リー・ド・フォレスト(Lee De Forest、1873年8月26日 - 1961年6月30日)は、180以上の特許を取得したアメリカの発明家、電気・電子技術者。三極管の発明者として名高く、電子工学の発展に寄与したことから、エレクトロニクス時代の父と呼ばれる一人である。また、映画に音声をもたらした基本的発明の1つもド・フォレストのものである。
マルコーニの発明した無線電信に興味を惹かれ、グリエルモ・マルコーニに宛て就職を依頼する手紙を書くが返事は来なかった。イリノイ工科大学の前身の1つである研究機関 (Armour Institute of Technology) で研究員として働くようになり、無線、燃焼ガスと放電の関係、電波検出器などを研究した。1906年に三極管の一種であるオーディオン管を発明。さらに無線電信の受信機の改良も行った。
1919年、サウンド・オン・フィルム方式のトーキーの特許を出願。これはフィンランドの発明家 Eric Tigerstedt の方式を改良したもので、フォノフィルムと名付けた。フォノフィルムはフィルムの端に明暗のある線で音を記録するもので、可変密度方式と呼ばれるものであり、その後主流となった可変領域方式とは異なる。マイクロフォンで電気信号に変換された音声信号を写真のようにフィルムに焼き付けるものであり、映画の映写時にその線から音を再生する。撮影時に同時に記録すれば音と映像の同期が容易であり、演劇、演説、ミュージカルなどの記録に使われた。1922年11月、ニューヨークに De Forest Phonofilm Company を創業したが、ハリウッドの映画スタジオからは無視された。
18本の短編映画をフォノフィルム方式で製作し、1923年4月15日にニューヨークのリボリ劇場で上映した。映画館はハリウッドの制御下にあったため、個別の劇場でしか上映できなかった。内容は短いボードヴィル劇であり、ハリウッドのスタジオにはほとんどアピールできなかった。1924年にはフライシャー・スタジオがフォノフィルムを使ったアニメーション映画ソング・カー・テューンシリーズを製作、全38作品内19作品にこの方式が使われ、1924年公開の『おお、メイベル』で映像と音が一致し、1926年公開の『なつかしいケンタッキーの我が家』で音とセリフが完全にシンクロした。Freeman Harrison Owens と Theodore Case と共にフォノフィルムを改良していった。しかし、後に2人ともド・フォレストと仲違いし、Owens とは訴訟に発展している。フォックス・フィルムのウィリアム・フォックスにフォノフィルムを売り込もうとしたが、仲違いした Case がフォックスに移籍して開発したムービートーンというシステムが完成しつつあった。1926年9月に Phonofilm Company は倒産。その少し前にワーナー・ブラザースのヴァイタフォン(サウンド・オン・ディスク方式)の長編映画『ドン・ファン』が公開された。
1927年以降ハリウッドではサウンド・オン・フィルム方式(フォックスのムービートーンとRCAのRCAフォトフォン(英語版))が使われ始めた。一方で映画館チェーンのオーナー M. B. Schlesinger がイギリスでのフォノフィルムの使用権を取得し、1926年9月から1929年5月までイギリス各地のミュージックホールでフォノフィルム方式の短編映画を上映した。フォノフィルム方式で製作された短編映画は200本以上あり、その多くはアメリカ議会図書館および英国映画協会が収蔵している。
1957年5月22日、This Is Your Life というテレビ番組にゲスト出演し「ラジオの父にして、テレビの祖父」と紹介された。この番組や1940年の公開書簡の件は、1991年にPBSで放送されたドキュメンタリー番組 Empire of the Air: The Men Who Made Radio で紹介されている。このドキュメンタリーはド・フォレストを批判的に描いている。
1957年に Father of Radio と題した自伝を書いたが、1年後に心臓発作を起こし、その後はほとんど寝たきりとなった[12]。1961年7月1日、87歳で亡くなった[13]。死亡時のド・フォレストにはほとんど蓄えがなく、銀行の残高は1,250ドルだった[12]。
^ abEmpire of the Air: The Men Who Made Radio. PBS: 1992.
^“Lee De Forest, 87, Radio Pioneer, Dies; Lee De Forest, Inventor, Is Dead at 87”. New York Times. (July 2, 1961, Sunday). "Hollywood, California, July 1, 1961. Dr. Lee De Forest, the inventor known as the father of radio, died last night at his home. He was 87 years old."
^James A. Hijya, Lee De Forest and the Fatherhood of Radio (1992), Lehigh University Press, pages 119-120