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死刑 (しけい、英語 : capital punishment )は、対象者(死刑囚 )の生命を奪い去る刑罰 である。暴力的な表現を比較的控えられるよう、「極刑 ( きょっけい ) 」あるいは「処刑 ( しょけい ) 」とも表現される。処刑とは「刑」に「処」すことなので必ずしも死刑とは限らないが、一般的に「処刑」の単語は死刑のみで使われる。なお、刑罰の分類上は生命刑に分類される。
概要
日本 では現在、絞首刑 で行われている。現在の多くの死刑存置国ではおおむね人命を奪った犯罪や国家反逆罪 、未遂罪に対しても死刑が適用されている。一部の犯罪に対する刑罰を厳罰化している国々では、生命・身体の脅威になる犯罪 (麻薬 ・覚醒剤 などの使用、製造、人身売買 など)や、生命を奪わない犯罪(汚職 、通貨の偽造 、密輸 など)などにも死刑が適用される場合がある。
その一方、1989年 12月15日 に死刑廃止を推進するため自由権規約第2選択議定書 (死刑廃止議定書)が国際連合総会 で採択された。2022年 時点で、ヨーロッパ 、南アメリカ 、カナダ やオーストラリア などの112ヶ国で全ての犯罪に対して死刑は廃止されている。また一般犯罪においては死刑を廃止しているが、戦時犯罪 行為にのみ死刑を定めている国が9ヶ国ある。ブラジル やイスラエル がそれに当たり、その内5ヶ国がラテンアメリカ 諸国である。
一方で、日本を含むアジア 諸国(死刑を廃止している中央アジア やブータン 、ネパール 、カンボジア 、モンゴル は除く)や宗教的に応報が原則とされる中東およびアフリカ大陸諸国[ 注釈 1] 、そして欧米文化圏では例外となるアメリカ合衆国 の連邦政府及び軍隊と27州(州数は2021年4月時点[ 1] [ 2] 。ネブラスカ州 議会は2015年 に死刑を廃止したが、2016年 に復活させた[ 3] 。)など78ヶ国で死刑制度が存置されている。それとは別に、事実上 廃止している国[ 注釈 2] が23ヶ国あり、韓国 やロシア がそれらの国にあたる。アムネスティ・インターナショナル では、事実上廃止国も含め死刑廃止国を144ヶ国としている[ 4] [ 5] 。
そして、事実上廃止している国を除いた死刑存置国55ヶ国の内、2014年 ~2023年 の間に死刑執行された国は36ヶ国である。更にその中で、この期間中に死刑執行があった年が5年以上あった国は22であり、死刑を存置し死刑廃止の政策や慣習を持っていないと思われる国であっても、死刑の頻度が違い、そもそもここ10年の間に執行がない国が特にラテンアメリカ にある。そして、前述の22ヶ国の内、地域別では15ヶ国がアジア 、5ヶ国はアフリカ で、アジア・アフリカ以外は、アメリカ合衆国 とベラルーシ となっている。また、国民の大多数が信仰している宗教 の種類で見た場合、イスラム教 が12ヶ国を占める。
そして、2024年 5月29日 のアムネスティ 報告書の調査によれば2023年に世界16ヶ国で少なくとも1,153人の死刑(ただし、中国や北朝鮮、ベトナムやシリア、アフガニスタンでは未発表の為、 2人とカウントして含めていることに留意する。)が執行された。[ 6]
死刑執行された者の約44%は、生命犯ではない薬物関連の犯罪により執行されている。そのほとんどは、イラン(481人)・サウジアラビア(19人)・シンガポール(5人)の3ヶ国で占めており、特にイランは約95%を占める(ただし、薬物関連の犯罪を死刑対象としている中国とベトナムは含まれていない。)。2023年に麻薬犯罪に死刑が科されることについて、アムネスティ・インターナショナルのカラマール事務総長は、死刑にする犯罪は意図的な殺人 を伴う「最も重大な犯罪」に限定すべきであり、自由権規約 第6条第2項違反であると批判した[ 7] 。
死刑の歴史
ジャン=レオン・ジェローム によるローマ時代のキリスト教徒殉教 の絵画。火刑、動物刑の公開処刑が描きこまれている
死刑は、文化の違いにより刑罰の重みを表すものであり、世界各地で死刑執行された記録が残される。石器時代 の遺跡 から処刑されたと思われる遺体 が発見されることもある。
死刑は、身体刑 と並び、前近代 (おおむね18世紀 以前)には重罪を犯した者に課される一般的な刑罰であった。人類 の刑罰 史上最も古くからある刑罰であるといわれ、有史以前に人類社会が形成された頃からあったとされる[ 8] 。また、「死刑」と呼ばれない刑罰により、多くの罪人が「死に至る(ことが多い)刑罰」もあった。
威嚇効果が期待されていたものと考えられており、すなわち見せしめの手段であった事から、公開処刑が古今東西で行われていた。火刑 、溺死 刑、圧殺、生き埋め、磔 (はりつけ)、十字架刑 、斬首 (ざんしゅ)、毒殺、車裂 (くるまざき)、鋸挽き 、釜茹 、石打ち 、電気椅子 など執行方法も様々であった。近年では、死刑存置国の間でも絞首刑 、銃殺刑 、電気椅子 、ガス殺、注射殺(毒殺)・服毒 など、比較的苦痛の少ないと考えられる方法を採用されている。刑罰の歴史上では文明化と共に死刑を制限することが顕著である[ 9] 。
刑罰として死が適用される犯罪行為も、必ずしも現代的な意味における重犯罪に限られていたわけではない。窃盗や偽証といった人命を奪わない罪状を含んだほか、社会規範・宗教的規範を破った事に対する制裁として適用される場合もあった。たとえば、中世 ヨーロッパ では姦通を犯した既婚者女性は原則的に溺死刑に処せられていた[ 注釈 3] 。叛乱の首謀者といった政治犯 に対するものにも適用された。
死刑は、為政者による宗教弾圧 の手段として用いられたこともあり、ローマ帝国時代のキリスト教徒 迫害や、江戸時代 に長崎で行われたキリシタンの処刑 のように、キリスト教徒 の処刑が多数行われていた。一方魔女裁判 のように、宗教者たちによって死に追いやられた人々も多かった。
その後、近代法制度の確立に伴い、罪刑法定主義 によって処罰される犯罪行為が規定され、それに反した場合に限り刑罰を受けるというように限定された。近代法制度下では、どのような犯罪行為に死刑が適用されるかが、あらかじめ規定されている。また18世紀頃から身体を拘束・拘禁する自由刑 が一般化し、死刑は「重犯罪向けの特殊な刑罰」という性格を帯びるようになった。死刑の方法もみせしめ効果を狙った残虐なものから絞首刑など単一化されるようになった。
20世紀中期以降は、死刑を存置する国家では、おおむね他人の生命を奪う犯罪のうち、特に凶悪な犯罪者に対し死刑が適用される傾向がある。ただし戦時犯罪については死刑を容認している国も残されており、上官の命令不服従、敵前逃亡 、外患誘致、スパイ 行為といった利敵行為などに対して適用される場合がある。また、21世紀になっても、国によっては重大な経済犯罪・麻薬密売 ・児童人身売買 ・といった直接に他人の生命を侵害するわけではない犯罪にも死刑が適用されることがあるほか、一部国家[ 10] では、窃盗犯であっても裁判によらず即決で公開処刑される事例が存在する。
死刑の目的
死刑とはいかなる類の刑であるか
ドイツの哲学者イマヌエル・カント は「刑罰は悪に対する悪反動であるため、犯した犯罪に相当する刑罰によって犯罪を相殺しなければならない」として「絶対的応報刑論 」を唱えた。これに対して「刑罰が応報であることを認めつつも、刑罰は同時に犯罪防止にとって必要かつ有効でなくてはならない」とする考え方は「相対的応報刑論」という。
日本で、死刑を合憲とした1948年 (昭和23年)の最高裁判例 では、「犯罪者に対する威嚇効果と無力化効果(隔離効果)による予防説に基づいて合憲」としており、応報刑的要素についての合憲性は排除されている。なお、予防説では「死刑は一種の必要悪であるとして、犯罪に対する反省もなく、改善不能で矯正も不可能な犯罪者は社会防衛のために死刑にするのもいたしかたない」との死刑存置派からの論拠がある[ 11] 。
死刑の法的根拠
刑罰は応報的な面があるのは事実であるが、死刑が社会的存在を消し去るものであるため、死刑が近代刑罰が忌諱する応報的な刑罰ではないとする法学的根拠が必要とされている。一般予防説 に従えば、「死刑は、犯罪者の生 を奪うことにより、犯罪 を予定する者に対して威嚇をなし、犯罪を予定する者に犯行を思い止まらせるようにするために存在する」ことになる。
特別予防説 に従えば、「死刑は、矯正不能な犯罪者を一般社会に復して再び害悪が生じることがないようにするために、犯罪者の排除を行う」ということになる。しかし、より正確に「特別予防」の意味をとると、「特別予防」とは犯罪者を刑罰により矯正し、再犯を予防することを意味するため、犯人を殺してしまう「死刑」に特別予防の効果はない。仮釈放のない絶対的終身刑 にも同様のことがいえる。
日本やアメリカなど、死刑対象が主に殺人以上の罪を犯した者の場合、死刑は他人の生命を奪った(他人の人権・生きる権利を剥奪した)罪に対して等しい責任(刑事責任)を取らせることになる。
一般的な死刑賛成論者は予防論と応報刑論をあげるが、応報論の延長として敵討 つまり、殺人犯に対する報復 という発想もある。近代の死刑制度は、被害者 のあだ討ちによる社会秩序の弊害を国家が代替することでなくす側面も存在する。国家の捜査能力が低い近代以前は、むしろ仇討ちを是認あるいは義務としていた社会もあり、それは被害者家族に犯罪者の処罰の責任を負わせて、もって捜査、処罰などの刑事制度の一部を構成させていたという側面もある。
殺人などの凶悪犯罪では、裁判官が量刑を決める際に応報は考慮されている。基本的には近代 刑法 では応報刑 を否認することを原則としているが、実際の懲役刑の刑期の長短などは被害者に与えた苦痛や、自己中心的な感情による犯行動機があるなど酌量すべきでないなど、応報に基づいて行われている。ただし、死刑の執行方法は被害者と同様(たとえば焼死させたからといって火あぶりに処すなど)の処刑方法でなく、「人道的」な方法が取られる。
日本では日本国憲法 下で初めて死刑を合憲とした判決(死刑合憲判決 、最高裁判所 昭和23年3月12日大法廷判決)において、応報論ではなく威嚇効果と無力化効果(隔離効果)による予防説に基づいて合憲 とされた。
抑止効果
個別の刑罰の特別抑止(再犯抑止)効果を除いた一般抑止効果は、死刑や、終身刑およびほかの懲役刑も含めて、統計上効果が実証されていない。一般論として、死刑反対派は「死刑による犯罪の一般抑止効果の統計的証拠がないこと」、死刑賛成派は「死刑代替刑による威嚇効果が十分でないこと」を指摘する。抑止効果の分析方法には地域比較と歴史的比較がある。地域比較では国や州の制度の違いによって比較が行われる。
地域比較としては、アメリカ合衆国の1960年から2010年までの、「死刑制度がない州・地域」と「死刑制度がある州・地域」の殺人発生率を比較(死刑がない州地域とある州の数は時代の進展とともに変化している)すると、死刑制度がある3州の殺人率の平均値は死刑制度がない州や地域と、いずれの年度も近似値であり統計上有意な差異は確認されていない[ 12] [ 13] [ 14] [ 15] [ 16] [ 17] [ 18] [ 19] 。
主要工業国(先進国・準先進国)で死刑を実施している国としては、日本、アメリカ合衆国、シンガポール、台湾などがあるが、アメリカ合衆国の殺人率は先進国の中では高く他国の殺人率は低い[ 20] [ 21] [ 22] [ 23] [ 24] ので、個々の国の殺人率は死刑制度の有無や刑罰制度の重軽により決定されるわけではなく、殺人に対する死刑の一般抑止効果としては、国や州や地域別の比較には意味がないとの指摘もある。
時代的比較では、死刑が廃止された国での廃止前・廃止後を比較する試みがされる。しかし様々な制度や文化、教育、経済など様々な社会環境の変化も伴うため、分析者によってさまざまな結論が導き出されており、それだけを取り出して検討するのは困難である。ただし現段階においては、廃止後に劇的に犯罪が増加・凶悪化した例はこれまでにはなく、また劇的に犯罪が減少した例もない。
精神科医 ・作家 の加賀乙彦 は著書『死刑囚と無期囚の心理』の中で、確定死刑囚44人を調査した結果、犯行前や犯行中に自分が犯している殺人行為によって死刑になるかどうかを考えた者はいなかったと報告している。この結果を見て、犯行後に死刑を回避するため目撃者さえ殺害したものまでいたため、無我夢中に殺人をしたものに対する犯罪抑止力はほとんど期待できないと結論付けた。ただし、死刑の可能性を考慮して殺人行為を思い止まった者は、当然、死刑囚にはならないので、死刑の抑止力が働かなかった者だけを例にあげて死刑の抑止力がないと主張するのは無理がある。
自分自身の生命すら省みない自暴自棄な者や、行政機構による自身の殺害 を望む自殺志願者、殺人による快楽のみを追い求める自己中心的な、いわゆる「シリアルキラー 」には抑止力が働かない例がある。アメリカでは、死刑制度のある州でわざわざ無差別に殺人を犯す者、死刑廃止州で終身刑で服役している囚人が死刑存置州で引き起こした殺人事件を告白し自ら望んで死刑になる者が存在する。例えば、死刑制度のないミシガン州 から死刑存置州のイリノイ州 に転居して8人を殺害したリチャード・スペックや、死刑廃止州のミネソタ州 と死刑存置州のアイオワ州 の双方で殺人を犯したチャールズ・ケリーやチャールズ・ブラウンはいずれもアイオワ州で裁判を希望して死刑を受け入れたという。また、死刑執行直前になってもアルバート・フィッシュ は「最高のスリル」と待望していたとの説があるが、彼のようなシリアルキラーは他人の生命ばかりか自身の生命の保持すら関心がないので、死刑になることを恐れないなど、自己保身のために犯行を躊躇することはない。アメリカのシリアルキラーのみについていえば死刑の威嚇効果は期待できない[ 25] 。
作家石川達三 は、著書『青春の蹉跌 』の中で死刑存続論の論拠として
「人を殺した者は、彼も亦生命を奪われねばならない」という応報的法的確信
威嚇的効果の期待
犯罪者の完全隔離
を揚げ、「(死刑は)当然廃止せられるべき」であるが「直ちにこれを廃止するためには、社会の実情がなお整っていない」と主人公に言わせている。
死刑の方法
2022年時点で、事実上廃止国を除いた55ヶ国の死刑存置国で行われている、処刑方法は以下の通り。
一覧
絞首
日本 、韓国 、北朝鮮 、 マレーシア 、エジプト 、イラン 、ヨルダン 、イラク 、パキスタン 、バングラデシュ 、シンガポール 他
韓国 は、1997年 12月30日 に23人を死刑執行してから行われておらず、事実上死刑廃止国として扱われている。
電気椅子
米国 アラバマ州 、フロリダ州 、サウスカロライナ州 、アーカンソー州 、ケンタッキー州 、テネシー州 、オクラホマ州 、ミシシッピ州 。
ただし、州によって条件が異なり、アラバマ州、フロリダ州、サウスカロライナ州は処刑対象者が薬殺刑を選択できるが、アーカンソー州 (1983年 7月3日 )、ケンタッキー州 (1998年 3月30日 )、テネシー州 (1999年 [ 26] )、ミシシッピ州 (1984年 6月30日 )の場合は、死刑判決がカッコ内の年月日以前に受けた場合でないと、選択できない。
更にオクラホマ州 は、薬殺刑の執行が不可能な場合にのみ銃殺か電気処刑の選択が出来るように運用されている。
そして、ネブラスカ州 は、かつて電気処刑 による死刑執行が行われたが、2008年 2月に同州最高裁判所が憲法違反判決を出したため、翌年に、薬物注射による死刑に切り替えている[ 27] 。
ガス室
米国 アリゾナ州 、カリフォルニア州 、ミズーリ州 、ノースカロライナ州 。ただし処刑対象者が薬殺刑を選択できる。
コロラド州 、メリーランド州 は、かつてガス殺刑も選択すれば執行できたが、前者は2013年に、後者は2020年に死刑が廃止された。
またミシシッピ州 もガス殺刑を選択できたが、1998年に選択から削除されている[ 27] 。
そして米国国内で、1977年の死刑再開以降、ガス殺刑で執行されたのは11件であり、1999年 3月3日 のアリゾナ州でのドイツ国籍を有するウォルター・ラグランド の執行を最後に米国国内で行われていない。
薬殺
中華人民共和国 (主に経済犯罪に対して。ただし、以下の北京を始めとした一部地域では、罪種問わず。)、タイ王国 、ベトナム 、米国の連邦・軍・死刑制度存置州
中華人民共和国において、2020年12月時点で、昆明 ・長沙 ・成都 ・北京 ・深圳 ・上海 ・広州 ・南京 ・重慶 ・杭州 ・瀋陽 ・大連 ・鞍山 ・平頂山 ・焦作市 ・武漢 ・黒竜江省 ・ウルムチ で薬殺刑が完全導入されており、大部分は都市である。そして、地方人民法院 によって、死刑執行方法の運用が異なり、財政支援がないことや無用なトラブルを避けることを理由に薬殺刑に消極的になっている所がある。その為、同じ汚職の罪で、ある者は銃殺刑により施行され、別の者は北京で執行された為、薬殺刑となったケースが生じ、不公平さを露呈している[ 28] 。
窒素ガス吸入
米国・アラバマ州 で2024年 1月に世界で初めて執行された。マスクを通して高重度の窒素ガス を体内に最長15分間送り込まれ、低酸素症 を誘発させ死亡させるものとなっており、薬殺刑に用いる薬剤の入手が困難になったための代替の処刑方法として、アラバマ州、オクラホマ州 、ミシシッピ州 の3州で死刑執行方法として認められている[ 29] 。
初めて執行された当該死刑囚は2022年に薬物注射による処刑に失敗していたため、今回窒素ガスによる処刑が試みられることとなったが、一部の医療専門家や国連の人権高等弁務官側から「死刑囚が激しく痙攣したり、死に至らずに植物状態になったりするなど、さまざまな悲惨な事態を引き起こす恐れがある」「国際人権法が禁止する拷問やその他の残虐で非人道的な処遇、または尊厳を傷つける処遇に当たる可能性がある」と処刑の停止を求めていた。死刑囚側が起こした執行の差し止めを連邦最高裁が却下したため、2024年1月25日 、アラバマ州アトモアのホルマン矯正施設で初の窒素ガス吸入による死刑が執行された。窒素ガス吸引後、死刑囚は身をよじらせ、呼吸が荒い状態が約5分間続き、死に至ったとされる[ 30] 。
銃殺
ベラルーシ 、中華人民共和国(主に一般犯罪に対して。ただし、北京を始めとした一部地域は、罪種問わず薬殺刑)、キューバ 、北朝鮮 、ソマリア 、インドネシア 、イラン 、イエメン 、アフガニスタン ・アメリカ合衆国ユタ州・オクラホマ州・ミシシッピ州・サウスカロライナ州[ 31] 、死刑を実施するすべての国で死刑囚の身分が現役軍人の場合。
日本でも戦前 には陸軍 や海軍 の軍法会議 [ 32] で適用される場合があった。
また、アメリカでは2023年5月時点で前述の4州のみあるが、あくまでも薬殺刑が執行不可能である場合にのみ執行される。
1977年の死刑執行再開以降、アメリカ国内で銃殺刑に処されたのが3件のみであり、全てユタ州で行われていた。また、サウスカロライナ州で後述の法律により、2022年 4月29日 に銃殺刑が行われる予定であったが[ 33] 、2022年4月20日 にサウスカロライナ州最高裁判所により、執行を一時停止している[ 34] 。
死刑囚ロニー・リー・ガードナー の希望により銃殺刑が、2010年 6月18日 に行われ、この執行を最後にアメリカ国内では行われていない[ 35] 。
また、ユタ州では、2004年 5月4日 以降、銃殺刑を選択することを禁じられたが、2015年3月23日 に薬殺刑の執行が不可能である場合に限って認められることとなった[ 36] 。そして、2021年 5月14日 のサウスカロライナ州で、死刑執行用の薬物が入手できず執行出来ない状況を打破する為、電気椅子だけでなく、銃殺刑も薬殺刑が執行不可能である場合に選択できるような法律が成立した[ 37] 。
イエメンのフーシ 派勢力支配地域では、治安要員による銃殺刑後に、クレーンにより銃殺刑後の死体が吊るされる[ 38] 。
キューバは2003年 、イランは2008年 、インドネシアは2016年 を最後に銃殺刑での執行は行っておらず、キューバとインドネシアは、その年を最後に執行自体行っていない。
斬首
サウジアラビア 、ナイジェリア 北部(特定の種類の犯罪でシャリーア 裁判所で死刑判決を下された場合)[ 39]
イランも斬首刑が行われていたが、2001年 を最後に執行されていない。また、ナイジェリアのシャリーア裁判所では不倫 や殺人 、同性愛 行為に対し死刑判決を下してきたが、現在までに死刑が執行されたことはない[ 40] 。
石打ち
アフガニスタン 、アラブ首長国連邦 、イエメン 、イラン 、サウジアラビア 、スーダン 、ブルネイ 、ナイジェリア 北部、モーリタニア [ 39]
シャリーア の刑罰 として、主に不倫 や同性愛 行為をした場合に行われる。 ただし、アラブ首長国連邦、ナイジェリア北部は執行された例がなく[ 40] 、イエメンも滅多に執行されることはない。また、ブルネイは国際批判により、死刑執行自体を2019年 5月5日 より一時停止している。そして、モーリタニアも1987年 の執行を最後に、死刑の執行は行われていない。更に、アフガニスタンは2001年のタリバーン 政権崩壊以降、少なくとも2021年のタリバーンの武力によるアフガニスタンの全土掌握がなされるまで、同性愛を理由とした死刑執行はされていない[ 41] 。
その他にも、北朝鮮にてハンマー による撲殺刑が行われたケースもある[ 42] 。
公開処刑
イラン[ 43] 、北朝鮮、サウジアラビア、ソマリア、イエメン(フーシ 派勢力支配地域[ 38] [ 44] )などで行われる。
また、中国では以前は公開処刑がテレビで放送されていたほか、バスに死刑執行(薬殺刑)設備を積んだ移動死刑設備がある。
ギャラリー
イギリスでの絞首台と縄(絞首刑)
電気椅子(電気処刑)
ガス室(ガス殺刑)
致死薬注射(薬殺刑)
メキシコでの銃殺刑
斧を用いた斬首刑に処される、
ジャックリーの乱 の指導者たち
死刑執行人
死刑の執行は罪人を殺すという行為を実際に行う者で死刑執行人 と呼ぶ。
ヨーロッパ諸国や明治時代以前の日本では、中世時代から死刑執行を業務とする死刑執行人が存在していた。
アメリカや明治以降の日本などでは刑務官が行っている(なお、ヨーロッパ諸国では死刑は廃止されているため、死刑執行人も現存しない)。
各国の死刑
死刑執行数順位
(参考)19世紀のヨーロッパ諸国(イギリスは別途、18世紀 後半も含めた期間のデータ)及び日米の死刑宣告数(日米除く)及び死刑執行数
ヨーロッパ諸国の死刑宣告数及び死刑執行数は、1876年(明治9年)10月13日に行われた元老院 会議の改定律例249條1項改正ノ件(號外第16號意見書)第3議会における細川潤次郎 の発言による[ 51] 。
プロイセンの死刑廃止年と最後の死刑執行年は、どちらも東ドイツ である。
1770年~1830年に行われたイギリスの死刑宣告数及び死刑執行数は、「死刑の在り方についての勉強会」 の添付資料による[ 52] 。
日本の死刑執行数 は、明治6年政表[ 53] と日本政表第2号[ 54] 及び昭和43年版白書[ 55] と1872年の死刑に関する旧日本陸軍の記録[ 56] [ 57] [ 58] と第49回陸軍省統計年報[ 59] と明治22年版・明治26年版・明治32年版の海軍省報告[ 60] [ 61] [ 62] に有る1872年(明治5年)~1900年(明治33年)の中で、最多年(1872年[明治5年])と英照皇太后 崩御による恩赦[ 63] により死刑執行が少なかった最少年(1897年[明治30年])及び1890年代 の累計死刑執行数と1年平均死刑執行数を掲載している。 ただし最多年の死刑執行数は、鞠山騒動 によりこの年の4月3日 に敦賀県 の裁判で自裁が下され自裁した4人[ 64] と加賀本多家 旧臣の敵討ち (明治の忠臣蔵と言われている。本多政均 暗殺事件に関わった人物らを加賀本多家旧臣ら15人により殺される。また、1873年 (明治6年)2月7日 布達の太政官第37号「復讐禁止令 」が出される以前の最後の仇討ちである。)により、この年の11月4日 に石川県 刑獄寮の裁判で自裁が下され自裁した旧臣12人、キリスト教 信仰を理由に11月25日 の京都で秘密裏に獄内で死刑執行された市川栄之助 (公式発表では獄死)がいるが、それら17人の死刑執行は含まれていない[ 65] 。また、1894年 の旧日本海軍の死刑執行数も不明のため、含まれていない。
アメリカはNPO団体『死刑情報センター(Death Penalty Information Center)』の「EXECUTIONS OVERVIEW Executions in the U.S. 1608-2002: The Espy File」[ 66] とブリタニカ による運営サイト「ProCon.org 」の「US Executions」の1825年~1899年の間のデータである[ 67] 。
アジア
アジア (日本を除く)では中華人民共和国やサウジアラビア、イランなどの死刑執行数が多い。またシンガポールは厳罰 主義であり、軽微な触法行為に対しても刑罰を加えていることで有名である。また北朝鮮では裁判によらない即決による公開処刑が行われているとの報道もある。なお、アジア諸国で死刑存置国はイスラム教国や東アジアに多い。
2014年~2023年の間にアジア諸国で死刑執行のあった国は下表より、推定も含めて26ヶ国あった。その内11ヶ国は執行のあった年は10年中5年未満であった[ 注釈 4] 。また、5年以上執行のあった16ヶ国の内、国民の大多数がイスラム教 を占める国・地域の10ヶ国、漢字文化圏 5ヶ国及びシンガポール(儒教 の倫理観が根強い地域)であった。
前者に属する諸国の中で、イラン ・イラク ・サウジアラビア が数十~数百の執行を行っている。一方で、これら3ヶ国と同じ中東諸国でもバーレーン ・ヨルダン ・クウェート ・オマーン ・カタール ・アラブ首長国連邦 は、死刑執行の頻度が少なく、ヨルダンを除き1桁の執行である。また、パレスチナ は死刑執行の頻度が多いが、基本1桁の執行であり、2018年~2021年の4年間は死刑執行が無かった。なお、パレスチナの死刑は、ヨルダン川西岸地区 (実質アッバス 政権が統治[ 82] [ 83] )では2003年以降は執行が行われておらず、表中にある死刑執行は全てガザ地区 (実質ハマース が統治)で行われた[ 84] [ 39] 。
また、他のイスラーム教が多くを占めるマレーシア とインドネシア も1桁の死刑執行を行っていた。マレーシア は2018年10月に死刑廃止の検討を表明し、一時停止しため2018年以降執行されておらず[ 85] 、2023年7月 には殺人やテロなど11の重罪で有罪になった場合、自動的に死刑となる制度が廃止され、同年9月12日 には過去の死刑判決を見直す法律が施行された[ 86] [ 87] 。この法律により、2024年 5月29日 に開かれたマレーシア連邦裁判所の再審により、麻薬密売により2015年に死刑判決が確定された日本人女性が禁錮30年へ減刑されている[ 88] [ 89] 。
インドネシア は、2017年以降執行されておらず、2009年~2012年の間は一時停止していた。 そして、パキスタン は2015年 に推定341人という3桁の死刑執行が行われていたが、2016年~2019年は2桁の執行であり、2020年以降は執行されておらず、2023年7月には薬物関連の犯罪に対して死刑廃止する法律が施行されている(ただし、不同意性交は殺人を伴わなくても対象となる。)。なお、2008年 12月~2014年 11月の間は、テロ行為を含めた一般刑法犯に対する死刑執行を一時凍結していた(ただし軍 による執行であることを理由に、2012年10月26日 に上官含め3人を殺害した兵士が絞首刑により執行されている[ 90] 。)[ 91] [ 92] 。
漢字文化圏の場合、世界で最も多いと推定され、数千単位で執行される中国のみならず、推定であるが北朝鮮 ・ベトナム においては、3桁の執行が行われていた。そして、3ヶ国とも共産主義政党 が事実上の一党独裁 を行っている。ただし、共産主義政党が事実上の一党独裁を行っている国でも、ラオス は1989年 以降死刑執行を行っておらず[ 93] 、キューバ も2003年 を最後に執行されていない。
そして、2023年 5月16日 のアムネスティ 報告書の調査によれば2023年に世界16ヶ国で少なくともは 1,153人の死刑(ただし、中国や北朝鮮、ベトナムやシリア、アフガニスタンでは未発表の為、 2人とカウントして含めていることに留意する。)が執行された。最多の中国は、執行数を公表していないが、少なくとも3,000人(2023年推定)は執行されていると推定されるため、年が違えどアムネスティ・インターナショナルの死刑執行推定数に含めた場合、世界の死刑執行数の約72%を占めることとなる[ 45] [ 46] 。世界人口の5分の1が中国に集中していることを考慮しても、世界の主要国の中では、死刑執行率も格段に高い。そして中華人民共和国では、殺人だけでなく麻薬犯罪や汚職事件で有罪になった場合も死刑になる。ただし、死刑になる最も多い犯罪は、主に殺人と薬物関連による犯罪である[ 94] 。また、2008年の北京オリンピック 開催直前までは公開処刑が行われていた。中国政府は「犯罪抑止力のために必要だ」と主張しているが、中国の人権問題 として国際社会の批判を受けている。
2014~2023年の10年間に死刑執行が行われたアジア諸国の執行数 [ 4] [ 94] [ 95] [ 39]
国名
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
漢字文化圏 (共産国)
中国
2,400
2,400
2,000
2,200
2,000
-
3,000+
3,000+
3,500
3,000+
北朝鮮
2+
3+
64+
5+(?)
2+
8+
18+
5+
4+
12+[ 96] [ 97] [ 98]
ベトナム
429+ (2013年~2016年)
-
85+
-
-
0?
-
-
漢字文化圏 (その他)
日本
3
3
3
4
15
3
0
3
1人
0
台湾
5
6
1
0
1
0
1
0
0
0
東南アジアとインド
シンガポール
2
4
4
8
13
4
0
0
11
5
ミャンマー
0
0
0
0
0
0
0
0
4[ 76] [ 77] [ 78]
0
タイ
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
インド
0
1
0
0
0
0
4
0
0
0
イスラーム圏(東南アジア)
バングラデシュ
0
3
10
6
0
1
2
5
4
5
インドネシア
0
14
4
0
0
0
0
0
0
0
マレーシア
2+
-
9
4
0
0
0
0
0
0
イスラーム諸国(中央アジア)
アフガニスタン
6+
1
6
5
3+
0?
0
0+
1
+
パキスタン
7
341
87
60
14
14
0
0
0
0
イスラーム諸国(中東の人口1500万以上の国)
イラン
801+
1,052+
545+
524+
285+
280+[ 99] [ 100]
267+[ 99] [ 100]
366+[ 101] [ 102]
582+[ 99] [ 100]
853+
イラク
61+
26+
101+
125+
52+
100+
45+
17+
11+
16+
イエメン
22+
8+
0
2+
4+
2+
5+
14+
4+
15+
サウジアラビア
90+
158+
154+
146+
149+
184+
27
69
196
172
シリア
7+
-
-
-
-
-
-
24+
-
+
イスラーム諸国(中東の人口1500万未満の国)
バーレーン
0
0
3
0
0
3
0
0
0
0
ヨルダン
11
2
0
15
0
0
0
0
0
0
クウェート
0
0
0
7
0
0
0
0
7
5
オマーン
0
2
0
0
0
0
4
0+
0
0
パレスチナ
27+
0
3
6
0
0
0
0
5
+
カタール
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
アラブ首長国連邦
1
1
0
1
0
0
0
1+
0
0
死刑執行数は、一部の例外を除きコーネル大法科大学院の死刑問題研究グループが出しているデータを用いている。2021年・2022年は、コーネル大法科大学院の死刑問題研究グループとアムネスティ・インターナショナルが出しているデータで執行数が多い方を採用している。
中国の2020年~2023年の死刑執行数は、アメリカを拠点とする人権団体「中米対話基金 」が発表した2020年度~2023年度報告書[ 103] [ 104] [ 105] [ 45] から用いている。
北朝鮮の2023年はデイリーNK で「死刑」、「公開処刑」で検索して2023年中に死刑が執行されたことを確認できた人数と東京新聞の記事(2023年10月11日18時4分発表)で確認できた1人を加えた数である、
ベトナムの死刑執行人数の「429+」は、2013年~2016年の間の死刑執行数であり、年ごとの按分が不明のため、そのままの値で記載している。
イランは、いくつかの団体が出した推定数の中で、最も多い推定数のデータを用いている。また、2019年~2022年のセルにある脚注のURL先をクリックする際、絞首刑の画像を閲覧する可能性があることに注意する。
シリアの死刑執行人数に裁判を経ずに執行された者は含まれていない。アサド 政権時にサイドナヤ刑務所 において2011年から2015年までの間に約1万3,000人が裁判を経ずに死刑執行され[ 106] 、2018年から2021年の間に少なくとも拘束者500人が公平な裁判も無く死刑執行されたと推定されている[ 107] 。
表の「+」は、死刑執行数が、あくまでメディア 等で確認された執行数である為、データよりも多く行われた可能性があることを示している。
表の「?」は、北朝鮮の場合は、司法手続きをした上での執行であるか不明である為、?としており、アフガニスタン(2019年)とベトナム(2021年)は、執行が無かったか確証が無いため?としている。
表の「-」は、執行数は不明である。
ミャンマーでは、2021年に起きたクーデター 発生から2022年1月26日 までの約1年間でヤンゴン管区 内において市民など101人が死刑判決を受けている[ 108] 。
日本
日本において死刑判決を宣告する際には、永山則夫連続射殺事件 で最高裁(昭和58年7月8日判決)が示した死刑適用基準の判例を参考にしている場合が多い。そのため永山基準 と呼ばれ、第1次上告審判決では基準として以下の9項目が提示されている。
犯罪の性質
犯行の動機
犯行態様、特に殺害方法の執拗性、残虐性
結果の重大性、特に殺害された被害者の数
遺族の被害感情
社会的影響
犯人の年齢
前科
犯行後の情状
以上の条件のうち、たとえば4項では「被害者2人までは有期、3人は無期、4人以上は死刑」といった基準があるようにいわれるが、実際の判例 では事件の重要性などに鑑みながら決定しており、被害者が1人のみの場合でも死刑の可能性は十分にありえる(詳細は日本における死刑#死刑の量刑基準 を参照)。
中華人民共和国
執行方法は銃殺 刑が基本であるが、薬殺刑を完全導入している地域で死刑執行する場合[ 109] や賄賂 の授受等の経済犯罪(全てではないが)は薬殺刑 で執行される[ 110] 。なお、死刑が適用される犯罪行為としては、賄賂 の授受や、麻薬 の密売や、売春 及び性犯罪 などが挙げられる。しかも、致死の結果が生じない刑事事件でも死刑(または終身刑)が下されることがある。また、「死刑は犯罪を撲滅するための最大の切り札である」と司法当局が確信しているため、死刑の執行が大量に行われている。そのため、暴力による刑事事件だけでなく、「株式相場の混乱」といった経済事件にまで死刑判決が下されたことが実際にある。また、19世紀のアヘン戦争 の教訓から、麻薬の密輸や密売といった薬物犯罪にも死刑が数多く適用されている。実際に、覚醒剤を中国から持ち出そうとした日本人4人にも死刑判決が出され、2010年 4月6日 に1人、同年4月9日 に3人の死刑が執行されたことがある。
汚職は近年では、死刑になることは稀であるが、汚職によって得られた金額の大きさや社会的影響、2012年の第18回共産党大会 以降に行われたものも含まれているか(この大会の一中全会で習近平 が中国共産党中央委員会総書記 に選出された。更に、習近平は「大トラもハエも一緒にたたけ」とのスローガンを掲げ、権力闘争の一面があると指摘を受けながらも反腐敗運動を展開している )によって、死刑判決が下されることがある[ 111] 。
中華人民共和国の刑罰体系では、一部の犯罪に関して下された死刑に執行猶予 が付せられる規定(中華人民共和国刑法43条[ 112] )がある(とはいえ、この執行猶予はいわゆる再教育を目指すものである。実際に反革命行為に対する死刑宣告を受けたものを死刑の重圧をかけて『労働改造』する目的があると言われている。著名な執行猶予付き死刑を宣告されたものに江青 がいる)。
中国における死刑制度の問題点としては、三権分立 が成り立っておらず、量刑の判断基準が政治的な意向に左右されやすいことが挙げられる。しかも、法治主義 ではなく役人らの意向が強く反映されている人治主義 であるため、近代的刑事訴訟 手続が充分に行われていないとの指摘がある。これらの死刑制度の問題点は中国の人権問題 として国際的批判の対象となっている。
実際、2018年 11月20日 に麻薬密輸の罪でカナダ人のロバート・ロイド・シェレンバーグ に遼寧省 大連市 の中級人民法院により懲役15年の刑が下されていたが、控訴後に刑が軽すぎることを理由に差し戻しをされ、2019年 1月14日 に死刑判決が下されている。その後、控訴 したが2021年8月10日 に遼寧省 の高級人民法院(日本の高等裁判所 にあたる)により、棄却されている。背景には、アメリカ合衆国政府の要請によりカナダ政府によって2018年 12月1日 にファーウェイ 最高財務責任者 (CFO)孟晩舟 が逮捕されたことに対する報復が指摘されている。この事件とは別に、スパイ容疑で別のカナダ人2人を逮捕されている[ 113] [ 114] [ 115] 。 また、2020年において2019年コロナウイルス感染症感染拡大防止対策の為に、最高刑が死刑である「公共安全危害罪」を過大解釈し、感染者が隔離治療を拒否して公共の場所に行ったり、公共交通機関を利用した場合も適用されるとし、地方政府によっては病歴や旅行・居住歴などを隠蔽し嘘をついた場合でも適用された。そのため、この罪により逮捕されるケースが生じた。また、この適用を決める過程で議会も通しておらず、三権分立を無視する形で行われている[ 116] 。
更に、2019年コロナウイルス感染症対策として実施が予定されていた移動制限の実務担当者2人を殺害した男性を事件発生から半年足らずで、死刑執行させた。なお、最高人民法院 より、この男性は過去に暴行の罪で服役し、釈放から5年未満で犯行に及んだことにより死刑判決を下すきっかけにつながったことを発表している[ 117] 。
死刑の確定から執行の期間が短く、時として再審 請求の余地が無いことも特徴である。2023年6月22日にビルからレンガを投げ落として通行人を死亡させた男性の裁判の例では、同年中に下級裁判所による死刑判決を経た後、2024年10月21日に中国最高人民法院(最高裁判所に相当)は被告の死刑判決を承認すると即時執行を命じている[ 118] 。
なお、過去にイギリスやポルトガルの植民地 であった特別行政区の香港 とマカオ では、中国への主権返還前に死刑制度が廃止されている。
シンガポール
死刑執行数を公開している国の中で一人当たり死刑執行率が高い国のひとつとして知られ、薬物取引や殺人・強姦などの犯罪に主に適用される。同時に犯罪率が低く治安の良さは世界トップクラスを維持している[ 119] 。2016年 にシンガポール国立大学 が実施した同国での意識調査によると、国民の92%が殺人に対する最高刑を死刑とすることを支持している[ 120] 。
また、2020年に関しては、6年振りに死刑執行が無かった。これは、訴訟を受けて死刑執行が保留になった背景があるが、新型コロナ感染症流行の影響に対する規制も原因の1つと言われている[ 121] 。
そして、2022年 4月27日 に約2年5ヵ月ぶりに執行されることとなった。執行者の知能指数 が69であったため、知的障害 がある者を執行したことに対して、物議が生じた[ 122] [ 123] 。
その後、2023年 7月26日 に2018年 にヘロイン 30.72グラムを密輸した罪で約19年ぶりに女性(執行時年齢:45歳)の死刑執行 が行われた[ 124] [ 125] 。
大韓民国
韓国 は現在、1997年 12月30日 に23人が死刑執行されたのを最後に、金大中 政権 発足以降は死刑の執行命令はない。韓国では死刑執行方法は「絞首刑 」としているが、軍刑法では敵前逃亡 や脱走、抗命罪 に対し最高刑として「銃殺刑 」が規定されている。また国家反逆罪では最高刑は死刑である。犯行時18歳未満の場合、死刑は宣告されず最高懲役 15年に処せられる。また身体障害者と妊婦の死刑は猶予される。
1949 ~1997年 の韓国の死刑執行数 (あくまでも死刑執行が確認された人数である。)
1948-1969
547
1970
1971
1972
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
14
9
34
7
58
0
27
28
0
10
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
9
0
23
9
0
11
13
5
0
7
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
14
9
9
0
15
19
0
23
朝鮮民主主義人民共和国
北朝鮮 では主に1990年代 から続く食糧不足や経済的困窮を背景に起きた事件の殺人犯、刑事犯、経済犯や、北朝鮮を脱出しようとして第三国で逮捕され北朝鮮へと送還されたいわゆる脱北者 、及び国内で反体制活動などを行ったとされる政治犯に対して死刑を行っている。これらは祖国反逆罪、反国家目的破壊・陰害罪などの刑法によって行われる。
第三国に出国した多くの脱北者 の目撃証言や、過去日本のメディアが入手した隠し撮り映像によれば執行方法は銃殺 であり、都市の一部地域を使い公開群集裁判 と呼ばれる公開裁判の一部で行われている。公開群集裁判には開かれる都市の、青少年を含んだ住民が呼び出され見学を強要される。裁判官によって死刑判決文が読まれた後は即処刑が行われる。
執行の形態としては、死刑囚1人に対し4人の執行官が自動小銃を用いて銃殺する。高射砲 や犬を使用する場合もあり、その残虐性から国際社会より人権侵害との批判の声がある[ 126] 。死刑囚はこの時磔 のようにされる事が多い。さらに死刑執行後は周囲の見学者たちに対し死刑囚(の遺体)に石などを投げつけ死刑囚の遺体を更に傷つける事を命令されるという事もあると言われている。処刑は都市部だけでなく強制収容所 内においても行われている。正確なデータは存在しないが、かなり多い頻度でこうした死刑は行われていると言われている。
インド
1980年、インドの最高裁は死刑の判断例を「極めて稀な例」のみと制限したほか、2004年~2007年の間は死刑の執行をしなかった。このまま実質的に廃止されるかに思われたが、2008年、160人以上が死亡したムンバイ同時多発テロ が発生。2012年、実行犯の死刑を執行したことから、死刑に対する議論は活発になった。最近では、不同意性交 にも死刑を適用している[ 127] 。そして、2020年3月20日 午前5時半に2012年に起きた集団レイプ事件 の加害者4人が絞首刑により執行され、インドにとって1993年に起きたボンベイ爆破事件加害者の死刑執行から5年振りの執行となった[ 128] 。2023年現在の死刑囚は、561人存在するという[ 4] 。
中東諸国
人口の大部分がムスリム である中東 諸国では、死刑執行数が多い。インドネシア では銃殺刑が法定刑であるが、イラン やサウジアラビア ではコーラン の教えにある斬首刑(サウジアラビアのみ)や石打刑が行われている。
イランにおける実態については明らかではないが、人口当たりの死刑執行数は世界最多 であると推測される。公開処刑が少なくとも2023年で7件(全員男性)行われており、18歳未満の死刑執行が5件行われている[ 4] 。更に、反政府的傾向を持つ者や政府に抗議する者や少数民族を政治的に弾圧する為に死刑を利用する傾向を強めている[ 129] 。また名誉の殺人 に対する刑罰が軽く、「制度化された暴力」と非難されている[ 130] 。また、背教罪があり国教であるイスラム教 シーア派 とその下位に位置するとされるゾロアスター教 、キリスト教 、ユダヤ教 の存在が認められている宗教以外の信者であるという理由だけで死刑になる可能性があり、実際に執行された例がある。コーラン には、殺人であっても被害者遺族が許した場合には死刑の執行が免除されるとあるため、ムスリム同士の場合は金銭による示談(いわゆる血の賠償金 )で死刑が免除される場合がある[ 131] 。
またサウジアラビア では、出稼ぎ労働者については窃盗などの罪で死刑になる場合もあり、ムスリムと異教徒で刑の軽重に差があるとも言われている。更に、不同意性交の被害者が逆に犯罪者として死刑になる事例も存在する。
2020年に関しては、サウジアラビアは前年の184人から27人と8割半ば近く減少した。この理由に関してサウジアラビア政府側の説明では、薬物関連の犯罪での死刑執行が一時停止された影響によるものとされているが、2019年コロナウイルス感染症流行による社会的混乱 とG20 サミットの自国開催に伴う国際的批判を避けるために、開催期間中は死刑執行しなかったことが原因と見られている[ 132] [ 133] 。その後は増加し、2022年は196人であり、アムネスティ・インターナショナルによれば、1993年 以降で最も多く執行された年でもあった。そして、その内の81人が2022年 3月13日 に重要な経済的標的への攻撃の計画や、治安部隊メンバーを標的とした攻撃または殺害・誘拐・拷問・不同意性交、サウジアラビア国内への武器の密輸などの罪状により死刑執行されている。執行された者の中にはイエメン 人7人とシリア 人1人いた[ 134] 。
ヨーロッパ
過去、イギリスでは、1969年の廃止以降、IRA のテロが多発したため、保守党などから数度死刑復活案が唱えられたことがある。またノルウェー は、1945年にヴィドクン・クヴィスリング を死刑にするために特別に銃殺刑が復活している。1945年5月9日に死刑判決を受け、1945年10月24日に銃殺刑が執行された。
現在、欧州連合 (EU) 各国は、不必要かつ非人道的であることを理由として死刑廃止を決定し、死刑廃止をEUへの加盟条件の1つとしている。また欧州人権条約 第3条で死刑を禁止するとともに、欧州評議会 においても同様の基準を置いている。このため、現EU加盟国の中で死刑制度を存続している国は、1ヶ国も存在しない[ 注釈 5] 。
EU加盟を目指しているトルコ共和国 はイスラム教 国であるが、人権と基本的自由の保護のための条約 の第13議定書に従い死刑制度を廃止した。
ベラルーシ はヨーロッパで唯一の死刑存置国である。そのため、EU非加盟国であり、人権と基本的自由の保護のための条約第13議定書によって死刑を全廃した欧州評議会 から排除されている。
ロシア は、ソ連時代末期の1988年 に当時の民主化と人道主義の観点から、死刑の適用対象から60歳以上の高齢者と経済犯罪を除外した。その後は非常に悪質な故意殺人に対してのみ死刑制度が存置されていた[ 135] 。1996年 の欧州議会加盟時に死刑執行を停止(99年まで執行があったチェチェン共和国を除く)。1999年に憲法裁判所 は、陪審制をすべての地方で導入されるまでの暫定措置として死刑執行停止を決定した。しかし、一部の下級裁判所は死刑判決を継続した。執行停止は2007年初めに期限切れとなり、ロシアが2006年5月に欧州評議会議長国に就任したことをきっかけに、ヨーロッパ諸国から欧州人権条約 の死刑廃止議定書(第13議定書)批准を求める声があがった[ 136] 。ロシアの憲法裁判所は2009年11月19日に、第13議定書を批准するまで死刑判決と執行を禁止すると決定した。これは、メドベージェフ大統領が死刑の廃止を支持していた背景がある[ 137] 。
しかし、ロシア憲法裁判所のワレーリィ・ゾルキン長官は死刑復活の可能性はあるとの認識を示し、廃止の動きは進んでいない[ 138] 。さらに、2022年ロシアのウクライナ侵攻 後には、ロシアは欧州評議会脱退を宣言し[ 139] 、ロシアから幹部が送り込まれているといわれている[ 140] 自称ドネツク人民共和国 はウクライナ軍捕虜に対し死刑判決を出した[ 141] 。
ドイツ は、ヴィルヘルム3世 の時代(1797年 - 1840年)はオーストリア の影響でブルシェンシャフト などの市民活動が弾圧され、1836年の市民蜂起では運動家の学生ら数人に死刑が下された(ドイツにおける死刑 を参照)。
2001年6月、欧州評議会 は、死刑を存続している日米両国に対し2003年1月までに死刑廃止に向けた実効的措置の遂行を求め、それが成されない場合、両国の欧州評議会全体におけるオブザーバー資格の剥奪をも検討する決議を採択した。
アフリカ
アフリカ 54ヶ国のうち2022年 12月25日 時点で24ヶ国が死刑廃止している。また、ブルキナファソ ・赤道ギニア ・ザンビア は通常犯罪のみ廃止している。法的に廃止された国とは別に12ヶ国が事実上の廃止国(過去10年以上執行がなされておらず、死刑執行をしない政策または確立した慣例を持っていると思われる国。死刑を適用しないという国際的な公約をしている国も含まれる)である。合計すると54ヶ国のうち死刑を行っていない国は39ヶ国である。政情が安定している南部諸国における廃止が目立つ。ただし、政情が安定している地域でも、アラブ圏ではイスラム法 の影響もあり死刑存続している国が多い。フランスの文化的影響の強い西部アフリカ諸国は、死刑執行を一時停止しているか、国事犯を除く通常犯罪への適用を行っていない国が多い。
2014年~2023年の間で死刑執行された国はアフリカ諸国では8ヶ国しかなく、その内の赤道ギニア ・チャド ・ナイジェリア は執行された年が単年のみであり(赤道ギニアは2014年1月に殺人罪で9人執行[ 142] 、チャドは2015年 8月29日 の首都ヌジャメナ で38人が死亡した自爆攻撃 を行ったボコハラム 戦闘員10人の銃殺刑執行[ 143] 。後の2020年に死刑廃止、ナイジェリアは2016年の3人の執行[ 144] )、実質5ヶ国(ボツワナ ・エジプト ・ソマリア ・南スーダン ・スーダン )のみであり、ボツワナを除きアラビア半島 の近くに位置する[ 145] 。更に、2016年 ~2022年までの傾向としては、エジプトが最も多く、次いでソマリアであり、エジプトだけで少なくともアフリカ諸国全体の約5割を占め、ソマリアを含めた場合は少なくとも8割を占めており、どちらもイスラム教徒が9割以上を占めている国である。そして2023年においては、アフリカ大陸諸国で執行が確認された国はエジプト・ソマリアの2ヶ国である。ソマリアが最も多く死刑執行されていると推測されており、推定ながらアフリカ大陸諸国全体の約83%に当たる[ 4] 。
エジプトは、2020年に関して、同年9月23日 に起きたアル・アクラブ刑務所で警官4人と受刑者4人が死亡する脱獄未遂事件があった影響で、2019年の32人(推定)から107人(推定)と前年に比べ3倍以上に増加しており、その年の10月と11月だけで57人(内、10月3日 ~10月13日 の10日間で49人)の死刑執行がされた。更に、死刑執行された23人は政治的暴力に関連した事件で有罪とされた人々に対するものであり、拷問や自白の強要がされていると指摘されている[ 129] [ 146] 。その後、人権保護を重視した欧米諸国からの圧力とシナイ半島 北部の反政府勢力抑え込みの成功による治安の安定、第27回気候変動枠組条約締約国会議 招致に向けた印象改善を狙うことを背景に2013年(当初は北シナイ県 のみ対象。その後2017年 4月に発生したコプト教教会爆破テロの発生をきっかけにエジプト全土に拡大)から続いていた非常事態宣言を2021年10月25日 を解除した影響により、2023年は執行数が10年ぶりに10件未満となったが、死刑判決を宣告された者は590人となった[ 147] [ 4] 。
2014~2023年の10年間に死刑執行が行われたアフリカ諸国の執行数 [ 94] [ 95] [ 39]
国名
多くの国民が信仰している宗教
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
北アフリカ 諸国
エジプト
イスラム教
15+
22+
44+
35+
43+
26
107+
83+
24
8
スーダン
イスラム教
23+
3
2
0
2
0?
0?
1+
0
0
東アフリカ 諸国
ソマリア
イスラム教
14+
28+
7
24
13+
13+
20
22
6+
38+
南スーダン
キリスト教
0
5+
2+
4
7+
7
2+
9+
5+
0
その他
ボツワナ
キリスト教
0
0
1
0
2
1
3
3
0
0
チャド
イスラム教及びキリスト教
0
10
0
0
0
0
廃止
赤道ギニア
キリスト教
9
0
0
0
0
0
0
0
廃止(通常犯罪のみ)
ナイジェリア
北部はイスラム教、南部はキリスト教
0
0
3
0
0
0
0
0
0
0
死刑執行数は、一部の例外を除きコーネル大法科大学院の死刑問題研究グループが出しているデータを用いている。2021年・2022年は、コーネル大法科大学院の死刑問題研究グループとアムネスティ・インターナショナルが出しているデータで執行数が多い方を採用している。
表の「+」は、死刑執行数が、あくまでメディア 等で確認された執行数である為、データよりも多く行われた可能性があることを示している。
表の「?」は、執行が無かったか確証が無いため?としている。
表の「-」は、執行数は不明である。
表の赤色はアフリカ諸国の中でその年に推定であるが最も多く執行された国である。「+」が付いている場合は、その数値で比較していることに注意する。
表の黄色はアフリカ諸国の中でその年に推定であるが2番目に多く執行された国である。「+」が付いている場合は、その数値で比較していることに注意する。
ジンバブエ では2005年 に死刑執行人が引退してから後任が決まらない状態が続き死刑が2024年時点でも執行されておらず、2023年時点で収監中の死刑囚は少なくとも59人に及ぶ[ 4] 。2012年には候補者が選定されたものの承認を得られなかった。バージニア・マブヒザ (Virginia Mabhiza) 司法相によると、2017年の死刑執行人の求人では数ヶ月で50人以上の応募が集まったという。AFP の報道ではこの背景としてジンバブエの失業率の高さを挙げており、ある調査ではジンバブエの失業率は90%以上であったと報道した[ 148] 。また、2024年12月31日 には非常事態 時を除き死刑が廃止され、死刑囚約60人が禁錮刑に減刑された[ 149] 。
南北アメリカ
死刑制度があるのは、アメリカ合衆国(連邦法と軍法と27州法)と中米のグアテマラ 、キューバなど少数である。そのうちアメリカは先進国で最大の死刑執行数を記録しているが、多くの死刑執行はテキサス州 で行われており、そのためアメリカのメディアが「死刑の格差」と報道しており、同州でこのような姿勢をニューヨーク・タイムズ は「執行に対する住民の積極的な支持」、ロイター通信 は「犯罪者に厳罰を科すことをいとわない『カウボーイ 気質』のほか、一部で根強く残る人種差別意識がある」と報道した[ 150] 。ただし、2020年はコロナウイルス感染症流行の影響により、執行停止や執行の延期が相次いだことによる執行の減少と、トランプ 大統領 の凶悪犯罪者に対する厳罰 志向による連邦政府による死刑執行を17年振りに再開したことにより、連邦政府が最も多く執行した立法行政司法単位となった[ 151] 。
ラテンアメリカ (南米)諸国の傾向として、2022年末時点で61%の国(33ヶ国中20ヶ国)が一般犯罪に対する死刑を廃止し、45%の国(33ヶ国中15ヶ国)が完全な死刑を廃止している[ 5] 。死刑制度存続国も、2008年 12月19日 にセントクリストファー・ネイビス で妻を殺害した罪でチャールズ・エルロイ・ラプラス が絞首刑により執行されたのを最後に10年以上死刑を執行していない。
米国
米国の州別の死刑制度 死刑廃止州
法律上は死刑制度を維持。ただし、死刑を執行しないという公約をしている州
法律上は死刑制度を維持。ただし、死刑を過去10年以上実施していない州
法律上は死刑制度を維持。ただし、特殊な事情が適用される州
死刑存置州
米国において最初にミシガン州 で死刑が廃止されたのが1847年 と、ヨーロッパの死刑廃止の歴史よりも古い。米国において、死刑を廃止した州や地域は時代の進行とともに増加している。米国は2022年1月時点で、50州、ワシントンD.C.、5自治領、連邦法、軍法、合計58の立法行政司法単位があり、そのうち2022年1月時点で、23州、ワシントンD.C.、5自治領、合計29の立法行政司法単位で法律上死刑が廃止され、27州、連邦、軍隊の合計29の立法行政司法単位で法律上死刑が定められている。
凶悪犯罪の少ない裕福なニューイングランド 諸州や、裕福でこそないが治安が安定している北部内陸州において死刑が行われず、貧しい南部諸州では死刑執行数が多い傾向にある。全米では被告人に対する死刑の宣告ならびに死刑執行は減少傾向にあるが、テキサス州 など死刑執行の盛んな地域もある。また、未成年に対する殺害を伴わない性犯罪 の再犯者への死刑が適用される州法がサウスカロライナ州 、フロリダ州 、ルイジアナ州 、モンタナ州 、オクラホマ州 の5州で成立したが、殺人 を犯していない性犯罪者に対する死刑適用は過酷であり、憲法違反 であると法学者から強く批判されていた。連邦最高裁は2008年6月25日にケネディ対ルイジアナ州事件 で「非道な犯罪であっても、被害者が死んでいない事件で死刑を適用する法律は、残酷な刑罰であり合衆国憲法に違反し無効」という憲法違反判断を下している。そのため、この法律は見直された。
1990年以降の犯罪捜査でDNA鑑定 が導入され、過去に有罪で死刑判決を受けた死刑囚の冤罪 が明らかになり、特に2000年代後半以降では再審 で無罪 になる例が多発している。1973年 から2001年 までに米国国内では96名の死刑囚が釈放されており、特にフロリダ州では21人も釈放されている。同州では、5人の死刑執行が行われる間に2人が無罪放免になったという。
死刑の適用に際して経済的・人種的差別 が存在しているとの指摘もある。これは、優秀で報酬の高い弁護士 を雇用できるほどの経済力を持つ者が司法取引 で減刑される一方で、比較的貧困層の多いアフリカ系アメリカ人 に対する死刑の適用が人口比と比べて多いとの指摘がある。
オセアニア
オーストラリア 、ニュージーランド 共にいかなる場合も死刑を廃止している。ニュージーランドには死刑廃止後、復活させた事があったが、今日は死刑を非人道的として完全に廃止している。島嶼諸国も死刑廃止している。パプアニューギニア は10年以上死刑停止状態が続いた後、2022年1月に死刑制度が廃止された[ 152] 。
各国別の死刑制度の現状については下記ボックスを参照。
東アジア 東南アジア 南アジア 中央アジア 西アジア 東欧 南欧 西欧 北欧 北中米 南米 オセアニア アフリカ
カテゴリ
死刑制度に関する議論
死刑および死刑制度については、人権 や冤罪 の可能性、倫理 的問題、またその有効性、妥当性、人類の尊厳など多くの観点から、全世界的な議論がなされている(詳細は死刑存廃問題 を参照のこと)。議論には死刑廃止論 と死刑賛成論 の両論が存在する。死刑制度を維持している国では在置論 と呼ぶ、廃止している国では復活論と呼ぶ。もちろん死刑の廃止と復活は、世界中で史上何度も行われてきている。
近年では死刑は、前述のように「凶悪事件に対して威嚇力行使による犯罪抑止」、または「犯罪被害者遺族の権利として存置は必要である」と主張される場合がある。ただし前者の「犯罪抑止」としては、統計学および犯罪心理学的に死刑の有用性が証明されたものではなく、存在意義はむしろ社会規範維持のために必要とする法哲学 的色彩が強い。後者の「被害者遺族の権利」としては家族が殺人にあったとしても、実際に死刑になる実行犯は情状酌量すべき事情のない動機かつ残虐な殺害方法で人を殺めた極少数[ 注釈 6] であることから、菊田幸一 など死刑廃止論者から極限られた被害者遺族の権利を認めることに疑問があるとしている。また、いくら凶悪なる殺人行為であっても、その報復が生命を奪うことが果たして倫理的に許されるかという疑問も指摘されている。元々死刑反対派の弁護士で、磯部常治 のように妻子を殺害された後も死刑廃止を支持した者がいる。また、岡村勲 のように妻を事件で失ったことを機に全国犯罪被害者の会 (高齢化で団体の存続が危ぶまれた後2018年6月に解散)を立ち上げた者もいる。
また、死刑執行を停止しているロシア当局によるチェチェン独立派指導者の「殺害」などがあり、死刑制度の有無や執行の有無が、その国家の人権意識の高さと直接の関係はないとの主張も存在するが、死刑制度は民主国家では廃止され非民主国家で維持される傾向にある。地理的には、ヨーロッパ、そして南米の6ヶ国を除いた国々が、廃止している。ヨーロッパ諸国においてはベラルーシ 以外死刑を行っている国はない(ロシア においては制度は存在するが執行は十年以上停止状態であるといわれる。チェチェン を参考のこと)。これは死刑制度がヨーロッパ連合 が定めた欧州人権条約 第3条に違反するとしているためである。リヒテンシュタイン では1987年 に死刑が廃止されたが、最後の処刑が行われたのが1785年 のことであり、事実上2世紀も前に廃止されていた。また、ベルギー も1996年 に死刑が廃止されたが最後に執行されたのは1950年 であった。このように、死刑執行が事実上行われなくなって、長年経過した後に死刑制度も正式に廃止される場合が多い。
欧州議会 の欧州審議会議員会議は2001年 6月25日 に日本 およびアメリカ合衆国 に対して死刑囚の待遇改善および適用改善を要求する1253決議を可決した。この決議によれば日本は死刑の密行主義と過酷な拘禁状態が指摘され、アメリカは死刑適用に対する人種的経済的差別と、少年犯罪者および精神障害者に対する死刑執行が行われているとして、両国の行刑制度を非難するものであった。
通常犯罪における死刑が廃止されても、国家反逆罪 ないし戦争犯罪 によって死刑が行われる場合がある。例えばノルウェーのヴィドクン・クヴィスリングは1945年 5月9日 、連合国軍に逮捕され国民連合の指導者と共に大逆罪で裁判にかけられ、銃殺刑に処せられた。ノルウェーでは、この裁判のためだけに特別に銃殺刑を復活(通常犯罪の死刑は1905年 に廃止されている)した。また同様にイスラエル もナチス によるホロコースト に関与したアドルフ・アイヒマン を処刑するため、死刑制度がないにもかかわらず(戦争犯罪として適用除外されたともいえる)死刑を宣告し執行した。
中東とアフリカとアジアにおいては総じて死刑制度が維持されている。冷戦時代は総じて民主国家が廃止、独裁国家が維持していたが、現在では冷戦崩壊後の民主化と大量虐殺の反省により東欧と南米が廃止、アジアおよび中東とアフリカの一部が民主化後も維持している状態である。またイスラム教徒が多数を占める国では、イスラーム法を名目とした死刑制度が維持されているが、トルコ のようにヨーロッパ連合への加盟を目指すために廃止した国や、ブルネイ のように1957年 以降死刑執行が行われていないため事実上廃止の状態の国もある。
残虐性の有無
死刑自体が究極の身体刑 であると主張される一方、「火あぶり」、「磔」など苦痛を伴う残虐な方法による死刑のみが究極の身体刑であると主張されることもある。また、苦痛を与えることを目的としない死刑は拷問 に当たらないとされる。実際に中国で行われている頭部への銃殺刑は、被執行者が「確実に」即死するため、苦痛がないといわれている。しかし、これは実証されておらず、無論既に死んでいる被執行者に確認を取ることもできないので実証は非常に困難であると思われる。
日本で行われている絞首刑では、実際に見学した人物の証言[ 153] では、死刑囚の遺体から目 と舌 が飛び出しており、口 や鼻 から血液 や嘔吐物 が流れ出しており、下半身から排泄物 が垂れ流しになっていたという。この描写は、米国サンクェンティン刑務所長が自身が立ち会った絞首刑について「顔から、ロープのために肉がもぎ取られ、首が半ばちぎれ、眼が飛び出し、舌が垂れ下がった」とか、尿失禁、便失禁、出血もあったとする著者の記述に一致する[ 154] 。一方で1994年12月に死刑執行された元死刑囚の遺体を引き取った遺族が法医学 教室の協力で検証した実例[ 153] では、気道をロープで一気に塞がれたことにより、意識が消失して縊死 した可能性が高いとされている。しかし、オーストリア 法医学 会会長ヴァルテル・ラブル博士は、絞首刑を執行された者が瞬時に意識を失うことはまれで、最低でも5〜8秒、長ければ2〜3分間意識が保たれると述べている[ 155] 。
なお死刑存置国であるアメリカ合衆国では、日本で行われている絞首刑 を非人道的であるとして廃止している州がほとんどで、2018年末の時点で絞首刑が認可されているのは、3州を残すのみとなっている。しかも、この3州においても、薬殺刑が主流で、受刑者が望んだとき、あるいは、薬殺刑が執行できないときのみ絞首刑が選択される[ 156] 。実際のアメリカの絞首刑執行数も、1977年以降2020年9月までの死刑執行数1526件のうちの3件のみであり、1996年 1月25日 のデラウェア州 でビリー・ベイリー の執行を最後に行われていない[ 157] 。これは、絞首刑には失敗があるためである。絞首刑を執行された者は意識を保ったままで苦しんだり、首が切断されることもある。米国で1622年から2002年までに合法的に行われた絞首刑で少なくとも170件の失敗があったとされる[ 158] 。たとえば1901年 に死刑が執行されたトーマス・エドワード・ケッチャム はロープが長すぎたため、首がちぎれてしまい絞首刑の写真として販売された。この例以外でも、米国、英国、カナダ、オーストラリアなどで、絞首刑における首の切断が起こっている[ 159] 。最近では、2007年1月15日にイラク・バグダッドで処刑されたサダム・フセインの異父弟バルザン・イブラヒム・アル=ティクリティ(バルザーン・イブラーヒーム・ハサン )の例がある[ 160] 。また、日本でも、1883年 (明治 16年)7月6日 小野澤おとわという人物の絞首刑執行の際に、「刑台の踏板を外すと均(ひと)しくおとわの体は首を縊(くく)りて一丈 (いちじょう)余(よ)の高き処(ところ)よりズドンと釣り下りし処、同人の肥満にて身体(からだ)の重かりし故か釣り下る機会(はずみ)に首が半分ほど引き切れたれば血潮が四方あたりへ迸(ほとばし)り、五分間ほどにて全く絶命した」[ 161] 「絞縄(しめなわ)のくい入りてとれざる故、刃物を以て切断し直に棺 におさめ」[ 162] た事故が起こっていることが報道されている。
カナダでは、絞首刑において、1962年 12月11日 にトロント のドン刑務所でほぼ首が切断されてしまったアーサー・ルーカス の執行を最後として絞首刑が廃止された。ただし、この事故は長らく秘密とされ、カナダ の絞首刑はこの事故とは無関係に廃止された[ 163] 。一方で、このような首の切断の危険性によって絞首刑が廃止された例もある。アリゾナ州はエヴァ・デュガンの首の切断で1933年に絞首刑をガス室に変更した[ 164] 。また、アメリカの法律雑誌では死刑存置国ながら日本が行う絞首刑を「非人道的」と非難する論文が掲載されている。そのため絞首刑に代わる「人道的執行方法」としてガス室や電気椅子が導入されたが、現在では薬物投与による安楽死、すなわち薬殺刑 が新たな処刑方法として採用されており、他の死刑存置国においても一部採用されている。
そのため日本でも絞首刑には短期間ながらもそれなりの苦痛が伴うとして、アメリカ合衆国で採用されている薬物などによる薬物注射による薬殺刑 が適当な死刑執行方法であるとする主張[ 165] が存在する。ただし、その薬殺刑についても異常な刑罰との訴訟があったが、アメリカ連邦最高裁は2008年4月に憲法に反しないとの判断を下している。しかしその後、使用する薬物の提供を欧州などのメーカー側が拒否されたため、代替薬物としてミダゾラム などによる混合薬物が使われるようになったものの、死刑執行の失敗とみられる事例が相次ぎ、オクラホマ州 の死刑囚らで作る原告団により最高裁の判断を仰いだ。アメリカ連邦最高裁は、執行に使用される鎮静剤ミダゾラムに「激痛をもたらす大きな危険性」があることを原告団が示せなかったと判断し、「残酷で異常な刑罰」を禁じた憲法には違反していないとの見方を示し、2015年6月に再び合憲と判決した[ 166] 。
日本で絞首刑の残虐性が本格的に争われた裁判はいくつか存在するが[ 167] [ 168] [ 169] [ 170] 、いずれも「絞首刑は憲法36条 にいう残虐な刑罰ではない 」との最高裁判所の確定判決 (死刑合憲判決 )が出ている。
宗教界
死刑をテーマにした作品
死刑後に復活したケース
脚注
注釈
^ 54カ国中15カ国。ただし、通常犯罪のみ廃止の国や事実上の廃止国は含まれていない。
^ 10年以上死刑執行がなされておらず、死刑執行をしない政策または確立した慣例を持っていると思われる国。死刑を適用しないという国際的な公約をしている国も含まれる。
^ ただし、現在でもイスラム法を重要視している国では不倫や婚前前性交渉を理由に死刑になる場合が存在する。
^ インドネシア は2015年・2016年の2年[ 68] [ 69] 、 マレーシアは2014年~2017年の4年間、バーレーン は2016年と2019年[ 70] [ 71] 、ヨルダン は2014年・2015年[ 72] ・2017年、クウェート は2017年と2022年、オマーンは2015年と2020年、カタール は殺人の罪でネパール人出稼ぎ労働者の死刑執行があった2020年のみ[ 73] 、
アラブ首長国連邦 は、2014年[ 74] ・2015年[ 75] ・2017年・2021年の4年インド は2015年・2020年の2年、ミャンマー は国民民主連盟 議員と著名民主活動家の2人とミャンマー軍 の情報提供を疑い女性を殺害した男性2人の計4人を執行した2022年 のみ[ 76] [ 77] [ 78] [ 79] [ 80] 、タイ王国 は強盗殺人の罪で執行された2018年の1年のみ[ 81] であった。
^ ラトビア はEU加盟に当たって、軍法 上で死刑制度を存続させていたが、2012年に死刑を全廃した。
^ 日本では毎年1000人近い殺人犯が検挙されるが、死刑判決が確定するのは、そのうち数十人である。
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参考文献
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植松正 『新刑法教室I総論』(信山社)
板倉宏 『「人権」を問う』(音羽出版)
植松正「死刑廃止論の感傷を嫌う」法律のひろば43巻8号〔1990年〕
井上薫 『死刑の理由』(新潮文庫)永山事件 以後、死刑確定した43件の犯罪事実と量刑理由について記されたもの。
竹内靖雄 『法と正義の経済学』(新潮社)
日垣隆 『そして殺人者は野に放たれる』(新潮社)
亀井静香 『死刑廃止論』(花伝社)
藤本哲也 『刑事政策概論』(青林書院 )
マルタンモネスティエ 『図説死刑全書』(原書房 )
ヴァルテル・ラブル、後藤貞人、前田裕司、渡邉良平『絞首刑は残虐な刑罰ではないのか』(現代人文社)
向江璋悦『死刑廃止論の研究』(法学書院)
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