1950年代から1960年代にかけ、アメリカの心理学者・性科学者ジョン・マネー John Money、精神科医ロバート・ストラー Robert Stoller らは、身体的な性別が非典型な状態の性分化疾患の研究において、その当事者に生物学的性別とは別個にある男性または女性としての自己意識、性別の同一性があり、臨床上の必要から「性の自己意識・自己認知(性同一性)」との定義で “gender” を用いた[2]:408[3][4]。1960年代後半から “gender identity” とも用いられた(以降も医学・性科学では “gender (identity)” は「性の自己意識・自己認知(性同一性)」の定義で用いられており、後の社会学において定義される意味とは異なる)。
1970年代[2]:408より、一部の社会科学の分野において"gender"は生物学的性よりもむしろ社会的性の意味で用いられるようになった。しかし1970年代の時点では、"gender"と"sex"をどのような意味で用いるかについての合意は存在しなかった。たとえば1974年版の"Masculine/Feminine or Human"というフェミニストの本においては、「生得的なgender」と「学習されたsex role(性的役割)」という現代とは逆の定義がみられている。しかし同著の1978年の版ではこの定義が逆転している。1980年までに、大半のフェミニストは"gender"は「社会・文化的に形成された性」を、"sex"は「生物学的な性」として使用するようになった[5]。このように、社会科学の分野においてジェンダーという用語が社会・文化的性別のこととして用いられ始めたのは比較的最近のことであることが分かる。
複数の英英/英和辞書において"gender"は、第一に「言語学的性(文法上の性)」として、第2に、古くから使われてきた「生物学的性別(sex)」として記述されている(出典:ジーニアス英和辞典、ウェブスターの辞書)。それらに続き、社会科学の分野において用いられる「社会的・文化的役割としての性」という意味の語として記述がなされることがある(出典:英語版ウィキペディア)。「言語学的性」とは、例えば男性を代名詞で「"he"、女性を"she"と分けて表記するようなことである。「生物学的性(sex)」とは、ロングマン現代英英辞典によれば、「the fact of being male or female(男性または女性であることの事実)」と説明され、「male(男性)」は「子供を産まない性」、「female(女性)」は「子供を産む性」と定義される。またヒト以外の動物の雌雄を記述する場合にも用いられる。「社会的文化的役割としての性」とは、その性(sex)から想起される「男らしさ」「女らしさ」といった様々な特徴のことである。
ジョーン・W・スコットの著書『ジェンダーと歴史学』によれば、近年、欧米の社会学において、"gender"という用語はほとんど(7割程度)の場合、「女性」と同義で使用されている(例:"gender and development" 女性とその経済力向上)。
^ abcSheffield, Suzanne Le-May (2006). Women and Science: Social Impact and Interaction. New Brunswick, NJ: Rutgers University Press. pp. 129–134. ISBN978-0-8135-3737-5