『ミス・マープル』 (原題:Miss Marple )は、ミス・マープル を主人公とするアガサ・クリスティ の推理小説 を原作とするイギリス のテレビシリーズ。ミス・マープルをジョーン・ヒクソン (英語版 ) が演じている。 1984年12月から1992年12月まで、BBC One で放映された。ミス・マープル・シリーズの小説12作すべてが描かれている。脚本はトレバー・ボーウェン、ジュリア ジョーンズ、アラン プラター、ケン テイラー、ジル ハイムによって書かれ、ガイ・スレーターらによって製作された。シリーズ30周年を迎えた2014年にブルーレイディスク も発売されている。
キャスト
レギュラー、リカーリング
ジェーン・マープル: ジョーン・ヒクソン (英語版 ) (声:山岡久乃 〈追加収録:京田尚子 〉) - 村に住む女性。人間観察の豊かな経験から事件の真相を突き止める。
スラック警部(後に警視): デヴィッド・ホロヴィッチ (英語版 ) - 原作では『牧師館の殺人』と『書斎の死体』にしか登場しないが、本テレビシリーズでは多くの事件を担当する。上司がミス・マープルを推薦するのでしかたなく彼女の話を聞くが、回を追うにしたがって、やがては彼女の力を認めるようになる。マープルは彼のことを「ディーゼル機関車のような人だ。見かけは悪いけど性能は良い」と評している[ 1] 。
レイク巡査(後に巡査部長): イアン・ブリンブル - スラック刑事の同僚。
レイモンド・ウェスト: デヴィッド・マカリスター (英語版 ) 、トレバー・ボーエン (英語版 ) - ミス・マープルの甥(『スリーピング・マーダー』『カリブ海の秘密』『鏡は横にひび割れて』)
クラドック警部: ジョン・キャッスル (英語版 ) - (『予告殺人』と『鏡は横にひび割れて』)
ドリー・バントリー: グウェン・ワトフォード (英語版 ) - ミス・マープルの友人(『書斎の死体』『鏡は横にひび割れて』)
ホウズ牧師: クリストファー・グッド (英語版 ) - セント・メアリー・ミードの牧師(『牧師館の殺人』と『鏡は横にひび割れて』)
ジェイソン・ラフィール: フランク・ガトリフ (英語版 ) 、ドナルド・プレザンス - 大富豪(『復讐の女神』『カリブ海の秘密』)
エピソード
シーズン1
シーズン2
シーズン2以降
以下は各年のクリスマス番組として放送された。
タイトル 初回放送日 通算放送回 製作
第9話 パディントン発4時50分 4.50 from Paddington 1987年12月25日 第18回 ジョージ・ガラッチョ マギリカディ夫人はある日の午後4時50分にロンドン・パディントン駅を出発する列車に乗車した。途中でうとうとして、ふと車窓の外を見ると、隣の線路を同じ方向に進む汽車が並走しており[ 注釈 1] 、その窓のひとつのブラインドが跳ね上がり、女が男に首を締められているところを目撃してしまう。男は後ろを向いていて顔が見えない。マギリカディ夫人は列車を降りると駅員や警官に事情を話すが、鉄道からも沿線からも事件らしき情報は何も無い。マギリカディ夫人の訴えを聞いたミス・マープルは、自分で汽車に乗って周辺環境を調べ、車内から死体を投げ捨てるならクラッケンソープ氏が所有する邸宅ラザフォード・ホール[ 注釈 2] の敷地周辺だろうと目をつけ、この邸宅に知り合いの家政婦ルーシーを送り込む。
ゲスト: モナ・ブルース(友人マギリカディ夫人)、ジル・ミーガー (英語版 ) (家政婦ルーシー・アイルズバロウ)、モーリス・デナム (英語版 ) (当主ルーサー・クラッケンソープ)、ジョアンナ・デヴィッド (長女エマ・クラッケンソープ)、アンドリュー・バート (英語版 ) (クインパー医師)、ジョン・ハラム (英語版 ) (次男セドリック・クラッケンソープ)、デービッド・ビームズ(次女の夫ブライアン・イーストリー)、バーナード・ブラウン(三男ハロルド・クラッケンソープ)、ジュリエット・モール (英語版 ) (バレエダンサーのアンナ・ストラビンスカ)、デヴィッド・ホロヴィッチ (英語版 ) (スラック警部)、デヴィッド・ウォラー (英語版 ) (ダッカム警部補)
第10話 カリブ海の秘密 A Caribbean Mystery 1989年12月25日 第19回 ジョージ・ガラッチョ ミス・マープルは静養を兼ねてカリブ海の島を訪ねる。その島のホテルには様々な人が宿泊しており、マープルはお喋りなパルグレイブ少佐にしばしば捕まってしまう。しかしあるとき彼は「妻を二人も殺して捕まらずにいる男を知っている」と言い出してマープルの興味を引き、その明くる朝に死亡しているところを発見される。マープルは生前の彼の様子を思い出しながら犯人を探す。
ゲスト: ドナルド・プレザンス (実業家ラフィエル)、ソフィー・ワード (ホテルオーナーのモリー・ケンダル)、エイドリアン・ルキス (英語版 ) (モリーの夫ティム)、T.P.マッケナ (英語版 ) (グラハム医師)、マイケル・フィースト (英語版 ) (客エドワード・ヒリングドン)、シーラ・ラスキン (英語版 ) (ヒリングドン夫人)、フランク・ミドルマス (英語版 ) (客パルグレイブ少佐)、ロバート・スワン (英語版 ) (客グレッグ・ダイソン)、スー・ロイド (英語版 ) (ダイソン夫人)、バーバラ・バーンズ (英語版 ) (秘書エスター・ウォルターズ)、スティーブン・ベント (英語版 ) (マッサージ師ジャクソン)、ヴァレリー・ブキャナン(メイドのヴィクトリア)、ジョセフ・マイデル (英語版 ) (ウェストン警部補)、T.R.ボーエン (英語版 ) (甥レイモンド)
第11話 魔術の殺人 They Do It with Mirrors 1991年12月29日 第20回 ジョージ・ガラッチョ ミス・マープルはロンドンで若い頃からの友人ルースから相談を受ける。妹が心配だから見に行ってほしいというのだ。マープルは引き受けて妹キャリールイーズの住む屋敷を訪れる。ルースとキャリールイーズの姉妹は合わせて6回も結婚したことから、彼女らの周りには家族がたくさんいる。キャリールイーズの現在の(3番目の)夫は、屋敷で非行少年の更生施設を運営している。ある日その屋敷に彼女の義理の息子クリスチャンが訪れ、射殺されてしまう。
ゲスト: ジーン・シモンズ (屋敷の女主人キャリールイーズ・セロコールド)、ジョス・アクランド (キャリールイーズの夫ルイス)、フェイス・ブルック (英語版 ) (キャリールイーズの姉ルース)、ホリー・エアード (英語版 ) (キャリールイーズの孫ジーナ)、ジョン・ボット(キャリールイーズの義理の息子クリスチャン)、クリストファー・ヴィリアーズ (英語版 ) (キャリールイーズの義理の息子アレックス)、ジリアン・バージ (英語版 ) (キャリールイーズの娘ミルドレッド)、ニール・スウェッテナム(使用人エドガー)、デヴィッド・ホロヴィッチ (英語版 ) (スラック警部)、イアン・ブリンブル(レイク巡査部長)
第12話 鏡は横にひび割れて The Mirror Crack'd from Side to Side 1992年12月27日 第21回 ジョージ・ガラッチョ セント・メアリー・ミードのゴシントン・ホール[ 注釈 3] に大女優マリーナ・グレッグが引っ越してくる。ある日この邸宅でパーティーが開かれ、村民たちが招かれるが、村民の一人であるバドコック夫人が毒殺されてしまう。マープルはドリーとの会話からヒントを得つつ、ロンドン警視庁から派遣されてきたクラドック警部と共に真相を追求する。
ゲスト: クレア・ブルーム (女優マリーナ・グレッグ)、バリー・ニューマン (マリーナの夫で映画監督のジェイソン・ラッド)、ノーマン・ロッドウェイ (英語版 ) (ギルクラ医師)、グウェン・ワトフォード (英語版 ) (マープルの友人バントリー夫人)、エリザベス・ガーヴィー (英語版 ) (ラッドの秘書エラ・ゼイリンスキー)、ジュディ・コーンウェル (英語版 ) (被害者バドコック夫人)、クリストファー・グッド (英語版 ) (ホウズ牧師)、ジョン・キャッスル (英語版 ) (クラドック警部)、デヴィッド・ホロヴィッチ (英語版 ) (スラック警視)、イアン・ブリンブル(レイク巡査部長)、T.R.ボーエン (英語版 ) (甥レイモンド)
製作
企画
アガサ・クリスティは生前、映画化された自分の作品にあまり満足していなかった。彼女の死後、遺産管理を担当した孫のマシュー・プリチャードによれば、彼女は「テレビにもあまり関心がなかった」そうである。イギリスのテレビ局LWTのプロデューサー、パット・サンディスは、1980年代初頭に『なぜエヴァンズに頼まなかったのか 』と『七つの時計 』を映画化するための綿密な計画をプリチャードとクリスティ財団に提案した。これらの作品は批評家からは関心を持たれなかったが、観客の人気を集め、多くの短編や『秘密機関 』を 含むトミーとタペンス シリーズ、その後の『アガサ・クリスティーの犯罪パートナー 』シリーズの製作につながった。これらのシリーズの成功により、BBC はクリスティの最も有名な探偵の一人であるミス・マープルのシリーズを制作する許可を得たのだった[ 3] 。
BBCがミス・マープル全12作の映像化権を得たとき、すでにそのうち3作の権利が併存しており、それらは1988年末に期限切れとなる予定であった。『鏡は横にひび割れて 』はすでにアンジェラ・ランズベリー 主演で1980年に映画が公開されており、同じ制作会社がテレビ映画としてヘレン・ヘイズ 主演で『カリブ海の秘密 』と『魔術の殺人 』を撮影中であった。したがって、BBCとの契約ではこの3作が最後にドラマ化されることとなった。
キャスティング
ミス・マープルを演じたジョーン・ヒクソンは、このシリーズのほとんどの期間、自身も八十代であった。1980年、彼女は『なぜエヴァンズに頼まなかったのか 』にリヴィントン夫人という脇役で出演していた。その数十年前には、マーガレット・ラザフォード がミス・マープルを演じた映画『ミス・マープル/夜行特急の殺人 』に端役で出演している。ヒクソンは1946年に『死との約束 』の舞台にも出演しており、それを観たクリスティはヒクソンに「いつか私の愛するミス・マープルを演じてほしい」という内容のメモを送っている[ 4] 。
ヒクソンは1989年の『カリブ海の秘密』以降、他の作品には出ないと誓っていたが、1991年と1992年の最後の2作で説得され、復帰することになった。
撮影
撮影は1983年からノーフォーク 、デボン 、オックスフォードシャー 、バルバドス などの地域で行われた。 ハンプシャー州 のネザー・ワロップという町は、ミス・マープルの故郷であるセント・メアリー・ミード 村のロケ地である。
『カリブ海の秘密』は、クリスティがバルバドスを訪れた際に宿泊し、小説の舞台のインスピレーションとなったバルバドスのコーラルリーフホテルで撮影された[ 4] 。
公開
シーズン1は、4つの小説を分割し、それぞれ約55分から60分の長さで全10話構成にし、1984年12月から1985年3月にかけて放送された。シーズン2は、さらに4つの小説をそれぞれ前後編として全8話に構成したが、最初の2つは1986年のクリスマスに100分の長編エピソードとして一挙放送された。残りの4冊は、1988年、1989年、1991年、1992年のクリスマス期間に120分の独立した長編エピソードとして放送された。最終的には何度も繰り返し放映され、全12話が長編として放送されたり、50~55分のエピソードに分割されて放送されたりした。
日本ではNHKで吹替版が放送されたが、そこには『書斎の死体』と『予告殺人』は含まれず、放送も部分的にカットされている。その後に発売されたDVD BOXでは、それらの欠損を埋めて全話ノーカットで収録されている[ 5] 。
作品の評価
第1-3話『書斎の死体』は批評家から熱狂的に支持された。タイムズ 紙 は「一度はまるとやめられなくなる」と評し、サン 紙 は「吸引力と真の気品がある」シリーズだと評した。第4,5話『動く指』について、デイリー・テレグラフ は「ガイ・スレーターの作品は、再びジョーン・ヒクソンの素晴らしい演技を中心に構成されており、その色あせた青い瞳とオールドミス風の歯擦音の背後に、探偵の知性の歯車が活発に回転しているのが見える。この作品は、完璧なキャスト、美しい構成、愛情に満ちた撮影で構成されている」と評した。その後の作品の評価も同様に好意的であった[ 4] 。
イギリス放送通信博物館のアラン・マッキーは、このシリーズを1980年代に流行した「『遺産』製作の好例」と評している。「道徳的な基準における新しいヴィクトリアニズム と、イングランドの過去をクリーンに表現することが組み合わされている。ほとんどが過去の地方を舞台にしており、イギリスの建築物や田舎の邸宅が登場する。BBCの多くの番組がそうであるように、製作の価値も非の打ち所がなく、衣装、家、内装、車、ヘアスタイル、メイクなど、すべてが「豪華」と表現できるほどである。」[ 6]
マッキーはさらに曰く、「このシリーズが「原作にできる限り忠実であること」を高く評価している。ミス・マープルは、映画シリーズ(『ミス・マープル/夜行特急の殺人』)のマーガレット・ラザフォード のように自ら悪人を追いかけたりせず、タイトルもセンセーショナルに改変されたりしていない。」[ 6]
ヒクソン個人については、クリスティが描いたミス・マープルの「決定版」と評されることが多く、エリザベス2世 がこのシリーズとヒクソンの演技のファンだったことから、この役はヒクソンが大英帝国勲章 を授与した大きな要因となっている[ 4] 。
脚注
注釈
^ このシーンの撮影には、観光鉄道のセヴァン・ヴァレイ鉄道 (英語版 ) が使用された。同鉄道は2つの列車を並走させるために、少なくとも300ヤードの線路を敷設し直したという。[ 2]
^ ラザフォード・ホールの撮影には、サマセット州にあるオーチャードリーハウス (英語版 ) が使用された。
^ マープルの友人ドリー・バントリーが暮らしていた邸宅であり、『書斎の死体』で最初に死体が発見されたのはこの邸宅の書斎である。
出典
^ 第5話『牧師館の殺人』
^ “Miss Marple: 4:50 from Paddington ”. SVR Wiki . 2022年9月5日 閲覧。
^ The New Bedside, Bathtub & Armchair Companion to Agatha Christie, Edited by Dick Riley and Pam McAllister. Ungar Publishing, New York 1979, rev 1986. "Christie on the BBC" Tennenbaum, Michael, p 339 ISBN 0-8044-5803-0
^ a b c d Agatha Christie: Murder in Four Acts, Haining, Peter, Virgin Books, London, 1990. ISBN 1-85227-273-2
^ “BBC版 ミス・マープル 完全版 DVD-BOX ”. NHKエンタープライズ . 2022年9月3日 閲覧。
^ a b “Museum of Broadcast Communications ”. Museum.tv. 15 February 2002時点のオリジナル よりアーカイブ。2012年2月17日 閲覧。