2017年のワールドシリーズ
2017年の野球 において、メジャーリーグベースボール(MLB) 優勝決定戦の第113回ワールドシリーズ (英語 : 113th World Series )は、10月24日から11月1日にかけて計7試合が開催された。その結果、ヒューストン・アストロズ (アメリカンリーグ )がロサンゼルス・ドジャース (ナショナルリーグ )を4勝3敗で下し、球団創設56年目で初の優勝を果たした。
レギュラーシーズンで100勝以上を挙げた球団どうしがワールドシリーズで対戦するのは、1970年 以来47年ぶり8度目[ 3] 。今シリーズは本塁打 が特に多く、両チーム合計での1試合の本塁打数(第2戦=8)[ 4] 、シリーズを通じての総本塁打数(25)や本塁打を放った選手の数(14)[ 5] 、1チーム単位でのシリーズ総本塁打数(アストロズ=15)など[ 6] 、複数の記録が塗り替えられた。シリーズMVP には、個人としてシリーズ史上最多タイの5本塁打を放ち、打率 .379・7打点 ・OPS 1.471という成績を残した、アストロズのジョージ・スプリンガー が選出された。ただ今シリーズから2年後、当時のアストロズが電子機器を用いた不正な方法でサイン盗み をしていたことが発覚する。MLB機構による処分では今シリーズの優勝が剥奪されることはなかったが、その決定は他球団選手をはじめとする球界の批判を集め[ 7] 、優勝の正当性には疑問符がつけられることとなった[ 8] 。
MLB機構はこの年、史上初めてポストシーズンの全シリーズ に冠スポンサー を募った。ワールドシリーズについては、Google 傘下動画投稿サイト のテレビ放送配信サービス "YouTube TV " がスポンサー権を獲得しており[ 9] 、大会名はワールドシリーズ presented by YouTube TV (英語 : World Series presented by YouTube TV )となる。
ワールドシリーズまでの道のり
両チームの2017年
10月19日にまずナショナルリーグ でドジャース(西地区 )が、そして21日にはアメリカンリーグ でアストロズ(西地区 )が、それぞれリーグ優勝 を決めてワールドシリーズへ駒を進めた。
ドジャースは直近4年連続で90勝以上を挙げて地区優勝しながら、ワールドシリーズ 進出は逃し続けていた。オフの動きは新戦力獲得よりもFA 選手引き留めが優先され、先発投手リッチ・ヒル や内野手ジャスティン・ターナー 、抑え投手ケンリー・ジャンセン らと複数年の再契約を結んだ[ 10] 。2017年は開幕から9勝11敗と足踏みしたものの、新人野手コディ・ベリンジャー がデビューした4月25日以降は好転、コロラド・ロッキーズ やアリゾナ・ダイヤモンドバックス を抜いて地区首位に浮上した。彼のデビューから前半戦終了までチームは52勝18敗の高勝率を記録、彼自身もその間に一塁と外野を兼任しながら20本塁打 超、チーム最多打点 と活躍した[ 11] 。7月31日のトレード では怪我人続出の先発ローテーション へダルビッシュ有 を加え[ 12] 、2位ダイヤモンドバックスとのゲーム差 を前半戦終了時の7.5から、8月下旬には最大21.0まで広げる。その後は5連敗→1勝→11連敗と不振に陥ったが、その11連敗を止めた9月12日にポストシーズン 出場を決め[ 13] 、最終的には104勝58敗で地区5連覇かつ30球団最高勝率となった。平均得点4.75はリーグ6位、防御率 3.38はリーグ最高。ベリンジャーやターナーが打撃で好成績を残したことのほか、複数のユーティリティープレイヤー を擁し選手起用の幅を広げたことも大きかった[ 14] 。ポストシーズンでは、ダイヤモンドバックスとの地区シリーズ を3勝0敗で制すると[ 15] 、シカゴ・カブス とのリーグ優勝決定戦 にも4勝1敗で勝利し、同じ顔合わせで敗れた前年 の雪辱を果たした[ 16] 。
アストロズは2016年 、84勝78敗の地区3位でポストシーズンには5.0ゲーム差届かなかったが、チームの中核となる選手が次々と台頭してきていた。オフには彼らの脇を固めるベテラン野手として捕手ブライアン・マッキャン や指名打者カルロス・ベルトラン らを獲得したが、その一方で先発ローテーションの補強は進まずエース 不在の陣容となった[ 17] 。2017年は11試合目でロサンゼルス・エンゼルス を抜いて地区単独首位へ立つと、その後も勝利数を伸ばしていく。5月下旬から6月上旬にかけては11連勝を記録し、MLB史上16年ぶりの開幕58戦42勝を達成[ 18] 、前半戦終了時には60勝29敗で2位テキサス・レンジャーズ に16.5ゲーム差をつけた。7月31日のトレード期限までには目立った補強を行わず、失望を公然と口にする選手もいたが、8月下旬にはウェイバー を介してジャスティン・バーランダー を獲得、エースとして迎え入れた[ 19] 。後半戦も、2位とのゲーム差が1桁に縮まることなく進んでいく。9月17日にはバーランダーが7回1失点と好投して地区優勝を決め[ 20] 、その後は101勝61敗まで勝率を伸ばしてレギュラーシーズンを終えた。平均得点5.53はリーグ最高、防御率4.12はリーグ5位。カルロス・コレア ら若手の成長や補強組の活躍などにより形成された強力打線は、本塁打の多さと三振 の少なさを両立させ、70打点以上が7人という高い得点力を有していた[ 21] 。地区シリーズ ではボストン・レッドソックス を3勝1敗で[ 22] 、リーグ優勝決定戦 ではニューヨーク・ヤンキース を4勝3敗で[ 23] 、それぞれ下した。
ホームフィールド・アドバンテージ
2016年 のシーズン終了後、MLB機構と選手会 との間で新たな労使協定 が締結された。この新協定により今回から、ワールドシリーズの第1・2・6・7戦を本拠地で開催できる "ホームフィールド・アドバンテージ " は、レギュラーシーズンの勝率がより高いほうの球団に与えられることになった[ 24] 。ポストシーズン 進出10球団のアドバンテージ優先順位は以下の通り[ 25] 。
※1 同一リーグ内の地区シリーズ やリーグ優勝決定戦 では、勝率に関係なく地区優勝球団はワイルドカード球団より上位に位置づけられるが、ワールドシリーズだけはこれに当てはまらない。
※2 シーズン162試合の勝敗が同じ、かつこの年の直接対決がない場合は、それぞれの球団が同地区他球団相手に残した成績が決め手となる。ダイヤモンドバックスがナショナルリーグ西地区4球団相手に45勝31敗・勝率.592だったのに対し、レッドソックスはアメリカンリーグ東地区4球団相手に41勝35敗・勝率.539だったので、ダイヤモンドバックスが上位となる。
10月19日にまずドジャースがワールドシリーズ進出を決めた。ドジャースは勝率が最も高かったので、この時点で相手に関係なくアドバンテージが確定し、開催地は第1・2・6・7戦がドジャー・スタジアム 、第3・4・5戦がアメリカンリーグ 優勝球団の本拠地となった。
2003年 から2016年 までの14年間、シリーズのホームフィールド・アドバンテージはその年のオールスターゲーム で勝利したリーグの優勝球団に与えられることになっていた。もしこの旧規則がもう1年長く採用されていた場合、この年のオールスターゲーム ではアメリカンリーグがナショナルリーグ に2-1で勝利していたため、アドバンテージはアストロズに与えられていたことになる[ 26] 。
両チームの過去の対戦
2006年 4月24日の対戦の様子。アストロズの投手 はアンディ・ペティット 、一塁手 はランス・バークマン 、ドジャースの走者はケニー・ロフトン
レギュラーシーズンにおけるこの両チームの対戦は、アストロズが創設された1962年 から2017年 までの56年間で計711試合が行われており、その結果はドジャースの388勝323敗・勝率.546である[ 27] 。アストロズは創設から2012年 までの51年間、ドジャースと同じナショナルリーグ に所属しており、その間は毎年対戦していた。1969年 に東西2地区制が導入されると、ドジャースとアストロズはともに西地区 に割り振られた。特に1980年代初頭は、この両チームで地区優勝を激しく争った歴史を持つ[ 28] 。
1980年 は、地区首位アストロズがシーズン残り3試合で2位ドジャースに3.0ゲーム差 をつけ、敵地ドジャー・スタジアム で最後の直接対決3連戦に臨んだ。しかしドジャースは、初戦で9回二死から同点に追いつき延長戦 の末にサヨナラ勝利 を収めると、続く2試合も1点差の接戦を制して土壇場で3連勝し、同率首位に並んで162試合を終えた。そのため163試合目としてワンゲームプレイオフ が組まれ、アストロズが敵地での試合に7-1で勝利して地区優勝を決めた。この勝利によりアストロズは、球団創設19年目で初のポストシーズン 進出を果たした[ 29] 。ドジャースのスティーブ・ガービー は2試合目でノーラン・ライアン から決勝ソロ本塁打 を放つと、試合後に「野球というスポーツは結局のところ、重圧そのものなんだ」と語り、アストロズのテリー・プール はワンゲームプレイオフ勝利後に「3連敗したときは本当に赤っ恥かかされたし、最後まで負けてたら死んでたな」と胸の内を吐露した[ 28] 。
翌1981年 は、選手会 が6月12日から7月31日にかけて50日間のストライキ を敢行したため、前後期制 が急遽導入された。これにより、前期優勝のドジャースと後期優勝のアストロズとで、地区優勝をかけて地区シリーズ が行われた[ 注 1] 。両チームがポストシーズンで対戦するのは、今ワールドシリーズ以前はこれが唯一の事例である[ 30] 。この地区シリーズでは、アストロズが本拠地アストロドーム での最初の2試合に連勝し王手をかけたが、続く3試合はドジャー・スタジアムでドジャースが3連勝し、逆転でリーグ優勝決定戦 へ駒を進めた。ドジャース監督のトミー・ラソーダ は「連敗しても、残り3試合に全部勝つ確信はあった。うちの連中は諦めるということを知らないからな」と胸を張った[ 28] 。ドジャースは地区シリーズ突破後、モントリオール・エクスポズ とのリーグ優勝決定戦 も3勝2敗で勝ち抜き、最後はニューヨーク・ヤンキース とのワールドシリーズ も制して16年ぶり5度目の優勝を成し遂げた。
その後、1994年 にMLBが東西2地区制から東中西3地区制へ移行すると、アストロズが西地区から中地区 へ転籍し、ドジャースとの年間対戦数も減少した。さらに2013年 には、当時のMLB機構コミッショナー のバド・セリグ 主導で歪な地区構成の改善が進められ、アストロズはナショナルリーグ中地区からアメリカンリーグ西地区 への鞍替えを余儀なくされた[ 31] 。これにより、ドジャースとアストロズの対戦は、インターリーグ として数年に一度しか行われなくなった。2013年以降の両チームの対戦は5年間で3連戦が一度だけ、2015年 8月にアストロズの本拠地ミニッツメイド・パーク で行われ、アストロズが3連勝のいわゆる "スウィープ" を果たした[ 32] 。この3連戦の初戦では、アストロズのマイク・ファイヤーズ がノーヒットノーラン を達成している[ 29] 。
ロースター
両チームの出場選手登録(ロースター) は以下の通り。
ドジャースはリーグ優勝決定戦 のロースターから、外野手のカーティス・グランダーソン と捕手のカイル・ファーマー を外し、内野手のコーリー・シーガー と投手のブランドン・マッカーシー を登録した。シーガーは地区シリーズ 第3戦で二塁へ滑り込む際に腰を痛め、正遊撃手ながらリーグ優勝決定戦ではロースターから外れていた[ 33] 。代役のチャーリー・カルバーソン が打率 .455と好調だったことから、ドジャースはシーガー復帰後もカルバーソンを残すことにし、代わって3人いた左打ちの外野手のうち打撃不振のグランダーソンを外すことにした[ 34] 。マッカーシーは故障などのため後半戦の登板が5試合しかなく、地区シリーズおよびリーグ優勝決定戦でもロースター登録外だったが、シンカー 中心の投球術を監督のデーブ・ロバーツ に高く評価され、救援投手陣 の厚みを増すためにワールドシリーズで復帰することになった[ 33] 。ファーマーは今ポストシーズン で4打数無安打2三振 という成績だった。
これに対してアストロズは、リーグ優勝決定戦 からのロースター変更はない。外野手のジェイク・マリスニック が9月13日に右手親指を骨折しており、回復具合によってはワールドシリーズで復帰の可能性もあったが、結局間に合わなかった[ 35] 。また、先発投手のマイク・ファイヤーズ は2015年 8月のドジャース戦でノーヒットノーラン を達成しているが、2017年 はレギュラーシーズンでチーム最多の153.1イニング を消化しながら防御率 5.22と不振だったため、地区シリーズ 以降は一度もロースター入りしていない[ 36] 。アストロズでは投手のルーク・グレガーソン と内野手のアレックス・ブレグマン が、この年3月に開催された国際大会の第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC) にアメリカ合衆国代表 の一員として出場し、優勝を経験している。もし今回のワールドシリーズをアストロズが制すれば、ふたりは同じ年にWBCとワールドシリーズの両方で優勝を果たす 史上初の選手となる[ 37] 。
2017年シーズン開幕時点でのメジャーリーガー全868選手中、ドミニカ共和国 出身選手は93人で全体の10.7%を占めていた[ 38] 。しかし今シリーズの両球団50選手中、同国出身選手はアストロズ投手のフランシスコ・リリアーノ ただひとりしかいない。もしこのリリアーノに登板機会のないままシリーズが終わった場合、同国出身選手の出番がないシリーズは1999年 以来18年ぶりとなる[ 39] 。一方、ドジャース外野手のジョク・ピーダーソン とアストロズのブレグマンは、ともにユダヤ系アメリカ人 である。ワールドシリーズでどちらのチームのロースターにもユダヤ系アメリカ人が入るというのは、2004年 以来13年ぶり5度目である[ 注 2] [ 40] 。
試合結果
2017年のワールドシリーズは10月24日に開幕し、途中に移動日を挟んで9日間で7試合が行われた。日程・結果は以下の通り。
日付
試合
ビジター球団(先攻)
スコア
ホーム球団(後攻)
開催球場
10月24日(火)
第1戦
ヒューストン・アストロズ
1-3
ロサンゼルス・ドジャース
ドジャー・スタジアム
10月25日(水)
第2戦
ヒューストン・アストロズ
7 -6
ロサンゼルス・ドジャース
10月26日(木)
移動日
10月27日(金)
第3戦
ロサンゼルス・ドジャース
3-5
ヒューストン・アストロズ
ミニッツメイド・パーク
10月28日(土)
第4戦
ロサンゼルス・ドジャース
6 -2
ヒューストン・アストロズ
10月29日(日)
第5戦
ロサンゼルス・ドジャース
12-13x
ヒューストン・アストロズ
10月30日(月)
移動日
10月31日(火)
第6戦
ヒューストン・アストロズ
1-3
ロサンゼルス・ドジャース
ドジャー・スタジアム
11月0 1日(水)
第7戦
ヒューストン・アストロズ
5 -1
ロサンゼルス・ドジャース
優勝:ヒューストン・アストロズ(4勝3敗 / 球団創設56年目で初)
第1戦 10月24日
第2戦 10月25日
第3戦 10月27日
試合終了後、アストロズのクラブハウスでは大勢の記者がユリ・グリエル を囲んでいた。グリエルはこの日、先制のソロ本塁打 を含む5打数2安打の活躍を見せていたが、記者の質問のうちプレイに関するものはひとつしかなく、それ以外は彼がベンチでとった仕草のことに集中していた[ 41] 。彼は2回裏にダルビッシュ有 から先制本塁打を放ったあとのベンチで、指で両目をつり上げる "スラントアイド・ジェスチャー" をとり、さらに "chinito"(スペイン語 で「チビの中国人 」の意)という言葉を発したかのような口の動きをしていた。こうした行為・発言はアジア人に対する人種差別 とみなされるものであり、その模様がテレビ中継のカメラに捉えられたことで騒動になっていた。グリエルは「ダルビッシュや日本の人 を不愉快にさせるようなことはしたくない。大いに尊敬しているんだ、日本でプレイしたこともあるし」と、2014年に日本プロ野球 ・横浜DeNAベイスターズ に在籍していたことも引き合いに出しながら「もちろん、彼に対して含むところがあるわけではないから、会って話がしたい。彼に謝りたい」と反省の弁を述べた[ 42] 。ただその一方で、chinito発言については「(母国)キューバ ではみんな、アジア人のことをまとめて『中国人』と呼んでいる。でも日本人はそう呼ばれると気分を害する、というのも知っている」とも付け加えた[ 41] 。記者の質問に答えるグリエルの声は、人だかりの後方からはほとんど聞こえないほど弱々しかったが[ 43] 、近くで取材した記者のひとりは「彼はどうしてそこまで大きな問題になっているのか、驚いているようにもみえた」との印象を持ったという[ 44] 。
ダルビッシュは「ああいうことをパブリックのところでしてしまっている以上はちゃんとMLBとかも、それなりの処置をしないといけないとは思います」としたうえで「これによってまたいろいろな人が学べると思うので、人類として――本当に大きなことになるけど、人類としてまた一つ学んで、前に行くステップにできれば、ただのミスで終わらないんじゃないかなと思います」と話した[ 43] 。ダルビッシュのこうした抑制的反応について、MLB機構コミッショナー のロブ・マンフレッド は「模範的」と賞賛した[ 45] 。マンフレッドは翌日の第4戦試合前に記者会見を行い、グリエルに2018年 シーズンの開幕5試合出場停止処分を課すと発表した。この年のMLBでは、差別的言動をした選手に対する出場停止処分は2試合が相場であり[ 43] 、今回はそれよりも重い処分となる。ただ、今シリーズには第4戦以降も出場することが可能である。出場停止処分が今シリーズ中に開始しないこととなった理由として、以下の要因が挙げられる[ 46] 。
レギュラーシーズンの出場停止期間中は給与が没収されるが、ポストシーズンはその対象外であること。グリエルは今回の出場停止処分により、32万2581ドルを失うことになる。
選手会 から「もし今シリーズ中の出場停止を見合わせてもらえるなら、5試合という長期の処分にも異議申し立てをしない」という働きかけがあったこと。
マンフレッドがグリエルとダルビッシュの双方と面会したところ、グリエルは悔恨の念を示し、ダルビッシュは「彼が受ける社会的制裁 はMLB機構の処分より遥かに重くなる」としてシリーズの出場停止処分に否定的な見解を伝えたこと。
シリーズ中の処分となるとグリエル以外のアストロズの24選手にまで影響がおよぶため、それでは公平な処分とはならないとマンフレッドが考えたこと。
マンフレッドは「野球界にあのような振る舞いが認められる余地は存在しない。これは私自身、コミッショナー事務局、アストロズとドジャース、また両球団のオーナー、そして選手会の完全一致による見解だ」と表明し、グリエルは処分発表を受けて「昨夜の試合中に私がした擁護のしようもない侮蔑的仕草により、不愉快な思いをした全ての人に心からお詫びいたします。非常に後悔しています」と謝罪した[ 45] 。ダルビッシュは「ワールドシリーズは大きなことだから、ワールドシリーズでサスペンションにするのはフェアではないというのは、なんとなくわかる気はする」と裁定に一定の理解を示し[ 47] 、第4戦終了後には「もう終わったことです」と騒動に一区切りをつける意向を表明した[ 48] 。
第4戦 10月28日
第5戦 10月29日
第6戦 10月31日
第7戦 11月1日
セレモニー
試合前のアメリカ合衆国 国歌 『星条旗 』独唱・重唱と始球式 、およびセブンス・イニング・ストレッチ における『ゴッド・ブレス・アメリカ 』独唱を行った人物・グループは、それぞれ以下の通り。
ヘイリー・ドーソン(写真は2015年8月17日撮影)
第2戦の始球式には、まずビン・スカリー が登場した。スカリーは1950年 から2016年 まで67年間にわたってドジャース専属アナウンサーを務めており、この日はマイク を持ってマウンドに上がった。観客がスカリーの名前を連呼するなか「スカリーはもういるからいいんだ、それより捕手 を呼んでくれ」と、捕手役にスティーブ・イェーガー を呼び寄せて投球動作に入った。しかしボールを持った左腕を上げたところで動作を止めて「回旋筋腱板 を痛めてしまった、これでは投げられない。申し訳ないがリリーフ を仰ごう、サウスポーはいるか?」と述べた。すると三塁側ダグアウトからフェルナンド・バレンズエラ が姿を表し、大歓声のなかでスカリーの代わりにボールを投じた。最後は3人が並び、スカリーの決めぜりふ "It's time for Dodger baseball!" を観客と唱和した[ 71] 。
第4戦で始球式を行ったヘイリー・ドーソンは、当時ネバダ州 ヘンダーソン 在住の7歳の女児である。彼女は胎内にいたとき母体からの血液供給量が少なかったため、ポーランド症候群 という先天性 疾患にかかり、右手の人差し指 ・中指 ・薬指 がない状態 で生まれてきた。一般的な義手 は高額なうえに発育に合わせて買い換える必要があるため、母親が2014年、ネバダ大学ラスベガス校 (UNLV)工学部に安価な新型義手の製作を依頼した[ 73] 。6か月におよぶ試作の末、手首 の曲げ伸ばしと連動して掌部を開いたり閉じたりできる義手が、3Dプリンター を用いて作られた[ 74] 。ドーソンはこの義手によりボールを掴めるようになり、2015年 になるとまずUNLV野球部 の試合で、続いて一家揃ってファンというボルチモア・オリオールズ の試合で、始球式を行った[ 75] 。2017年にスポーツ情報サイト "ブリーチャー・リポート " が、ドーソンが「MLB全30球場 で始球式をしたい」と夢見ていることをTwitter に投稿すると、各球団から始球式への招待が相次ぎ、9月にはMLB機構がシリーズ第4戦での起用を決めた[ 76] 。ワールドシリーズで始球式を行う人物は、通常であればMLB機構とシリーズ出場球団が共同で決めるが、ドーソンの起用については全30球団が賛成していたという[ 77] 。当日、ドーソンは試合前にアンソニー・リゾ やジャスティン・バーランダー 、マリアノ・リベラ らと交流し、本番ではホセ・アルトゥーベ を捕手役に下手投げでボールを投じた。
テレビ中継
アメリカ合衆国
太平洋 を航行中の航空母艦 "カール・ヴィンソン " 内で、シリーズ第7戦のテレビ中継を見守るアメリカ海軍 の乗組員たち
アメリカ合衆国 におけるテレビ中継はFOX が放送した。実況はジョー・バック が、解説はジョン・スモルツ が、フィールドリポートはケン・ローゼンタール とトム・バードゥッチ (英語版 ) が、それぞれ務めた。また試合前にはケビン・バークハート (英語版 ) 進行のコーナーがあり、キース・ヘルナンデス 、デビッド・オルティーズ 、アレックス・ロドリゲス 、フランク・トーマス が出演して試合の見所などを語った。FOXがスポンサー企業に販売したCM 放送枠の価格は、30秒あたり63万5000ドルと推定されている[ 78] 。
全7試合の平均視聴率 は10.7%で、前年から2.4ポイント下降した[ 79] 。シリーズを通しての、全米および出場両チームの本拠地都市圏における視聴率等は以下の通り。
全米および出場両チームの本拠地都市圏における視聴率等
試合
日付
放送時間
全米
テキサス州ヒューストン
カリフォルニア州 ロサンゼルス
視聴率
占拠率
視聴者数
視聴率
占拠率
視聴率
占拠率
第1戦[ 80] [ 81]
10月24日(火)
午後0 8時0 4分〜10時40分
8.7%
15%
1497万人
28.6%
44%
24.2%
43%
第2戦[ 82] [ 83]
10月25日(水)
午後0 8時13分〜0 0時36分
9.2%
18%
1548万人
30.0%
48%
27.5%
47%
第3戦[ 84] [ 85]
10月27日(金)
午後0 8時14分〜0 0時0 7分
8.9%
17%
1567万人
33.3%
55%
24.2%
44%
第4戦[ 86] [ 87]
10月28日(土)
午後0 8時14分〜11時27分
8.7%
17%
1540万人
32.6%
54%
23.3%
45%
第5戦[ 88] [ 89]
10月29日(日)
午後0 8時14分〜0 1時39分
10.5%
21%
1894万人
32.9%
53%
32.8%
52%
第6戦[ 90] [ 91]
10月31日(火)
午後0 8時16分〜11時43分
12.6%
23%
2229万人
41.8%
60%
30.9%
53%
第7戦[ 92] [ 79]
11月0 1日(水)
午後0 8時14分〜0 0時12分
15.8%
28%
2824万人
47.1%
66%
36.7%
56%
平均[ 79]
10.7%
20%
1890万人
35.3%
55%
不明
不明
参考:前年 や裏番組 との比較
今シリーズ
前年からの変動
裏番組の最高視聴率
試合
視聴率
視聴者数
前年視聴率
前年視聴者数
番組
放送局
放送時間
視聴率
変動
変動
第1戦[ 80]
8.7%
1497万人
11.3%
2.3ポイント下降
1940万人
0 443万人減少
不明
第2戦[ 82]
9.2%
1548万人
10.2%
1.0ポイント下降
1740万人
0 192万人減少
不明
第3戦[ 84]
8.9%
1567万人
11.0%
2.1ポイント下降
1940万人
0 373万人減少
『ブルーブラッド 〜NYPD家族の絆〜 』
CBS
午後10時00分〜11時00分
5.3%
第4戦[ 86]
8.7%
1540万人
9.3%
0.6ポイント下降
1670万人
0 130万人減少
『48 Hours 』
CBS
午後10時00分〜11時00分
3.1%
第5戦[ 88]
10.5%
1894万人
13.1%
2.6ポイント下降
2360万人
0 466万人減少
不明
第6戦[ 90]
12.6%
2229万人
13.3%
0.7ポイント下降
2340万人
0 111万人減少
『NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班 』
CBS
午後0 8時00分〜0 9時00分
7.5%
第7戦[ 92]
15.8%
2824万人
21.8%
6.0ポイント下降
4000万人
1176万人減少
『サバイバー 』
CBS
午後0 8時00分〜0 9時00分
4.6%
平均[ 79]
10.7%
1890万人
13.1%
2.4ポイント下降
2340万人
0 450万人減少
[註]放送時間は東部夏時間 。中部夏時間 は-1時間、太平洋夏時間 は-3時間
今シリーズでは、その日どちらのチームが勝つと思うか毎試合前にオルティーズが予想したところ、第6戦まで一度も的中せず全て逆の結果になったことが話題を集めた。第7戦前にはFOXが "Papi Don’t Preach: 0-6 .000 win pct."(「パピの予想が当たらない:6回の予想で的中ゼロの勝率.000」)と画面に表示してオルティーズをイジった[ 93] 。この日の予想を求められたオルティーズは白紙を見せて拒み、なおもロドリゲスやトーマスから煽られると、古巣ボストン・レッドソックス の名を挙げて笑いを誘った[ 94] 。
第6戦にドジャースが勝利したことで第7戦の開催が決まると、FOXのライバル局のうちNBC とCBS がシリーズとの視聴率競争を避けるため、11月1日のドラマ 初回放送を翌週に延期して再放送 に切り替えた。NBCは『LAW & ORDER:性犯罪特捜班 』シーズン19・第6話と『シカゴ P.D. 』シーズン5・第6話をそれぞれの同シーズン第1話に[ 95] 、CBSも『SEAL Team/シール・チーム 』第6話と『クリミナル・マインド FBI行動分析課 』シーズン13・第6話を『SEAL Team/シール・チーム』第2話と第3話に[ 96] 、それぞれ変更した。
日本
日本 での生中継の放送は、日本放送協会(NHK) の衛星放送 チャンネル "BS1 " で行われた。実況は高瀬登志彦 が、解説は斎藤隆 が務め、さらに第3戦のみゲストとして宇宙飛行士 の野口聡一 も出演した[ 97] 。第3戦開催都市テキサス州 ヒューストン にはアメリカ航空宇宙局 のジョンソン宇宙センター があり、野口は1996年から同市に在住しているため「地元としては、ぜひアストロズに勝ってもらいたい」と話した[ 98] 。斎藤は2006年 から2008年 までドジャースに在籍していたため「OBとしては、今年こそはトロフィーに手が届くのではないかと思って」観ていたといい、またアストロズについては、先発投手をリリーフに投入する戦いぶりを自身も出場した2013年の日本シリーズ での東北楽天ゴールデンイーグルス に重ね合わせた[ 99] 。
キューバ
(奥から手前へ)アメリカ合衆国大統領 バラク・オバマ 、キューバ国家評議会議長 ラウル・カストロ 、キューバ人民権力全国会議 議長エステバン・ラソ・エルナンデス (スペイン語版 ) 。キューバの首都ハバナ で2016年3月、タンパベイ・レイズ 対キューバ代表 の親善試合を並んで観戦している。この翌年、キューバではおよそ60年ぶりにワールドシリーズがテレビ中継された
キューバ では、国営ラジオ・テレビ協会 傘下のチャンネル "テレ・レベルデ (スペイン語版 ) " で1日遅れの録画中継が放送された。同国においてシリーズ中継がテレビ放送されたのはおよそ60年ぶりとなる[ 100] 。
キューバは1959年1月の革命成立 とその後の社会主義 的政策により、アメリカ合衆国 との国交 を断絶された。革命指導者フィデル・カストロ は首相 就任後の1962年1月、スポーツのプロ制度 を廃止した[ 101] 。これにより、キューバ国内の選手は国家公務員 としてプレイするステート・アマ となった。一方、アメリカ合衆国は経済制裁 を発動した。対敵通商法 (英語版 ) の適用によって合衆国企業とキューバ人との商取引は原則として禁じられ、キューバ人が適用除外となるためには、財務省 傘下の外国資産管理局 (英語版 ) による他国永住権 保持認定が求められた[ 102] 。その結果、キューバの野球選手はMLB球団と契約したければ、国を捨てて亡命 することが必要になった。キューバのメディアは亡命選手を時に糾弾し、時に存在していないかのごとく黙殺した[ 103] 。こうして国内テレビ局によるMLB中継は途絶えた。一部の野球ファンは20年ほど前から、業者に月額8兌換ペソ を支払い、海外のMLB中継番組を違法視聴するようになっていた[ 104] 。
2009年、バラク・オバマ のアメリカ合衆国大統領 就任以降、両国関係の改善が模索された。国内テレビ局によるMLB中継は2013年に始まった[ 105] 。放送は、日曜日のみの週1回から日曜日・水曜日・金曜日の週3回へと拡充していったが、亡命選手を抱える球団の試合は除外された[ 100] 。亡命選手の扱いは難解な問題だった。しかし "キューバの雪解け " と称される両国の国交正常化を受け、2015年12月にはヤシエル・プイグ やホセ・アブレイユ ら4人の亡命選手が、クレイトン・カーショウ ら他国選手とともにMLB親善使節団の一員としてキューバを訪問した[ 106] 。2016年3月にはオバマのキューバ訪問に合わせて、同国首都ハバナ のエスタディオ・ラティーノアメリカーノ でタンパベイ・レイズ とキューバ代表 の親善試合が開催され、その模様はキューバ国内でもテレ・レベルデで中継された[ 107] 。この試合ではレイズのデイロン・ヴァローナ が、キューバからの亡命後に同国開催試合に出場した史上初の選手となった[ 108] 。
2017年10月になると、キューバのメディアでは亡命選手が肯定的に触れられるようになった。ナショナルリーグ優勝決定戦 の第1戦は、亡命選手のプイグがドジャースの一員として出場していたにもかかわらず、テレ・レベルデで4日後に録画中継された[ 109] 。また、共産党 中央委員会の機関紙 『グランマ 』では、プイグやユリ・グリエル 、アロルディス・チャップマン ら亡命選手の活躍が称賛された[ 103] 。そして今ワールドシリーズにはプイグやグリエルが出場し、その模様が1日遅れで放送された。こうした姿勢転換の理由のひとつが、キューバ国内における野球人気の低落傾向である[ 110] 。国内リーグ "セリエ・ナシオナル・デ・ベイスボル " はトップ選手の相次ぐ亡命で魅力を失い、亡命選手が出場するMLBの試合は放送がされない。そのためテレビでは欧州サッカー 中継が放送されて人気を博すようになり、野球は国技 の座を失いつつあるという[ 105] 。また、政府による亡命選手関連情報の遮断が難しくなってきたのも、理由として挙げられる[ 111] 。
脚注
注釈
出典
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関連項目
外部リンク
球団 歴代本拠地 文化 永久欠番 ワールドシリーズ優勝(2回) ワールドシリーズ敗退(3回) リーグ優勝(5回) できごと 傘下マイナーチーム
球団 歴代本拠地 文化 永久欠番 ワールドシリーズ優勝(0 8回) ワールドシリーズ敗退(14回) リーグ優勝(25回) できごと 傘下マイナーチーム ライバル関係