ちょうこくしつ座 (ちょうこくしつざ、Sculptor)は、現代の88星座 の1つ。18世紀半ばに考案された新しい星座で、彫刻家 のアトリエ がモチーフとされた[ 注 1] 。明るい星がなく、日本からは南天の低いところに見えるため、目立たない星座 である。
主な天体
南天にあるためメシエ天体 こそないが、特徴のある銀河があることからアマチュア天文家の観測対象となっている。この星座の領域には銀河南極 があるなど銀河円盤 が相対的に薄い領域であるため、遠方の銀河を天の川銀河 内の天体の影響を受けずに観測することができる。
恒星
ALMA によって撮像されたちょうこくしつ座R星とその周囲の奇妙な渦巻構造。
2022年 4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている[ 4] 。
HD 4208 :国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でニカラグア に命名権が与えられ、主星はCocibolca、太陽系外惑星はXolotlanと命名された[ 5] 。
その他、以下の恒星が知られている。
星団・星雲・銀河
渦巻銀河NGC253。
ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) による渦巻銀河IC 5332の撮像。
HSTの
広視野カメラ3 (WFC3) による撮像。近紫外線から近赤外線 (275
nm - 814 nm) の5つのフィルターを使った合成画像に着色したもの。
JWSTの中間赤外線装置 (MIRI) による撮像。HSTに比べ
渦状腕 の微細な構造まで撮像されている。
流星群
2014年に58年ぶりに観測されたほうおう座流星群 の放射点 はこの星座の領域にあるとされた[ 25] 。
由来と歴史
19世紀イギリスの星座カード集『ウラニアの鏡 』に描かれたちょうこくしつ座。
ちょうこくしつ座は、18世紀 中頃にニコラ=ルイ・ド・ラカイユ によって考案された。ラカイユが考案し現在も使われている14の星座の中では最も大きい[ 26] 。
1756年 に刊行された1752年版のフランス科学アカデミー の紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載されたラカイユの星図 の中で、フランス語で「彫刻家のアトリエ」を意味する「l’Atelier du Sculpteur 」として描かれたのが初出である[ 26] [ 27] [ 28] 。のちの1763年 にラカーユが刊行した著書『Coelum australe stelliferum』に掲載された第2版の星図では、ラテン語化された「Apparatus Sculptoris 」と呼称が変更されている[ 26] [ 29] 。
現在の「Sculptor」という学名は、イギリスの天文学者ジョン・ハーシェル が提案したものである。ジョン・ハーシェルは、1844年のフランシス・ベイリー 宛の書簡の中で、Apparatus Sculptoris を「Sculptor」と短縮することを提案した[ 26] [ 30] 。それを受けたベイリーが、翌年の1845年 に刊行した『British Association Catalogue』において「Sculptor」と改めたことにより、以降この呼称が定着することとなった[ 26] 。
1922年 5月にローマ で開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Sculptor 、略称は Scl と正式に定められた[ 31] 。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。
中国
現在のちょうこくしつ座の領域は、中国の歴代王朝の版図から見える位置にあったが、この領域の星が二十八宿 の星官 に充てられていたか否かは説が分かれている[ 26] 。
呼称と方言
日本では、1910年 (明治43年)2月刊行の日本天文学会 の会誌『天文月報』第2巻第11号で星座名の改訂が示された際に「彫刻室」という呼称が使われている[ 32] 。この呼称は、1925年 (大正14年)に初版が刊行された『理科年表 』[ 33] や1928年 (昭和3年)に天文同好会 の編集により新光社 から刊行された『天文年鑑 』第1号[ 34] にもそのまま引き継がれている。戦後の1952年 (昭和27年)7月、日本天文学会は「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[ 35] とした。このときに、Sculptor の訳名は「ちょうこくしつ」と定まり[ 36] 、以降この呼び名が継続して用いられている。
京都帝国大学 の山本一清 は、Sculptorは「彫刻室」或は彫刻家の工作室の意味であるが,こうした藝術家の作業室を,近年我國では,フランス語を其のまゝ「アトリエ」と一般に呼ぶやうになつてゐる.だから今の吾々の場合にも,彫刻室などギコチない言葉を用ゐないで,「アトリエ」といふ新日本語を其のまゝ採用して置くのが良いと思はれる. [ 37] としており、自らが妥当と考える星座名の一覧では「アトリエ 」という邦訳を充てていた[ 38] 。
現代の中国では玉夫座 と呼ばれている[ 39] 。
脚注
注釈
^ Sculptor というラテン語の学名を直訳すると「彫刻家」である[ 1] が、モチーフとなったのは彫刻家のアトリエである[ 3] 。
出典
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