると報告している[25]。このメカニズムが線状降水帯を発生させる要因と考えられている。
一方、その1998年下越・佐渡の集中豪雨では、降水帯の先端だけではなく側方からも積乱雲が湧き出す現象が観測された。小倉はこのタイプをBluesteinらの分類に倣ってバックアンドサイドビルディング(Back and Side building)型と名付け、瀬古(2001)、津口、榊原(2005)らがこれを論文に用い、日本で用いられるようになっている[25]。
これら2つはいずれも降水セルの長径方向と一般風の風向が近いものだが、降水セルの長径方向に対して一般風の風向が直角のマルチセルも存在する。これは一般的にはスコールラインと呼ばれるが、瀬古(2010)、草開ら(2011)は先述の名付け方に倣う形でスコールライン型と呼んでいる[26][27]。
100 - 300km程度の大きさの積乱雲の大きな塊を雲クラスターという。熱帯ではよく見られるほか、東アジアの梅雨前線帯や北アメリカでも見られる。北アメリカのものは特にメソ対流複合体(Mesoscale convective complex)と呼ばれて研究が行われている。雲クラスターは更にメソβスケール(20 - 200km)、更にその中にもメソγスケール(2 - 20km)の対流システム(メソ対流系)があり、階層構造を持っている。これらの系は、大きな系が小さな系を強化させる時もあれば逆もあり、相互作用を持っている[28]。
基本的要因は次の通り。
集中豪雨が起きるとき、積乱雲が発達し、それがメソ対流系を形成して積乱雲が世代交代しながら同じ地域を連続して通過するような環境要因がいくつか挙げられる。次より3セクションに分けて説明する。
積乱雲が発達する環境要因として、以下が挙げられる。すべてが揃わなくとも、例えば下層の相当温位が非常に高いときには上空に寒気が無くても積乱雲が発達するような場合がある[18]。
メソ対流系(線状降水帯)の形成に関わる環境要因として以下が挙げられる。
一般的な天気図で確認できる総観スケールの現象では、前線、熱帯低気圧(台風)、温帯低気圧、寒冷低気圧(寒冷渦)[注 9]の付近で激しい雨が起こりうる。
前線の場合、前線面が地面に対して垂直に近い角度をとっているところの上空で、強雨をもたらす積乱雲が発達しやすい。これは前線を覆う幅の広い層状の雲の先端部で起こることが多い[35]。寒冷前線付近に収束線や暖湿流が重なると積乱雲が発達しやすいが、温暖前線付近、例えば梅雨前線帯の低気圧に付随する温暖前線で集中豪雨が起こる例もある[4]。
梅雨の時期には、東アジアを横切る梅雨前線帯の中、よく報告されている例では中国大陸付近で雲クラスターができ、これが東に進んでサブシノプティックスケール(1,000km程度)あるいはメソαスケール(200 - 1,000km)の低気圧に発達する過程で、その中の発達した積乱雲が集中豪雨をもたらすパターンがよくみられる。雲クラスターは気象衛星の雲画像で明瞭に確認できるが、集中豪雨が発現するのはその中の限られた部分である[4][28]。
台風や熱帯低気圧はそれ自体が相当温位の高い空気で構成されており、前線に近づくと集中豪雨を起こしやすい。また台風は移動速度が速いため全域で集中豪雨となることは少ないが、スパイラル・バンドや外縁部降雨帯の積乱雲が連続して通過すると集中豪雨になりやすい。
降水の特性は気候により大きく異なる。ここでは世界の豪雨の特徴について述べるが、どの程度の雨量から豪雨となるかの認識が地域により異なることにも留意が必要である。
積雲対流は、凝結核が少なく過飽和度が高い海洋性と、反対に凝結核が多く過飽和度が低い大陸性に分けられる。海洋性は主に暖かい雨(凍結しない雨)のプロセスで雨粒が急速に成長し、高度10km以上に発達し激しい雨を降らす雲でも、下層で雨粒が発達する。ただし、特に貿易風帯では、上空に逆転層が発達するため雲の発達が抑えられ、高度2 - 3km程度までしか雲が発達しない例が少なくない。しかし、このような背の低い雲であっても、海洋性の場合は雨粒の発達が速いため時間雨量100mmに達するような猛烈な雨になる[35]。
大陸性は主に冷たい雨(凍結する雨)のプロセスで雨粒が成長し、雲の上方でできた氷晶が上昇気流により落下と上昇を繰り返し霰として成長した後、融けて雨粒として落下する。海洋性と違い、大陸性は上空高くまで発達しなければ激しい雨とならない。高度5km程度まで雲が発達しても時間雨量10mm程度とする文献もある[35]。
他方、気団の状況によって下層が海洋性、上層が大陸性となる場合があり、このときは下層で急速な雨粒発達、上層で霰の発達という2つのプロセスが同時に進行して激しい雨となる[35]。
周囲との高低差が大きい山脈の風上側斜面では、そのさらに風上にある平地に比べて雨量が多くなることが知られている。日本においては、山脈の南側斜面に多い。例えば昭和38年台風第9号による四国の総雨量を見ると、高知平野は200 - 400mmの地域が分布しているのに対して、四国山地はほとんどが400mm以上で1,000mmを超える地点もあるなど、明らかな差が出ている[36]。
また、特定の地域特有の線状降水帯が現れ豪雨となることがある。鹿児島県西方沖の甑島列島から伸びる「甑島バンド」、長崎県南部の諫早平野から伸びる「諫早バンド」、長崎県南端の長崎半島から伸びる「長崎バンド」などが知られている。いずれの地域も起伏があることから地形の影響により積雲対流が生じているのではないかという仮説が立てられているが、数値モデルによるシミュレーションにおいて肯定する報告もあれば否定する報告もあるなど、はっきりとは証明されていない[37]。
熱帯雨林が広がる地域では熱帯収束帯(ITCZ)に沿う活発な積雲対流による激しい降水が一年を通して見られる。一方、雨季と乾季がある熱帯サバナなどの地域では熱帯収束帯に入る雨季に同じような降水が見られる。緯度20 - 35度付近の中緯度の大陸東側では、夏季は亜熱帯高気圧の西縁となるため湿った南風により大気が不安定となり時折激しい降水がみられる一方、冬季は寒帯前線の南下により温帯低気圧が通過し稀に激しい降水が見られる。また緯度40 - 55度付近の高緯度の地域では寒帯前線に沿う温帯低気圧の活動が活発で稀に激しい降水が見られる[38]。
また、雷雨の発生頻度からみても、熱帯雨林や熱帯サバナ地域では頻度がかなり高いほか、中緯度の大陸東側でも頻度が高い。前者は大気の不安定度が高く積雲対流が発達しやすいため、後者は特に夏季に対流圏下層で暖湿流が流れ込んで大気が不安定化しやすいため[注 10]である[38]。一方、海洋は前述と同じ緯度帯にあっても雷雨の頻度が少ないが[38]、その原因として海洋では積乱雲中での霰の形成が活発ではないこと(雷は霰の形成に密接に関わっている)が挙げられる[35]。
単位時間当たりの降水量の極値で見ると、地球上では日降水量は約2,000mm、1時間降水量は約400mm、10分間降水量は約150mmがそれぞれ限界と考えられている。なお、数日間から1日間の極値は熱帯の地域、1日間から1時間の極値は亜熱帯の地域であるのに対し、1時間から1分間の極値は熱帯から中緯度まで様々な地域で記録されている[39]。
激しい雨の時の大気場についても気候による差が見られる。日本では積乱雲の内外に亘って対流圏内が広く湿潤な場合が多い一方、大陸、例えばアメリカのテキサス州などでは対流圏内が全層に亘って乾燥していて雲域だけが湿潤な場合が多く、この環境で生じる積乱雲は雲頂高度が15kmにも達することが珍しくなく、大きな雹、メソハイの発達、強い下降気流など日本とは異なる特徴を有する。よって、気候の異なる地域の豪雨を扱う際には注意が必要である[40]。
日本における集中豪雨は、発生時期で見ると梅雨の時期、特に梅雨末期が多い[38]。
また、梅雨明け後の盛夏期を中心に、太平洋高気圧の西の辺縁部で集中豪雨が起こる例がある。これは、この時期に多く現れる、高温高湿な東南アジア方面の熱帯モンスーン気団が暖湿流として高気圧沿いに流れ込む大気場において、何らかの要因で収束が生じると積乱雲が発達し豪雨となるためである。なお、上空の気圧の谷通過など別の要因がある場合もある[41]。
地域的には、年間を通して見ると、1時間程度の短時間の局地的大雨は日本国内で広く見られる一方、1日程度続く長時間の集中豪雨は暖湿流が流れ込みやすい九州や関東地方以西の太平洋側に多い傾向がある[42]。梅雨期に限ると、集中豪雨は西日本(特に九州・中国地方)に多いが、東日本・中日本でも起こらないわけではない[4][43]。
単位時間当たりの雨量の極値で見ても、10分間雨量は国内どこも近い値であり差が小さい一方、1時間雨量は差が現れ始め、1日・24時間雨量になると南の地方ほど多く特に南側の斜面沿いの地点で多くなる傾向が顕著になる。これは、10分程度の短時間の雨量は単一の積乱雲に起因することに対して、長時間の雨量は積乱雲の連続通過に起因するためである。なお、10分間雨量の極値は可降水量に近い値になると考えられており、日本では40 - 50mm程度と考えられている[44]。
近年では、線状降水帯の発生に大きく関与しているとされる大量の水蒸気を運ぶ現象である「大気の川」と呼ばれる地球レベルの遠隔相関作用に注目が集まっている。
大雨による降水はその地域の水環境に大きな影響力を持っている。大雨となる日数は少なくても、降水量に占める大雨の割合は高く、数か月間や年間といったより長い期間の期間降水量が大雨に大きく左右されるためである。その影響力は、降水量を一日を単位とした値(日降水量)により階級区分し、各階級に区分される日数の比率と、各階級の期間降水量に対する寄与度とを対比することで理解できる。例えば、日本の大部分で雨量が多い梅雨期(6 - 7月)に実際に降水量が多い九州・四国・本州についてみると、当該2か月間の降水量は、わずか数日間でその1/2が集中している。右表の鹿児島を例に説明すれば、期間降水量は800mmだが、5.2日間(日数で約8.5%)で全体の1/2以上を占める460mmの雨が降り、わずか1.6日間(約2.6%)で全体の1/4に当たる200mmの雨が降っている(日数、降水量はともに30年間平均の平年値)[45]。
集中豪雨を実際に観測する方法は主に気象レーダーと雨量計。レーダーは雨雲や降水強度の空間的分布を細密に観測できる半面、帯域にっては強雨時に減衰が強いため観測範囲が狭くなってしまったり、従来の非偏波レーダーは小さい雨滴が高密度で存在すると、強度を過大評価してしまうなどの欠点がある。一方雨量計は、レーダーに比べると正確な値が得られる半面、設置箇所が限られ空間的な把握には弱いという欠点がある。この2つの観測方法の欠点を補うため、レーダーと雨量計の観測データを統合解析する方法がある[20]。
日本では気象庁がこの方法を用いて解析雨量を求め、さらに高層観測による上空の気流のデータを加味して数値予報モデルで雨域移動の予測を行い、降水短時間予報や高解像度降水ナウキャストを発表している。高解像度降水ナウキャストは、従前の降水ナウキャストの16倍にあたる250m分解能・5分間隔の分布情報で、降雨時にパソコンやスマートフォンなどで逐次情報確認することを想定して2014年に開始した。両情報に用いるデータの内訳は、国内約1,300か所のアメダスに加えて、国土交通省や各都道府県などが設置している数千か所、合計約9,000か所(2009年時点)の雨量計、そして気象庁の20基(Cバンド、2022年時点)および国土交通省の65基(Cバンド・Xバンド、2021年時点)のレーダー。日本で遍く全国をカバーする気象レーダー網はこの2つである[20][5][46][47][48]。
気象庁のレーダー網は、2022年時点でドップラー・レーダーと二重偏波ドップラーレーダーの2種(いずれもCバンド)。2010年代までは降水強度のみを観測するCバンド降雨レーダーだったが、2013年までに降水強度の分布と降水域の風の両方の観測に適したデュアル・ドップラー・レーダーに更新して集中豪雨の観測に対応した[47]。
国土交通省のレーダー網は、CバンドレーダーとXバンドMPレーダー(二重偏波ドップラーレーダー)の2種。Xバンドは定量観測範囲(降雨減衰を受けない信頼できる値が期待できる観測半径)が60kmとCバンドの120kmより狭い。しかし、分解能は250m(地図上で雨の強度を表現する格子の細かさ)でCバンドにおける分解能1kmの16倍相当ときめ細かい。またCバンドは5分間隔であるのに対して1分程度の高頻度観測が実現でき、さらにコヒーレント二重偏波を用いて雨滴の大きさによる誤差を除去し雨量計補正を不要としている。これにより、Cバンドでは難があった、個々の積乱雲による局地的で短時間の強い雨を迅速に観測する技術が向上した。気象庁の降水ナウキャストに観測データが活用されているほか、国土交通省独自でも解析雨量を作成し、試験運用段階からウェブサイトで公開、2017年から本運用している。現在は「川の防災情報」内でXRAINとして公開されている[48][49][50]。
このほか、2000年代から都道府県・市単位での高密度観測に適したXバンド降雨レーダーが都市部で主に下水処理管制の目的で運用されている(東京都下水道局の「東京アメッシュ」、大阪市建設局の「オークレーダ」など)。研究用では、雲の観測に適したKaバンド降雨レーダーやWバンド降雨レーダー(雲レーダー)も運用されている[20]。
衛星画像においては、集中豪雨域に白く輝き先端の尖った逆三角形の雲が現れる事がある。これをテーパリングクラウド(にんじん状雲)と呼ぶことがあり、先端部では集中豪雨になる事が知られている[25]。この雲はバックアンドサイドビルディング型のものによく出現する[51]。ただし、気象衛星の観測は30分や1時間間隔であり、集中豪雨の迅速な予測には向いていない。
気象庁の予報業務では、数値予報プロダクトや観測データなどを総合して予報官が予報の如何を判断する。また気象庁本庁の気象監視・警報センターは急速な積乱雲発達などを常時監視するとともに、数時間から半日先の短時間強雨や雷雨・突風等の発生リスクをシビアストーム情報として各気象台に通知している。積乱雲が発生する前の段階における、大雨に関する具体的情報としては、早期注意情報(警報級の可能性、概ね前日で最大5日前)や大雨注意報・警報の発表(概ね6時間前)、大雨に関する気象情報等とその文中で示される雨量予測がある[52]。
数値予報による予測のしやすさについて、集中豪雨発生時の主な総観規模の環境場(地上天気図に表現される要因)の中でも、総観規模の擾乱と直接結びつくような低気圧の中心付近、寒冷前線や停滞(梅雨・秋雨)前線の本体前線上に発生するものは予測しやすい一方、総観規模の擾乱と直接結びつかない停滞前線の南方に発生するもの、台風に伴う南・南東の暖湿流をきっかけに発生するものは予測しにくい[53]。
数値予報モデルの解像度はまだ、積乱雲の挙動を現実と対応良く表現できるほど高くない。また予測精度向上につながる水蒸気分布のデータが不十分で、線状降水帯の発生機構にも未だ解明していくべきところがあるとされる[54]。
気象庁は線状降水帯の予測情報の発表を2022年6月1日から開始している。現段階では半日程度前、地方予報区(複数府県)単位、捕捉率・的中率ともに高くないが、今後予測技術向上により、2024年に県単位・2029年に市町村単位に精度を上げる見込み。また目標として、2023年度に新たに線状降水帯の雨域の面的予測を発生30分前に行い、2026年にはそれを2 - 3時間前に拡充することを検討している[55][56]。そのために、予報モデルの開発改良、集中的な気象観測船洋上観測実施、レーダー偏波パラメータ利用の検討、アメダスへの湿度計設置、次期ひまわり10号への「多波長赤外サウンダ」搭載の検討などが行われている[57]。
マルチパラメータ・フェーズドアレイレーダー(MP-PAWR)は毎回のスキャン時間30秒で雲の3次元構造と降水分布を観測するもので、積乱雲の急速な発達の様相を捉えることが期待されている。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期に選定された豪雨・竜巻予測の一環として開発され、2017年から試験が行われた(2019年3月終了)。また、同プログラム第2期でも線状降水帯観測・予測システム開発が選定されている[58][59][60]。他方、民間気象会社でも早期予測が試みられている。ウェザーニューズは会員を対象とする気象状況・写真の報告スキームと雷雨発生を通知するメール配信を2008年に開始、2022年には自社アルゴリズムにユーザーからの天気報告による補正を加えて雷雨の発生リスクを地図メッシュに3段階で表現し36時間先までの予測を提供するゲリラ雷雨レーダーとなっている[61]。
地形などによって傾向は異なるが、集中豪雨をはじめとした大雨では、河川氾濫による洪水、堤防に守られた陸地内での増水による浸水(内水氾濫)、山の斜面が層ごと一気に崩れ落ちる山崩れ、山の斜面が層ごとゆっくり崩れ落ちる地すべり、斜面や崖の一部が崩れ落ちるがけ崩れ、川の急な出水(土砂を伴う土石流と水分が多い鉄砲水がある)による害、浸水後低地などに水が溜まって長期間湛水・冠水することによる害、強い雨の落下や多量の雨水が土壌を流失させる害、集中豪雨をもたらす積乱雲による竜巻などの突風や落雷、その他の被害が起きる。日本では治水施設や防災体制の整備が進んだことから、大雨による災害は戦後大きく減少した一方、中小河川の氾濫や土砂災害の割合が増し、施設被害や地下の浸水が顕著な都市型水害が増加している[62]。
防災上の注意点として、1時間以内で終わるような局地的大雨でも、雨量が一時的に河川や排水路の能力を超える一過性の洪水となって、被害が生じる場合は少なくない事が挙げられる。特に、大雨や洪水の注意報や警報が発表されない段階で急な増水となって、状況変化に対応できずに被害が生じる場合がある。例えば2008年8月初めに起きた東京都豊島区雑司ヶ谷の下水管増水による事故では、大雨注意報の基準に達しない段階で事故が起きている[5]。
大雨は水害や土砂災害などをもたらすが、「局地的大雨」や集中豪雨では、その変化が突発的なことが大きな特徴である。例えば2008年7月末に起きた神戸市都賀川の増水による事故(都賀川水難事故)では、急峻な地形の影響から10分間で1m30cmという急激な速度で水位が上昇し事故に至っている。こうした急な大雨に対しては、早期の正確な予測が求められる一方、技術的に困難であるという課題がある[5][63]。
ここでは日本における防災気象情報や避難情報の活用例を挙げて説明する。
不安定な天気の下で起こる突発的な大雨の影響を受ける行動(例えば、川にレジャーに出かけるなど)は、猶予時間に応じて適切な種類の気象情報を利用できる[5]。
日常行動において大雨の可能性がある場合、以下のような情報を利用できる。
積乱雲が接近してきたとき、特に注意すべき場所がある。
気象庁をはじめ天気予報では雨量について、1時間当たり30mm以上50mm未満を「激しい雨」、50mm以上80mm未満を「非常に激しい雨」、80mm以上を「猛烈な雨」と表現する[70]。ほかには、特別警報級の大雨について「数十年に一度の大雨」[71][注 11]、「○○豪雨に匹敵する大雨」、さらには「これまでに経験したことがないような大雨」[70][73]などと、異常事態であることを表現して最大級の警戒を呼びかける。
なお上記に加えて、著しい大雨の時には臨時の「気象情報」として以下のような情報が発表される。
河川の氾濫による洪水に関しては、河川ごとに流量や水位を交えて危険レベルを示した「○○川はん濫発生情報」などの洪水予報(指定河川洪水予報)が一般にも発表される。これは一般市民向けと水防活動用を兼ねているもので、はん濫注意情報、はん濫警戒情報、はん濫危険情報、はん濫発生情報の4種類がある[78]。このほか、水防活動専用の情報として水防警報がある。
土砂災害に関しては予めいくつかの種類の危険区域が指定され、規制が行われている。法的に厳しく規定されている土砂災害警戒区域(土砂災害防止法)、砂防指定地(砂防法)、地すべり防止区域(地すべり等防止法)、急傾斜地崩壊防止区域(がけ崩れ防止法)のほか、それを補完する土砂災害危険箇所(土石流危険渓流、地すべり危険箇所、急傾斜地崩壊危険箇所)がある。
災害の際には土砂災害に関する危険区域の指定漏れや周知不足が問題になることがある。他方では予報や警報・注意報の周知不足も問題となることが多い。加えて、雨粒の反射等により視程が損なわれるほか、ゴーゴーと滝のように響くことから周囲の音も聞き取りづらくなる。そのため集中豪雨の最中には、気象警報の視聴などの情報収集や適切な状況把握が妨げられることがある。
また、集中豪雨に限らず大雨災害全般に当てはまるが、避難のタイミングや方法、場所の判断が不適切であったことにより被災する例が多数ある。河川の堤防付近の家屋の住民が避難の機を逸して氾濫に巻き込まれたり、冠水した避難路を車で避難して被災したり、河川などがある避難路を経由して避難し被災したり、結果的に自宅の2階に逃げれば助かったものが避難所に避難したことで被災するといった事例がある。こうしたことから、普段から避難経路や避難先を把握しておくとともに、その時の状況やこれからの災害の進展の見通しに合わせて適切な避難行動を選ぶ必要がある[79]。
気象庁の観測統計によれば、日本におけるアメダス1000地点あたりでの時間雨量50mm以上の雨の回数は1976 - 1986年に160回だったものが1998 - 2009年には233回になっていて、+45%と明らかな増加を示している。また、同じく時間雨量80mm以上の雨の年間平均発生回数は1976 - 1986年に9.8回だったものが1998 - 2009年には18.0回になっていて+80%と更に急激な増加を示している[80]。
確実に増していると考えられる集中豪雨であるが、この時間スケールにおいてはいくつかの気候変動周期(レジームシフトなど)が存在するため、地球温暖化との相関性が明らかとはいえない[80]。
2011年、日本気象協会は「総雨量2000mmの時代を迎えて」と題する見解を発表した。平成23年台風第12号は高知県東部に上陸しても時速10km/hと進行速度は上がらず、紀伊半島南部で記録的な1時間雨量と累計雨量をもたらした。これらを受け、同協会は台湾付近と日本の南海上は海面水温に2度近く差があるが100年後をシミュレーションした予測結果によれば日本の南海上の海面水温は台湾近海並みに上昇した水温となり、台風の進行速度や海面水温を考慮すれば日本も台湾と同様に総雨量2000mmを超える大雨を想定した対策が必要としている[81]。
以下、日本における過去の顕著な集中豪雨被害を挙げる。
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