k 枚のゲルシュゴリン円板の合併が残りの n − k 枚の円板と交わらないならば、前者の円板の合併はちょうど k 個の A の固有値を含み、後者の円板には n − k 個の固有値を含む。
証明. A の対角成分と同じ成分を持つ対角行列 D に対し、
と置く。ここで B(t) の固有値が連続パラメタ t に関して連続であるという事実を認めることにして、円板の合併に属する固有値の何れかが他の円板へ移るならば、適当な t に対してその固有値はどの円板にも属さない状態が起きることを示す(そうすればゲルシュゴリンの定理に矛盾する)。
定理の主張は D = B(0) に対しては成り立つ。B(t) の対角成分は A のそれと同じであるから、ゲルシュゴリン円板の中心も共通だが、半径は A のときの t-倍される。従って B(t) に対して対応する k 枚の円板の合併は t の値に依らず残りの n − k 枚の円板と交わらない。各円板は閉だから、A の場合の両者の間の距離を d > 0 とすると、B(t) の場合のそれは t に関して単調減少だから、常に d よりも大きい。B(t) の固有値は t に関して連続だから、B(t) の k 枚の円板の合併に属する任意の固有値 λ(t) に対して、それと残りの n − k 枚の円板との距離もまた t に関して連続になる。明らかに d(0) ≥ d かつ、λ(1) は n − k 枚の円板の上にあると仮定したから d(1) = 0 である。故に 0 < d(t0) < d となる 0 < t0 < 1 が存在するが、これは λ(t0) がゲルシュゴリン円板の外側にあることを意味し、これは不可能である。ゆえに λ(1) は k 枚の円板の合併に属し、定理は証明された。
応用
ゲルシュゴリンの定理は条件数の大きな行列 A に対する Ax = b (b はベクトル) の形の方程式を x について解くときに有用である。
この種の問題において、最終結果における誤差は初期データの誤差と A の条件数との積と同じオーダーになるのがふつうである。例えば b がコンマ以下6桁既知で A の条件数が 1000 ならば x はコンマ以下3桁の精度でしか保証できない。条件数が非常に大きければ、丸めによる非常に小さな誤差でさえ、その影響で拡大されてしまい、結果は意味のないものになってしまう。
A の条件数は減らした方がよいのだが、それは前処理で実行できる。つまり、P ≈ A−1 となる行列 P を構成して方程式 PAx = Pb を x について解くのである。ここで A の本当の逆行列が使えればよいのだが、逆行列を求める問題は一般には非常に難しい。
さて、PA ≈ I で I は単位行列だから、PA の固有値はすべて 1 に近いはずである。ゲルシュゴリンの定理により、PA の任意の固有値はどの領域にあるのかわかっているから、P をどのように選べばよいかを大まかに評価することができる。