ゴヤは連作《黒い絵》の各作品の題名についていかなる言及も残していない。本作品を含め、現在一般的に知られている題名はゴヤの死後に名づけられたものである。原題の『アスモデア』(Asmodea)はゴヤの息子ハビエル(Francisco Javier Goya y Bayeu)が所有していた作品目録の中で画家アントニオ・デ・ブルガダが名づけたもので、シャルル・イリアルトもこの題名を用いている[1]。この名前はおそらく「トビト書」に登場する悪魔アスモデウスの女性形と考えられている。
『アスモデウス』はキンタ・デル・ソルドの上階の壁の1つに『異端審問』(El Santo Oficio)と並んで描かれた。正面の壁には『棍棒による決闘』(Duelo a garrotazos)と『アトロポス』(Átropos)が描かれ[1]、『アスモデウス』は『アトロポス』と向かい合う形で配置された。これらのうち『アスモデウス』と『異端審問』は旅をモチーフをとしている点でたがいに関連性がある[10]。
本作品の解釈は多くの困難をともない、美術史家ヴァレリアーノ・ボサル(英語版)によると「あらゆる解釈が失敗に終わった」[10]。美術評論家ロバート・ヒューズ(英語版)は(魔女に関する作品ではないとしつつも)飛翔する2人の人物像を魔女と呼び、「ここでは一体何が起こっているのか? 魔女たちはフランス兵に呪いをかけるために現れたのだろうか? もっともらしい解釈は見当たらない。この絵画は謎である」と述べた[7]。有名な解釈の1つは主題を聖書ではなくギリシア神話のエピソードと見なしている。ジョン・F・モフィット(John F. Moffitt)によるとこの作品はプロメテウス神話を主題としており、人物の背後にいる女性は女神アテナで、人間に火を与えたプロメテウスを罰するためコーカサス山脈に運んでいる場面であるという[3][11]。ディエゴ・アングロ・イニゲス(英語版)は飛翔する人物を、現代のダイダロスあるいはイカロスではないかと考えた[11]。いずれにしてもあらゆる解釈は空の飛翔や旅と関連している[3]。