「マネー 」(Money (That's What I Want) )は、バレット・ストロング の楽曲である。作詞作曲はタムラ・レコードの創設者であるベリー・ゴーディ とジェイニー・ブラッドフォード (英語版 ) が手がけ、1959年にシングル盤として発売された。楽曲の発表後、1963年にビートルズ 、1979年にフライング・リザーズ によってカバーされた。
背景
「マネー」は、デトロイドにあるヒッツビル・スタジオAでの自発的なレコーディング・セッションから発展した楽曲となっている。ゴーディとストロングがピアノ とボーカル のみの即興演奏を始め、そこにベニー・ベンジャミン (英語版 ) がドラム で、ブライアン・ホーランド (英語版 ) がタンバリン で加わった。作家のジム・コーガンとウィリアム・クラークは、このセッションに参加したギタリストとベーシストについて、「高校からの下校中に演奏を聴いてヒッツビルにふらりと立ち寄り、一緒に演奏してもいいか訪ねてきた2人の白人の少年」としており、「ストロングは、ベースとギターを演奏した2人の少年を2度と見ることはなかった」と付け加えている。一方で、ギタリストについてはユージン・グルーともされており、グルーはバレットから演奏を教わったと主張している[ 4] 。
曲はブルース調のピアノのリフから始まる。作家のニック・タレフスキーは本作について「R&Bの名曲」と評し、マーク・ルイソン (英語版 ) は「デトロイドのR&Bサウンド」と評している。音楽ジャーナリストのチャールズ・シャー・マリーは、本作について「モータウンがR&Bの粗削りな一面を残していた時代の初期の名曲の1つ」と評している。
リリース・評価
「マネー」は、1959年8月にタムラ・レコードからシングル盤として発売された[ 6] 。シングルは、Billboard Hot 100 で最高位23位[ 7] 、Hot R&B Sides chart で最高位2位を記録した[ 8] 。
『ローリング・ストーン 』誌が発表した「オールタイム・グレイテスト・ソング500 」では第288位にランクインしており、グレイル・マーカスは「ストロングの名がアメリカの音楽チャートのトップに近い順位にランクインした唯一の例で、このおかげで彼は生涯ラジオに出続けていた」と述べている[ 9] 。
クレジット(バレット・ストロング版)
※出典[ 10]
チャート成績(バレット・ストロング版)
カバー・バージョン
ビートルズによるカバー
ビートルズは、1963年7月18日にEMIレコーディング・スタジオ で「マネー」のレコーディングを行なった。6テイク録音された後、ジョージ・マーティン のピアノ が加えられ、7月30日にさらにピアノがオーバー・ダビング された。8月21日はテイク6と7を編集してモノラル・ミックスが作成された。9月30日に再びピアノがオーバー・ダビングされ、10月30日にステレオ・ミックスが作成された。このカバー・バージョンは、イギリスでは1963年に発売された2作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ 』に最後の楽曲として、アメリカでは1964年に発売されたキャピトル 編集盤『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム 』のA面5曲目に収録された。日本では、1964年6月5日に発売されたシングル盤『プリーズ・ミスター・ポストマン 』のB面に収録された後、同月15日に発売された『ビートルズ No.2! 』にも収録された。
ビートルズは、イギリスでヒットを記録していない時期に、マネージャーであるブライアン・エプスタイン が経営するNEMSレコード・ショップで「マネー」のシングル盤を見つけた。楽曲を聴いたメンバー、とりわけジョン・レノン は本作を気に入り、すぐに自身の公演のレパートリーに加え、1962年1月のデッカ・レコード のオーディションでも演奏した。1995年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー1 』には、ストックホルムでのライブ音源が収録されている。また、BBCラジオ の番組でも演奏されており、2013年に発売された『オン・エア〜ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2 』には、1963年12月26日に放送された『From Us to You』での演奏が収録された[ 21] 。
2018年に『タイムアウト・ロンドン 』誌が発表した「The 50 Best Beatles Songs」では、第24位にランクインした[ 22] 。
リンゴ・スター は、2019年に発売したソロ・アルバム『ホワッツ・マイ・ネーム (英語版 ) 』でもカバーしている[ 23] 。
クレジット(ビートルズ版)
※出典
フライング・リザーズによるカバー
1979年にフライング・リザーズ がカバーしており、同年7月にオリジナル・アルバム『ミュージック・ファクトリー (英語版 ) 』からの第1弾シングルとして発売された。フライング・リザーズによるカバー・バージョンは、全英シングルチャート で最高位5位[ 27] 、Billboard Hot 100 で最高位50位[ 28] を記録した。
チャート成績(フライング・リザーズ版)
年間チャート
チャート (1980年)
順位
オーストラリア (Kent Music Report)[ 38]
71
Canada Top Singles (RPM )[ 39]
59
ニュージーランド (Recorded Music NZ)[ 40]
32
その他のアーティストによるカバー
上記のビートルズやフライング・リザーズの他にも「マネー」は、多くのアーティストにカバーされており、音楽チャートにチャートインしたカバー・バージョンもいくつか存在する。1964年にザ・キングスメン (英語版 ) がシングル盤として発売し、Billboard Hot 100 で最高位16位、R&Bチャートで最高位6位を記録[ 41] [ 42] 。1966年に発売されたジュニア・ウォーカー&オール・スターズ (英語版 ) によるカバー・バージョンは、Billboard Hot 100で最高位52位、R&Bチャートで最高位35位を記録[ 43] し、バーン・エリオット&ザ・フェンメン (英語版 ) によるカバー・バージョンは全英シングルチャート で最高位14位を記録した[ 44] 。
日本では、RCサクセション が1988年 8月15日 発売の『COVERS 』(カバーズ)でカバー、王様が2005年に発売したアルバム『カブトムシ外伝』で独自の日本語詞をつけ、タイトルを「ゼニー」に変更してカバーしている[ 45] 。
2018年に公開された映画『クレイジー・リッチ! 』では、シェリル・Kによるカバー・バージョンが使用された[ 46] 。
脚注
出典
^ Rohter, Larry (2013年8月31日). “For a Classic Motown Song About Money, Credit Is What He Wants” . The New York Times . https://www.nytimes.com/2013/09/01/arts/music/for-a-classic-motown-song-about-money-credit-is-what-he-wants.html?_r=1 2021年7月4日 閲覧。
^ The Complete Motown Singles Vol. 1: 1959-61 (CD liner notes). New York: Hip-O Select/Motown/Universal Records.
^ a b “The Hot 100 Chart ”. Billboard (1960年4月18日). 2021年7月4日 閲覧。
^ a b “Barrett Strong Chart History (Hot R&B/Hip-Hop Songs) ”. Billboard . 2021年7月4日 閲覧。
^ Marcus, Greil (2015). The History of Rock 'n' Roll in Ten Songs . New Haven: Yale University Press . p. 169
^ “Barrett Strong – "Money (That's What I Want)" ”. Classic Motown . Universal Music Enterprises. 2018年12月16日 閲覧。
^ Wyman, Bill (2017年6月7日). “All 213 Beatles Songs, Ranked From Worst to Best ”. Vulture.com . 2018年12月16日 閲覧。
^ “The Beatles - Money (That's What I Want) - ultratop.be ” (French). Ultratop 50 . 2021年7月4日 閲覧。
^ “Live At The BBC (Vol.2) ”. thebeatles.com . 2021年7月5日 閲覧。
^ Time Out London Music (2019年5月17日). “The 50 Best Beatles Songs ”. Time Out London . Time Out England Limited. 2021年7月5日 閲覧。
^ “Music Review: Ringo Starr's peace and love fills up new album ”. The Mainichi . The Mainichi Newspapers (2019年10月24日). 2021年7月5日 閲覧。
^ Cateforis, Theo (2011). Are We Not New Wave? : Modern Pop at the Turn of the 1980s . University of Michigan Press . p. 97. ISBN 978-0-472-03470-3 . https://books.google.com/books?id=-MVrM3zKrHQC&pg=PA97
^ Howe, Brian (2020年9月18日). “David Toop: Apparition Paintings Album Review ”. Pitchfork . 2021年7月5日 閲覧。
^ a b "Official Singles Chart Top 100" . UK Singles Chart . 2021年7月5日 閲覧。
^ a b “The Hot 100 Chart ”. Billboard (1980年1月19日). 2021年7月5日 閲覧。
^ "Austriancharts.at – The Flying Lizards – Money" (in German). Ö3 Austria Top 40 . 2021年7月5日 閲覧。
^ "Ultratop.be – The Flying Lizards – Money" (in Dutch). Ultratop 50 . 2021年7月5日 閲覧。
^ "Top RPM Singles: Issue 0141a ." RPM . Library and Archives Canada . 2021年7月5日 閲覧。
^ “InfoDisc : Tous les Titres par Artiste ” (フランス語). InfoDisc. 2013年9月20日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年7月5日 閲覧。
^ "Nederlandse Top 40 – The Flying Lizards - Money" (in Dutch). Dutch Top 40 . 2021年7月5日 閲覧。
^ "Dutchcharts.nl – The Flying Lizards – Money" (in Dutch). Single Top 100 . 2021年7月5日 閲覧。
^ “charts.nz - The Flying Lizards - Money ”. Top 40 Singles . 2022年3月27日 閲覧。
^ “The Flying Lizards - Awards ”. AllMusic . All Media Network. 2012年11月30日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年7月5日 閲覧。
^ “Cash Box Top 100 2/02/80 ”. Cash Box (1980年2月2日). 2021年7月5日 閲覧。
^ “Forum - ARIA Charts: Special Occasion Charts - Top 100 End of Year AMR Charts - 1980s ”. Australian-charts.com . Hung Medien. 2021年7月5日 閲覧。
^ “Top 100 Singles ”. RPM . Library and Archives Canada . 2022年1月16日 閲覧。
^ “End of Year Charts 1980 ”. Recorded Music New Zealand. 2021年7月5日 閲覧。
^ Eder, Bruce. The Kingsmen - The Best of the Kingsmen [Rhino] | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック . 2021年7月5日 閲覧。
^ Whitburn, Joel (2006). The Billboard Book of Top 40 R&B and Hip Hop Hits . New York: Billboard Books. p. 322. ISBN 0-8230-8283-0
^ “Junior Walker - Awards ”. AllMusic . 2016年3月14日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年7月5日 閲覧。
^ “Official Singles Chart Top 50 ”. Official Charts Company (1963年12月19日). 2021年7月5日 閲覧。
^ “王様が語るニューアルバム『カブトムシ外伝』の全貌&全曲試聴 ”. BARKS . ジャパンミュージックネットワーク株式会社 (2005年12月15日). 2021年7月5日 閲覧。
^ “マドンナやコールドプレイのカバー、Miguelの新曲も 『クレイジー・リッチ!』はサントラも話題 ”. Real Sound . 株式会社blueprint (2018年9月15日). 2021年7月5日 閲覧。
参考文献
Cogan, Jim; Clark, William (2003). Temples of Sound: Inside the Great Recording Studios . San Francisco, California: Chronicle Books
Everett, Walter (2001). The Beatles as Musicians: The Quarry Men Through Rubber Soul . Oxford University Press. ISBN 0-1951-4105-9
Lewisohn, Mark (2013). Tune In: The Beatles: All These Years . Crown/Archetype . ISBN 978-0-80413-934-2
Murray, Charles Shaar (2013). Boogie Man: The Adventures of John Lee Hooker in the American Twentieth Century . St. Martin's Griffin . ISBN 978-1-46685-236-5
Pollock, Bruce (2011). If You Like the Beatles...: Here Are Over 200 Bands, Films, Records and Other Oddities That You Will Love . Backbeat Books. ISBN 1-6171-3070-2
Stannard, Neville (1982). The Beatles: The Long & Winding Road, A History of the Beatles on Record . New York: Avon Books
Talevski, Nick (2006). Rock Obituaries: Knocking On Heaven's Door . Voyageur Press . ISBN 978-0-76034-546-7
Winn, John C. (2008). Way Beyond Compare: The Beatles' Recorded Legacy, Volume One, 1957-1965 . Crown. ISBN 0-3074-5238-7
Womack, Kenneth (2009). The Cambridge Companion to the Beatles . Cambridge University Press. ISBN 1-1398-2806-1
Womack, Kenneth (2016). The Beatles Encyclopedia: Everything Fab Four . ABC-CLIO. ISBN 1-4408-4427-5
外部リンク
UK盤・US盤共通
1963年 1964年 1965年 1966年 1967年 1968年 1969年 1970年 1978年 1982年 1995年 1996年 2023年
UK盤 (パーロフォン /アップル )
US盤 (ヴィージェイ /スワン /トリー /キャピトル /アップル )
1963年 1964年 1965年 1966年 1970年 1976年
その他 (オデオン /パーロフォン /アップル )
1963年 1964年 1965年 1966年 1968年 1969年 1970年 1972年 1978年 1981年