世界重要農業遺産システム (せかいじゅうようのうぎょういさんシステム[ 注 1] [ 注 2] 、英語 : Globally Important Agricultural Heritage Systems =GIAHS(ジアス) 。通称「世界農業遺産 」[ 5] [ 注 3] )とは、伝統的な農業 や林業 ・漁業 によって育まれ維持されてきた土地利用 (農地やため池・水利施設などの灌漑 )とその技術や文化風習 などを一体的に認定し、次世代への継承を図る目的に2002年 に国連食糧農業機関 (FAO)が創設した制度で[ 広報 1] 、対象地を取り巻く生物多様性 の保全や持続可能な農業 の実践地域となる[ 6]
[ 7] 。
GIAHSイニシアティブによる認定サイトは2024年時点で北アメリカとオセアニアを除く29の国と地域、合計で89サイトとなる。
基本理念
FAOは食糧危機 を見据え農業の大規模化を推進し、緑の革命 の考え方をうけ品種改良 や肥料を大量に用いることでの生産性・収穫量の向上を是としてきた。その結果、一部の地域では環境破壊 や企業参入による農業の工業化と寡占といった問題が生じてしまった。その反省を踏まえ、農業の原点を再確認し、農業就労者の減少と高齢化という問題も交えて考えていこうという取り組みが農業遺産の基本的姿勢である[ 8] 。
登録地
地域別(FAOによる区分)・国名アルファベット順・登録年次順[ 9]
アジア
バングラデシュ
Floating Garden Agricultural Practices(浮遊農業システム):2015年登録、現地ではベイラ(baira)・ゲト(geto)・ダハップ(dhap)などと呼ばれる束ねた浮草上での水耕栽培
中国
Rice Fish Culture(水田養魚[ 6] /浙江省 青田県 ):2005年登録
Wannian Traditional Rice Culture(万年 の伝統稲作/江西省 ):2010年登録
Hani Rice Terraces(ハニ族の棚田 /雲南省 ):2010年登録、世界遺産
Dong's Rice Fish Duck System(トン族 の稲作・養魚・養鴨/貴州省 ):2011年登録
Pu'er Traditional Tea Agrosystem(普洱 の伝統的茶農業/雲南省):2012年登録、世界遺産 「景邁山古茶林 (中国語版 ) の文化的景観 」
Aohan Dryland Farming System(敖漢旗 の乾燥地農業/内モンゴル自治区 赤峰市 ):2012年登録
Kuaijishan Ancient Chinese Torreya(会稽山 の古代中国トレヤ(榧 )/浙江省紹興市 ):2013年登録
Urban Agricultural Heritage – Xuanhua Grape Garden(宣化 の伝統的ぶどう栽培/河北省 張家口市 ):2013年登録
Jiaxian Traditional Chinese Date Gardens(郟県 の伝統的な中国ナツメ 庭園/河南省 ):2014年登録
Xinghua Duotian Agrosystem(伝統的な興化 垜田農業システム/江蘇省 ):2014年登録
Jasmine and Tea Culture System of Fuzhou City(福州市 のジャスミン と茶文化システム/福建省 ):2014年登録
Huzhou Mulberry-dyke and Fish Pond System(湖州 の桑 の堤防 による養魚池 システム/浙江省):2017年登録
Diebu Zhagana Agriculture-Forestry-Animal Husbandry Composite System(迭部 扎尕那の農林畜産システム/甘粛省 テウォ県):2017年登録
Xiajin Yellow River Old Course Ancient Mulberry Grove System(夏津 の黄河 故道における伝統的桑栽培システム/山東省):2018年登録
Rice Terraces in Southern Mountainous and Hilly areas(中国の南部山岳丘陵地域における棚田システム)…湖南省 紫鵲界棚田(国際かんがい排水委員会 のかんがい施設遺産 )、広西省 龍勝棚田 、江西省崇義 客家棚田、福建省尤渓県 联合村棚田 :2018年登録
Shexian Dryland Stone Terraced System(渉県 の乾地石棚システム/河北省邯鄲市 ):2022年登録
Anxi Tieguanyin Tea Culture System(安渓 の鉄観音 茶文化システム/福建省泉州市 ):2022年登録
Ar Horqin Grassland Nomadic System in Inner Mongolia(アルホルチン の草原 遊牧システム/内モンゴル自治区):2022年登録
Qingyuan Forest-Mushroom Co-culture System in Zhejiang Province(浙江省慶元 森林のキノコ 栽培システム):2022年登録
Xianju Ancient Chinese Waxberry Composite System in Zhejiang Province(浙江省仙居 の古代中国ヤマモモ 複合システム):2023年登録
Tongling White Ginger Plantation System in Anhui Province(安徽省銅陵 の白生姜 農園システム):2023年登録
Kuancheng Traditional Chestnut Eco-Planting System in Hebei Province(河北省寛城 の伝統栗 生態植林システム):2023年登録
インド
Koraput Traditional Agriculture(コラプット (英語版 ) の伝統農業/オリッサ州 ):2012年登録
Kuttanad Below Sea Level Farming System(クッタナド (英語版 ) の海抜以下の農業システム/ケーララ州 ):2013年登録
( ジャンムー・カシミール ) [ 注 4]
Saffron Heritage of Kashmir(カシミールのサフラン 栽培):2011年登録
インドネシア
イラン
Qanat Irrigated Agricultural Heritage Systems, Kashan(エスファハーン 省カーシャーン のカナート 灌漑農業遺産システム):2014年登録、世界遺産 「ペルシア式カナート 」の構成資産の一つ
Qanat-based Saffron Farming System in Gonabad(ゴナーバード (英語版 ) のカナートを拠点とするサフラン農業システム):2018年登録、世界遺産 「ペルシア式カナート」の構成資産の一つ
Grape Production System in Jowzan Valley(ジョーザン渓谷 (英語版 ) のブドウ 生産システム):2018年登録
Estahban Rainfed Fig Orchards Heritage System, Fars Province(ファールス州 エスタフバン (英語版 ) の天水イチジク 果樹園システム):2023年登録
Traditional Walnut Agricultural System in Tuyserkan, Hamedan Province(ハマダーン州 トゥイセルカン (英語版 ) の伝統的なクルミ 農業システム):2023年登録
Ancient Traditional Gardens of Qazvin Bāghestān(ガズヴィーン州 バゲスタン (英語版 ) の古代の伝統的な庭園):2023年登録
日本
Noto's Satoyama and Satoumi(能登 の里山 里海 ):2011年登録[ 6]
Sado’s Satoyama in Harmony with Japanese Crested Ibis(トキ と共生する佐渡 の里山 ):2011年登録[ 6]
Traditional Tea-grass Integrated System in Shizuoka(静岡 の伝統的な茶草場農法 ):2013年登録
Managing Aso Grasslands for Sustainable Agriculture(阿蘇 草原の持続的農業 ):2013年登録、文化財保護法 に基づく重要文化的景観 にも選定。
Kunisaki Peninsula Usa Integrated Forestry, Agriculture and Fisheries System(国東半島 ・宇佐 の農林水産循環システム):2013年登録
Ayu of the Nagara River System(清流長良川の鮎 〜里川 における人と鮎 のつながり):2015年12月15日登録[ 7] 、重要文化的景観 にも選定。
Minabe-Tanabe Ume System(みなべ ・田辺 の梅 栽培):2015年登録
Takachihogo-Shiibayama Mountainous Agriculture and Forestry System(高千穂郷 ・椎葉山 の山間地農林業):2015年登録
Osaki Kôdo's Traditional Water Management System for Sustainable Paddy Agriculture(大崎耕土 の巧みな水管理による水田農業システム):2017年登録
Nishi-Awa Steep Slope Land Agriculture System(にし阿波の傾斜地農耕システム):2018年登録
Traditional Wasabi Cultivation in Shizuoka(静岡 水わさび の伝統栽培):2018年登録
Biwa lake to land integrated system(琵琶湖 システム):2022年登録
Fruit Cultivation System in Kyoutou Region, Yamanashi(山梨県 峡東地域 の果実 栽培システム):2022年登録[ 10]
Integrated Farming System for Harmonizing People and Cattle in the Mikata District(兵庫県 美方郡 の但馬牛 統合農業システム):2023年登録
Fallen Leaves Compost Agroforestry System in Musashino Upland, in the peri-urban area of Tokyo(東京 近郊の武蔵野台地 の落ち葉 堆肥 農法):2023年登録
韓国
Traditional Gudeuljang Irrigated Rice Terraces in Cheongsando(青山島 のクドゥルチャンノン):2014年登録、クドゥルはオンドル の別称、チャンノンは農地のような意味。オンドルに似せた石積み上に盛り土することで、雨水を排水しやすくする構造。古くは青山濾水とも呼ばれていた。2021年にかんがい施設遺産 にも登録。
Jeju Batdam Agricultural system(済州島 のパッタム):2014年登録、直訳すると「畑積み」。済州島の溶岩を積み上げた石垣で、海風から耕地を守ってきた。その様相から黒龍万里と形容される。
Traditional Hadong Tea Agrosystem in Hwagae-myeon(花開面 (朝鮮語版 ) の伝統的な河東 茶栽培システム):2017年登録
Geumsan Traditional Ginseng Agricultural System(錦山 の伝統的な高麗人参 農業システム):2018年登録
Damyang Bamboo Field Agriculture System(潭陽 の竹林 農業システム):2020年登録
Sonteul (hand net) Fishery System for gathering Marsh Clam in Seomjingang River(蟾津江 でのソントゥル(手綱 )蜆 漁システム):2023年登録
Jeju Haenyeo Fisheries System(済州島の海女 漁業システム):2023年登録、2016年に無形文化遺産に登録。
フィリピン
スリランカ
The Cascaded Tank-Village System in the Dry Zone of Sri Lanka(スリランカの乾燥地帯にある滝状タンク・ビレッジ・システム):2017年登録、対象となるEthimale Tank BundやPadaviya Tankはかんがい施設遺産 でもある
タイ
Thale Noi Wetland Pastoral Buffalo Agro-ecosystem(タレノイ湿地 (英語版 ) の水牛 農業エコシステム):2022年登録
ハニ棚田
興化垜田
紫鵲界棚田
龍勝棚田
アルホルチン草原での遊牧
クッタナドの堰上げ背水による水田
カナート
朱鷺が舞い降りる佐渡の田圃
阿蘇の草千里
静岡の茶畑
長良川
みなべ町の梅
大崎耕土
静岡のワサビ田
琵琶湖での漁
但馬牛
チェジュ島のパッタム
河東茶畑
済州島の海女
イフガオの棚田
近東・北アフリカ (アラブアフリカ )
アルジェリア
エジプト
Siwa Oasis(シワ・オアシス ):2016年登録、古代エジプト時代から続く乾燥地農業。無形文化遺産 「ナツメヤシに関する知識・技術・伝統・実践」の構成資産。
モロッコ
Oases System in Atlas Mountains(アトラス山脈 のオアシスシステム):2011年登録、新石器時代 にアトラス山系に定着したベルベル人 による灌漑農業と牛 ・羊 ・山羊 ・ラクダ の牧畜。
Argan-based agro-sylvo-pastoral system within the area of Ait Souab-Ait and Mansour(アイト・スアブ (フランス語版 ) ・アイト・マンスール地域のアルガン 農牧システム):2018年登録
The ksour of Figuig: oasis and pastoral culture around the social management of water and land(フィギッグ (英語版 ) のクスール :水と土地の社会管理を中心としたオアシスと牧歌的な文化):2022年登録。無形文化遺産「ナツメヤシに関する知識・技術・伝統・実践」の構成資産。
チュニジア
Gafsa Oases(ガフサ のオアシス):2011年登録、農民の共同管理による灌漑農業。
Hanging gardens from Djebba El Olia(ジェバ・エル・オリアの空中庭園):2020年登録、ゴルア山での森林と共生する農作物栽培
Ramli agricultural system in the lagoons of Ghar El Melh(ガール・エル=メルフ (英語版 ) のラグーン におけるラムリ農業システム):2020年登録
アラブ首長国連邦
Al Ain and Liwa Historical Date Palm Oases(アル・アイン とリワ のナツメヤシ オアシス):2015年登録、オアシスでの灌漑農業。アル・アインは世界遺産 、ここでのナツメヤシ栽培は無形文化遺産でもある。
フィギッグのクスール
セギアと呼ばれるガフサの水路
シワ・オアシス
アル・アイン
アフリカ
ケニア
Oldonyonokie/Olkeri Maasai Pastoralist Heritage(オルドニョノキエ/オルケリのマサイ族 の放牧 ):2011年登録、マサイ族による改良固有種の牧牛農業。
サントメ・プリンシペ
Cocoa Agroforestry System in Sao Tome and Principe(サントメ・プリンシペ のカカオ 農林業システム):2024年登録
タンザニア
Engaresero Maasai Pastoralist Heritage Area(エンガレセロのマサイ族の放牧):2011年登録、ケニアのオルケリマサイ族と社会的地理的に分断されたマサイ族の牧牛農業。
Shimbwe Juu Kihamba Agro-forestry Heritage Site(シンブウェ・ジュ・キハンバの混農林業 ):2011年登録、キリマンジャロ 南麓で見られる標高別に果樹建材林・バナナ 林・コーヒー 低木・菜園の4層からなる有機循環混農林業。
ヨーロッパ
アンドラ
The subalpine pastures of Andorra(アンドラ の亜高山帯の牧草地):2023年登録、世界遺産 「マドリウ=ペラフィタ=クラロ渓谷 」を含む
Unique Austrian carp pond farming(アンドラの養鯉池農法):2024年登録
オーストリア
Traditional Hay milk Farming in the Austrian Alpine Arc(オーストリアアルプス弧 における伝統的な干し草 酪農業 ):2023年登録
スペイン
Malaga Raisin Production System in La Axarquía(ラ・アハルキア (英語版 ) のマラガ ・レーズン 生産システム):2017年登録
The Agricultural System of Valle Salado de Añana(アニャナ 塩谷の農業システム):2017年登録
The Agricultural System Ancient Olive Trees Territorio Sénia(セニア地域のオリーブ 古木による農業システム):2018年登録
Historical Irrigation System at l'Horta de València(オルタ・デ・バレンシア の歴史的灌漑システム):2019年登録
Agrosilvopastoral system Mountains of León(レオン山地 の農林牧畜システム):2022年登録
イタリア
Olive Groves of the Slopes between Assisi and Spoleto(アッシジ とスポレート の間の丘陵地帯のオリーブ 畑):2018年登録
Soave Traditional Vineyards(ソアーヴェ の伝統的なワイン 用ブドウ畑 ):2018年登録
ポルトガル
Barroso Agro-sylvo-pastoral System(バローソ (英語版 ) の農業林間放牧システム):2018年登録
アニャナの塩田
マラガの葡萄畑
アッシジのオリーブ畑
ソアーヴェの葡萄畑
樹木があるバローソの放牧地
ラテンアメリカ
ブラジル
Traditional Agricultural System in the Southern Espinhaço Range, Minas Gerais(ミナスジェライス州 のエスピニャソ山地 (英語版 ) 南部の伝統的農業システム):2020年登録
チリ
Chiloé Agriculture(チロエ 農業):2011年登録、200種ものジャガイモ 生産と種実類 の栽培。
エクアドル
Andean chakra: an ancestral agricultural system of Kichwas Cotacachi Communities(アンデス のチャクラ :キチュワス (英語版 ) ・コタカチ (英語版 ) ・コミュニティの先祖伝来の農業システム):2023年登録
Amazonian Chakra, a traditional agroforestry system managed by Indigenous communities in Napo province(アマゾン のチャクラ:ナポ県 の先住民コミュニティによって管理される伝統的な混農林業システム):2023年登録
メキシコ
ペルー
Andean Agriculture(アンデス農業)[ 6] :2011年登録、インカ文明 から続くジャガイモ栽培と、高地でのアルパカ 放牧。
チロエの畑
チナンパ
ミルパのサボテン畑
アンデスのジャガイモ栽培
登録手順
農業遺産の認定手続きは、初期段階においては年1回のFAO年次総会に合わせて行われ、その後専属のGIAHS会議を開催するようになったが、明文化された書式がなく慣例的に行われてきた。そこで2016年に科学審査委員会を設置し、「GIAHS認定手続きに関する指針」を策定した。同委員会はFAOにおける各地域区分から選出された7名の委員で構成され、認定審査も担当する[ 11] 。
原則として認定審査は年1回のGIAHS会議においてで、2017年は11月23〜25日に行われたが、日本の大崎耕土は12月12日に、静岡のわさび栽培と阿波の傾斜地農耕は2018年3月9日に追加認定が行われるなど変則的な対応もみられる。
日本からの推薦には、希望する地域が管轄の地方農政局 に上申し、農林水産省 の農村環境課農村環境対策室が推薦に相応しい物件であるかを判断し、農林水産大臣 の名前で推薦が行われる。
傾向
伝統的な農林水産業 を対象にするとはいえ、特定地域の農地 で行われている単独の農法より広域連携性、さらに複合的な要素や生産管理 体制も伴う「システム 」を全体的に包括するようにしている。
地域全体における一次産業 の相互補完(文化循環 )による文化形成圏を対象とする例として、能登の里山里海では棚田 農業だけではなく、天日で稲穂を乾かすはざ 干し、炭焼きや漆器 の輪島塗 を支える漆 栽培と漆掻きなどの林業 、揚げ浜式製塩法 、海女漁 、鯔待ち櫓漁 など、能登半島全域における山と海の恵みを活かした一次産業を対象としている。
なお、能登の里山里海は2011年(平成23年)に認定されたが、二年後に宝達志水町 が追加認定されており、制度的に認定範囲の拡張が可能であることが確認された。
世界遺産との差異
世界遺産は不動産 有形財 構築物 を対象とし厳正保護が目的であるのに対し、農業遺産は伝統的な農業手法の伝承(無形財産)とそれを行う農地や周辺環境(文化的環境 ・環境財 )の保護も目的とし、農業遺産認定ブランドとして産物を売り出す遺産の商品化 も認めている。
一例を上げると、世界遺産のフィリピン・コルディリェーラの棚田群は登録範囲がバナウェ を中心とした約200平方kmの遺存状態が良好な限られた箇所に絞られているのに対し、農業遺産のイフガオの棚田はイフガオ族 が暮らしパヨと呼ばれる棚田があるイフガオ州 11市175村に跨る約680平方kmと、世界遺産の三倍以上の広さになる。特に世界遺産では文化的景観 という概念が適用されていることから、農作業における機械化 や農薬 の使用なども制限され維持管理が難しいが、農業遺産では農民 の生活向上も図るため各戸への電力 供給なども推奨しており(娯楽用ではなく気象情報 入手のためのテレビやインターネットの普及目的)、景観 を阻害する恐れがある。また世界遺産では棚田の景観を重視するが、農業遺産では棚田周辺で行われる焼畑農地なども含んでいる。
問題点
国内
農業遺産は生産地の観光地化が目的ではないものの、登録地の宣伝効果と農業遺産の知名度の向上に伴い、観光客が増える傾向にある。その影響により、耕作地への立ち入りやプライバシー 侵害が浮上しつつある(観光公害 )。
農業遺産ブランドが浸透することで、海外で海賊版 のような無断商標 使用、或いは日本地名産地偽装品の流通に拍車がかかった。これまで日本には地理的表示 保証制度がなかったため、「農林物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律 」の改正と「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律 」制定により、2015年 (平成 27年)6月1日 より『GIマーク 』の導入を始めたが[ 12] 、国外での取り締まりは困難である。
海外
農業遺産は効率向上のため工業化 を認め、農家の生活向上を目指し副産物 の製作も奨励しており、日本の6次産業 化を注視しているが、中国においては加工 工場 への就労からルイスの転換点 を向える本末転倒な事態も発生している。
農業=エコというイメージ・風潮があるが、生物多様性の観点からすると、人為的に単一作物を栽培することは連作障害 などを招き環境負荷 ・環境破壊ともいえる。循環型とされる焼畑農業 もインドネシア ・スマトラ島 の野焼きがシンガポール に深刻な煙害 (ヘイズ)を与えている[ 広報 5] 。
また、アフリカなど途上国の農業においては、プランテーション 化による搾取や児童労働 の問題も潜んでいる。
たばこ のアメリカンスピリット の宣伝文句に「タバコは農業」とあり、キューバ のビニャーレス渓谷 でのタバコ 栽培地が世界遺産になっているが、社会悪となった煙草の栽培に対する批判は免れない(たばこ規制枠組条約 では栽培は否定していない)。
展開/展望
FAOはWFP(国際連合世界食糧計画 )やUNEP(国際連合環境計画 )そしてユネスコなどと、農業遺産を中心に農業・環境・食について連携を深めており、民間運動との相互補完も視野に入れている。一例として、公的なものとしては創造都市ネットワーク の食部門、民間ではスローシティ 運動や世界で最も美しい村 運動、身土不二 運動などが上げられる。
また、農林水産省は独自に日本農業遺産 制度を創設[ 13] 。中国では重要農業文化遺産(中国重要农业文化遗产 )、韓国でも国家農漁業遺産(농가유산・어업유산)として推進している。こうした各国の国内施策を「Nationally Important Agriculture Heritage Systems(NIAHS)」としてFAOが奨励している。
注釈
出典
広報資料・プレスリリースなど一次資料
関連項目
外部リンク