ザンドラ・ヒュラー(Sandra Hüller, ドイツ語: [ˈzandʁa ˈhʏlɐ]; 1978年4月30日[1][2] - )は、ドイツの女優。彼女はドイツ、オーストリア、アメリカ、イギリス、フランスの映画に出演している。2023年にジョナサン・グレイザー監督によるホロコーストを題材としたドラマ映画『関心領域』とジュスティーヌ・トリエ監督による法廷ドラマ映画『落下の解剖学』が公開されたことで彼女は国際的に知名度を上げた。両作品での彼女の演技は高く評価され、英国アカデミー賞の2部門で候補に挙がり、また後者の作品でヨーロッパ映画賞女優賞とセザール賞主演女優賞(英語版)を獲得した。さらにゴールデングローブ賞ドラマ映画主演女優賞とアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。
ヒュラーはそれら以前にはハンス=クリスティアン・シュミット(英語版)監督による2006年のドラマ映画『レクイエム〜ミカエラの肖像(英語版)』での演技で銀熊賞(女優賞)、マーレン・アデ監督による2016年のコメディ映画『ありがとう、トニ・エルドマン』でヨーロッパ映画賞女優賞を受賞した。
生い立ちと教育
東ドイツ[1]のテューリンゲン州ズールで生まれ[3]、森林の多い小村のオーバーホーフとフリードリヒローダ(英語版)で育った[4][5]。彼女は2人きょうだいの長女であり[6]、両親は教育者だった[7][5]。
ヒュラーは十代の頃に髪を切って赤く染め[8]、演劇クラブに参加した[9]。ヒュラーは「学校で演劇のワークショップに参加して、とても楽しんだけれども、それが職業になるとは思っていなかった。どちらかといえば趣味だった」と振り返っている[10]。
高校時代[7]、ヒュラーは1996年にベルリン演劇祭でローベルト・レーニンガー(英語版)が監督した作品『Wir Voodookinder』で舞台デビューした[11]。
1996年よりヒュラーはベルリンのエルンスト・ブッシュ演劇芸術アカデミー(英語版)で演技を学び[12]、2003年に卒業した[5][13]。卒業後にヒュラーはベルリンを離れてライプツィヒ南西部の劇場で2年を過ごし、さらにその後はスイスに移ってシアター・バーセル(英語版)に加わった[7]。
キャリア
ヒューラーは1998年から2001年までテューリンゲン州イェーナのシアターハウスに出演し[14]、さらにその後1年はライプツィヒのシャウシュピールに出演した[15]。彼女はイェーナ出身の劇作家のオリヴァー・ヘルト[16]によってスイスのシアター・バーセルに推薦され、そこで2006年まで出演した[12]。
2006年、ヒュラーはハンス=クリスティアン・シュミット(英語版)監督の映画『レクイエム〜ミカエラの肖像(英語版)』にミカエラ・クリングラー役で出演し、第56回ベルリン国際映画祭女優賞とドイツ映画賞を受賞した[17]。
2009年、ヒュラーはプラーター・フォルクスビューネ劇場で上演された『Virgin Queen』でエリザベス1世役を務めた[18]。またカート・コバーンとコートニー・ラブの作品を基にしたトム・シュナイダー監督の音楽劇『For Love』に出演した[19][20]。
2012年、第62回ベルリン国際映画祭でヒュラーはエミリー・ジャーシルとデヴィッド・オライリーと共に審査員を務め、ジュスティーヌ・トリエの『Vilaine Fille Mauvais Garçon』を映画祭の短編映画賞に選んだ[21]。
2012年から2015年までヒュラーはミュンヘン・カンマーシュピーレ(英語版)のカンパニーに所属し[22]、そこで彼女はヨハン・シモンズ(英語版)監督と共に活動し[23]、2013年にはエルフリーデ・イェリネクの『Die Straße. Die Stadt. Der Überfall.』に出演した[24]。
2014年、ヒュラーはフラウケ・フィンスターヴァルダー(英語版)監督映画『フィンスターワールド(英語版)』でフランツィスカ・フェルデンホーフェンを演じ、ドイツ映画賞助演女優賞を受賞した[25]。
2016年にヒュラーは演劇グループのFARN.collectiveを共同設立した[26]。2012年にヒュラーはベルリン芸術アカデミーの会員に招待された[27]。
2018年、ヒュラーはスカウシュピール・ボーフム(英語版)でカンパニーの一員となり、再びヨハン・シモンズと働いた[7]。同年に彼女はボーフムとザルツブルク音楽祭でシモンズの翻案による『ペンテジレーア(英語版)』で主役を務めた[28]。
2019年にはシモンズ監督による性別を入れ替えたバージョンの『ハムレット』に出演した[29][5]。同年にヒュラーはジュリエット・ビノシュが審査員長を務める第69回ベルリン国際映画祭(英語版)で審査員を務めた[30]。さらに2019年にはジュスティーヌ・トリエ監督の『愛欲のセラピー(英語版)』で映画監督のミカ[31]、アリス・ウィンクール(英語版)監督の『約束の宇宙』でウェンディを演じた[32]。
2023年、ヒュラーはオーストリア皇后エリザベートの晩年を女官の視点から描いたフラウケ・フィンスターヴァルダー(英語版)監督の歴史ブラックコメディ映画『Sisi & I』でイルマ・シュターライ伯爵夫人を演じた。この映画は2023年2月19日に第73回ベルリン国際映画祭(英語版)でワールド・プレミアされ[33]、3月30日よりドイツで封切られた[34]。ヒュラーはこの作品での演技が評価され、ドイツ映画賞主演女優賞にノミネートされた[35]。
2023年にヒュラーは第76回カンヌ国際映画祭のメイン・コンペティション部門でプレミア上映された2作品に出演した[36]。ジュスティーヌ・トリエ監督によるフランスの法廷ドラマ『落下の解剖学』は映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞し[37]、またジョナサン・グレイザー監督によるアメリカ・イギリス・ポーランドのホロコースト・ドラマ『関心領域』はグランプリを受賞した[37]。彼女は『落下の解剖学』での演技により2度目のヨーロッパ映画賞女優賞受賞を果たし、また同時に『関心領域』でもノミネートされた[38]。彼女はまた『落下の解剖学』によりアカデミー賞[39]とゴールデングローブ賞[40]、『落下の解剖学』と『関心領域』の両方で英国アカデミー賞にもノミネートされた[41]。さらに彼女は『落下の解剖学』のセザール賞主演女優賞(英語版)を受賞した[42]。
私生活
ヒュラーはテューリンゲン州を故郷としている[43][44]。
ヒュラーは2011年に生まれた娘とドイツのライプツィヒ・プラグヴィッツに在住している[45][46]。
ヒュラーはトーマス・シュトゥーバー監督の『希望の灯り』で役作りをするためにフォークリフトの免許を取得している[5][47]。
フィルモグラフィ
映画
テレビ
受賞とノミネート
ヒュラーはユリア・イェンチとパウラ・ベーアと並んで21世紀にヨーロッパ映画賞女優賞とベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を両方獲得したドイツ人女優である[53][54]。
『落下の解剖学』(2023年)での演技によりヒュラーは1937年のルイーゼ・ライナー以来3人目となるドイツ人女優のアカデミー賞主演女優賞候補者となった[55]。
参考文献
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外部リンク
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