バリオニクス (Baryonyx )は、中生代 前期白亜紀 (約1億3,000万 - 1億2,500万年前)の現イギリス に生息していた獣脚類 (肉食恐竜 )。属名 は「重々しいツメ」を意味する。
特徴
人との大きさ比較
バリオニクスは全長7.5〜9メートル、体重1.2〜1.9トンの大型魚食 恐竜。この体格は共存した肉食性獣脚類のネオヴェナトル やエオティラヌス を凌いでいる。腹部からは胃酸で溶かされた魚類のスケエンスティア や鳥脚類のイグアノドン科 の残骸が見つかっている。どちらかと言えば短足なスピノサウルス に対し、本種バリオニクスは標準的な体型をしていた。
頭部
バリオニクスはガビアル を思わせる顎と96本の歯を振るうことで、前述の水辺の生物や死骸を食べていたと考えられてる。またトーマス・ホルツ は、スピノサウルス科の特徴的なフック状の顎が他の恐竜の弱点(手首や首筋)に噛み付くにも便利だったと述べている[ 2] 。
頭頂部正中線上に骨質のとさかがあり、それが背面脊柱 上の棘突起 が伸長した稜(背ビレ)へと続いていた。
頸部
グレゴリー・ポール などはスピノサウルス科の首は緩いアーチを描くように前方へ伸ばしていたと考え[ 4] 、この考えが長らく支配的だった。
しかし近年ではシギルマッササウルス の研究により、スピノサウルス科の首は深いS字状に曲げられるほど柔軟性に富んでいたことが示されている。そのため実際にはサギ科 のような水上からの急襲が可能だったようだ[ 5] 。
前肢
バリオニクスの爪
バリオニクスの身体的な特徴の一つに、学名の由来でもある前足の指一本についた30センチメートルほどもある大きな爪が挙げられる。これは当初「巨大なドロマエオサウルス類 の第二趾の爪」と考えられていたが、その後の調査により、前肢の爪であること、持ち主はドロマエオサウルス類ではなく、既知の恐竜には無い特徴を持つ非常に興味深い動物であることが判った。
この重々しい爪については、「熊のようにふるって魚を突き刺した」「重い体が岸で滑らないように支えるためのアンカーだった」などの仮説や、一般的な獣脚類に比べ顎が細長く咀嚼力で劣る為「草食恐竜を襲う際の武器としていた」などの仮説が挙げられているが、明確な証拠はあがっていない[ 6] 。
中野美鹿 は鉤爪の用途に関してディスプレイや繁殖時の姿勢維持について活用した可能性を完全には否定しなかったが、最も現実的な使い方として漁の際に地面へ突き刺して姿勢安定に役立てた可能性を指摘している[ 4] 。
生態
魚をくわえている復元図
バリオニクスが魚食 であるという説は、発見当時、消化器系 があった場所から魚の鱗 と見られる化石が発見されたことから提示された。また、バリオニクスはスピノサウルス と同様に、比較的まっすぐな形状で、滑らかな表面に縦方向のすじがついた歯を持つ。これは、ティラノサウルス などのステーキナイフのようなぎざぎざを持ち後方へ反り返った歯と大きく異なり、滑りやすい魚などにしっかりと突き刺し、そのまま飲み込むための物とされている。比較的細長い形状の口吻 など、これらの特徴は魚食である現生のワニ とも共通しており、また当時イギリスを含むヨーロッパは島嶼 であり、魚食に適していたともいえる。しかしながら、消化器官からは魚以外に未消化のイグアノドン の骨も発見されており、現生のワニ やクマ がそうであるように、魚食のみならず他の動物を襲ったり、その死体を食べることもあったと考えられる。
分類
スピノサウルスなどと共にスピノサウルス科 Spinosauridae を形成していると考えられる。
脚注
^ トーマス・R・ホルツ、ルイス・V・レイ『ホルツ博士の最新恐竜辞典』小畠郁生(監訳)、朝倉書店、2010年。ISBN 978-4-254-16263-9 。 14章メガロサウルス類・スピノサウルス類
^ a b 「最新恐竜事典―分類・生態・謎・情報収集」P78〜79(著)金子隆一 (出版)朝日新聞社(発行)1996年
^ A reappraisal of the morphology and systematic position of the theropod dinosaur Sigilmassasaurus from the "middle" Cretaceous of Morocco(Evers, S. W:2015)
^ Function of Claws' claws(Andrew Kitchener:1987)
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
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