ふるさと納税(ふるさとのうぜい)とは、日本で2008年(平成20年)5月から開始された、都市集中型社会における地方と大都市の格差是正・人口減少地域における税収減少対応と地方創生を主目的とした寄附金税制の一つ。法律で定められた範囲で地方自治体への寄付金額が所得税や住民税から控除される[1][2][3]。
地方出身者は、医療や教育等の様々な住民サービスを地方で受けて育つが、進学や就職を機に生活の場を都会に移し、現住地で納税を行うことで、地方で育った者からの税収を都会の自治体だけが得ることになる。そこで寄付先を納税者自らが選択できるようにし、各自治体が国民に返礼品となる地場産品・取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、地方自治体間の競争が進むことで選ばれるにふさわしい地域のあり方を考えるきっかけとなるよう、総務省が設けた制度である[4][2][5][6][7]。
”納税”という名称ではあるが、翌年に納める所得税及び住民税の一部(又は住民税のみ一部)[8]を原資に任意の地方自治体への寄付を行うと、自己負担2,000円で寄付に対する地場産品の返礼品受領、寄付の使い道を指定したクラウドファンディングができる。寄附額を確定申告することにより寄附分の一部が控除される本制度をもって、希望自治体へ住民税の一部を”納税”するというものである。「ふるさと寄附金」とも呼称される[5][9][10][11][12][13]。
寄附額以上の税金が控除される制度ではないので節税にはならない。ただし、ふるさと納税で日用品を選ぶことで節約には繋がる。寄附金の使い道については、本人が商品を貰うタイプ以外にも、事業寄付タイプも設けている自治体もある。事業寄付タイプでは、使途(子育てや教育、文化、第一次産業や商工業、環境保全など)を選択できるようになっている[14][15]
制度設計当初には想定されていなかったが、寄附者に対して寄附金額に応じ主にその地域の特産品を返礼品として送付する自治体が現れ[16][17]、返礼品の内容をアピールして寄付を募る自治体が増えた[18]。
ふるさと納税に係る指定制度(事前審査制)の創設に伴い、2019年(令和元年)6月以後、指定対象外の地方公共団体に対するふるさと納税については、特例控除の対象外になった[19]。
「ふるさと納税返礼品」に還元率40%以上の換金性の高いギフト券や地域と無関係の高級家電など制度の趣旨に反したものがあったが、2019年6月から寄付額30%以下の市場価格の地場産品限定と是正された[20]。
2023年6月27日、総務省は「経費率5割ルール」に該当する"経費"について、ワンストップ特例事務や寄附金受領証の発行などの付随費用も含めることとした[21]。これら付随費用は「隠れ経費」と言われ、これを含めると5割を超える自治体もあるとされていた[22]。また、熟成肉と精米は原材料を、その自治体が属する都道府県内産に限ることとした[23]。
2024年6月25日、総務省は仲介サイトを介して自治体に寄付した際に同サイトから付与される独自のポイントを2025年10月から禁止することを発表した。自治体が仲介サイトなどに支払う経費を抑えた上でふるさと納税の趣旨でもある自治体内での利用を促したいとしている[24]。
2006年(平成18年)3月16日付の日本経済新聞夕刊のコラム・十字路の記事「地方見直す「ふるさと税制」案」で、過疎化が原因で税収が減少している自治体があること、地方間で税収に格差が生じていることへの指摘報道を契機として[27]、一部の政治家が取り上げたことから議論が活発化した。
2006年(平成18年)10月には、地方間格差や過疎などにより、税収の減少に悩む自治体に対しての格差是正を推進するための新構想として、西川一誠(当時福井県知事)が「故郷寄付金控除」の導入を提言[28]しており、ふるさと納税の発案者と言われている。また、西川知事は総務省が設けた「ふるさと納税研究会」の委員に選任され、賛成の立場から積極的に発言をした。また以前から、実際の住所以外の場所に何らかの貢献をしたいという人は存在した。スポーツ選手や芸能人などには都市部での活動機会が多いにもかかわらず、故郷への思いから生活の拠点や住民票を移さずに故郷に住民税を納め続ける場合や[注 1]、田中康夫長野県知事(当時)が「厳しい財政の中でも在宅福祉に力を注いでいる意欲的な自治体に税を納めたい」として、県庁所在地の長野市から下伊那郡泰阜村に居を構えて、住民票を移した事例がある[30]。
政府も「安倍晋三首相が総裁選期間中も議論してきた重要な問題」(塩崎恭久官房長官)とし、2007年(平成19年)5月、2006年(平成18年)に発足した第1次安倍政権で菅義偉総務相が創設を表明したため、ふるさと納税の「生みの親」とも呼ばれている[31][32]。
菅は「ふるさと納税の検討を私が指示したのは、少なからず田中康夫がきっかけだった」と周囲に述べている[30]。2007年10月、同研究会は報告書[33]をまとめた。
菅は2021年に「私の原点は『ふるさと納税』にある。地方から東京に出てくるには1000万円かかる。その後も東京に納税するわけですから」と発言している[32]。2023年には、当初役所は制度導入に反対だったが、現在は全員賛成なのではないかと述べている[34]。
2008(平成20)年4月の地方税法等の改正によって、同年5月から「ふるさと納税」制度が開始した[1]。「ふるさと納税」の法的根拠となっているのは、地方税法第37条の2(寄附金税額控除)、第314条の7(寄附金税額控除)および所得税法第78条(寄附金控除)である。このうち地方税法に関する条文は、2008年(平成20年)に開かれた第169回国会(通常国会)の会期中にあたる同年4月30日に参議院のみなし否決を経て衆議院において再可決、即日公布された「地方税法等の一部を改正する法律」(平成20年法律第21号)により新たに付け加えられたものである[35][36][37]。
翌2009(平成21)年2月末時点では、寄付金額最多の都道府県は高額寄付があった栃木県の2億2,400万円、2位が岡山県の1億800万円であった。ふるさと納税件数では鹿児島県が最多の788件、福井県475件、大阪府446件であった[1]。
ふるさと納税は個人住民税の寄附金税制が拡充されたものである。税金の控除額は、基本的に次の3つの控除の合計額となっている。なお、2009年12月迄は5,000円が自己負担額であった。[38]
ふるさと納税を行い所得税・住民税から控除を受けるためには、ふるさと納税ワンストップ特例制度を利用するか、「寄附金受領証明書」を添付して所轄税務署へ確定申告を行う必要がある。ふるさと納税ワンストップ特例の申請者には所得税からの控除はなく、その分も含めた控除額の全額が住民税から控除される。
従来確定申告が不要な給与所得者がこの制度を利用するためにはわざわざ確定申告を行う必要があったが、2015年4月1日より手続き負担軽減出来る「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が創設された[39]。更に、マイナンバーカードも持っていれば、その両面コピーと「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」だけを提出すれば良い[40]。2022年からふるさと納税ポータルサイト各社は、書面不要のオンラインでのワンストップ特例申請を可能とした[41][42][43][44][45]。
確定申告の不要な給与所得者等(年収2,000万以下のサラリーマンや年収400万円以下の年金受給者など)が行う5団体以内のふるさと納税であれば、各自治体に特例の適用に関する申請書を提出することを条件に、確定申告をしなくとも住民税の寄附金税額控除を受けられる。なお、他の要件で確定申告を行う場合や5団体を超える自治体に寄附を行った場合はこの特例は適用されないので、自ら確定申告で寄附金控除・寄附金税額控除の適用を受けることになる[46][45]。
ふるさと納税の返礼品は所得税法上非課税に規定されておらず、一時所得(法人からの贈与)として課税対象になる。但し、一時所得には最大50万円の特別控除がありその範囲内であれば税金は発生しない。[47]返礼品は、自己負担額若しくは寄附額で購入したわけではなく、あくまでも寄附に対する自治体からのお礼とされる。[48]
都市部との格差や過疎などにより、税収の減少・慢性的な財政赤字に悩む市区町村長からは歓迎・賛成する意見が多い一方で、税収が多い過密の市区町村からは反対や慎重な意見が多い[28]。
高知県では県外に名産品を打って出る産業振興を推進する「地産外商」を掲げてきたため、ふるさと納税導入後は制度を販路拡大のために活用している[49]。
人口減少していた地方にとっては、主財源の確保、地域経済の振興、知名度向上や交流人口の拡大など相乗的な効果をもたらしている[50]。地元民の「普通」であっても、外の人々には価値があるものがある。ふるさと納税では地域名産品である嗜好品や日用品の返礼品、地域体験型、事業寄付型など様々な「返礼」が設けられている[3]。
魅力ある地場産品を持っていたが過疎で販路と需要が不足していた地方自治体では、ふるさと納税による販路と需要拡大で増えた税収で住民への社会保障が整えられたり、返礼品生産者らが高まる需要に雇用を増やすなど地方を潤す結果となっている。返礼率・域内以外の商品返礼問題も2019年に全国30%以下の上限が徹底されたことで、返礼品自体は域内の名産品を返礼していたところはすべての自治体で2020年には前年度ほどの寄付総額に回復している。逆に都市部では、ふるさと納税制度競争に取り組み、域内の名産品で一定の歯止めをかけられたところ、魅力的な名産品をカタログに出せないままで減収が増えるところに別れている[51]。
有田みかんで知られる和歌山県有田市は、ふるさと納税制度参入12年間で寄付額が1万倍以上となっている。2019年度の市への全国からの寄付金は約35億円であった[3]。
2019年度の納税件数は2,333万6,077件でふるさと納税受入額は4,875億3,878万1,000円。2020年度は3,488万7,898件でふるさと納税受入額は6,724億8,955万4,811円。受入額は前年比137%、受入件数は前年比149%となっている[12]。
2020年の地方自治体別ふるさと納税受入額1位は宮崎県都城市の135億2,548万円、2位は北海道紋別市の133億9,271万円、3位は北海道根室市の125億4,586万円、4位は北海道白糠町の97億3,664万円、5位は宮崎県都農町の82億6,849万円、6位は山梨県富士吉田市の58億3,124万円、7位は山形県寒河江市の56億7,584万円、8位は兵庫県洲本市の53億9,823万円、9位は兵庫県加西市の53億3,751万円、10位は静岡県焼津市の52億1,827万円[12]。
ふるさと納税において全国の自治体で手続きミスが発生している。ミスは大きく下記の2つに大別される。
報道された手続きミスは以下のとおり。
ふるさと納税は地域活性化を目的として始まった[18]。しかし、過度な返礼品や地場産品とは無関係な返礼品が制度の趣旨にそぐわないとして問題になった[18]。
総務省は返礼品競争の是正のため、2017年春と2018年春に返礼品について寄付額の3割以下でかつ地場産品とするよう総務大臣名の通知を出した[18]。この通知に強制力はなく、2018年9月1日時点で寄付額の3割超の返礼品を送っている自治体は246市町村(13.8%)で、このうち174市町村が見直しの意向がないまたはその時期を未定とした[18]。
これとは別に、埼玉県所沢市では、2017年4月から、ふるさと納税の寄付者に対して返礼品を送るのを取りやめると発表した。市長の藤本正人は「返礼品を得るのが目的化している」と返礼品競争を批判していた[166]。
2018年9月、総務省は過度な返礼品を送っている自治体をふるさと納税の制度対象外とし税控除を受けられないよう法改正を行うことを検討するとし、与党税調での議論を経て、2019年の通常国会に地方税法改正案を提出する方針を示した[18]。この改正案は2019年3月28日、第198回国会で可決された。
改正地方税法による新制度では、返礼品は地場産品かつ寄付額の3割以下、仲介サイトへの手数料や送料を含んだ諸経費と返礼品の金額の合計で寄付額の5割以下に限定。対象となる自治体は総務大臣が指定することとなり、改正法が施行される2019年6月1日から以下の自治体(東京都および1市3町)がふるさと納税の対象から除外された。(東京都を除き復帰済み)
これ以後除外された自治体への寄付分は住民税特例分からの控除の対象外となるが所得税・住民税の基本控除は引き続き受けることができる。
また、以下の43市町村は総務省により、ふるさと納税の対象期間を同年9月30日までにされており、10月1日までに再指定の可否について認定される必要があるとして発表された[172]。同年9月中に返礼品に改善があるとして、10月以降も参加できると総務省は発表した[173]。
なお、改正地方税法施行後に指定取り消し処分を受けた自治体は下記の通り。(処分期間は取り消し日から2年後の9月30日まで)
2019年5月、総務省は制度の趣旨を逸脱した過度な返礼品で多額の寄付を集めたなどとして泉佐野市を含めた4市町を新制度からの除外を決定[177]。
2019年6月、泉佐野市は国の決定を不服として国地方係争処理委員会に審査を申し立てた[177]。同年9月、国地方係争処理委員会は改正地方税法に違反する恐れがあるとして総務省に再検討を勧告した[177]が、10月に総務省は除外継続を決定した[178]。
2019年11月、泉佐野市は国の決定を不服として大阪高等裁判所に決定の取り消しを求めて提訴した[注 10][178]。2020年1月30日、大阪高等裁判所は泉佐野市の訴えを棄却する判決を言い渡した[177]。
2020年2月、泉佐野市は最高裁判所に上告[179]。2020年6月30日、最高裁判所は大阪高等裁判所の判決を破棄し、泉佐野市の新制度からの除外決定を取り消した[180][181]。
総務省は泉佐野市と同様の理由で除外した高野町・みやき町を含めた1市2町には2020年7月3日付で、別の理由で除外した小山町には7月23日付で新制度への復帰を認めた。
泉佐野市と国との間では、ふるさと納税による多額の寄付金収入を理由に泉佐野市の特別交付税を大幅に減額した国の決定の取り消しを求める訴訟もおきている[182]。
2022年3月10日、大阪地方裁判所は国の交付税減額の決定を違法として決定の取り消しを命じた[183]。
2023年5月10日、大阪高等裁判所は、本件は行政内部で調整すべき問題であり法律上の争訟に該当しないとして一審判決を取り消して請求を却下し、泉佐野市が逆転敗訴した[184]。
2011年(平成23年)3月11日に岩手県・宮城県・福島県の東北3県を中心に東日本・北日本の広い範囲で見舞われた東日本大震災に際しては、発災から約2か月後の時点で、前記東北3県に対してだけでも、前年〔2010年(平成22年)〕の全国寄付総額の6倍以上にあたる400億円超が当制度を通じて送られた。これに加え、発災から1年あまり経過した2012年(平成24年)5月下旬には、長野県軽井沢町の男性町民が日本赤十字社と東日本大震災に係る複数の被災自治体に対し、自身が得た株式譲渡益から、「ふるさと納税」として合わせて約7億円を寄付していたことが明らかとなった[185][186][187]。2024年(令和6年)1月1日に発生した能登半島地震では当制度によって寄付が24億円を超えた[188]。
一方で、2011-12年当時に想定されていなかった「ふるさと納税制度での被災地自治体へ寄附」がされた結果、居住する自治体が被災地寄附者による確定申告後にその人への控除と還付をする必要性が発生した。そのため、寄付者が居住する地方自治体において想定外の出費を強いられる事態に発展した[186][187]。特に前記の軽井沢町在住者による億単位に上る当制度を通じての寄付に関しては、すでに株式譲渡益から県民税として約1億円が源泉徴収されていたことから、確定申告によって住民税(県民税と町民税)の還付金7,870万円を得ることになり、この結果として同町では、長野県の負担分(「県民税徴収取扱費」として3,170万円)を差し引いても約4,700万円の負担を強いられた。この事態に同町長は、長野県を通じて、地方交付税(特別交付税)による手当を求める考えを示した[186][187]。
上記のように被災地に義援金・支援金を送るのに当制度が利用されるのは制度創設当初には想定されていなかった。しかし、翌年以降には地方自治体側へ広く認知され、ふるさと納税品目に加えた。そして、ふるさと納税専門サイトに、災害支援金専門のコーナーが特設されるほどにまでなっている[189][190][191][192][193]。ふるさと納税サイトによっては、災害支援する場合は本来は利用者負担の2000円を負担しているところもある[194]。
また、被災地の自治体における事務負担を軽くし、被災者への対応などに力を振り向ける目的で姉妹都市など被災地と繋がりがある他の自治体が当制度の支援金事務を代行するケースもある[195]。
2012年(平成24年)、当時の東京都知事である石原慎太郎が、尖閣諸島の土地を保有する個人に対して、東京都が土地購入する方針を発表、その購入資金とするための募金が呼びかけられた(東京都尖閣諸島寄附金)。これにより、東京都庁には約14億円の募金が集まったが、これも「東京都へのふるさと納税」として、翌年に確定申告することで「寄附金控除を受けること」が可能だった。
2018年(平成30年)には、兵庫県が暴力団事務所の撤去に向けて、ふるさと納税で500万円の撤去資金を集める方針を打ち出している[196]。なお、福岡県でもほぼ同様の方針がある[197]。
2023年8月の東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出への中国による日本の海産物禁輸措置を受けて、東北を中心に海産物を取り扱う地方自治体へのふるさと納税額が数倍となった[198][199][200][201][202]。
総務省の発表による実績推移は以下の通り[203][204][205][206]。
正式名称を「地方創生応援税制」といい、会社等が自治体に寄付をすると税負担が軽減される制度をいう。一定の企業が2016年(平成28年)4月20日から2020年(令和2年)3月31日までの間に、地域再生法の認定地方公共団体が実施する「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に対して寄付をした場合には、現行の寄附金の損金算入制度に加えて、新たに寄付額の3割が税額控除(法人事業税、法人住民税、法人税[207])される[208]。2020年4月1日より2025年3月31日まで、5年間延長されて税額控除割合を30%から60%に引き上げるとともに、認定手続も簡素化した[209][210][211][212][213][214]。2020年7月31日、「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」を総務省が公表[215][216][217][218]。寄附額の下限は10万円からと、企業の寄附額としては低めに設定されている。そのため、中小企業でも活用しやすく堅実に税額控除の恩恵を受けることができる。[219]
地方公共団体は、寄附額が事業費を超えないよう、適切に事業を実施・管理する必要がある。
韓国では2023年1月1日より、日本のふるさと納税の制度を参考に「故郷愛寄付金」(朝鮮語: 고향사랑기부금)が導入された(2021年9月28日に国会で可決[222])。ただし、寄付額には年間500万ウォンの上限があることや、個人だけが寄付できるなどの違う点もある[223][224]。
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