スタイルズ荘の怪事件
『スタイルズ荘の怪事件』(スタイルズそうのかいじけん、原題:The Mysterious Affair at Styles)は、1920年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説である。著者の商業デビュー作であり、エルキュール・ポアロシリーズの長編第1作かつ初登場作品にあたる。 発表は1920年であるが、執筆は1916年であり、またアメリカでの刊行年である。イギリス本国での出版は翌1921年である。日本語初訳は『スタイルズの怪事件』(日本公論社刊 東福寺武訳 1937年)。 概要クリスティは1916年に本作を書き上げ、複数の出版社へ原稿を送ったが採用されなかった。彼女自身、応募の事実を忘れた頃にボドリー・ヘッド社のジョン・レーンに見出され、最後の章を書き直して1920年に出版された[1]。当初は、新人作家としてはまずまずの2千部程度売れただけであったが、その後着実に評価を挙げてミステリの古典として認められるようになった[2]。 本作は薬剤師の助手時代の経験が生かされており、後にクリスティは読者の感想の中で最も嬉しいと感じたのは調剤学の専門誌から薬物に関する知識を褒められたことだったと述べている[1]。 本作は、ベルギー人探偵エルキュール・ポアロの初登場作品であり、同シリーズのレギュラーであるアーサー・ヘイスティングズやジャップ主任警部も初登場している。ヘイスティングズがポアロの活躍を記述したという作品形式は、シャーロック・ホームズシリーズに見られる当時の主流であった推理小説の形式である。 なお、本作の舞台であるスタイルズ荘は、同シリーズの完結作である『カーテン』の舞台としても使われている。 あらすじ田舎にあるスタイルズ荘の年老いた資産家エミリー・イングルソープがストリキニーネで毒殺されて発見される。第一次世界大戦で戦ったアーサー・ヘイスティングズは、負傷して帰国してこのスタイルズ荘に滞在しており、再会した友人のエルキュール・ポアロに助けを求める。スタイルズ荘には、最近エミリーと結婚した年下の夫アルフレッド・イングルソープ、前夫の連れ子ジョンとロレンス、ジョンの妻メアリー、彼ら家族の亡くなった友人の娘シンシア、エミリーのコンパニオンだったエヴリン・ハワードなどがいる。 ポアロは、エミリーの前夫の遺言により、彼女の死後はジョンがスタイルズ荘を相続することを知る。しかし、彼女の現金資産は毎年更新される彼女の遺言に従って分配されるのであった。存在する最新の遺言ではアルフレッドが相続することになっていた。事件当日、エミリーはジョンかアルフレッドと思しき人物と口論するのを聞かれていた。その直後に彼女は新しい遺書を作成したらしいが、誰もその証拠を見つけることができない。アルフレッドは事件の日の夜の早めに屋敷を出て、村に一泊した。一方、エミリーは夕食をほとんど食べず、書類ケースを持って早々に自室に引きこもった。彼女の遺体が発見された時、ケースは無理やり開けられた状態だった。毒はいつ、どのように盛られたのか、誰も説明できない。 捜査担当のジャップ警部は、妻の死から最も大きな利益を得るアルフレッドを第一容疑者と考える。ポアロは、アルフレッドの行動が疑わしいと指摘する。アルフレッドは当夜の行動を明かすのを拒み、村でストリキニーネを購入したのは自分ではないと答える。ジャップはアルフレッドを逮捕しようとするが、ポアロはアルフレッドが毒を購入したはずがないこと、購入時の署名が彼の筆跡でないことを証明し、アルフレッドの逮捕を思いとどまらせる。すると次の容疑者は、エミリーの死で利益を得てアリバイがないジョンである。ジャップはすぐにジョンを逮捕する。毒薬購入時の署名はジョンの筆跡であり、毒薬の入った小瓶が彼の部屋で見つかり、アルフレッドと似た付け髭と鼻眼鏡が屋敷で発見されたのである。 しかしポアロがジョンの容疑を晴らす。ポアロは、真犯人がアルフレッド・イングルソープであり、彼のいとこエヴリン・ハワードが手伝っていたことを明らかにする。二人は敵対するふりをしながら実は恋愛関係にあった。二人はエミリーの常備薬である睡眠薬に臭化物を加え、最終的に致死量にした。二人は、アルフレッドが逮捕されるような偽の証拠を残し、裁判になってから無罪を証明するつもりでいた。イギリスの法律では、一度無罪になると同じ犯罪で二度と裁かれることはないからである。エヴリンはジョンの筆跡を偽造していた。 ポアロは、ジャップがアルフレッドを逮捕するのを阻止したのは、アルフレッドが逮捕されたがっていることに気づいたからであると説明する。ヘイスティングズの偶然の発言により、ポアロはエミリーの部屋でアルフレッドのエミリーに対する殺意を記した手紙を発見する。殺人のあった日の午後、エミリーが苦悩していたのは、切手を探していた時にアルフレッドの机の中からこの手紙を見つけたからだった。エミリーはその手紙を自分の書類ケースにしまい、それに気づいたアルフレッドは彼女の死後に書類ケースをこじ開けて手紙を取り戻し、見つからないように部屋の別の場所に隠していたのだった。 登場人物
作品の評価タイムズ・リテラリー・サプルメント紙(1921年2月3日号)は、短いながらもこの本に熱狂的な批評を与え、「この物語にある唯一の欠点は、ほとんど独創的すぎるということだ」と述べている。続けて、プロットの基本的な設定を説明し、こう結んでいる。「この作品は作者の処女作であると言われており、読者が犯人を見破れないような探偵小説を書けるかどうかという賭けの作品である。読者は皆、彼女がその賭けに勝ったことを認めざるを得ないだろう。」[3] ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー(1920年12月26日付)も肯定的評価であった[4]。
1971年の日本全国のクリスティ・ファン80余名の投票による作者ベストテンで、本書は10位に挙げられている[5]。 日本語訳版
一般書
児童書
翻案テレビドラマ
ラジオドラマ
脚注
外部リンク
Data ja/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%BA%E8%8D%98%E3%81%AE%E6%80%AA%E4%BA%8B%E4%BB%B6 Tidak ditemukan |