店頭に並べられるトゥロン
トゥロン (スペイン語 : turrón 、発音 [tuˈron] ) またはトローネ (イタリア語 : torrone 、発音 [torˈroːne] ) は南ヨーロッパ のヌガー 菓子である。一般的にはハチミツ 、砂糖 、卵白 、焙煎したナッツ 類 (アーモンド など) からなり、薄い板状の直方体か、ホールケーキのような円筒形に成形される。スペイン やイタリア で伝統的なクリスマス の菓子として食べられ、旧スペイン帝国 領、とくにラテンアメリカ 諸国でも同様である。
各国での名前
このヌガー 菓子は旧スペイン帝国 領を中心とした各国に存在するが、それらはいずれも似かよった名前で呼ばれている。スペイン語 では turrón (発音 [tuˈron] )、イタリア語 では torrone (発音 [torˈroːne] )、ブラジルポルトガル語 では torrone (発音 [toˈʁoni] )、サルデーニャ語 では turrone (発音 [tuˈrɔne] )、ヨーロッパポルトガル語 では torrão (発音 [tuˈʁɐ̃w] )、タガログ語 では turon (発音: [tuˈɾon] ) とそれぞれ呼ばれる。
レシピ
16世紀の Manual de Mujeres (『女性のためのハンドブック』) というハンドブックは化粧品や食品の作り方を載せているが、その中におそらく現存するものとしては最古と思われるスペインのトゥロンのレシピが含まれている[ 1] 。このレシピによると、トゥロンにはハチミツと玉子何個か分の卵白が必要で、これらを混ぜあわせたものを火にかけ、固まりかけたらいったん冷ます。ハチミツがカラメル化したら、殻をむいて焙煎した松の実 、アーモンド 、ヘーゼルナッツ などを加える。さらにすこし加熱してから火からおろし、薄く切りわける、とある。
起源
この菓子のさまざまな名前はいずれもラテン語 の torrere (「焼く」という意味の動詞) に由来するようである。現在みられるこの菓子は、イスラム教勢力の支配下にあったスペイン の一部で turun として一般的だったムスリム料理から派生したものである可能性がある[ 2] 。また、cupedia あるいは cupeto という菓子がトゥロンに似ているとされることもある。この菓子は古代ローマ 時代に市場で売買されており、ローマの詩人たちに言及されている[ 3] [ 4] 。
トゥロンまたは torró はバレンシア州 アリカンテ市 の北に位置するヒホナ市 (スペイン語 : Jijona 、バレンシア語 : Xixona、旧称: Sexona) ですくなくとも15世紀には知られていた。トゥロンはスペインの大部分、ラテンアメリカ諸国の一部、フランス のルシヨン 地域でひろく食べられる。トゥロンによく似たトローネはイタリアのクレモナ市 、ベネヴェント市 に特有のものである。フィリピン にも類似の菓子がある。
地中海 北岸一帯にこの菓子のバリエーションを見ることができる。
各国のバリエーション
トゥロンという菓子は材料や見た目にさまざまなバリエーションがありうるが、伝統的なものはいずれも同じ材料からなる。出来上がりの食感には、硬くて噛み砕けるものと、やわらかくて歯にくっつくものとがある。30年前にはほぼすべてのトゥロンは同じ製法で作られていたが、多様化が進んだ今では何十種類ものバリエーションがある。チョコでコーティングしたお米のポン菓子やアーモンドを材料とするもの、アルコール、フルーツの砂糖漬け 、ナッツ類などを用いたあらゆるチョコレートプラリネ を材料とするもの、砂糖を用いないもの (果糖 や人工甘味料 で甘みを加える) さえある。
スペインのトゥロン
スペインの伝統的なトゥロンは以下のように分類される。
ハードタイプ (アリカンテ 系): 全粒のアーモンドが入った小ぶりのブロック状のトゥロン。卵・ハチミツ・砂糖からなるベース部分は硬くて砕ける。アーモンドは全体の60%。
ソフトタイプ (ヒホナ 系): アーモンドはペースト状にすりつぶす。オイルを加えるのでやわらかく歯にくっつくような粘りがある。アーモンドは全体の64%[ 5] 。
トゥロンにソフトタイプとハードタイプで材料と硬さのちがいがあるのと同じように、アマレット (amaretto 、アーモンドフレーバークッキー) にもメレンゲ からマカルーン までのグラデーションがある。
ほかのバリエーションにはリェイダ 周辺の Torró d'Agramunt 、トゥルトーザ 周辺の Torró de Xerta 、torró de Casinos などがある。
現在のスペインでは「トゥロン」という言葉は意味が広がり、伝統的なトゥロンと同サイズ (奥行20cm・幅10cm・高さ3cm) にしたさまざまな菓子を指すようになっている、こうした新しいトゥロンにはチョコレート、マジパン 、ココナッツ 、カラメル 、フルーツの砂糖漬け などが用いられる。
イタリアのトローネ
Torrone Classico
イタリアのトローネは伝統的に冬とクリスマスを代表する菓子であり、さまざまなバリエーションが存在する。トローネはナッツ類の含有量が少ない点でスペインのトゥロンとは異なる。ロンバルディア州 クレモナ の伝統的なトローネ (「トローネ・ディ・クレモナ」) は、バリエーションが豊富で、ソフトなものが morbido・ハードなものが duro といった食感の違いや、柑橘系やバニラなどのフレーバーの違い、ヘーゼルナッツ・アーモンド・ピスタチオ ・ナッツパウダーといった入っているナッツ類の違いなどがある。大手食品会社が販売するものにはチョコレートにディップしてあるものもある。どういったトローネが人気であるかは時代や地域によって異なる。カンパニア州 ベネヴェント の「トローネ・ディ・ベネヴェント」は、歴史的名称の cupedia で呼ばれることもあるが、ヘーゼルナッツの入ったバリバリした食感のものの代表的なものである。ベネヴェントではソフトタイプはアーモンドを入れて作られる。「トローネ・ディ・ベネヴェント」は古代ローマ時代より古く、サムニウム 地域で広く知られていたことから、トゥロン類で最古と考えられている[ 6] [ 7] [信頼性要検証 ] 。トローネ・ディ・ベネヴェントはもともとトローネ・ディ・クレモナと似た粘り気のあるペーストだったが、現在ではクレモナのものとあまり違いがなくなっている[ 8] [ 9] 。アブルッツォ州 、シチリア島 、サルデーニャ島 にも地域独自のトローネがあるが、クレモナ、ベネヴェントの主流派と顕著な違いはないようである[ 10] 。
ペルーのトゥロン
ペルー料理 のトゥロンは通常やわらかく、アニス で香りづけされていることがある。スペイン本来のトゥロンにはペルーでは希少だったか高価だったものが含まれていたため (たとえばアーモンド、ローズウォーター 、オレンジフラワーウォーター 、ハチミツなど)、ペルーでのトゥロンはさまざまに変化していった。リマ市 で一般的なものに Turrón de Doña Pepa がある。これはアニスとハチミツのヌガーで、10月の Señor de los Milagros のお祭りで食べるのが伝統となっている。
フィリピンのトゥロン
パンパンガ州 のカシューナッツ のトゥロンもトゥロンの一種である。このトゥロンは、カシューナッツの入ったマジパン のバーを白いウェハース で覆ったものである。ほかのスペイン語圏 とは違い、この菓子はクリスマスとは関係なく消費される。ほかに、turrones de pili というトゥロンもあり、こちらは地元のピリ というナッツを使ったトゥロンである。
ヌガー菓子のトゥロンとは別物だが、屋台料理に turón na saging と呼ばれる食べ物がある。これは薄く切ったバナナ やプランテン をブラウンシュガー にディップし、春巻き の皮で巻いて油でよく揚げたものである。
プエルトリコのトゥロン
プエルトリコ ではトゥロンは Turrón de Ajónjolí (ゴマ のトゥロン) と呼ばれる。このトゥロンは、煎った黒ゴマ・白ゴマ、シナモン パウダー、レモン 果汁をカラメル化したブラウンシュガーとハチミツでまとめたものである。バリエーションによっては、アーモンド、ライム ゼスト (食材) 、ヒマワリ の種とフラックス シード、オレンジ ゼスト (食材) 、煎ったココナッツ フレークなどを用いる。
キューバのトゥロン
キューバでは、turrón de maní (ピーナッツ ヌガー) が伝統的な甘味となっている。片手に収まるサイズのバーがバス停や人通りの多いところで売られているのが一般的だが、家庭で作る900グラムほどになるものもある。キューバのトゥロンは blando と duro の2種類がある。blando は挽いたピーナッツをブラウンシュガーとともにバーに押し固めたもので、duro は煎ったピーナッツを粗く挽き、カラメル化した砂糖とハチミツとともにまとめたものである。
関連項目
脚注
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、トゥロン に関するカテゴリがあります。