セノマニアン (英語 : Cenomanian )は、1億50万年前から9390万年前にあたる後期白亜紀 の地質時代 名の一つ[ 1] 。
なお、「セノマン階 」「セノマニアン階 」という名称があるが、これらは時代を示すものではない。「階」は地層に対して当てられる単位(層序名)であり、層序名「セノマン階 」「セノマニアン階 」と時代名「セノマン期 」「セノマニアン期 」は対を成す関係である。詳しくは「累代 」を参照のこと。
層序学的定義
セノマニアン階の基底、すなわち上部白亜系の基底は、層序記録に有孔虫 の種 Rotalipora globotruncanoides が出現する地点で定義される。国際標準模式層断面及び地点 に指定された公式なセノマニアンの基底はフランスのアルプス山脈 のロザン (英語版 ) 村の近くに位置する、Mont Risou の西の露頭 (オート=アルプ県 、北緯44度23分33秒、東経5度30分43秒)である。基底は Marnes Bleues 累層の最上部の36メートル下に位置する[ 2] 。
セノマニアン/チューロニアン境界はアメリカ合衆国 コロラド州 プエプロセクションに位置する[ 3] 。
環境
炭素・酸素同位体比の研究から、前期セノマニアンには海水準低下と地球規模の気温低下が起きていることが示された。後期白亜紀 は全体として気温が低下する傾向にあり、時節火山活動で放出された二酸化炭素 による温室効果 で気温が攪乱されていた。セノマニアンの終わりまではδ13C 値が正に変化していた[ 4] 。
海洋無酸素事変
セノマニアンの時期にはストロンチウム の同位体比から海底火山の活動が活発であったことが示されており、熱水噴出も盛んであった。セノマニアン末期に水深約500 - 1000メートルの水温が15℃から20℃へ上昇すると、水中密度勾配が消失、栄養塩類の垂直運搬が促進された。ブラジル北東部とモロッコ北西部の間の海底に位置した高知が大西洋の拡大により消失したこともあり、大西洋とテチス海の間で栄養塩類が供給されて生物生産に拍車がかかった。生物生産が盛んであった透光帯の基底からは光合成緑色硫黄細菌の分子化石が発見されており、嫌気性を示すことが判明した[ 4] 。
セノマニアン/チューロニアン境界では、大西洋 とテチス海 西部を中心に、OAE 2 と呼ばれる海洋無酸素事変 が世界規模で発生した[ 3] [ 4] 。この原因は海面上昇による酸素極小帯の拡大であるとされる。海洋生物は科レベルで8%、属レベルで26%、種レベルで33 - 55%の絶滅を遂げた[ 3] 。北大西洋とテチス海では種レベルで浮遊性有孔虫が20%、放散虫 が58%絶滅した。西部内陸海路 ではアンモナイト が74%、イノセラムス類 が92%絶滅し、日本近海でのアンモナイトの絶滅率は50%であった[ 4] 。
北米では底生有孔虫 、浮遊性有孔虫、貝形虫、渦鞭毛藻 、石灰質ナノ化石の順に絶滅が起こっており、無酸素水塊が海水の底層から表層へ拡大して段階的な絶滅を起こしたことが示されている。西部内陸海路などでは非常に降水量が多かったため、表層海水の塩類濃度が低下し、濃度差により中層以深の循環が停滞し、無酸素環境の形成に寄与したと考えられている[ 3] 。
日本では、境界の90 - 50万年前に海洋無脊椎動物の絶滅が始まった。貧酸素水塊はセノマニアン末期の約20 - 50万年前に水深300 - 600メートルまで拡大し、そこに生息した底生生物に影響を及ぼしたことが示唆されている。ただし、日本でのセノマニアン/チューロニアン境界でのアンモナイトの絶滅率はアメリカ合衆国のものと比較して高くなく、海洋無酸素事変に特徴的な有機物の農集した黒色頁岩も観察されていない。このことから、セノマニアン/チューロニアン境界付近で世界的な海面上昇が起こり、酸素極小帯が上下に拡大したものの、完全な無酸素環境は形成されなかったと考えられている[ 3] 。
北海道のアンモナイトはセノマニアン/チューロニアン境界後20 - 50万年後に回復を示した[ 3] 。セノマニアンでの絶滅事件以降空白となった生態的地位を新種の海洋無脊椎動物が埋め、これがチューロニアンの基底を定義することとなる[ 4] 。
日本において
北海道 北西部添牛内地区の下部セノマニアンではアンモナイト のウタツリセラス属とグレイソニテス属が多産し、ウタツリセラス属の2種(U. vicinale 、U. chrysanthemum )とグレイソニテス属の2種(G. wooldridgei 、G. adkinsi )により基底が特徴づけられる[ 5] 。また、大夕張地域にセノマニアン階からチューロニアン階の地層が大規模に分布していることが知られている[ 3] 。
熊本県 に分布する御所浦層群 唐木崎層 もアルビアン階にあたる。足跡化石として九州で初めて発見された全長5メートルの獣脚類 の足跡、御所浦町 で初めて発見された恐竜化石である植物食恐竜の脚の骨、鳥脚類 のものと思われる椎体 (当時の中学生が発見)が産出している[ 6] 。
主な生物
アンモナイト
日本で産出するアンモナイトを挙げる[ 7] 。
上部(後期)
スミトモセラス
ユウキャライコセラス・ペンタゴナム
中部(中期)
下部(前期)
マンテリセラス・ジャポニカム
グレイソニテス・ウールドリッジ
ソウウンナイテス・アラスカエンシス
ベレムナイト
曲竜類
鳥脚類
首長竜
セノマニアンの首長竜
分類群
生息期間
生息場所
説明
画像
プレシオプレウロドン (英語版 )
アメリカ合衆国ワイオミング州 Belle Fourche 頁岩
プレシオサウルス科 の首長竜。中庸な長さの癒合に8対の歯が並び、歯の断面は楕円形に近く、基部付近を除いて外側表面が滑らかである。頸肋骨はジュラ紀 のプリオサウルス累と違って単頭で、烏口骨には胸筋間に細長い骨の棒がある。
プレシオプレウロドン
タラッソメドン
モンタナ州 Belle Fourche 累層とコロラド州 Graneros Shale 累層
ホロタイプの全長が10.86メートルに達する、最大のエラスモサウルス科 首長竜の1つ。
翼竜
竜脚類
獣脚類
出典