C++
C++(シープラスプラス)は、汎用プログラミング言語のひとつである。派生元であるC言語の機能や特徴を継承しつつ、表現力と効率性の向上のために、手続き型プログラミング・データ抽象・オブジェクト指向プログラミング・ジェネリックプログラミングといった複数のプログラミングパラダイムが組み合わされている[1]。C言語のようにハードウェアを直接扱うような下位層向けの低水準言語としても、複雑なアプリケーションソフトウェアを開発するための上位層向け高水準言語としても使用可能である。アセンブリ言語以外の低水準言語を必要としないこと、使わない機能に時間的・空間的コストを必要としないことが、言語設計の重要な原則となっている[2][3]。 C++は、1983年にAT&Tベル研究所の計算機科学者ビャーネ・ストロヴストルップによって公開された。また様々なプラットフォームでその開発環境が導入された。1998年からISOとIECの共同で言語仕様とテンプレートライブラリの標準化が行われるようになり、その後2003年、2011年、2014年、2017年、2020年に標準規格が改訂されている。2021年時点での最新規格は「ISO/IEC 14882:2020」通称「C++20」である。 歴史ストロヴストルップはプログラミング言語C with Classes(クラス付きのC言語)の開発を1979年に開始した。彼は大規模なソフトウェアの開発に有用な特徴をSimulaが備えていることに気がついたが、Simulaは実行速度が遅く実用的ではなかった。一方でBCPLは実行速度こそ速かったものの、大規模なソフトウェア開発を念頭に置いた場合にあまりにも低級だった。 これらの事情を鑑みて、ストロヴストルップは当時既に汎用的な言語だったC言語にSimulaの特徴を取り入れることを試みた。この取り組みにあたってはALGOL68やAda、CLU、ML等の言語の影響も受けている。最初はクラスと派生クラス、型検査機構の強化、インライン関数、デフォルト引数の機能を、Cfrontを介してC言語に追加した。1985年10月に最初の商用リリースがなされた[4]。 1983年にはC with ClassesからC++に名称を変更した。この際に、仮想関数と、関数と演算子の多重定義、参照型、 ARMが事実上の標準として使われた時代が続いたが、標準化が進んだ。C++言語の最初の標準は1998年にISO/IEC 14882:1998として承認された。2003年の改訂版を経て、2011年にメジャーアップデートとして制定されたのがISO/IEC 14882:2011、通称「C++11」である。このバージョンは、元々、非公式に「C++0x」と呼ばれていた。2000年代中に制定され、正式に「C++09」と呼称されることを見越した仮称だったが、2000年代中には実現しなかった。2011年8月10日まで続いた最終国際投票で C++0x は全会一致で承認された。これにより C++0x と呼ばれてきた C++ の次期改正案はついに国際標準になり、C++11と呼べるようになった。また、2014年にはISO/IEC 14882:2014、通称「C++14」が策定された。2017年にはISO/IEC 14882:2017、通称「C++17」が策定された。2020年にはISO/IEC 14882:2020、通称「C++20」が策定された。 C++言語の進化に伴い、標準ライブラリもまた進化していった。C++標準ライブラリに最初に追加されたのは、従来のC言語の 国際規格
長年にわたる作業の後、ANSIとISOの合同委員会はプログラミング言語C++を1998年に標準化した (ISO/IEC 14882:1998)。1998年の標準の公式なリリースから数年間にわたって委員会は不具合の報告を続け、2003年に改訂版を出版した。2003年12月に制定された日本工業規格(現:日本産業規格)JIS X 3014:2003「プログラム言語C++」(日本産業標準調査会、経済産業省)は、ISO/IEC 14882:2003 (E) の日本語訳である。 2007年11月15日、C++ Technical Report 1 (TR1) という技術報告書(テクニカルレポート)がリリースされた。これは規格の公式な一部ではなかったが、次の版のC++に含まれると期待される、標準ライブラリへの数多くの拡張を与えた。TR1の内容は、多少の修正を加えてC++11に取り込まれている。 2011年9月1日、C++98以来初の大きな改訂となるISO/IEC 14882:2011が発行された。 2014年8月18日、ISO/IEC 14882:2014 (C++14) が投票で承認され[14]、同年12月15日に公式に出版された。 2017年12月1日、ISO/IEC 14882:2017 (C++17) が公式に発行された。 2020年9月4日、ISO/IEC 14882:2020 (C++20) が投票で承認され[15][16]、同年12月15日、ISO/IEC 14882:2020 (C++20)に公式に出版された[17]。 C++20に続いて次期改訂版となるべきISO/IEC 14882:2023 (C++23) [18]の仕様策定については、2019年末から始まったCovid-19の世界的流行により開発者同士の対面によるミーティングの開催を図ることが大変難しくなったことから[19][20][21]、仕様策定が非常に難航している状況である。 将来C++に対しては、今もなお要望が絶えない。特にBoost C++ライブラリを開発しているBoostコミュニティはC++の方向性の決定に大きく貢献し、さらにC++標準化委員会へ改良すべき点などを意見している。現在はマルチパラダイムプログラミングをより自然に行えるようにすることに力が注がれており、たとえばBoostでは、C++の関数型プログラミングやメタプログラミングの可能性を模索している。 C++11と呼ばれている新しいバージョンのC++標準ではこれらの一部が取り込まれ、今後のC++でもさらなる追加が行われると見られている。 C++という名称C++という名称はRick Mascittiの功績で、最初に使用されたのは1983年の12月である[要出典]。初期の研究期間では、開発中の言語は「C with Classes」と呼ばれていた。最終名は、変数の値を一つ加算する、C言語の ストロヴストルップは著書『The C++ Programming Language』の前文で名前の起源を語り、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の付録から「C++」が連想されるかもしれないと付け加えている。ニュースピークという架空の言語の解説に宛てられた3つの章の中に、科学技術に関する専門用語とジャーゴンの解説に宛てられた「C vocabulary」という章がある。ニュースピークで「ダブルプラス」は最上級の修飾語である。ゆえにニュースピークで「C++」は「最も極端な専門用語またはジャーゴン」という意味になるだろう。 1992年、Rick Mascittiは名前について非公式に質問されると、彼はおふざけのつもりで命名したという旨の回答をした。彼はこの言語の正式な名称になるとは夢にも思っていなかった[要出典]。 哲学ビャーネ・ストロヴストルップは著書『C++の設計と進化(1994)』でC++を設計する際に用いたルールを述べている。
C++のコンパイラがどのようにコードを出力しメモリのレイアウトを決めるのかということについては『Inside the C++ Object Model』(Lippman, 1996)に記載されている。ただしコンパイラが出力するコードの仕様はコンパイラ制作者の裁量に任されている。 標準ライブラリ→詳細は「標準C++ライブラリ」を参照
1998年に施行されたANSI/ISO C++ 規格は言語仕様とライブラリの2つのパートで構成される。ライブラリ規格の大半はStandard Template Library (STL) とC言語の標準ライブラリの改良版についての内容である。標準規格以外にも様々なライブラリが数多く存在し、リンカを使用することにより、C言語/FORTRAN/Pascal/BASICのような言語を用いて作成されたライブラリを利用できる。規格外のライブラリが利用できるかどうかはコンパイラに依存する。 C++標準ライブラリはC++向けに若干の最適化が施されたC言語標準ライブラリを含んでいる。C++標準ライブラリの大部分はSTLである。 コンテナ(可変長配列やリストなど)、コンテナを配列のように扱えるようにするイテレータ、検索やソートを行うアルゴリズムといった有用なツールが提供されている。さらに STLは標準規格に採用される前は、ヒューレット・パッカードの(一時はシリコングラフィックスの)商用ライブラリだった。STLは標準規格の単なる一部分に過ぎず規格書にSTLという表記は見られないが、入出力ストリーム、国際化、デバッグ機能、およびC言語標準ライブラリ等の、STL以外の部分と区別するために、今でも多くの人がSTLという用語を使っている。 大半のC++コンパイラはSTLを含むC++標準ライブラリの実装を提供している。STLPortのようなコンパイラ非依存のSTLも存在する。様々な目的でC++標準ライブラリを独自に実装しているプロジェクトは他にもある。 C++の標準ライブラリは大きく次のように分けられる。多種多様な実行環境が存在することを考慮して、GUIに関するライブラリは標準に含まれていない。
外部ライブラリ以下に、C++で広く使われていると思われる[独自研究?]ライブラリを挙げる。
特徴C言語に、オブジェクト指向プログラミングをはじめとする様々なプログラミングパラダイムをサポートするための改良が加えられたものといえる。ただし、他のプログラミング言語と違い、旧来のCと同様に手続き型言語としても扱えるという特徴がある。また、C言語と比べて型チェックが厳しくなっており、型安全性が向上している。このことから、C++をbetter Cというふうに呼ぶことがある。すなわち、基本的にC言語に対して上位互換性がある。初期のC++はCへのトランスレータとして実装され、C++プログラムを一旦Cプログラムに変換してからコンパイルしていた。 ただし、C++という名称が定まった当初の時期から、C言語とC++との間には厳密な互換性はない[22][23]。当時、Cとの互換性について議論の末、「C++とANSI Cの間には不正当な非互換性はない」という合意が形成されることとなった。そのため、正当な非互換性を巡って多くの議論が発生した[24]。ただし、まだANSIによるC言語の標準規格も策定途中の時期である。 その後、先祖であるC言語のANSIによる標準規格制定時には、関数のプロトタイプ宣言や C++はCにクラスのサポートを追加しただけでなく、さらに次のような多種多様な機能を持っており、言語仕様は大変複雑である。言語処理系すなわちコンパイラの実装も、Cなどと比べて難易度が非常に高い。 ここから、よりオブジェクト指向を強化し、「なんでもあり」ではない代わりにシンプルで分かりやすくスマートな設計を目指した新たな言語(JavaやD言語など)が作られることとなった。 Hello, World!
C++はC言語およびそのプリプロセッサの構文をほぼ継承している。以下のサンプルはビャーネ・ストロヴストルップの書籍「The C++ Programming Language, 4th Edition」(ISBN 978-0321563842) の「2.2.1 Hello, World!」に記載されている標準C++ライブラリのストリーム機能を用いて標準出力に出力するHello worldプログラムである[25][※ 1]。 #include <iostream>
int main()
{
std::cout << "Hello, World!\n";
}
書籍でも明記されているが、 演算子と演算子のオーバーロード→詳細は「CとC++の演算子」を参照
C++には、四則演算、ビット演算、論理演算、比較演算、メンバーアクセスなどの30を超える演算子がある[26]。メンバーアクセス演算子 ( テンプレート→詳細は「テンプレート (プログラミング)」を参照
C++には、ジェネリックプログラミングを実現する機能としてテンプレートが存在する。テンプレートにできる対象は、関数とクラスである。C++14以降では変数もテンプレートの対象となった。テンプレートはコード中の型および定数をパラメータ化できる。テンプレートのパラメータ(テンプレート仮引数)に、型、コンパイル時定数またはその他のテンプレート(テンプレート実引数)を与えることで、テンプレートはコンパイル時にインスタンス化(実体化・具現化などとも)される。コンパイラは関数やクラスをインスタンス化するために、テンプレート仮引数をテンプレート実引数に置き換える。テンプレートはジェネリックプログラミング、テンプレートメタプログラミング、コード最適化などのために利用される強力なツールであるが、一定のコストを伴う。各テンプレートのインスタンスはテンプレート仮引数毎にテンプレートコードのコピーを生成するためコードサイズが肥大化する。これはコンパイル時に実型引数の情報を削除することで単一の型インスタンスを生成するランタイム型のジェネリクスを実装したJavaなどの言語とは対照的である。なお、C# (.NET Framework) は実行時コンパイラにより実型引数の情報を削除することなく複数の型インスタンスを生成する方式を採用しており、C++とJavaの中間的なアプローチとなっている。 テンプレートとプリプロセッサマクロはいずれもコンパイル時に処理される言語機能であり、静的な条件に基づいたコンパイルが行われるが、テンプレートは字句の置き換えに限定されない。テンプレートはC++の構文と型を解析し、厳密な型チェックに基づいた高度なプログラムの流れの制御ができる。マクロは条件コンパイルに利用できるが、新しい型の生成、再帰的定義、型の評価などは行えないため、コンパイル前のテキストの置き換えや追加・削除といった用途に限定される。つまりマクロは事前に定義されたシンボルに基づいてコンパイルの流れを制御できるものの、テンプレートとは異なり独立して新しいシンボルを生成することはできない。テンプレートは静的な多態(下記参照)とジェネリックプログラミングのためのツールである。 C++のテンプレートはコンパイル時におけるチューリング完全なメカニズムである。これはテンプレートメタプログラミングを用いて実行する前にコンピュータが計算可能なあらゆる処理を表現できることを意味している。 概略すれば、テンプレートはコードの記述に本来必要な型や定数を明確にすることなく抽象的な記述ができる、パラメータ化された関数またはクラスである。テンプレート仮引数に実引数を与えてインスタンス化した結果は、テンプレート仮引数に指定した型に特化した形で記述されたコードと全く等価になる。これによりテンプレートは、汎用的かつおおまかに記述された関数およびクラス(テンプレート)と、特定の型に特化した実装(インスタンス化されたテンプレート)の依存関係を解消し、パフォーマンスを犠牲にすることなく抽象化できる手段を提供する。 オブジェクトC++はC言語にオブジェクト指向プログラミングをサポートするための改良を加えたものといえる。C++のクラスには、オブジェクト指向言語で一般的な抽象化、カプセル化、継承、多態の4つの機能がある。オブジェクトは実行時に生成されるクラスの実体である。クラスは実行時に生成される様々なオブジェクトのひな形と考えることができる。 なお、C++はSmalltalkなどに見られるメッセージ転送の概念によるオブジェクト指向を採用していない。 カプセル化カプセル化とは、データ構造を保証し、演算子が意図したとおりに動作し、クラスの利用者が直感的に使い方を理解できるようにするためにデータを隠蔽することである。クラスや関数はC++の基礎的なカプセル化のメカニズムである。クラスのメンバは オブジェクト指向では原則としてクラスのメンバ変数にアクセスする全ての関数はクラスの中にカプセル化されなければならない。C++ではメンバ関数およびフレンド関数によりこれをサポートするが、強制はされない。プログラマはメンバ変数の一部または全体をpublicとして定義でき、型とは無関係な変数をpublicな要素として定義できる。このことからC++はオブジェクト指向だけでなく、モジュール化のような機能分割のパラダイムもサポートしているといえる。 一般的には、全てのデータをprivateまたはprotectedにして、クラスのユーザに必要最小限の関数のみをpublicとして公開することがよい習慣であると考えられている。このようにしてデータの実装の詳細を隠蔽することにより、設計者はインターフェイスを変更することなく後日実装を根本から変更できる[27] [28]。 継承継承を使うと他のクラスの資産を流用できる。基底クラスからの継承は 多重継承はC++の中でもしばしば問題になる機能である。多重継承では複数の基底クラスから一つのクラスを派生できる。これにより継承関係が複雑になる。例えば 多態→詳細は「ポリモーフィズム」を参照
多態 (ポリモーフィズム) は様々な場面で多用されている機能である。多態により、状況や文脈に応じてオブジェクトに異なる振る舞いをさせることができる。逆に言うと、オブジェクト自身が振る舞いを決定することができる。 C++は静的な多態と動的な多態の両方をサポートする。コンパイル時に解決される静的な多態は柔軟性に劣るもののパフォーマンス面で有利である。一方、実行時に解決される動的な多態は柔軟性に優れているもののパフォーマンス面で不利である。 静的な多態関数のオーバーロードは名称が同じ複数の関数を宣言できる機能である。ただし引数は異なっていなければならない。個々の関数は引数の数や型の順序で区別される。同名の関数はコードの文脈によってどの関数が呼ばれるのかが決まる。関数の戻り値の型で区別することはできない。 関数を宣言する際にプログラマはデフォルト引数を指定できる。関数を呼び出すときに引数を省略した場合はデフォルト引数が適用される。関数を呼び出すときに宣言よりも引数の数が少ない場合は、左から右の順で引数の型が比較され、後半部分にデフォルト引数が適用される。たいていの場合は一つの関数にデフォルト引数を指定するよりも、引数の数が異なる関数をオーバーロードする方が望ましい。 C++のテンプレートでは、より洗練された汎用的な多態を実現できる。特にCuriously Recurring Template Patternにより仮想関数のオーバーライドをシミュレートした静的な多態を実装できる。C++のテンプレートは型安全かつチューリング完全であるため、テンプレートメタプログラミングによりコンパイラに条件文を再帰的に解決させて実行コードを生成させることにも利用できる。 動的な多態派生基底クラスへのポインタおよび参照は、正確に型が一致するオブジェクトだけでなく、その派生クラスのオブジェクトを指すことができる(リスコフの置換原則)。これにより、複数の異なる派生型を、同一の基底型で統一的に扱うことが可能となる。また、基底型へのポインタの配列やコンテナは、複数の異なる派生型へのポインタを保持できる。派生オブジェクトから基底オブジェクトへの変換(アップキャスト)では、リスコフの置換原則により、明示的なキャストは必要ない。
仮想関数クラスのメンバー関数を 通常のメンバー関数に加え、オーバーロードした演算子やデストラクタも仮想関数にできる。原則的にはクラスが仮想関数を持つ場合はデストラクタも仮想関数にすべきである。コンストラクタやその延長線上にあるコピーコンストラクタはコンパイルされた時点でオブジェクトの型が確定しないため仮想関数にできない。しかし、派生オブジェクトへのポインタが基底オブジェクトへのポインタとして渡された場合に、そのオブジェクトのコピーを作らなければならない場合は問題が生じる。このような場合は
テンプレート型消去 (type erasure) と呼ばれる、テンプレートを活用して動的な(プログラム実行時の)多態性を実現する手法が存在する。この手法はC++の標準ライブラリでも 単一行コメントC99の制定前、C言語とC++との分かりやすい差異として、 単一行コメントはもともと、C言語の祖先にあたるBCPLに含まれていた仕様である。現在のC++のコンパイラの多くがC言語のコンパイラとしても使えるようになっているのと同様に、C言語が生まれて間もない頃は、C言語に加えB言語やBCPLのコンパイルができるコンパイラが用いられていた。それらコンパイラは、C言語のソースであってもBCPLと同様に単一行コメントが使用できるよう独自の拡張がなされていたため、BCPLの単一行コメントに慣れ親しんでいたプログラマ達は、C言語でも単一行コメントを使い続けた。その慣習がC++の誕生時まで生き残っていたため、C++では単一行コメントを「復活」させることになった。[独自研究?] そのためもあって、C言語での仕様外の単一行コメントの使用は半ば常習と化し、[独自研究?]C99によって単一行コメントが正式に規格として組み入れられた。 C++ソースコードの処理とパーサLALR(1)のような旧式のパースアルゴリズムを用いてC++のパーサを記述することは比較的難しい[30]。その理由の一つはC++の文法がLALRではないことである。このため、コード分析ツールや、高度な修正を行うツール(リファクタリングツールなど)は非常に少ない。この問題を取り扱う方法としてLALR(1)でパースできるように改良されたC++の亜種(SPECS)を利用する方法がある。GLRパーサのようにより強力でシンプルなパーサもあるが処理が遅い。 パースはC++を処理するツールを作成する際の最も難しい問題ではない。このようなツールはコンパイラと同じように識別子の意味を理解しなければならない。従ってC++を処理する実用的なシステムはソースコードをパースするだけでなく、各識別子の定義を正確に適用し(つまりC++の複雑なスコープのルールを正確に取り扱い)、型を正しく特定できなければならない。 いずれにせよC++ソースコード処理ツールが実用的であるためには、GNU GCCやVisual C++で使われているような、様々なC++の方言を取り扱えなければならず、適切な分析処理やソース変換やソース出力などが実装できなければならない。GLRのような先進的なパースアルゴリズムとシンボルテーブルを組み合わせてソースコードを変換する方法を利用すればあらゆるC++ツールを開発できる。 互換性その言語文法の複雑さゆえ、C++規格に準拠したコンパイラを開発するのは一般的に難しい。20世紀末から何年にも渡りC++に部分的に準拠した様々なコンパイラが作られ、テンプレートの部分特殊化などの部分で実装にばらつきがあった。中でも、テンプレートの宣言と実装を分離できるようにするための コンパイラ開発者の裁量で決められる範囲を確保するため、C++標準化委員会は名前修飾や例外処理などの実装に依存する機能の実装方法を決定しないことに決めた。この決定の問題は、コンパイラが異なるとオブジェクトファイルの互換性が保証されない点である。特定の機種やOSでコンパイラの互換性を持たせ、バイナリレベルでのコード再利用性を高めようとするABI[33]のような非標準の規格もあり、一部のコンパイラではこうした準規格を採用している。 2019年現在のメジャーなC++コンパイラ(gcc, Clang, Intel C++ Compiler, Microsoft Visual C++など)の最新版はC++11およびC++14規格にほぼ準拠しており、特にClangは2013年4月時点でC++11の全機能を実装完了した[34][35]。ただしマイナーアップデートとなるC++17を含めると、処理系間でのばらつきは依然として存在する。 C言語との互換性C++は基本的にC言語の上位互換であるが、厳密には異なる[36]。C言語で記述された大半のプログラムはC++でコンパイルできるように簡単に修正できるが、C言語では正当でもC++では不正になる部分や、C++とは動作が異なる部分が若干存在する。 例えば、C言語では汎用ポインタ C言語の標準規格であるC99やその後継C11ではこうした非互換性の一部が解決されており、 C++で書かれた関数をC言語で書かれたプログラムから呼び出す、あるいはその逆を行なう場合など、C言語のコードとC++のコードを混在させるためにはCリンケージを利用する必要があり、関数を C/C++の相互運用性が確保されていることで、慣れ親しんだC言語標準ライブラリ関数の大半をC++でもそのまま利用し続けることができるということはC++の大きなメリットのひとつである。 主なC++処理系
注釈
出典
参考文献
関連項目
外部リンク |