『パディントン発4時50分』(パディントンはつ4じ50ぷん、原題:4.50 from Paddington)は、1957年に刊行されたアガサ・クリスティの推理小説。マープルシリーズの長編第7作目にあたるとともに、クラドック警部が登場する長編第2作目である[注 1]。
あらすじ
友人のミス・マープルに会いに行くためにパディントン駅発4時50分の列車に乗ったマギリカディ夫人は、隣の線路を並走する列車の車窓に男が女の首を絞めて殺している瞬間を目撃する。男性は背中しか見えない。マギリカディ夫人から経緯を聞いたミス・マープルは、翌日の朝刊にそれらしき記事が見当たらないことから、2人で警察に事件の経緯を話すが、警察の捜査では列車内はおろか線路周辺でも死体は発見されない。
ミス・マープルは、殺人犯は列車内で絞殺した死体を列車から投げ落としたと考え、ブラックハンプトン駅の手前で線路が大きくカーブする地点にあるクラッケンソープ家が所有するラザフォード・ホールがその場所であると推理し、旧知の家政婦のルーシー・アイルズバロウに死体を捜すためにクラッケンソープ家の家政婦になってもらうように依頼する。ルーサー・クラッケンソープは、ラザフォード・ホールで娘のエマと暮らす老人である。クラッケンソープ家に家政婦として潜入したルーシーは、数日後、納屋に置かれた石棺の中に死体を発見する。
クラッケンソープ家の家族は、イビサ島でボヘミアン画家をしているセドリック、ロンドンの実業家ハロルド、怪しい商売をするアルフレッド、エマ、死んだ末娘イーディスの子アレクサンダーとその父ブライアン・イーストリーである。このほかに、ルーサーの世話をし、エマに恋心を抱く地元の医師クインパーも屋敷に出入りしていた。
クラドック警部率いる警察は、被害者がバレエ団から失踪したダンサー、アンナ・ストラヴィンスカであることを突き止めるが、その名は偽名であり、彼女の出自を突き止めることができない。エマは戦死した兄エドマンドが手紙でマルティーヌという女性のことを書いていたと話し、警察は被害者がマルティーヌであると結論づける。
不在のブライアンとアレクサンダーを除く家族全員が急病になり、やがてアルフレッドが自宅で死体となって発見される。その後、あの日ルーシーが作ったカレーにヒ素が含まれていることが判明する。数日後、ロンドンに戻ったハロルドのもとに、クインパー医師から錠剤が届く。その錠剤にはアコニチンの毒が含まれており、服用したハロルドは死んでしまう。
ミス・マープルとマギリカディ夫人がラザフォード・ホールへ午後のお茶に訪問する。ミス・マープルはサンドイッチを食べて喉をつまらせ、クインパー医師が彼女の喉を覗き込んだところに、席を外していたマギリカディ夫人が戻ってきて、「あれは彼よ、汽車の中の男よ!」と叫ぶ。死んだ女性はクインパーの妻で、エマと結婚したかった彼に殺されたのであった。彼女はアンナ・ストラヴィンスカとしてバレエ団に入団していた。クインパーの計画は、遺産を独り占めすべくエマの兄弟たちを殺すことへと発展していったのだった。
ミス・マープルは、ルーサー・クラッケンソープがもうすぐ死ぬかもしれないこと、エマが医者のことを忘れること、そしてルーシーのために結婚式の鐘が鳴ることを予告するが、花婿が誰になるかについては明言を避けた。
登場人物
- ジェーン・マープル
- セント・メアリ・ミード村に住む探偵好きな独身の老婦人。
- エルスペス・マギリカディ
- ミス・マープルの友人。殺人の目撃者。
- ルーシー・アイルズバロウ
- ベテラン料理人・家政婦。ミス・マープルに雇われて死体を捜索する。
- レイモンド・ウェスト
- ミス・マープルの甥。推理作家。
- デイビッド・ウェスト
- レイモンドの息子。イギリス国鉄で勤める。
- ルーサー・クラッケンソープ
- クラッケンソープ家の当主。妻を亡くし、製菓業で成功した父親が遺した館ラザフォード・ホールで娘のエマと暮らす。
- エドマンド・クラッケンソープ
- クラッケンソープ家の長男。フランスで戦死。
- マルティーヌ
- エドマンドの婚約者のフランス人。エドマンドが現地で亡くなったため、クラッケンソープ家の誰も彼女に会ったことがない。
- セドリック・クラッケンソープ
- クラッケンソープ家の次男。画家。独身で恋多き男。
- ハロルド・クラッケンソープ
- クラッケンソープ家の三男。会社重役。銀行家。
- アリス・クラッケンソープ
- ハロルドの妻。
- アルフレッド・クラッケンソープ
- クラッケンソープ家の四男。裏社会の何らかの仕事をしている。元スパイの詐欺師。
- エマ・クラッケンソープ
- クラッケンソープ家の長女。ラザフォード・ホールで父の面倒を見ながら慎ましく暮らし、一家の主治医に恋心を寄せる。
- イーディス・イーストリー
- クラッケンソープ家の次女。4年前に死去。
- ブライアン・イーストリー
- イーディスの夫。元・戦闘機のパイロット。子連れでしばしばラザフォード・ホールを訪ねている。
- アレグザンダー・イーストリー
- イーディスとブライアン夫妻の子供。
- ジェイムズ・ストッダード=ウエスト
- アレグザンダーの友だち。
- ストッダード=ウエスト夫人
- ジェームズの母。
- クインパー
- クラッケンソープ家の主治医。エマに好意を寄せる。
- クラドック
- ロンドン警視庁の捜査課警部。
- ベーコン
- 地方警察署の警部。
- アルマン・デッサン
- パリ警察の警部。本件の捜査に協力している。
- アンナ・ストラビンスカ
- バレエダンサー。マリツキバレエ団の団員。
- マダム・ジョリエ
- マリツキバレエ団の団長。
作品の評価
- 2015年にAGATHA CHRISTIE LIMITEDにより行われた「世界で一番好きなクリスティ・グローバル投票」で本作は7位に選出されている[1]。
出版
題名 |
出版社 |
文庫名 |
訳者 |
巻末 |
カバーデザイン |
初版年月日 |
ページ数 |
ISBN |
備考
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パディントン発4時50分 |
早川書房 |
ハヤカワ・ポケット・ミステリ595 |
大門一男 |
久々のマープルもの(編集部) |
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1960年12月15日 |
258 |
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絶版
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パディントン発4時50分 |
早川書房 |
ハヤカワ・ミステリ文庫1-13 |
大門一男 |
山村美紗 ミス・マープルに愛をこめて |
真鍋博 |
1976年9月30日 |
376 |
978-4-15-070013-3 |
絶版
|
パディントン発4時50分 |
早川書房 |
クリスティー文庫41 |
松下祥子 |
前島純子 ようこそクリスティーランドへ |
Hayakawa Design |
2003年10月1日 |
421 |
978-4-15-130041-7 |
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児童書
題名 |
出版社 |
文庫名 |
訳者 |
巻末 |
カバーデザイン |
初版年月日 |
ページ数 |
ISBN |
備考
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パディントン発4時50分 |
早川書房 |
クリスティー・ジュニア・ミステリ 9 |
小尾芙佐 |
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イラスト:たなか しんすけ |
2008年7月25日 |
390 |
978-4-15-208937-3 |
'絶版'
|
ミス・マープルの名推理 パディントン発4時50分 |
早川書房 |
ハヤカワ・ジュニア・ミステリ 4 |
小尾芙佐 |
|
イラスト:藤森カンナ |
2020年4月25日 |
392 |
978-4-15-209924-2 |
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コミック
題名 |
出版社 |
文庫名 |
訳者 |
巻末 |
カバーデザイン |
初版年月日 |
ページ数 |
ISBN |
備考
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パディントン発4時50分 |
日本放送出版協会 |
NHK出版コミックス NHKアニメ劇場 アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル 2 |
脚本=米村正二、 まんが=石川森彦 |
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2005年1月25日 |
191 |
978-4144540851 |
絶版
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映画
ミス・マープル/夜行特急の殺人
- Agatha Christie's Murder, She Said(イギリス/メトロ・ゴールドウィン・メイヤー、1961年/86分)
- 『ミス・マープルシリーズ(イギリス製作の映画)』
- マーガレット・ラザフォード主演によるシリーズ4作のうちの第1作。原作と違い、家政婦として住み込むのはルーシーではなく、ミス・マープル自身に変更されている。シリーズは4作続いたが、ミス・マープル物を映画化したものはこの1作に留まり、他はポアロ物や非探偵物をマープル物に改作している。
- 日本未公開。「ミス・マープル ムービー・コレクション(初回限定生産)」として発売されたDVDボックスの1本として、2006年4月7日にリリースされた。
キャスト
スタッフ
アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵 〜パディントン発4時50分〜
キャスト
スタッフ
テレビドラマ
イギリスのテレビドラマ
- ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン(英語版))『パディントン発4時50分』
- シーズン2 エピソード1(通算第9話) イギリス1987年放送
- アガサ・クリスティー ミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン(英語版))『パディントン発4時50分』
- シーズン1 エピソード3(通算第3話) イギリス2004年放送
日本のテレビドラマ(2006年)
2006年4月11日に日本テレビ系列「DRAMA COMPLEX」(火曜21時 - 22時54分)にて『嘘をつく死体』のタイトルで放送。主演は岸惠子。
日本のテレビドラマ(2018年)
アガサ・クリスティ 二夜連続ドラマスペシャル パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜 |
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ジャンル |
テレビドラマ |
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原作 |
アガサ・クリスティ |
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脚本 |
竹山洋 |
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監督 |
和泉聖治 |
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出演者 |
天海祐希 |
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製作 |
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プロデューサー |
五十嵐文郎(チーフ、テレビ朝日) 内山聖子(ゼネラル、テレビ朝日) 藤本一彦(テレビ朝日) 山形亮介(角川大映スタジオ) |
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制作 |
テレビ朝日 |
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放送 |
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音声形式 | ステレオ放送 |
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放送国・地域 | 日本 |
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放送期間 | 2018年3月24日 |
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放送時間 | 21:00 - 23:10 |
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放送分 | 130分 |
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回数 | 1 |
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公式サイト |
特記事項: 一部地域除き、20:58 - 21:00に『今夜のドラマスペシャル』も別途放送。 |
テンプレートを表示 |
2018年3月24日21時 - 23時10分にテレビ朝日系にて『アガサ・クリスティ 二夜連続ドラマスペシャル パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜』のタイトルで放送された[2]。
キャスト(2018年)
主人公と関係者
- 天乃瞳子(あまの とうこ)
- 演 - 天海祐希[3]
- 一流企業の顧問。警視庁捜査一課の警部補だったが、夫の胃がんの看病を理由に退職する。今回の事件では、彩を介して捜査を進める。
- 中村彩(なかむら あや)
- 演 - 前田敦子
- 家政婦。国立大学を卒業し文科省に入省したが半年で退官。瞳子の知り合いで、瞳子の命を受け現場での捜査を進める。
- 天乃雀(あまの すずめ)
- 演 - 草笛光子
- 瞳子の義母。西東京駅4時50分発「特急オリオン」の窓から並走する「寝台特急 朝霧」の車内での殺人現場を目撃するが、鉄道警察隊に門前払いを受ける。
富沢邸関係者
- 富沢哲次(とみざわ てつじ)〈45〉
- 演 - 鈴木浩介
- 信介の次男。八丈島在住の画家。未婚。
- 富沢恵子(とみざわ けいこ)〈40〉
- 演 - 原沙知絵
- 信介の長女。未婚で信介と同居中。
- 大山勝(おおやま まさる)〈50〉
- 演 - 嶋田久作
- 富沢家の使用人。
- 古川晋(ふるかわ しん)〈48〉
- 演 - 矢柴俊博
- 知子の夫。トミー製菓の運送部長。
- 富沢晴三(とみざわ せいぞう)〈43〉
- 演 - 新納慎也
- 信介の三男。金融業 商事会社社長。
- 富沢志郎(とみざわ しろう)〈38〉
- 演 - 松本博之
- 信介の四男。プロダクション経営 企画会社社長。女子高校生とのみだらな行為で警察で任意の事情聴取を受けている。
- 木内妙子(きうち たえこ)
- 演 - 和泉ちぬ
- 家政婦。彩の知人。
- 富沢鋭一(とみざわ えいいち)
- 演 - 望月章男
- 信介の長男。トミー製菓の元常務取締役。38歳の時中国上海で事故死。
- 古川知子(ふるかわ ともこ)
- 演 - 松下結衣子[4]
- 信介の次女。旧姓「富沢」。2年前に病死。
- 古川信次(ふるかわ しんじ)〈8〉
- 演 - 笹岡サスケ[5]
- 晋と知子の息子。
- 佐伯慶一(さえき けいいち)
- 演 - 石黒賢
- 医師。信介の主治医。
- 富沢信介(とみざわ しんすけ)
- 演 - 西田敏行
- トミー製菓の会長。
警察関係者
- 唐木(からき)
- 演 - 勝村政信
- 警視庁捜査一課の警部。
- 鈴木(すずき)
- 演 - 桐山漣[6]
- 警視庁捜査一課の巡査部長。
- 上西
- 演 - 菅原大吉
- 鉄道警察隊の警部。
- 山口(やまぐち)
- 演 - 橋爪功
- 警視庁刑事部の参事官。
- 戸田(とだ)
- 演 - 井上肇
- 刑事。
- 徳田(とくだ)
- 演 - 宮本大誠
- 鑑識員。
- 原田(はらだ)
- 演 - 松岡恵望子
- 刑事。
- 相国寺竜也(しょうこくじ りゅうや)
- 演 - 沢村一樹[7](ノンクレジット)
- 警視庁捜査一課特別捜査係 警部。ラストシーンで相国寺の乗る列車と瞳子の乗る列車が並走し邂逅する[注 2]。
その他
- 木村麗子(きむら れいこ)
- 演 - 黒谷友香
- 元の母。
- 周麻美
- 演 - 永楠あゆ美[8]
- 西東京駅4時35分発「寝台特急 朝霧」の車内で首を絞められて殺された女性。
- 木村元
- 演 - 鈴木和弥[9]
- 信次の友達。中国人とのハーフ。
- 唐木直美
- 演 - 今薫子[10]
- 唐木の娘。名付け親は天乃瞳子。
- その他
- 嘉門洋子、清水葉月、松浦眞哉、かおる、橋野純平
スタッフ(2018年)
備考
相国寺竜也など複数のキャラクターは、同じくアガサ・クリスティ原作ドラマの『二夜連続ドラマスペシャル アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった』(2017年3月25日・26日)と『アガサ・クリスティ 二夜連続ドラマスペシャル 大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜』(2018年3月25日)、『ドラマスペシャル アガサ・クリスティ 予告殺人』(2019年4月14日)にも登場している。
アニメ
脚注
注釈
出典
外部リンク
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長編推理小説 |
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短編集 | |
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その他書籍 | |
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戯曲 | |
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登場人物 | |
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映像化作品 |
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関連項目 | |
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