タトラT3R.PLF は、チェコ 各地の路面電車 で使用されている電車 の1形式。チェコスロバキア 時代に製造された路面電車車両・タトラT3 の主要機器を流用して製造された部分超低床電車 である。この項目では、電気機器が異なるタトラT3R.SLF や、ウクライナ 、ロシア連邦 でライセンス契約を受けて生産されている同型車両のタトラT3UA-3 や71-412 も併せて解説する[ 1] [ 2] [ 5] 。
概要
チェコ (旧:チェコスロバキア )各地の路面電車 へ向けて導入されたタトラT3 の機器を流用する形で製造された、1両での運転が可能な部分超低床電車。改造はT3の製造元であったČKDタトラ の倒産以降同社で製造されていた路面電車車両の更新や新型車両の製造を実施しているアライアンスTW (Aliance TW Team)[ 注釈 1] によって行われる[ 1] [ 2] [ 5] [ 7] 。
前面形状はインダストリアルデザイナー のフランティシェク・カルダウス (チェコ語版 ) が手掛けたT3のオリジナルデザインが引き続き用いられている一方、「VarCB3LF」と呼ばれる車体は中央部が床上高さ350 mmの低床構造になっており、車内全体の36%が低床化されている。また中央部に存在する乗降扉の下には車椅子 利用客向けの収納式スロープが搭載されている。低床部分の屋根上に移設された電気機器の種類によって形式が分かれており、チェコ のセゲレツ(Cegelec)が展開するTVプログレス(TV Progress)を用いた車両は「T3R.PLF 」、同じくチェコのシュコダ 製の機器を導入した車両は「T3R.SLF 」と呼ばれる[ 1] [ 2] [ 3] [ 8] [ 9] [ 10] 。
連結器が設置されており総括制御 による連結運転が可能だが、車体長が改造前(14.0 m)から15.1 mに延長した事から、停留所のプラットホーム の長さの関係上T3R.PLFやT3R.SLF同士による運転は行われず、プラハ市電 では従来型の高床車体を持つT3の改造車(T3R.P 、T3R.PV など)が必ず連結されるようになっている[ 1] 。
運用
超低床電車 を新規で購入するよりも安価である事に加え、連接車 である超低床電車 では輸送力が過剰となる路線や時間帯に適した定員数である事などの利点から、2005年 の製造開始以降チェコやスロバキア各地の路線への導入が実施されている。特にチェコの首都・プラハ を走るプラハ市電には超低床電車の新造と並行して夜間など利用客が少ない時間帯向けのT3R.PLFの導入が積極的に行われており、2018年 までに35両が導入されている他、2020年 には更に65両の追加改造契約がアライアンスTWと交わされ、2023年 以降生産が続いている。2023年 時点の導入車両は以下の通り[ 5] [ 11] [ 12] 。
タトラT3UA-3
ウクライナ 各都市の路面電車では2010年代以降、バリアフリー化や近代化を進める過程で完全新造車よりも購入費用が安価な機器流用車の導入が積極的に行われている。その中でもチェコ の企業であるクエーサー・プラス (KVAZAR Plus s.r.o.)はアライアンスTWの代表企業であるプラゴイメックスとライセンス契約を結び、ウクライナの首都・キエフ に本社を置く有限会社 のポリテクノサービス (политехносервис)と共に、T3R.PLFに用いられる「VarCB3LF」と同型の部分超低床車体(低床率35%)の製造を行っている。電気機器についてもT3R.PLFと同様にセゲレツ製のTVプログレスが導入されている一方、前面形状については1990年代にČKDタトラによるタトラT3近代化プロジェクトの一環としてインダストリアルデザイナー のパトリック・コタス (チェコ語版 ) が手掛けたデザインを基本とする。その形状から「栗 」を意味する「カシュタン」(Каштан)と言う愛称で呼ばれる事もある[ 16] [ 17] [ 18] [ 19] 。
T3UA-3 (キーウ市電 、オデッサ市電 ) - ウクライナの首都であるキーウ の路面電車向けに製造された形式で、2011年 12月 から営業運転を開始した。9両分の車体が製造されたが、予算不足のため実際に導入されたのは6両のみに留まり、火災事故の影響もあり2020年 現在3両が使用されている。余剰となった3両分の車体については2015年 にオデッサ市電へ移送され、修理工場で電気機器やタトラT3から供出された台車と組み合わせた上で営業運転に使用されている[ 17] [ 19] [ 20] 。
T3 KVP Od(Т3 КВП Од) (オデッサ市電) - 2017年 、オデッサ で公共交通機関を運営するオデッサゴルエレクトロトランス(Одессгорэлектротранс)は、ポリテクノサービスとの間に新造車体購入に関する契約を結んだ。オデッサまで輸送されたT3UA-3の車体は修理工場でセゲレツ製の電気機器(TVプログレス)や同市電で使用されていたタトラT3の台車と組み合わされる。2017年 から営業運転を開始し、2019年 の時点で18両が導入されているが、その中で2018年 以降に製造された2両については前面デザインが変更され「オデッセイ」(Одиссей)と言う愛称が付けられている[ 17] [ 21] [ 22] [ 23] [ 24] 。
T3UA-3-ZP (ウクライナ語版 ) (T3UA-3-ЗП) (ザポリージャ市電 ) - ウクライナ南部のザポリージャ の路面電車向けの形式。2017年 7月27日 から営業運転を開始し、2020年 現在10両が使用されている。購入費用は1両あたり600万フリヴニャ で、完全新造車と比べ3分の1に抑えられている[ 18] [ 25] 。
T3-KVP(Т3-КВП) (ザポリージャ市電) - 2020年以降、ザポリージャ市電に導入される機器流用車は、オデッサ市電に導入された「オデッセイ」と類似した車体デザインに変更されている他、内装や暖房装置の改良も施されている。この形式の車両は2024年 1月 時点で6両が導入され、うち5両が営業運転に使用されている[ 26] [ 27] 。
T3-VPNP(Т3-ВПНП) (ハルキウ市電 ) - 2017年 から2018年 にかけて3両が導入された機器流用車。他都市とは前面デザインが大きく変更された他、主電動機 は他都市で廃車となったタトラT6A5 から流用されたものが使用されている。また電気機器は管理システム「Chergos(Чергос)」によって管理されている他、双方向ネットワークシステム「CAN」も搭載する。契約当初は5両が導入される予定だった[ 28] [ 29] 。
T3 KVP Od "オデッセイ" (オデッサ)
T3-KVP (ザポリージャ)
71-412
71-412
ロシア連邦 の輸送用機器メーカーであるウラルトランスマッシュ は、2010年代後半以降アライアンスTW の代表企業であるプラゴイメックスとのライセンス契約を締結し、同社が展開する路面電車車両を基にした車両の開発を行っている。その1つが、ソビエト連邦向けに展開されたタトラT3SUの台車や機器を流用し、「VarCB3LF」と同型の部分超低床車体や新造した電気機器と組み合わせた71-412 である。車体の製造にはニジニ・ノヴゴロド の"フォボス・TS"(Фобос-ТС)も関わっており、前面は人間工学 を応用した運転台を含め新規にデザインが起こされている[ 30] [ 31] [ 32] 。
2018年 にエカテリンブルク で開催された鉄道車両の見本市「INNOPROM -2018」で発表され、以降は各都市で試運転が行われた。その後、2020年 にこの試作車を含めた4両がオムスク市電 (オムスク )で営業運転を開始して以降、71-412は以下のロシア連邦各地の路面電車路線に向けて製造が行われている。また、ウラルトランスマッシュでは71-412を基にした狭軌(1,000 mm) 向けの新型車両である71-411 を開発している[ 30] [ 31] [ 33] [ 34] [ 35] 。
関連項目
その他のタトラT3・部分低床車体更新車
ヴァリオLFR
ヴァリオLFR - アライアンスTWが展開する「ヴァリオLF」(VarioLF)のうち、タトラT3の機器を流用した形式。車体はT3R.PLFやT3R.SLFと同様に部分超低床構造の「VarCB3LF」を用いるが前面形状や電気機器が異なっている。2020年 現在、アライアンスTWではT3R.PLFやT3R.SLFについてもヴァリオLFの車種の1つとしている[ 2] [ 3] [ 7] 。
他国の類似例
AKSM-62103(機器流用車)
函館市交通局8100形電車
脚注
注釈
出典