ベテルギウスの明るさの変化は、1836年にジョン・ハーシェルによって発見され[27]、1849年に彼が出版した著書『天文学概要』(Outlines of Astronomy)で発表された。1836年から1840年にかけて観測を行い、彼は1837年10月と1839年11月にベテルギウスの明るさがリゲルを上回った時にその明るさの大きな変化に気づいた[28]。その後10年間は観測を休止していたが、1849年に、その3年後である1852年に変光のピークに達した別の短い変光サイクルに注目した。その後の観測では、数年の間隔で異常に明るい視等級の極大を記録したが、1957年から1967年まではわずかな変動しか見られなかった。アメリカ変光星観測者協会(AAVSO)の記録では1933年と1942年に最大極大視等級0.2等、1927年と1941年に最低極小視等級1.2等が観測されている[29][30]。この明るさの変動は、ヨハン・バイエルが1603年に出版した『ウラノメトリア』で、通常ではベテルギウスより明るいリゲル(β星)に匹敵する明るさを持つとしてベテルギウスをα星に指定した理由かもしれない[31]。北極圏から見たベテルギウスの赤い色とリゲルより高い天球上での位置から、イヌイットはベテルギウスをより明るい恒星であるとみなし、現地で呼ばれた名称の1つは「大きな星」を意味する「Ulluriajjuaq」であった[32]。
1950年代と1960年代には、ストラトスコープ計画と1958年のマーティン・シュヴァルツシルトとプリンストン大学の研究者Richard Härmの著書『Structure and Evolution of the Stars』の出版という、赤色超巨星の恒星対流理論に影響を与える2つの発展が見られた[34][35]。この本は、コンピューター技術を応用して恒星のモデルを作成する方法に関するアイデアを広めることになり、一方でストラトスコープは、乱気流の上の望遠鏡搭載気球から撮影することで、それまでに見られなかった太陽の粒状斑や黒点の高画質画像を作成した。これにより、太陽表面の対流の存在を確認することができた[34]。
撮影技術の飛躍
1970年代の天文学者Antoine Labeyrieによる、シーイングによって引き起こされるぼかし効果を大幅に削減したスペックル干渉法の発案から始まり、人類の天体画像撮影技術は大きな進化を遂げた。地上の望遠鏡の光学的分解能が向上したことで、ベテルギウスの光球のより正確な測定が可能になった[36][37]。ウィルソン山天文台、マクドナルド天文台、ハワイのマウナケア天文台群にある赤外線望遠鏡の改良に伴って、天体物理学者らは超巨星を取り巻く複雑な星周殻(Circumstellar shells)を観測し[38][39][40]、その結果、対流に起因する巨大な気泡の存在が疑われるようになった[41]。しかし、1980年代後半から1990年代初頭にかけて、ベテルギウスが開口マスキング干渉法の通常観測対象になったことから可視光線および赤外線画像の面で大きな躍進があった。John E. Baldwinとキャヴェンディッシュ研究所宇宙物理学部門に在籍するその同僚らによって開発されたこの新しい技術は、望遠鏡の瞳面にいくつかの穴が開いている小さなマスクを取り付けて開口を特別な干渉計アレイに変換するというものである[42]。この技術は、光球上の明るいスポットの存在を明らかにしながら、いくつかのベテルギウスの最も正確な測定値の測定に貢献した[43][44]。これらは太陽以外では初めて得られた恒星円盤の光学および赤外線画像であり、最初は地上の干渉計で撮影していたが、後にイギリスのケンブリッジにあるCOAST望遠鏡によって高解像度の画像が撮影されている。これらの機器で観測された「明るいパッチ」もしくは「ホットスポット」と呼ばれる領域は、1975年にマーティン・シュヴァルツシルトが提唱した恒星の表面を支配する大規模な対流セルに関する理論を裏付けることになった[45][46]。
2020年、コリオリ衛星(英語版)に搭載されている Solar Mass Ejection Imager(SMEI) によって得られた新たな観測データと3つの異なるモデリング手法により、ベテルギウスの質量や半径が従来考えられていた推定よりも小さかったとする研究結果がオーストラリア国立大学やカブリ数物連携宇宙研究機構などによる研究グループによって発表された。この修正によって新たなベテルギウスの年周視差の測定値が得られ、その値は5.95+0.58 −0.85ミリ秒であった。これに基づくとベテルギウスまでの距離は548+88 −49光年となり、従来よりも地球に約25%近いところに存在していることになる[8][84]。
天文学者らがこの問題を解くことはそう遠くないことかもしれない。現在、少なくともベテルギウスの半径の6倍に及ぶ巨大なガスのプルームが存在していることが発見されており、ベテルギウスが全ての方向に均等に物質を放出しているわけではないことが示されている[58]。プルームの存在は、赤外線観測でしばしば観測される光球の球対称性が、光球に近い環境下でも維持されないことを示唆している。ベテルギウスの形状の非対称性は異なる波長による観測で報告されていたが、VLTの補償光学装置(NACO)によりこの非対称性の特性が注目されている。このような非対称の質量損失を引き起こす可能性がある2つのメカニズムとして、大規模な対流セルによるというものと自転によって生じる可能性がある極質量損失(Polar mass loss)によるというものがある[58]。ヨーロッパ南天天文台のAMBERを用いてさらに詳しく調べたところ、広がった恒星大気中のガスが上下に激しく動き、ベテルギウス自身と同程度の大きさの「泡」が生成されていることが観測された。そのような恒星の大変動は、Kervellaによって観測された大規模なプルーム放出を支持するものとして結論付けられた[143]。
2009年に発表されたベテルギウスの大きさが15%収縮しているという内容[54][120]によって生じた誤解により、ベテルギウスはしばしば1年以内に超新星爆発を起こすといったオカルト系の噂や話題の題材で取り上げられることも多く、実際にベテルギウスで観測された出来事が誇張されて主張されてしまうことがある[165][166]。こうした噂の流行や流行する時期には、天文学に対する誤解や特にマヤ暦において言い伝えられている世界の終末にまつわる予想に関連されていることが多い(2012年人類滅亡説など)[167][168]。最近では、日本国内を中心に2020年3月20日にもベテルギウスが関連した終末論が囁かれた[169]。こうした噂ではベテルギウスが起こしたガンマ線バースト(GRB)によって放射された有害な放射線が終末の要因として取り上げられることもあるが[170]、実際にはベテルギウスがガンマ線バーストを起こす可能性は低く、また、放出された物質やX線、紫外線が地球に甚大な影響を与えるほどベテルギウスが地球に近い距離にあるわけでもない[12]。2019年12月にベテルギウスの大きな減光が観測されると、様々な情報が科学メディアや大手メディアで取り上げられたが、中にはベテルギウスが超新星爆発を起こそうとしているかもしれないという憶測も含まれていた[64][171]。アストロノミー[61]やナショナルジオグラフィック[66]、スミソニアン[172]のようないくつかの科学雑誌は、ベテルギウスの大きな減光を興味深くて珍しい現象として取り上げている。ワシントン・ポスト[68]やABCニュース[67]、ポピュラー・サイエンス[173]などの一部の大手メディアは、超新星爆発は今後起こりうるとしても今は起こりそうにないと報道しているが、他のメディアの中にはベテルギウスの超新星爆発の可能性を現実的に言及したものもあった。例えば、CNNは記事に「A giant red star is acting weird and scientists think it may be about to explode(巨大な赤い星が妙な動きをしており、科学者らはそれが爆発するかもしれないと考えている)」という見出しをつけており[174]、ニューヨーク・ポストはベテルギウスの減光は「due for explosive supernova(超新星爆発によるもの)」と明言している[69]。アメリカの天文学者フィリップ・プレイト(英語版)は、自身が「Bad Astronomy(悪い天文学)」と呼んでいるこのような話題を修正するために、この頃のベテルギウスの振る舞いは「珍しいながらも、前例のないことではない。そして、それ(減光を続ける異常な状態)はおそらく長くは続かないだろう」と述べている[175]。
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