回
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話
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サブタイトル
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各話のあらすじ
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家族の集い
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舞台は奴隷兵(カプクル)イブラヒムの声と共に幕を開ける。断食月のある春の夜に謀殺された無念さと死して煉獄に落ちた苦しみを訴える。ヒュッレムは占星術師に帝国の後継者を占わせる。アマスヤに赴任中のムスタファはある日帝都に呼び戻される。セリムとバヤジトも呼び戻され、ジハンギルの成人の帯刀式の儀のためだけでなく近く玉座に一番近い県と言われるマニサに赴任する皇子の名が発表されるからこその招聘と噂される。大宰相となったリュステムのもとを訪れたフズルは大宰相職を象徴する赤の長衣(カフタン)は言わば炎の衣だと言う。ミフリマーフが侍女長となったギュルバハルを呼びヒュッレムを探させるが宮殿内に姿が見当たらない。ルメイサの娘ネルギスシャーを連れたムスタファが帰途する道上に歩兵常備軍(イェニチェリ)が激励の列をなして見送る。リュステムもアジズから報告を受ける。ヒュッレムはマヒデブランの計略により殺害されたメフメトを思い出す。スレイマンはメフメトを思い、エブッスードとマトラークチュ以外の者と会わぬ日々が続いていた。
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2
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後継者の器
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フズルはムスタファを自分の艦船に誘う。エブッスードはリュステムにイスラム長老と宗教的見解(ファトワー)が合わないとこぼす。スレイマンはジハンギルに獅子の指輪を贈る。帯刀式のマヒデブランはヒュッレムに「お前の罪を背負った可哀相なジハンギル皇子」と暴言を吐き「私の血は王朝で染まっていないわ。悪人を見たければ鏡を見なさい」と言われる報いを受ける。リュステムはスレイマンにイェニチェリが敬愛するムスタファを数千の兵を持って出迎えたと言う。セリムの側女ディルシャーは側女たちの大部屋で皇妃になる夢を語るが、ヒュッレムはスンビュルに「強い女がいてこそ男は成功する。もっと強い側女を探しなさい」と言いつけ、ベネチアの貴族出身チェチーリア(後にヌールバーヌー)に目を留める。マトラークチュとバヤジトが棒術の練習を重ねる中セリムが参会し、皇子同士の試合が行われる。その様子を見たスレイマンは顔色を変える。ヒュッレムはスレイマンに皇子の推挙を問われる。チェチーリアは義母の所為で運命の綾から結果的に追いやられる羽目となったオスマン帝国の後宮で侍女ヴァレリア(後にナーゼニン)と同格とされ怒りに燃えていた。
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2
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3
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玉座への道
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ミフリマーフの屋敷にて内輪の晩餐会が催される。セリムが棒術の疲労を理由に自室へ下がるとバヤジトが口を開く。ミフリマーフとリュステムにはバヤジトが有力と見られていた。国庫の手当の少なさを理由にバヤジトは50万アクチェ(銀貨)の補填を願い出る。セリムは傍聴していた女官から資金困窮の内輪話を入手する。チェチーリアは真夜中に父が殺されたときの夢を見て飛び起き自殺を謀るがミフリマーフの屋敷から戻る途中のセリムにより介抱される。ヒュッレムは「知恵がなければ美しさなど無価値」と言う。女官ジャンフェダーがかつてニギャールがヒュッレムに女の栄華を説いたようにチェチーリアの行末に一筋の光明を当てる。スレイマンは宮廷建築家シナンの建造したメフメトの霊廟の視察に出る。エブッスードが玉座の重みを常に死が付き纏うと表現する。スレイマンは兄弟殺しによりトラブゾン軍政官に過ぎなかった父帝セリム1世が先々帝バヤジト2世から玉座を奪い取った経緯を思い浮かべる。ついに宣告が下された。マニサ軍政官となった皇子セリムはコンヤにいる腹心のガザンフェルを呼び寄せる。ムスタファは皇子たちの狩りの誘いを断りアマスヤに一足先に戻る。
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4
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陰の守護者
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皇子選出の聖断が一段落してスレイマンとヒュッレムは久しぶりに語らい合う。気がかりが晴れてあえてヒュッレム失踪の暗雲が重く垂れ込めた時期の離別の苦しみを吐露する。マヒデブランはヒュッレムがセリムを推挙した真意など誰にも分からないという。リュステムはヒュッレムにセリムでは勢いが衰えると忠言するがヒュッレムは狙われるのはむしろ皇子たちではなく自分だと言う。チェチーリアは一計を講じてセリムの湯浴みに居合わせるが一顧だにされない。アマスヤへ急ぎ帰るムスタファ一行を木立の陰から下見する黒衣の男が二人隠れ潜んでいる。ムスタファの護衛が何事かを頷くと、夜明けと共に身なりの粗末な男共が一斉に襲撃を開始する。しかし黒衣の男二人で掃討される。襲撃者が一人捕らえられアマスヤの商人カスムの命令だったと白状する。だが実際はリュステムとヒュッレムにより仕組まれた罠でヒュッレムは失敗に激高する。陰の守護者がいるようだとリュステムは弁解としてフズルの名を挙げるがヒュッレムは納得しない。懐妊中のルメイサがムスタファを庇って身代わりになったのだった。一方チェチーリアはセリムのマニサ赴任の後宮に入るべくスンビュルに心付けを見せ取引するが侍女だったヴァレリアに出し抜かれる。エブッスードがスレイマンに現金による宗教寄進(ワクフ)の廃止の弊害を語る。セリムとバヤジトが早駆けの勝負をして行方不明となるがバヤジトがセリムを助ける。口論となった二人の皇子は血相を抱えて駆けつけたスレイマンに違う説明をする。
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3
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5
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光り輝く女
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チェチーリアは稽古場から持ち去った紙と鉛筆で夜に後宮の屋根に登り星を素描する。アフィフェは衛兵に命じて連れ戻す。牢屋に禁固される直前にヒュッレム妃の行く末を星々から教わったので伝えて欲しいと叫び残す。スレイマンがバヤジトに「誰かに過ちを唆し更に追い打ちをかけるのであれば、その誘導した過ちはお前自身のものだ。怒りで我が身を滅ぼす性分を直せ」と叱る。翌朝アフィフェがチェチーリアをヒュッレムの目前に連れ出す。チェチーリアはヒュッレムという炎を読み解く。マニサではマヒデブランがメフメトを謀殺した自分の罪を被ってルメイサと孫皇子が死んだのではないかと嘆き沈む。ムスタファは剣を手に勇猛にカスムと渡り合い、リュステムの従者アジズが依頼者との自白を得る。カスムを生かしておくも口封じに殺害されたことからムスタファはアマスヤ宮殿内部に反逆者がいることを知る。リュステムがムスタファの師から受け取ったとされる、ペルシャ人の庇護者カスムとの確執を書いた手紙がスレイマンに奏上される。ムスタファは慎重の上に慎重を重ねてフズルが差し向けたという黒衣の伝令二人の身元を照会する。マニサ赴任を明日に控えて浮き立つヴァレリアをよそ目にチェチーリアは落ち着かない。ヒュッレムに直接訴え忠誠を誓う代わりにヌールバーヌー(光り輝く女)の名を賜り、ヴァレリアの代わりにマニサ後宮へ上がることとなる。
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6
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ヒュッレムの憂い
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ヒュッレムが自室のバルコニーで倒れる。医女の診断は閉経による更年期障害だった。もはや皇帝の皇子を産むことはできない。ヒュッレムはスンビュルとファーリエと医女に箝口令を敷く。皇女ファトマがハティジェの娘フーリジハンを伴い、腹心のメレキと共にトプカプ宮殿に参内する。ギュルフェムからヒュッレムの不調を聞いたファトマは医女を詰問する。フズルの元に伝令アトマジャ(鷹の意)が訪れてフズルの娘が応対する。だがフズルからではなくまた別の陰の守護者からの伝令なのだった。リュステムが直接イスラムの現長老フェネリザーデを招聘する。前イスラムの長老チヴィザーデ同様、現金による宗教寄進(ワクフ)廃止派かどうかを聞き出すためだったが暴言を吐き捨てられる。「楽しみと喜びの皇女」と噂されるファトマがわざわざ窮屈な金の鳥籠と呼ばれる後宮に舞い戻った裏には理由がありそうだとヒュッレムはスンビュルに警告する。フーリジハンはバヤジトに急接近する。セリムがマニサに着任する。ムスタファのもとにアルジェ出身のフズルの娘ミフリュニーサが使者として立つ。伝令アトマジャがアマスヤに戻りヤヴズと話すところに警備隊長が聞き込みに来る。
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ムスタファの策略
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後宮ではファトマ主催の宴が催され、ヒュッレムとミフリマーフが招待される。側女たちも勢揃いの中、ファトマにより更年期障害を暴露されたヒュッレムは一人部屋で号泣する。ミフリマーフは「楽しみのため女心を弄ぶとは」と公然とファトマを非難する。スレイマンはフェネリザーデを直接召喚して事情を聞く。その夜フーリジハンの奏でるバイオリンの音を聴いたスレイマンはイブラヒムとの思い出の記憶に圧倒される。閉経を迎えた女は美貌を持つ若い女に敵わないとしたファトマはスレイマンにギュルフェム推薦の側女を夜伽の献上品として用意する。内廷宦官長ロクマンを通じてヒュッレムは企みを阻止するもアフィフェから夜伽を用意するのが職務ですと泣訴される。ファトマは実はムスタファがヒュッレムという蛇を潰すために後宮に送りこんだ皇女なのだった。アマスヤでは警備隊長がアトマジャとヤヴズの罠にかかりリュステムの差し金と知られてしまうがムスタファは状況を利用するため泳がせておくことを決定する。マニサではジャンフェダーが侍従ガザンフェルを説き伏せ、ヌールバーヌーを夜伽に参らせるよう画策するが、あいにくセリムは市中で揉め事を起こしており虫の居所が悪かった。ジャンフェダーの禁酒を一番の任務とするという制止も聞かず、「セリム皇子が私の楽園に入るの」「釘を抜くのは釘よ。葡萄酒を持ってきて」と自信満々に奮い立つ。
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誇り高き者の選択
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皇子は痩せた女はお好みではない、と言われながらも葡萄酒を片手に、単身夜伽に乗り込んだヌールバーヌーは全て忘れさせるとの約束の一夜を過ごす。フーリジハンはファトマから手渡されたイブラヒムの日記を毎夜繰る。誇り高いヒュッレムは閉経の事実を公開されて側女を献上しない訳にはいかなかった。女人としての感情を抑えヴァレリアを選び赤い衣を着せて夜伽に参らせ、過ぎ去った残酷で美しい時間を思い慟哭する。ファトマはメレキから昨夜女人がご寝所に送られたことを聞く。ヒュッレムは「盲人は見えず。誇り高き者は見ず」の故郷のことわざを胸に、己の自惚れや虚栄心に負けないことを誓う。バヤジトはキュタフヤにすぐには戻らない意をジハンギルに明かす。ヌールバーヌーが朝食の手配をする間にセリムは苛立ちから鏡を割り豹変する。ジャンフェダーにお悩みを知らなければ忘れさせてあげられないと懇願するが事情はガザンフェルしか知らないと言われる。アトマジャが非正規騎兵(アクンジュ)ヤヴズをフズルに紹介する。ミフリュニーサはフズルのもとに帰らずアマスヤのムスタファの後宮近くの農家に住むことを決意する。アトマジャはイェニチェリの長官アリに重大な任務を伝令する。警備隊長は命が狙われているとリュステムに伝令する。ごひいきの部屋に通されたヌールバーヌーはディルシャーと同室と知る。ファトマはヴァレリアを訪れてヒュッレムの施した避妊処置を知ると、ナーゼニン(上品かつ優美の意)の名を与えて今後は処置しないよう言い渡す。
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皇子の苦悩
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スレイマンはバヤジトの荒い気性を気に病む。神聖な合同金曜礼拝を前にマトラークチュとジハンギルはバヤジトに反省の色をスレイマンに見せるよう促す。リュステムは屋敷の警護確認に余念がない。ムスタファはミフリュニーサと木剣で手合わせする。ファトマはフーリジハンを焚き付けてバヤジトとの恋を後援し、ナーゼニンをスレイマンのご寝所に送り込む。スレイマンはムスタファ暗殺の件で内心引責をリュステムに負わせているため不協和音が漂っている。命の危険から再三イェニチェリの長官アリを罷免するようヒュッレムを説得しかかるが許可が降りず不安を拭い去れない。民衆にムスタファやバヤジトより愛されていないのではないかと自信をなくす中、カザンフェルがセリムを市中のモスクへ金曜礼拝に行くよう説得する。果たしてそこには敬愛を表して民衆が集まっていた。マニサ宮に戻ると一年分の食糧が寄付されており、セリムは民に慕われていることを確信して自信を取り戻す。だがそれらは全てカザンフェルに命じてヌールバーヌーが手配させたものだった。安堵するガザンフェルの前に市中で殺された商人アフメトの妻が現れる。リュステムは長官アリの大宰相就任祝いの宴の招待を受ける。スンビュルは市中の女生地商人ジェヴヘルと出会う。スンビュルからバヤジトとフーリジハンが市中で買い物をしていた報告を受けたヒュッレムは、激怒してバヤジトの欠点をあげつらってしまう。
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皇女の追撃
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皇子の赴任先で宗教寄進(ワクフ)を行うのは皇子の母の務めである。マヒデブランは宴を開いて支援者を探す。リュステムはイェニチェリの兵舎で長官アリの歓待を受けるが我慢の限界に達する。バヤジトはスレイマンに赴任先のキュタフヤに出立の挨拶をする。マトラークチュがリュステムとアリの諍いをスレイマンに奏上する。会議で独断にてアリを罷免しようとするリュステムにフズルが意見する。リュステムはスレイマンの叱責を受ける。アマスヤではミフリュニーサが農場の改装に出た途中に怪しい動きをしている警備隊長を発見するが逆に見つかってしまう。危ういところをアトマジャとヤヴズに救われる。ムスタファが警備隊長を生かして利用する命令に背いたとして慌てるが、警備隊長が持っていた文を手渡し、役目を無事に終えたと報告する。ヒュッレムがリュステムを取りなす奔走に追われる中、ナーゼニンがファトマに何事かを奏上する。マニサではヌールバーヌーがセリムの夜伽に上がり、全てを忘れさせるとの約束を果たしに参上する。ヌールバーヌーはベネチアの舞踏会では皆が仮面に顔を隠し、男も女も共に踊ると話してセリムを楽しませる。スレイマンとヒュッレムが朝食を共にする中、ナーゼニンが懐妊を伝える。リュステムは腹心のアジズを亡くし、代わりに格闘家を倒して名を上げ、ザール(伝説の勇者)とも噂される従者マフムードに密命を託す。マフムードは21番部隊の兵士の中から役に立つ者を見つけ出してみせると豪語する。ヒュッレムはファトマとの全面対決を決意する。
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愛の鎧
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ナーゼニンの一件が仕組まれたものだとのロクマンからの報告で初めて懐妊を知ったリュステムは驚きと嫌悪の表情を隠せない。失意の中、ラナ妃と2人の幼い息子の待つキュタフヤに戻ったバヤジトは師父ムスタファにセリムの動向を探るため配下をマニサに送らせることで冷静に対処するも、寝所ではフーリジハンへの想いが募り落ち着かない。窮地に陥ったロクマンはファトマの侍女メレキを問い詰めファトマの秘密を聞き出すことに成功した。離縁したのは夫側ではなくファトマ本人の不貞が原因だったのだ。これをスンビュルから伝えられたヒュッレムはほくそ笑む。スレイマンは歩兵常備軍との騒動の件でリュステムに非があると断罪しヘルツェゴビナ県への追放処分を下す。ミフリュニーサを息子から遠ざけようと仕組んだ縁談話をマヒデブランから聞かされたムスタファは狼狽し苛立つ。リュステムを宴席に招待した歩兵常備軍長官の側近から自供を得るべく拉致監禁した旨の報告をマフムードから受けた直後、リュステムはミフリマーフが原因不明の体調不良により意識を失ったことを知らされる。市場で殺された商人の妻がセリムを法官に訴えることを侍女から聞いたヌールバーヌーは、このことがセリムに知らされる前にガザンフェルを妻に会いに行かせ訴えを取り下げさせることを画策するも高圧的な物言いが災いし失敗する。そこでヌールバーヌーは宮殿を抜け出して自ら妻に会いにいくことを決意する。
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心の命
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歩兵常備軍長官の従者の口を割らせたマフムードから、自分の失脚を画策した黒幕はフズルであったことをリュステムは伝えられる。事の真相とフズルとムスタファの強い結びつきをリュステムから聞かされたヒュッレムは、ムスタファを殺すのかとの問いに対し心の命を奪うのだと答える。マニサ民衆のセリムへの不評と商人の殺害事件の情報にいきり立ったバヤジトは離県禁止を無視しマニサ行きを決める。ファトマの元夫である軍政官ムスタファを呼び寄せファトマに復縁を求めるようそそのかしたヒュッレムの策略にはまったファトマは、スレイマンへの不貞の暴露を恐れやむなく復縁を奏上しに行く。ファトマが復縁を望んでいるとの偽情報をすでにヒュッレムから伝えられていたスレイマンは即座に許可する。ガザンフェルを従え秘密裏に宮殿を抜け出し例の商人の妻に会いに市場へ赴いたヌールバーヌーは身分を明かし、訴えを取り下げるなら残された子との生活を保障すると約束し同意を得るが踵を返した瞬間、こちらを睨み屹立しているセリムの姿に驚愕する。かねてから自らへのムスタファの偽らざる気持ちを確かめたかったミフリュニーサだったが、ついにムスタファ呼び出され愛はないとの非情な言葉に傷つけられ立ち去る。リュステムはフズルのもとを訪れ、誰にでも大切はものがあり時にそのためにはすべてを犠牲にするが、フズルにとってそれがミフリュニーサなのかムスタファなのかを問い詰める。
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海軍提督の窮地
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ムスタファと別れ泣きじゃくるミフリュニーサにマフムード率いる郎党が忍び寄り拉致を図る。ナーゼニンと仲睦まじいスレイマンの姿に苦悩するヒュッレム。市場で亡き商人の妻に会ったかどで地下牢に入れられたヌールバーヌーはセリムの厳しい追及に対し、愛ゆえの行動だったと訴えるも、プライドを傷つけられたセリムは越権行為として断じて許さない。ミフリュニーサの身柄を担保に、歩兵常備軍との騒動はアリ長官の計略だと奏上するようフズルに要求した後、リュステムはヘルツェゴビナに向かうが、別れ間際、体調不良はリュステムの出立を阻むための詐病だったとミフリマーフから打ち明けられる。娘の命とムスタファへの忠誠心のどちらを選ぶかフズルは窮地に立たされる。スレイマンへの奏上はアリが支持を表明したムスタファへの糾弾に繋がるからだ。ジェヴヘルはスンビュルが後宮宦官長であることを突き止め行商を口実に大部屋に入り込むと、それに気づき立ち去るスンビュルを追いかけ先日告白した愛に変わりはないと伝える。ミフリュニーサの拉致を知らされ従者らと共に捜索にあたるムスタファは手掛かりをもとに帝都へ向かう。バヤジトは忍びで訪れたマニサの市場で商人らからセリムの醜聞を自分の耳で確かめるもスレイマンへの奏上は急がない。セリムは商人の妻を呼び出し訴えの取り下げを要求するが、その人間性に信を置いたヌールバーヌーとの約束通りすでに実行したと聞かされる。
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14
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スンビュルの恋
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ヒュッレムはナーゼニンの部屋に侍女を忍び込ませ薬に毒を仕込む。正体を隠しマニサ法官を訪ねセリムへの訴え取り下げに怒りをあらわにしたバヤジトは、セリムに見つかり宮殿でもてなしを受けるが互いに罵詈雑言が昂じると席を蹴る。皆にとっての最善策であると、フズルは体調不良を理由にスレイマンに辞意を伝えるが、沙汰は病因判明後と先送りになる。フズルの辞意奏上をムスタファ擁立派黒幕に伝えた伝令ヤブズは「例の女人」を使ってミフリュニーサの居所の探りを入れるよう命ぜられる。セリムが下した追放処分により自由と大金を手にしてベネチアに帰れるとガザンフェルに伝えられるがヌールバーヌーはこれを拒む。ミフリュニーサの拘束継続をマフムードに指示した手紙をヒュッレムはスンビュルに手渡す。久方ぶりの我が子の誕生はメフメト亡き後の神の思し召しと心待ちにするスレイマンにヒュッレムは慌てふためき、ナーゼニンが毒入りの薬を服用するのを食い止めるようファーリエに命じ、すんでのところで難を逃れる。再び訪れたジェヴヘルの自宅で互いの愛を確かめあい一夜を過ごしたスンビュルの寝姿の傍らでジェヴヘルはヒュッレムの手紙を盗み見る。ヤブズらが間諜として送り込んだ女人とはジェヴヘルだったのだ。リュステム不在の間、大宰相代理を任命された門衛長ソコルルは、敵対勢力であるフェネリザーデ師の失脚を画策するヒュッレムに師の過去の過ちを探り出すことを誓う。
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15
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仕組まれた疑念
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地下牢で意識を失ったヌールバーヌーは回復後、セリムから懐妊の診断を伝えられる。スンビュルが使者に渡したヒュッレムの手紙がミフリュニーサの拉致犯宛てだとジェヴヘルから教えられたヤブズは使者を追跡する。ソコルルが探し出した文書をフェネリザーデに突きつけたヒュッレムは、地位乱用の発覚による解任を望まなければ辞意を奏上するよう迫る。スレイマンは辞意の理由が明かされないままフェネリザーデを解任しエブッスードを後任に充てる。ムスタファはミフリュニーサ救出後、互いの愛を確かめ合うも愛する者への危害を恐れ帝都送還という苦渋の選択を告げる。救出劇での剣術からただの伝令ではないと勘づかれたアトマジャは、フズルから皇子守護の特命を授かったのだとムスタファに打ち明ける。フズルの見舞いをヒュッレムから勧められたスレイマンが赴いた先で目にしたのはミフリュニーサといるムスタファとアリ長官の姿だった。ムスタファが規則違反の帝都行き情報を得たヒュッレムがスレイマンに皇子への疑念を生じさせようと邂逅を仕組んだのだった。ムスタファ率いる艦隊から一斉砲撃を受けるという直近の悪夢を思い出したスレイマンに呼び出されたムスタファは嘘を交えこう釈明する。山賊に誘拐された相談役ミフリュニーサを救出後、フズルの元に送り届けるための帝都行きだったのだと。しかし疑念にかられたスレイマンは内廷出身の軍団将校らの内偵調査をソコルルに命ずる。
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16
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戒め
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セリムの失態と醜聞を洗いざらい暴露することに決めたバヤジトは、赴任県を離れた自らの非も含めてしたためたスレイマン宛ての書簡を師父ムスタファに手渡す。しかし日頃からフーリジハンからの恋文をバヤジトの手元に届かぬよう計らっていた師父は恋文もこの書簡も密かに火にくべてしまう。ムスタファの一連の行動に悪意はないと擁護するミフリマーフに苛立ち、玉座を奪おうとする計略を潰してスレイマンに真実を見せてやったのだとヒュッレムは豪語する。ムスタファを呼び出したスレイマンは処分保留にしていたアリ長官を斬首刑に処すことを告げその執行の任にあたるよう命ずる。宣告を甘受しムスタファにより刑場に連行されたアリは「我らムスタファ皇子殿下のしもべ」と叫び絶命する。処分を解かれ帝都に戻ってきたリュステムは参内し後任の海軍提督の選任を急ぐべきだとスレイマンに進言する。忠誠心への疑念は人を蝕むという警句を口にしたヒュッレムに対し、あなたの命運は自分の発言しだいだとムスタファは忠告する。忌み嫌う元夫との再婚を悲観していたはずが婚礼の宴でなぜか上機嫌にしているファトマの姿は周囲の者たちにとっては理解不能だった。アマスヤへの帰還の許可を求めるムスタファに対し、アリの後任の長官の任命式が執り行われる御前会議への出席を命ずる。そしてこう戒める。誤解を招かぬよう皇子として誰といかなる関係を築くかについては熟慮のうえ決めるようにと。
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17
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皇子たちの恋
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不相応な恋慕が不幸の原因と自責の念にかられるミフリュニーサは、ムスタファの将来を気遣い身を引くことを伝える。婚礼の夜、夫に精力増強のための滋養食の過剰摂取を煽ったファトマは自然死を装った殺害計画に成功する。ファトマを宮殿から追い出すヒュッレムの算段は潰える。バヤジトから返事が来ないことに煩悶するフーリジハンに、ジハンギルをキュタフヤに行く気にさせれば同行してバヤジトに会えるとファトマは智恵をつける。歩兵常備軍の将校がムスタファを訪れ、長官処刑後、一触即発の軍団は皇子即位のための反乱の準備は万全だと伝える。謀反を起こすつもりはないとムスタファが激昂し平手打ちをした将校の正体は、皇子に探りを入れるためにスレイマンが直々に送った囮だった。事件再発防止のため赴任県を回り皇子たちの評判を密かに探るようスレイマンはマトラークチュに命ずる。フーリジハンとの手紙の行き来の妨害をバヤジトに叱責された師父はスレイマンにこの交際が知られた際の沙汰を案じている。あらゆる困難に立ち向かう覚悟でミフリュニーサとともに生きる決意のムスタファは、フズルの了解のもと希望を託してアマスヤに戻ったミフリュニーサに秘密の結婚を申し出る。滞在先のキュタフヤ宮殿内のフーリジハンの部屋の前で躊躇するジハンギルは廊下の足音を聞き身を隠すと、扉の外でフーリジハンがバヤジトを迎え入れるのを目にし自分が利用されたことを知ることになる。
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18
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秘密の関係
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ナーゼニンの出産の知らせに焦燥するヒュッレムは慌ててその場に駆けつけるが後で女児と分かり安堵する。フズルは参内し改めて辞意を伝えるが懸念を払拭したスレイマンは職務の継続を命ずる。フズルの留任に不満と危機感を募らせるヒュッレムに、フズルを「名誉に見合った方法で見送る」とリュステムは意味深な発言をする。ミフリュニーサの滞在を快く思わないマヒデブランに対し、規則ではなく心の声に従って生きる決意をムスタファは伝える。皇子たちの赴任県を見て回ったマトラークチュの報告で、セリムに着せられた汚名と殺人事件の訴えのもみ消し疑惑を知ったスレイマンは憤る。後宮の慣習を受け容れることができないヌールバーヌーは、いまだにセリムの他の側女との夜伽に耐えられず怒鳴り散らす。フーリジハンとの関係を知っているとバヤジトに漏らしたジハンギル。これを秘密にするよう頼み込まれた目には嫉妬と怒りがにじむ。フズルの順調な回復ぶりをリュステムから聞いたスレイマンはマトラークチュから土産にもらった蜂蜜の壺をフズルに贈ることにする。リュステムはかつてフズルと遠征をともにしたソコルルに蜂蜜を届けさせ、滋養のため毎日摂ることを伝えさせる。ミフリマーフがリュステムと寝室をともにしていないことを知ったファトマは、2人の前でマルコチョールの近況と過去の悲恋について話し出し動揺を誘う。リュステムからミフリマーフを引き剥がす作戦は昂じていく。
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19
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禁断の愛
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皇子と海軍総督の娘の深い関係の発覚を恐れるマヒデブランにミフリュニーサは極秘結婚の意を打ち明け、絶大な影響力を持つフズルの娘との結婚はいわば愛のある政略結婚だと含める。若いうちの身を焦がすような恋愛をファトマに焚きつられたミフリマーフは、それを振り払うかのように夫と一夜を過ごそうとするが、いまだに愛されていないことを悟ったリュステムは部屋を出る。皇帝との更なる関係悪化を懸念したアトマジャはミフリュニーサとの決別をムスタファに忠言するが、翻意に至らずタシュルジャル同様、絶対的服従を誓う。殺人事件を再審理せよとの帝命はバヤジトの告げ口のせいだと思い違いをしたセリムは憤る。皇帝下賜の蜂蜜を毎日摂取していたフズルは御前会議の最中、昏倒してしまう。スレイマンに届けられる前にヒュッレムの手に渡った書簡の中身は、セリムによるバヤジトのマニサ行きの告発だった。帝都に戻り離宮に呼び出したフーリジハンを待つバヤジトの前に現れたのは、師父からの知らせで駆けつけたヒュッレムだった。ヒュッレムに帰還を急き立てられたバヤジトにアフィフェまでが現れ、スレイマンからの呼出しを伝えられる。無許可の帝都入りに加えフーリジハンへの愛ゆえとの釈明はスレイマンの逆鱗に触れ、バヤジトは辺境への追放を言い渡される。バヤジト追放によるヒュッレム陣営の弱体化を恐れるリュステムはスレイマンを説得できるのはヒュッレムしかいないと諭す。
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20
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皇帝の孤独
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亡き父イブラヒムの日記を手に取り部屋を飛び出したフーリジハンはスレイマンを訪ね日記の献上を申し出る。潔白にもかかわらず父親は処刑されたと信ずるフーリジハンは、バヤジトへの怒りを鎮め処断を改めさせるには、スレイマンにイブラヒムの忠誠心の証しを見せるしかないとの咄嗟の判断だった。マニサをセリムに任せたのは大切な皇子を敵の目から遠ざけ護るためだったのだとヒュッレムはバヤジトに伝え、処分の撤回に尽くすと約束する。臣下の忠誠心が見えず疑心暗鬼になっている自らを嘆くスレイマンは、バヤジトの過ちを報告をしなかったマトラークチュの忠誠心にも疑いの目を向け叱責する。衰弱するフズルを訪れ勝利宣言をしたリュステムはその大きな手を掴み笑みを浮かべる。その後フズルは亡くなる。皇子の過ちは自らの責任であり教えが不十分であったとスレイマンは涙に震えるバヤジトを抱き寄せ許す。その慧眼を示すとともに詩情豊かなイブラヒムの日記を夜明かし読み耽ったスレイマンは、臣下かつ朋友からの忠誠と敬愛を目にして心をかき乱される。フズルの後任に海軍司令官トゥルグットを推すマヒデブランにファトマは手を貸すと約束する。4人の皇子が集う中、セリムとバヤジトの口喧嘩が始まるが、ムスタファとジハンギルに咎められたセリムはその場を立ち去る。海の賢者と称され信任の厚い海軍司令官ピーリーはスレイマンの求めに応じ、後任の海軍総督の推挙のため参内する。
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謀略の海図
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辺境への追放を免れたバヤジトはフーリジハンと会うことを禁止されるにとどまったが2人は逢瀬を重ねる。ムスタファ擁立派の黒幕を訪れたアトマジャは、ミフリュニーサ排除の命令がいまだに生きているかと尋ねる。ムスタファの即位には結婚という禁忌が障害となるであろうと改めて速やかな遂行を命じた人物は司令官ピーリーだった。海軍提督の後任としてトゥルグットが最有力だと話すスレイマンに対し、独断専行のフズル流でなく慣習と規則に忠実なソコルルをリュステムは推す。スンビュルを従え宮殿内の人気の無い回廊を急ぐヒュッレムは、石壁と見まがう秘密の扉を開け奥に消える。会議の間では任命式が行われソコルルの提督任命が宣言される。忠誠心を確かめるスレイマンの問いに前任の路線継承を表明したトゥルグットは脱落した。任命式の様子や、ソコルルを推挙したのは自分だと恩を着せ忠誠を求めるリュステムの声に、秘密の部屋の伝声管を通してヒュッレムは耳をそばだてる。提督艦船で遺品整理をするミフリュニーサの背後でアトマジャは短剣を引き抜こうとするが思いとどまる。ジェヴヘルの家で慣れない葡萄酒に酔いが回ったスンビュルは、御前会議の内容を盗み聞きするためにヒュッレムが秘密裏に作らせた部屋の存在を漏らしてしまう。かえって悪い結果を招きかねないとのリュステムの危惧をよそにミフリマーフはセリムとバヤジトの和解を図るため、きょうだいだけの食事会を開く。
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深まる亀裂
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海軍提督に就任したソコルルを密かに呼び出し、ヒュッレム側かと探りを入れるファトマだが煙にまかれてしまう。ミフリマーフの開いた食事会は和やかに進んだものの、いつものセリムとバヤジトの口論はついには殴り合いの喧嘩に発展してしまう。兄弟からの敵意は自分のマニサ赴任に対する嫉妬からだと叫ぶセリムは孤立を深めるとともに次第に自暴自棄になっていく。ヒュッレムが秘密の部屋で御前会議を盗み聞きしていることをジェヴヘルはヤブズに伝える。迎えに来たと偽ってミフリュニーサを誘い出しついにその喉元に刃を当てたアトマジャだったが、ムスタファの子を身ごもっていると告げられ後ずさる。食事会での乱闘をミフリマーフから聞かされたヒュッレムのもとにヌールバーヌーが駆け込み、セリムがスレイマンに解任を願い出ると伝える。申し出にスレイマンは激怒するが、兄弟との無用な争いを避けるためでありマニサは他の皇子に譲りたいとセリムは退かない。ヒュッレムと皇子たちが揃う中、セリムのサルハン軍政官任命に対する異議は自分に対する異議であり、その申立てには代償を伴うと警告したスレイマンはセリムへの信任を宣する。出所不明の情報をもとに、以前挙動不審なスンビュルを見かけた回廊でファトマは侍女とともに秘密の部屋の在り処を探る。侍女が諦めかけたそのとき、ファトマは松明の燭台を引くと石壁が動き、秘密の部屋にたどり着くとヒュッレムの終わりを確信する。
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ヒュッレムの秘密
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ミフリュニーサ殺害命令を反故にされたピーリーはアトマジャの釈明を頑として聞き入れない。バヤジトまでもがムスタファに傾倒することに業を煮やし、すぐにでもスレイマンとムスタファの絆に楔を打ち込みたいヒュッレムに、リュステムはいい考えがあると言う。自分は玉座を夢見ているがそれが叶わぬ運命なら代わりに果たして欲しいと、バヤジトとムスタファは互いへの支持を誓う。フーリジハンがバヤジトを惑わせたのは計略かもしれないとほのめかすヒュッレムにスレイマンは怪訝そうな表情をする。ムスタファはアトマジャに帝都に残りファトマに会って特別な任務を遂行するよう命ずる。危険を回避するには出産まで農場に身を隠し、子供は側女が産んだことにするのが最善だとミフリュニーサを説得するマヒデブランだがムスタファはこれに反対する。リュステムも知らないヒュッレムの秘密があり、リュステムもその秘密の被害者だと謎めいた言葉でファトマは揺さぶりをかける。セリムの部屋に側女がいると聞いたヌールバーヌーは興奮して駆け込むと突然産気づきその部屋で男児を出産する。会議の間でリュステムがムスタファの使者と会うという情報にヒュッレムは秘密の部屋へと急ぐ。会議に間でアトマジャはリュステムにヒュッレムの秘密を話すと切り出し、ここは盗聴されていると暴露する。不吉な予感に襲われ部屋を飛び出したヒュッレムを回廊で待っていたのはスレイマンの鋭い視線だった。
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最大の裏切り
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唯一信頼していた者の裏切りに憤怒の形相のスレイマンに、宮殿内の数多の裏切りを防ぐためだったとヒュッレムは言い訳する。しかし今回のことこそ、その中の最大の裏切りだと反駁しヒュッレムを下がらせるとスレイマンは激しい悲嘆に襲われる。打ちのめされたヒュッレムを待っていたファトマは、おごりが死を招いたイブラヒムに触れ、もう終わりだと宣告する。凋落するヒュッレムは誰かに代償を払わせるだろうとのギュルフェムの言葉にナーゼニンが自分がそうなるのでと不安になるが、宮殿にいれば安全だとファトマは請け合う。秘密を漏らした裏切り者は誰かと腹心に詰問するヒュッレムに、スンビュルは自らの軽率な行動に思い当り白状する。まさかの不始末により全てを失うことになると烈火のごとく怒るヒュッレムは、スンビュルに毒の小瓶を差し出し非情な命令を下す。スンビュルを本気で愛してしまったジェヴヘルは、一緒に遠くに逃げ養子をもらい幸せに暮らそうと懇願する。土産のパイの毒が回り瀕死の状態のジェヴヘルは、スンビュルの追求にヤブズの名を絞り出した後、その腕の中で息絶える。リュステムはムスタファへの苦情の手紙を捏造しスレイマンに奏上すると、当地の重鎮たちに書簡を出しムスタファの統治への所感を調査することを提案し同意を得る。これが望んだ結果をもたらせばスレイマンとムスタファの間の溝を広げることに成功するとリュステムはヒュッレムに自信を見せる。
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不肖の息子
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忍びでアマスヤに来るようにとのムスタファからの手紙に胸騒ぎのバヤジトは、師父の制止も聞かずに出立する。初めての愛を自らの手で葬り去ったスンビュルは憔悴しきった様子でヒュッレムに処罰を乞うが、その姿と罪悪感に動かされたヒュッレムは、これまでの奉仕への報酬として後宮から解放し、自由な人生を取り戻すよう計らう。スレイマンの怒りと不信は収まる気配はなく、目通りも許されないヒュッレムに更なる試練に見舞われる。セリムの子の命名式にマニサに出立したスレイマンはナーゼニンを同伴させたのだ。不意打ちをかけ予定より早くマニサ宮殿を訪れたスレイマンは、酔い潰れたところを起こされたばかりのセリムを目にし猛り狂う。セリムへの処分を案ずるヌールバーヌーにかつての侍女であるナーゼニンが挑発する。アマスヤの名士らから返信された書簡にはムスタファへの称賛の言葉が溢れ、「将来の皇帝」という過度な表現さえあった。この思惑通りの反応に喜び勇むリュステムは、ムスタファへの速やかな聖断を仰ぐべくマニサ滞在のスレイマンの元へ急ぐ。自らを崇高なる皇帝の不肖の息子だと恥じ入り、今度こそはと断酒を誓うセリムに無言のスレイマンの視線は冷たい。再び呼び出したものの、醜い抗争には加担しないとの意思の固いソコルルに対してファトマはくすぐりを入れる。すでにヒュッレムに見限られたリュステムが更にはミフリマーフに離縁されればソコルルに運が向くと。
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将来の皇帝
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暇乞いに訪れたスンビュルを見送るヒュッレムの表情から喪失感と不安は拭えない。アマスヤに駆けつけたバヤジトは、ムスタファを仲介に呼び寄せたフーリジハンとの念願の再会を果たす。フーリジハンを連れ帰り内密に結婚する決意のバヤジトに対して、ムスタファはミフリュニーサを紹介するとともに妻であり子を身ごもっていることを打ち明ける。バヤジトはムスタファの秘密を守ることを誓うとともに、自らの秘密もスレイマンに知られてはいけないとのムスタファの忠告を受け入れる。殺害された商人の妻の元を忍びで訪れたスレイマンは、セリムから判決より多額の賠償金と農場を与えられたことを知った後、戒めとともにセリムに許しを与える。マニサ宮殿のテラスからの転落事故を装った殺害命令がヌールバーヌーらによって実行され、ヒュッレムはナーゼニン排除に成功する。アマスヤの名士らの書簡を携えたリュステムからの報告で、彼らがムスタファを「将来の皇帝」と一様に称えていると知ったスレイマンは目を見張る。リュステムへの警戒を促すジハンギルの手紙によりその計略を知ったムスタファは、状況を調査させた結果、事の重大さを知る。父セリムが自分を殺そうと贈った毒の仕込まれた長衣を昔に埋めた場所をスレイマンを訪れる。自分の息子に対してその過ちを犯さぬよう思い出し自らを戒めるためだった。よもやのナーゼニンの死を知るや否やファトマはヒュッレムに疑いの目を向ける。
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長衣(カフタン)の贈り物
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フーリジハンの宮殿居住は許されないと詰め寄る師父は、逆らえば追放だとバヤジトに迫られ黙認と守秘を誓う。宿敵タフマースブの弟アルカスから帝都での庇護を求める書簡が届くと、王座争いから敗走したこの者を利用することをスレイマンは決める。スレイマンにがムスタファに豪華な長衣を仕立てるとの情報にヒュッレムはほくそ笑む。ジハンギルの使いと名乗る者が宮殿内の仕立て部屋に現れ、贈り物を入れるため長衣を収めた箱の持ち出しを申し出る。持ち出された長衣はマフムードにより襟元に液体を染みこませられた後、アマスヤに送られる。スレイマンから長衣が届いたところだと知らされたマヒデブランは血相を変え部屋を飛び出し、袖を通したムスタファのうなじに長衣が触れる寸前で駆け込むと警告する。代わりに試着させられた使いの者の絶命を目の当たりにし、スレイマンの害意を確信したムスタファは怒りに燃え帝都行きを決意する。不意にスレイマンからの訪問を受けたヒュッレムは、山のような手紙を読んでもらいようやく許しを得られるものと喜んだのも束の間、よもやの後宮からの追放処分を言い渡されてしまう。ムスタファの帝都への進軍の一報に、リュステムこれを反乱だと断言する。スレイマンは歩兵常備軍長官を呼び出し反乱軍の帝都入りを阻止するよう命ずる。ムスタファへの火急の知らせを携え馬を駆けるアトマジャは急襲され、連行された牢でマフムードによる尋問が始まる。
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ムスタファの反乱
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狩りの帰りに牧場を営む女性に出会ったセリムは、自宅でのもてなしの申し出を受ける。キュタフヤが追放先であるとは露知らぬバヤジトらは、ヒュッレムの突然の訪問と滞在に慌て、フーリジハンを宮殿外に住まわせる。ミフリマーフとジハンギルは事を穏やかに運ぶようスレイマンを説得しようとするが会ってももらえない。歩兵常備軍長官フェルハトは帰還命令をムスタファに伝え、従わなければ反乱とみなし処刑になると警告するが、皇子の不退転の決意を見るやひざまずき、軍団とともにその征途に命を捧げると誓う。風雲急を告げる中、宮殿衛兵らを数で凌駕するムスタファの軍勢は宮殿門に到着し、リュステムの警告にも動じない。参内を許可されたムスタファはスレイマンからの一喝に応酬し、子の毒殺を図ったと難ずると緊迫した状況に変化が生ずる。長衣の木箱を前に、父セリム帝と違い自分はこんな卑劣な処刑はしないとスレイマンは言い切り、リュステムに犯人を捜し突き出すよう命ずる。帝命に背きムスタファの帝都入りを助けたかどで召喚されたフェルハトは、皇子は反乱者ではないとの確信から宮殿での和解を実現させるための機転だったと弁明する。牢で拷問を受けるアトマジャはムスタファ擁立派黒幕の名を白状するよう迫られる。リュステムの関与を疑うジハンギルは、宮殿内で長衣に毒が仕込まれたとの確信をムスタファに伝えるとともに、スレイマンの前でそれを証言することを約束する。
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隠蔽工作
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ムスタファの長衣の件を極秘に調査するようスレイマンはソコルルに命ずる。皇位継承者はバヤジトだと話すヒュッレムに師父は皇子とフーリジハンの関係は終わったと偽る。ムスタファはジハンギルとともにスレイマンを訪れるが、長衣の件は宮殿内の犯行と証言する約束をした弟から裏切りに遭う。証言により関与が疑われることになる母の、更なる状況悪化を恐れたジハンギルは、それは推測にすぎないとスレイマンに偽る。皇帝を後ろ盾に兄タフマースブから王座を奪う野望を語るアルカスに、イラン遠征の見込みはないと水を差すリュステムだが、もしスレイマンとムスタファの間にタフマースブが入り込めば状況は変わるとほのめかす。参内前にリュステムの屋敷の外に立ち寄ったアルカスと窓越しに目が合ったファトマとミフリマーフ。理想の男性だとファトマは持ち上げ、アルカスのミフリマーフへの視線にはただならぬものがあったと焚きつける。ラナの密告によりキュタフヤ滞在が暴かれたフーリジハンは、気色ばんだヒュッレムに見つかるや非難されるが一歩も退かない。拝謁が叶ったアルカスはスレイマンから最高の待遇を約束されると重大な情報の提供を申し出る。長衣の毒はタフマースブが送り込んだ間諜の仕業であると伝えられると、行方不明の仕立て職人助手の名前との一致も判明する。フーリジハンをめぐる母子の言い争いが始まり追放を求めるヒュッレムに、バヤジトは母子の縁を切ると迫る。
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父子の誓い
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父セリムからの仕打ちを胸に刻み込んだスレイマンはいかなる場合も息子を殺すことはないと、そしてムスタファは決して反乱を起こさないと互いに誓い合う。キュタフヤではバヤジトとフーリジハンの秘密の婚礼が執り行われる。許可なく宮殿に戻ったヒュッレムは、たとえ許されなくとも追放だけは免じてほしいとスレイマンに懇願し、さもなくば命を奪うようにとすがりつく。見かねたスレイマンはヒュッレムに許しを与えるが、もう二度と信頼はできないと言い放つ。ムスタファらは衰弱したアトマジャを地下牢から救出するが、この伝令は陰の雇い主に仕えていると居合わせたリュステムから聞かされる。農場主エフタリアの家での飲酒後に帰途につくセリムを隠れ見ていたヌールバーヌーは、家に押しかけ関係を問い詰める。そして皇子が人妻と密会し断酒の誓いを破っていたことを知る。偽の情報の提供によりリュステムを救ったアルカスは、次はリュステムがイラン遠征を実現する番だと迫るがあしらわれる。ヒュッレムからの言いつけどおり、良好な関係を築くためにアルカスを屋敷に招待したミフリマーフは、お礼にと月桂冠を模したブローチを贈られる。素性の知れない者はムスタファの安全を脅かすとしてタシュルジャルから放逐を言い渡されたアトマジャは、ついに重い口を開き実の雇い主の名を明かす。黒幕と分かったピーリーの元を訪れたムスタファは真実を話すようと短剣をその喉にあて詰め寄る。
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新たな遠征
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ピーリーらの暗躍は皇帝への裏切りであるとムスタファは叱責するが、反乱の企図など無くヒュッレムらの罠からムスタファを守っているだけだと言葉を返される。宿敵タフマースブ討伐のイラン遠征か、オーストリアからの和平要求を蹴ってのハンガリー征服かを諮るため、スレイマンは御前会議を招集する。スレイマンの若き頃からの野望であるローマ侵攻に共感するムスタファとジハンギルはイラン遠征に強く反対するが、リュステムらの説得によりスレイマンはこれを裁可する。遠征中に帝都を守る皇帝代理としてスレイマンはムスタファを指名すると、セリムだと確信していたヒュッレムは動揺する。マニサで醜態を晒したセリムをスレイマンは許すことはできても、信頼にはほど遠かった。狩猟の館にいるバヤジトからの呼び出しにフーリジハンは馬車で向かう。しかし途中で止まった馬車の外には、ヒュッレムからフーリジハン追放を命ぜられた師父ムスタファが立っていた。ベイハンの元に送り返すと言われたフーリジハンは、ヒュッレムが喜ぶ秘密の情報を教えると持ちかけ、見返りとしてキュタフヤ滞在を勝ち取る。セリムと妻エフタリアの関係を知った夫ディミトリはマニサ宮殿に押しかけ拝謁を乞うが追い返される。ミフリマーフは差出人不明の一通の恋文を受け取ると、月桂樹という文字にアルカスと察し心は乱れる。ムスタファがアマスヤに戻ると男児を出産したばかりのミフリュニーサが待っていた。
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ミフリマーフの決意
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手紙の主へ不快感と警告をしたためる返事を書く最中のミフリマーフは、部屋に入ってきたリュステムに読まれてしまう。嫉妬にかられたリュステムは相手が誰なのか問い詰めるがミフリマーフは明かさない。その後ヒュッレムのいる場でミフリマーフから離縁の決意を伝えられたリュステムは呆然自失となる。娘を思いとどまらせたいヒュッレムの説得も功を奏さず、せめて遠征後にと言うしかすべはない。スレイマンはオーストリア大公ならびにカール5世との間で休戦条約を締結しハンガリーを支配下に置く。バヤジトの師父からの書簡により、スレイマンはムスタファとミフリュニーサの極秘結婚を知る。この情報はバヤジトから引き離されないためにフーリジハンが師父に取引条件として差し出したものだった。まもなくしてヒュッレムも同じつてからこれを知ることとなる。ミフリマーフとリュステムとの間の騒動を聞いたファトマは仕掛けた罠にかかったことを喜ぶ。ミフリマーフ宛ての手紙の主はアルカスを騙ったファトマだった。ところが、そんなファトマはアルカスから会いたいとの手紙を受け取ると、逢瀬の場で王子から不意に告白される。スレイマンへの隠し事の重さに耐え切れなくなったムスタファは、皇帝代理就任にあたり妻子を連れて帝都に行き秘密を打ち明ける決意をする。ミフリマーフは離縁の意志は前からあったというが、決断のきっかけは手紙の主の存在だとのリュステムの疑念は晴れない。
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皇帝代理の座
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ミフリマーフへの手紙の主を捜し出すとともに、疑いの濃いアルカスを監視するようリュステムは命ずる。信頼を裏切られ失望したスレイマンはもう二度と信用しないとムスタファに手紙で宣告する。ムスタファへの皇帝代理の任命は取り消され、セリムが拝命する。アマスヤでは密告者の追求が始まるとムスタファは内部に間諜がいると疑い、マヒデブランはバヤジトを疑う。不相応なセリムが皇帝代理になることに憤り、信頼するムスタファの不遇を嘆くバヤジトを見て密告者フーリジハンは凍りつく。自由の身となったスンビュルは商売を始める相談に行った先でコーヒー豆に興味を示し、焙煎して飲むことを試す。言いつけどおり離縁は遠征後に延ばすが、ひとつ条件があるとミフリマーフはヒュッレムに申し出る。相手が誰であろうと娘が愛する者と結婚することを認めるとヒュッレムは約束する。スレイマンへの秘密の発覚はキュタフヤからの書簡によるものとの報告にムスタファは愕然とする。セリムに対して解決金の上乗せを要求し応じなければ法官に訴えると脅すディミトリにガザンフェルは応諾を伝える。ミフリマーフの離縁の決意とそれがスレイマンに報告されていないことをジハンギルから聞いたファトマは即座に奏上する。スレイマンはミフリマーフを呼び、時間をかけて考えるように諭す。我が子を悪だくみに利用しないようヒュッレムはファトマに迫り、さもなければ本気で潰しにかかると警告する。
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皇女の恋
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密会のためにアルカスが用意した家に招かれたファトマは、愛の詩を捧げられると硬い表情は消え笑みを残しながらその場を立ち去る。そして愛が再び訪れたと侍女に明かす。ムスタファからの手紙でスレイマンに秘密を暴露した張本人として非難されたバヤジトは、師父に嫌疑を向けると真犯人の名を告げられる。二人の再会の恩を仇で返すこととなったフーリジハンの裏切りに、もう二度と顔も見たくないとバヤジトは激昂する。離縁を認めるようあらためてスレイマンに懇願した結果、ミフリマーフは遠征後を条件に承認を得たことをリュステムに突きつける。最大の支えである妻を失えば職務は全うできないと、リュステムは国璽を返納し大宰相職を辞することを願い出るが、スレイマンは速断をいさめ遠征後にあらためて聞くとし却下する。リュステムは手紙の差出人がファトマだったとの報告を受ける。すぐさまこの事実はリュステムによって伝えられると、離縁を告げた時とは立場が逆転し、ミフリマーフは激しい衝撃に襲われた後、塞ぎ込んでしまう。ディミトリ夫婦がいる限り不安は消えないとヌールバーヌーは訴え、セリムが払うべきの罪の代償は金ではなく良心の呵責だとし究極の選択を迫る。そしてセリムは自らディミトリの元を訪れ、下臣に命じて夫婦ともに殺害し家を焼き払う。自らの権力を示すための帝国随一のモスク建造を命じたスレイマンは、予定地の視察後に自室で突然の発作に襲われ倒れる。
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籠の鳥
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偽の手紙がファトマの仕業だと分かったにせよ傷心をどうすることもできないミフリマーフに、ファトマとアルカスの密会の事実を掴んだと侍女長ギュルバハルは伝える。意識は回復したものの病因不明のスレイマンはアフィフェらに昏倒の事実を口外しないよう厳命する。アルカスには支持基盤がなくイラン遠征は失敗に終わると話す帝都からの使者ジャフェルは、スレイマンに遠征の中止を進言するようムスタファに乞う。セリムは宮殿できょうだいと再会するが、反感を示すジハンギルに対して理性を失い、一生宮殿内にいればいいと暴言を吐く。するとジハンギルはスレイマンの元を訪れ、遠征への同行を懇願する。リュステムはミフリマーフに向かって、離縁したとしても他の高官と愛のない結婚をさせられるのが落ちだとあなどるが、今度は愛する人との結婚を約束してもらったと言い返される。ムスタファの指示でジャフェルを尾行していたアトマジャは、帝都でアルカスの従者と密かに会っていることを目撃する。尾行を続け忍び込んだ家での格闘の末、アトマジャは意図せずジャフェルに短剣を突き刺してしまう。死を覚悟したジャフェルは誰の配下かを教えるかわりに、死を伏せたまま息子を知人に託すようアトマジャに頼む。ある晩、ミフリマーフは重大な計画の遂行をギュルバハルに命ずると、ファトマとアルカスの逢瀬の場に役人が突然踏み込む。姦淫行為の訴えがあったと告げられた二人は慄然とする。
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リュステムの計略
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姦淫の罪を着せファトマに復讐する計略をヒュッレムに話したミフリマーフは、皇統の評判を落とす愚行だと叱責される。窮地のファトマとアルカスの前にリュステムが現れた後、しばらくして宮殿に戻ったファトマはすぐさまスレイマンを訪れ、アルカスから求婚されたことを伝えるとともに聖断を仰ぐ。この結婚話は二人を危難から救うためにリュステムが提案したものだった。これを受け入れなければアルカスの斬首刑でイラン遠征が中止となり、またこれが実現すればファトマは宮殿から去ることになり好都合であると、リュステムはヒュッレムに説明する。ジャフェルが死に際に息子ユスフを託す相手として伝えた商人はすでに亡く、アトマジャ以外に寄る辺がない。アルカスの従者はタフマースブの間諜であり、スレイマン暗殺を目論んでいるとのジャフェルの自白をアトマジャはピーリーに報告する。スレイマンの時代の終焉を待ち望むピーリーはこの状況に介入しないことを決める。ファトマを陥れるはずの画策に介入し自分に復讐を遂げようとしたとしてミフリマーフはリュステムを非難するが、怒りの原因は二人の結婚への嫉妬であると看破される。遠征を諦めないジハンギルの気をそらすため、ヒュッレムは後宮を持たせることとし早速側女に夜伽をさせる。スレイマンが遠征後の結婚を許可したことをファトマは満面の笑みでミフリマーフに伝え、このしあわせを知らない者は哀れでむなしいとあてこする。
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父親の愛情
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ミフリマーフはマフムードを呼び、リュステムには内密でアルカスが遠征から帝都に戻らぬよう画策を命ずる。側女の視線に傷つき自己嫌悪に陥ったジハンギルは遠征を辞退するが、スレイマンは皇子を慰め遠征に誘う。兄弟らに引け目を感じる自分が皇帝代理に就いたことへの気後れを口にするセリムに対して、皇帝による相応しい人選とソコルルは持ち上げる。遠征後にスレイマンに結婚を伝える決意をしたバヤジトだが、皇帝の怒りを招きセリムを利することになるとバヤジト即位を望むリュステムから反対される。ムスタファは野営地に赴きスレイマンの許しを乞うが、弱さゆえの過ちとの釈明がスレイマンの逆鱗に触れ、最後通告をされると赴任県に戻る。皇子らの過ちを許してきたのは父親としての愛情だったが、それがあだになっているとスレイマンは嘆く。ヒュッレムがバヤジト即位を望んでいることを知るセリムは、自分を選んだほうが母親の思いのままの支配ができると、ヌールバーヌーの入れ知恵で説きつける。内密にヤブズを呼んだピーリーは、ムスタファ即位の最大の障害であるヒュッレム排除を命ずる。アルカスの従者がスレイマン暗殺を企てていることを、ピーリーの命令に背いてムスタファに知らせたアトマジャは事態への介入の是非を尋ねる。凶器を隠し持つ二人の従者はアルカスとともにスレイマンの天幕に入ると間もなく、マヒデブランの制止を振り切ったムスタファが野営地に駆けつける。
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ポーランドの王女
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天幕の中でスレイマンの背後からアルカスの従者が凶行に及ぶが、飛び込んできたムスタファらによって寸前のところで阻止される。刺客はタフマースブの送り込んだ間諜であり、皇帝暗殺が成功した場合はムスタファ即位に介入する計画があったとの自供をスレイマンは知る。果敢な行動によりスレイマンの命を救ったムスタファだったが、両者の溝は埋まらず信頼の回復は時に委ねるしかないと冷たくはねのけられる。従者が間諜であったことにも気づかなかったアルカスはイランの王としても皇女の夫としても相応しくないとスレイマンは憤る。高官や司令官らがこぞってムスタファの即位を支持していること知るバヤジトは、即位が実現した暁には喜んで支援すると誓い、これにジハンギルも加わることで兄弟の絆は深まる。ヤブズにヒュッレム排除命令を出したピーリーは、守りの堅い宮殿内ではなく、亡き皇子メフメトの記念行事での外出の際、不意を突く方法での遂行を指示する。ヒュッレムは故郷ポーランドの王女アンナの表敬訪問を受け、飢饉にあえぐ祖国の援助要請に対して独断で贈与という形での約束をする。皇帝代理への相談もなく決めたとして横槍を入れるファトマに対して、セリムは毅然として応酬することでヒュッレムを擁護しその信頼を得る。遠征先のロクマンからの手紙で、スレイマンに新たな症状が出ることなどから深刻な病の可能性があるとの医師長の診断を知ったアフィフェは蒼白となる。
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凶夢
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軍事的な後ろ盾を失い孤立無援になったことを明かし助けを求めるアルカスをリュステムは拒絶する。ムスタファの長衣の件で貸しが残っていると食い下がるアルカスは、自分が失墜したらリュステムを道連れにすると脅し立ち去る。居合わせたマフムードは、アルカスを生きて帰さぬようミフリマーフから命令を受けていたことをリュステムに明かしその遂行を伺う。再び失意のうちに帰還した息子を出迎えるマヒデブランは、皇帝救出が後に禍根を残すことを危惧するが、ムスタファには己の名誉ある行為に一片の後悔もない。皇帝暗殺計画とそれを未遂に終わらせたムスタファの英雄的行為をジハンギルから聞かされたヒュッレムは心中穏やかではない。ムスタファが即位すれば慣例上自分たち母子は皆殺しにあうと言い募り、それが見えていない息子らの不明をなじるヒュッレムに、ジハンギルは冷静に言葉を返し母親の主張の矛盾を突く。戦略の失敗に加え、イラン国民の支持の獲得が絶望的になったことから、スレイマンはアルカスの遠征からの排除を命ずる。長衣の秘密の暴露を阻止したいリュステムはアルカスに遠方に身を隠すことを指示し、護衛としてマフムードらを随行させる。亡き皇子メフメトの命日に外出したヒュッレム一行は狭い石段を歩いていると突然、ヤブズらが仕掛けた落石に襲われる。奇跡的に難を逃れたヒュッレムに、重傷を負ったアフィフェはスレイマンの病の秘密を明かすと息を引き取る。
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40
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皇帝の病
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ヒュッレムはバヤジト擁立の意向をあらため、セリムを支持することを本人に告げる。野営地の兵士らの前でタフマースブ討伐に向け檄を飛ばすスレイマンは、その最中に倒れると帝都への帰還を余儀なくされる。宮殿に戻った後も両足の炎症による激痛で歩くこともままならず、病臥を人目にさらさぬよう、治療にあたる者以外の入室を禁ずる。ヒュッレムから問い詰められたリュステムは、スレイマンが痛風と原因不明の熱病に罹っていることを止むなく明かす。そして万一の崩御に備えバヤジト即位の準備をしておくべきだと進言すると、その必要はないとヒュッレムから猛反発を受ける。ミフリマーフはマフムードを呼び出し、遠征前に命じたアルカスの始末について報告を求める。ファトマにアルカスの居場所を尋ねられたバヤジトは、期待を大きく裏切った王子の帝都への帰還をスレイマンが許さず、今は行方知らずだと伝える。制止を振り切り入室したヒュッレムはスレイマンに寄り添い看病することを伝え、それがアフィフェの遺志だと話す。乳母でありヒュッレムの信頼する側近の死が不幸な事故によってもたらされたことをスレイマンは知る。アルカスがタフマースブの手に落ち処刑が決まったことをファトマに伝えることでようやく叔母への復讐が成就したミフリマーフは、ここぞと勝ち誇った笑みを浮かべる。一縷の望みをかけてリュステムに確かめに行ったファトマだったが、ここで完全に打ち砕かれる。
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41
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玉座の駆け引き
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ムスタファを訪れたピーリーは皇帝の重篤な容体を伝え、崩御に備え即位を確実にするためには帝都への速やかな出立が必要だと進言する。しかしこの時期尚早な行動は反乱ととらえらえる危険を感じたムスタファは慎重な姿勢を示す。ムスタファの即位が現実味を帯びる中、セリム支援を口にしたヒュッレムに驚くリュステムだがバヤジト支持の決意は変わらない。朦朧とした意識の中でスレイマンがムスタファの名を呼び続けると、形勢が不利になる恐れがあるにもかかわらず、皇帝の望みを叶えるためにアマスヤの皇子を呼び寄せるようリュステムに命ずる。皇帝の病状を確認に来た歩兵常備軍長官フェルハトが反乱を企てているとソコルルはリュステムに報告する。ヒュッレムのセリム支持をミフリマーフに伝えたリュステムは、この逆境下で自分がバヤジト支持を堅持する条件として離縁の意思の取り下げを求めるとミフリマーフはやむなくこれに応ずる。スレイマンの望みに応じて帝都に向かう途中のムスタファの一行は急襲を受け、3人の射手が放った矢がムスタファに突き刺さり落馬すると側近らが駆け寄る。トゥルグットはソコルルに逆らって宮殿近くの湾まで艦船を集結させる。これは慎重な本人の裏でムスタファ支持派の示威行動としてタシュルジャルが提案しミフリュニーサが司令官に命じたものだった。急報を受け病床から身を起こしテラスまでたどり着いたスレイマンは目にした洋上の光景に驚愕する。
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42
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恐怖との対峙
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意識が戻ったスレイマンは健在ぶりを示すため、亡き息子メフメトのモスクで金曜礼拝を行うことを決める。医師長の止めを聞かず当日部屋を出たスレイマンはまもなく昏倒すると予定は中止となり、モスク前で待つ民衆の不安はいや増す。皇帝崩御の噂の真偽をリュステムに確かめるフェルハトは、存命を確認できねば不穏な歩兵常備軍を抑えられないと迫る。軍団への対策として皇帝代理のセリムが兵舎を訪れ皇帝存命を告げ自身の権力の示威をすべきとのリュステムの提案を、ヒュッレムは自殺行為と非難し拒否する。機に乗じてセリム排除を狙うリュステムは皇子に直接面会し言葉巧みに働きかける。玉座に就くためには避けて通れないと覚悟したセリムは自らによる軍団の沈静化を決意する。襲撃により暗殺されたはずのムスタファが宮殿に現れるとリュステムはうろたえる。弓矢の命中により落命したのは万一に備えてムスタファに扮したヤブズだった。セリムはソコルルらを従えて軍団の兵舎に乗り込む。長官フェルハトとの侮辱の応酬の末、挑発に乗ったセリムは刀を抜くと軍団の兵士らも刀を構え一触即発の状態となる。セリムが兵舎に赴いたことを知り焦燥するヒュッレムは、意識の無いスレイマンの傍らのムスタファに息子の救出を懇願する。刃傷沙汰の寸前で兵舎入りしたムスタファを目にした軍団は慌てて戦闘態勢を解く。皇子への抜刀は言語道断と一喝したムスタファは皇帝存命を伝え兵舎を後にする。
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43
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暗闇にさす光
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セリムが無事に兵舎から戻り安堵したヒュッレムはムスタファに心から感謝する。道中での襲撃事件への関与を皇子に問いただされるが身に覚えがないヒュッレムは強く否定する。そして今までの反目は望んだわけでなく二人は利益が相反する運命にあると達観したことを伝えると、ムスタファが自分の息子だったらと告白し静かに立ち去る。バヤジトの競争相手を排除するためには自分の意に反してまでも、また自分に秘密にしてまでも策を弄するリュステムをヒュッレムは激しく非難する。潔白な者などいないのが真実だとミフリマーフを諭すリュステムは自決用に持っている毒の小瓶を差し出し、バヤジトを守るための解決法があると言う。そしてムスタファの命と母親と弟の命のどちらが大事かとリュステムは尋ねると、小瓶をミフリマーフに握らせその手に接吻する。マヒデブラン母子とファトマは皇帝の快癒を祈らずムスタファ即位に向けて画策をしていると、ミフリマーフは敵意をむき出しにして非難する。ミフリマーフを気遣うムスタファは屋敷を訪れ、自分が玉座に就いたとしても弟たちを手にかけることはないと誓うが、頑として信じない妹に見切りをつけ部屋を出る。ムスタファがいる間に密かに手に取ったものの使うことができなかった毒の小瓶を箱から取り出すと腹立ちまぎれに床に投げつける。ようやく快復したスレイマンは家族に囲まれる中、その言葉と表情から何があったのかをうかがい知ろうとする。
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ミフリマーフの加担
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高官や家族を呼び出し語らせることで数ヶ月もの空白期間の真実を知ったスレイマンは、皇帝としてすぐさまなすべきことを悟る。金曜礼拝の後、皇子らと歩兵常備軍の兵舎を訪れたスレイマンは、セリムに対して侮辱し抜刀した長官フェルハトを叱責すると、次の瞬間、自らの手で斬首する。それから3年の月日がたち、再びムスタファ即位の脅威に自分の息子らが翻弄されないようヒュッレムは考えを巡らせる。スレイマンのタフマースブへの積年の敵意を利用し、その宿敵へのムスタファの接近が皇帝の知るところになれば、皇子を葬り去れると確信する。そのためにはムスタファの名を騙りタフマースブに接触すること、そして再びイラン遠征を実現させるような情勢を作り出すことが必要とヒュッレムはリュステムに説明する。ムスタファの宮殿に間諜を送り込むのは至難であることをリュステムがヒュッレムに話す部屋にミフリマーフが入ってくる。兄に関する話だと直感したミフリマーフは、この話には関わるなと忠告するヒュッレムに対して力になりたいと申し出る。弟らを守る固い決意のもと母親からある指示を受けたミフリマーフは、兄との和解を口実にアマスヤ行きの許可をスレイマンから得る。イラン国境付近の状況を深刻ではないと報告する配下に対してリュステムはある指示をする。ムスタファとの再会でお互いに過去は水に流そうと和解の抱擁をするミフリマーフは皇子の肩越しに机の上の何か探す。
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むしばまれる木
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リュステムの指示を受けた非正規騎兵は、タフマースブの軍が国境地帯で破壊行為を行っているという虚偽の報告をスレイマンに行う。皇帝は直ちに報復するよう命じ再びイラン遠征が開始する。歓談中にムスタファが中座するとミフリマーフは探していた皇子の印章を手に取り、事を済ませると元の場所に戻す。リュステムはムスタファをかたり、タフマースブの支援があればスレイマンを追放し即位するという皇子の偽の声明を書簡にしたためる。そしてヒュッレム母娘を前に書簡を読み上げると、ミフリマーフが密かに粘土に盗み取った印影で偽造した皇子の印章を押す。書簡へのイラン王の返信がムスタファに引導を渡すことになると確信するリュステムは、返信の書簡を途上で奪うようマフムードに命ずる。中庭を散策するスレイマンはおびただしい蟻の群れが大木を蝕むところを目にする。木を守るために石灰をまくと蟻を殺してしまうがイスラム法ではそれが罪になるか、皇帝はエブッスードに意見を求める。野営地ではリュステムに窮状を訴えた兵士が殺されているのが発見されると、軍団は大宰相の仕業とし報復を誓う。ルメリ軍法官と面会した宰相アフメトは、ムスタファを支持する司令官や高官の秘密の会合に招待される。これはアフメトによる内偵調査の一端であり、軍政官が影のムスタファ擁立派一員であることを直ちにスレイマンに奏上すると、皇子が一派の暗躍を知っているかの調査を皇帝は命ずる。
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心の猛獣
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野営地で殺された兵士はリュステムと険悪な状態だったことから、犯人とにらむ大宰相の天幕に歩兵常備軍は大挙して押し寄せる。長官アリは兵士らを押しとどめ真偽を確かめるとして大宰相に面会を求め、その結果を伝えることで何とかその場を収める。しかしこの騒動の勃発はリュステムの思う壺だった。兵士を殺したのはアリだが、大宰相の所業と思い込ませることで軍団の爆発を誘ったのだった。軍団がムスタファの名を呼び反乱寸前であると早速リュステムはスレイマン宛ての書簡にしたため、皇帝の遠征参加を乞う。もし蟻を殺せば皇帝が持つ権利を蟻は神から授かるとのエブッスードの返信に、スレイマンは木を蝕まれるままとする。ピーリーらの同盟の会合に招かれたアフメトから参加者らの名の報告を受けたスレイマンは彼らの処刑を命ずる。しかし名声ある高官らの処刑はイラン遠征に悪影響があるとして、当座は帝都からの追放による同盟解体が望ましいとのソコルルの提案を受け入れる。情報収集のため帝都に派遣されたアトマジャはルメリ軍政官に会い同盟の解体とアフメトが内通者であることを知る。マフムードがイラン兵から奪ったタフマースブの返書を届けられたヒュッレムは、皇帝の信頼の厚いソコルルにそれを献上するよう指示する。計画の成功に必要な皇帝の遠征を実現させるためヒュッレムがスレイマンをそそのかしているところに、緊急事態だとして書簡を手にしたソコルルが入室する。
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ワナに落ちた皇子
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タフマースブの封蝋印がある書簡をソコルルから手渡されたスレイマンは、ムスタファが自分の廃位を企みイラン王に支援を求めたことを知り強い衝撃を受ける。祖父が父から、そして自らも我が子から裏切りに遭うという現実に苦悩した末、ある問いに対する答えを求めエブッスードに書簡を送る。ムスタファと父親の宿敵との結託をミフリマーフから聞いたジハンギルは姉もいっしょになって罠を仕掛けたと見抜き、兄の血が流されれば兄弟全員がその血の海で溺れると言い放つ。帝都から帰還したアトマジャはムスタファに王との共謀の嫌疑を伝え、皇帝がこれを信じれば最悪の場合、皇子は極刑になると口にする。親を裏切って財産を奪い家族を殺める商人の息子にイスラム法はいかなる裁きを下すのか、架空の物語に形を借りたこのスレイマンの問いに対してエブッスードは処刑が相当であると伝える。スレイマンはムスタファに書簡で直ちにコンヤの陣営に来るように命じ、自らの出立にあたりセリムではなくバヤジトを皇帝代理に任命する。処刑を恐れマヒデブランは出立に強く反対するが、命令に背けば反乱とみなされるとしてムスタファは召喚に応ずる。決して父に反乱を起こさない、決して子を殺さないと互いに交わした誓いを自分が守るように、父も守るものと信じる。ムスタファの危難を強く意識したタシュルジャルとアトマジャは、機は熟したとして皇子の意向に背いてでも反乱を起こすことを決意する。
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瞳の中に見えるもの
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ムスタファに罠を仕掛けた首謀者は宮殿内にいると母と兄姉の前でジハンギルは興奮気味に話す。バヤジトは話し合いにより兄への疑念は晴れると信じ、また父が子を殺すわけがないと弟をなだめる。バヤジトの力を借りたとてもスレイマンにムスタファの潔白を信じさせることができないジハンギルは遠征への参加を乞い、父子が出会う陣営で兄を守ることを決意する。ヌールバーヌーらは皇帝がセリムに皇帝代理ではなく遠征を命じたことの真意を測りかねている。遠征先で父子関係が重大な局面を迎えたら皇子を守るよう、ファトマは新婚の夫である宰相アフメトに求めるが確約を得られない。テラスにたたずみ話しかけにも耳を貸さないスレイマンの瞳の中にムスタファの死が見えたとヒュッレムはスンビュルに明かす。スレイマンとムスタファが陣営に来ることを知ったリュステムは万全の体制を敷いているものの、潰されるのは皇子か自分らなのか予断は許さない状況と知る。御前会議の場で命を保証されたにもかかわらず当の皇帝に殺されたイブラヒムの悲劇をマヒデブランは引き合いに出すが、父子間にはあり得ないと皇子は意に介さない。アトマジャは歩兵常備軍の一員を装い隊長らが集結した天幕の中に密かに入ると、ムスタファの命が奪われる前に皇帝から玉座を奪う計画を持ちかける。出立の準備が完了したことを伝えるロクマンに対して、誰にも知られてはならない最高機密の任務をスレイマンは与える。
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皇帝の死に神
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皇帝に会うために出立するムスタファを見送る家族は今までにない不安と恐れを感じ惜別の情は募る。陣営に向かう皇帝の一行の後方を帝命によりロクマンが仕立てた1台の黒い馬車が走る。その中には皇帝の死に神と呼ばれる7人の処刑人が乗っている。ムスタファは処刑されるだろうとヒュッレムから伝えられたミフリマーフは、事態の思いも寄らぬ行く末に動揺する。ただし皇子が自らの末路を悟り反乱を起こせば、皇帝とバヤジト、ジハンギル兄弟が命を落とすことになるとヒュッレムは恐れる。アトマジャは軍団の隊長らと、ムスタファが皇帝の天幕に入る前に反乱を起こすことを画策する。陣営に近づいたムスタファのもとに、皇子ひとりで天幕に赴くよう皇帝の命令が届く。これを知ったタシュルジャルは最悪の事態を確信するが、父親を信じて疑わないムスタファを止めることも、反乱を煽ることもできない。ジハンギルは再びムスタファを擁護した後、ためらいつつ処刑の意思を伺うと父は優しい笑みを浮かべ殺すわけがないとなだめる。感極まったジハンギルに手を接吻される間、スレイマンは険しい表情でロクマンを見やる。処刑人の存在に気づいたアフメトは、ムスタファの陣営に矢文を放ち、命の危険ゆえ皇帝の天幕に行かないよう皇子に警告する。しかし皇子は反乱を煽るための敵側の罠かもしれないと警戒する。万一の場合はバヤジトに忠誠を誓い即位まで支えるようムスタファはアトマジャに託す。
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息子よ
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ムスタファを訪れたジハンギルは、子を殺すことはないと父が断言したことを伝える。別れ際にムスタファは自分の指輪をジハンギルに渡し、兄思いの弟への感謝の言葉を口にする。白い装束をまとったムスタファは、父が自分を殺めた場合に読むことになる手紙を携え、タシュルジャルに兵を託すとアトマジャを従え父の陣営に向かう。マフムードの裏工作により寝返った隊長ヒクメトに呼び出された2人の隊長は密かに殺害される。スレイマンの指示に従いセリムは弟とともに狩りに出る。後から来るという父とムスタファを待つジハンギルが胸騒ぎに襲われた時はすでに遅かった。狩りは処刑の場に居合わせないようにするための口実だと気づいた弟は泣き叫び戻ろうとするがセリムに阻まれる。陣営に到着したムスタファが皇帝の天幕に入る寸前だというのに、隊長らの指揮による反乱の計画が遂行されない。ヒクメトの様子から裏切りと反乱の失敗を察知したアトマジャは、タシュルジャルに知らせるため馬で駆けるが背後からの射手の矢が命中する。参上したムスタファに皇帝は裏切りをなじると、潜んでいた処刑人らが皇子に襲いかかる。首に縄を巻き付けられながらも抵抗する皇子は裏切っていないと叫び、処刑人らを振り払い出口に駆け出す。寸前のところをマフムードに捕らえられた皇子は追ってきた処刑人の手により絶命する。息絶えたムスタファを抱きかかえたスレイマンは何度も息子の名を呼び慟哭する。
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遺書
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天幕の外に運び出されたムスタファの亡骸を取り囲んだ軍団の兵士らは、右の拳で己の胸を何度も打ちつける。スレイマンが亡き皇子の胸元から取り出した手紙は、誓いを破り無実の子を殺めた父を責めていた。反逆者として名を刻まれようと、幾百年後になろうと真実は明かされ虐げられし皇子の名誉は回復されると締めくくる遺書を握りしめ皇帝は悲嘆に暮れる。陣営に駆け戻ったジハンギルは変わり果てた兄を抱きしめ泣き叫ぶ。そして天幕の前で公然と父を非難する。裏切りが発覚したヒクメトは軍団の吊し上げに遭い、大宰相の命令により隊長らの殺害に関与したことを自供する。軍曹フセインは激高した軍団を率いて大宰相の首を取りに向かう。アフメトは軍団鎮圧のために事態に介入することを進言するとフセインのもとに急ぎ、皇帝が大宰相を尋問し処罰することを告げ、軍団の蛮行を食い止める。皇帝のもとに引き立てられたリュステムは隊長殺害を反乱阻止のためと正当化するが、怒りの収らない皇帝は大宰相の罷免と帝都帰還の厳命を下す。スレイマンに大宰相に任命されたアフメトは拝命の条件として在職中に死刑宣告をされないことの保証を求める。沈痛な面持ちでアマスヤに帰還したタシュルジャルは訃報を伝えるとミフリュニーサは泣き崩れ、マヒデブランは虚ろな足取りで自分の部屋にたどり着くと毒の小瓶を手に取る。しかし後をついてきた孫メフメトの声に思いとどまると無念の涙が溢れ出す。
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52
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慟哭
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陣営から逃げ出し宮殿に帰還したリュステムは、皇帝の命令によりムスタファが処刑されたことをヒュッレム母娘に伝える。積年の戦いに勝利したヒュッレムだが、歓喜に浸る暇もなく、これから亡き皇子の陣営からの攻撃に晒されることを覚悟する。アマスヤ宮殿からの退去を求める勅命をタシュルジャルから伝えられたマヒデブランは、残虐者の言うことには従わないと拒否する。しかし自らの意思として我が子が埋葬されるブルサに移り住むことが最後の務めだとマヒデブランは考えを改める。ファトマとギュルフェムは、皇子の処刑を仕組んだとしてヒュッレムを激しく非難し、バヤジトも母に詰め寄り追及する。しかし処刑は聖断であり異議を申立てるべき相手は皇帝であるとヒュッレムは言い放ち、泰然としてその場を立ち去る。皇子の処刑は巷で喧伝されヒュッレムと大宰相に報いを受けさせるべきだとの声が湧き上がる。競争相手が消え玉座に一歩近づいたセリムだが不安は消えない。バヤジトは母の反対を押し切り葬儀への参列に向かう。天幕に誰も入れないジハンギルは食事も睡眠もとらず衰弱していく。ヒュッレムは皇帝に手紙を書き、帝都では反乱の兆しが高まりムスタファの息子メフメトの即位を叫ぶ者までいると伝える。すると皇帝は特命を与えた使者をブルサに送る。我が子の亡骸に対面したマヒデブランは慟哭し、参列したバヤジトに突っかかるとヒュッレムの息子として罪を背負うべきだと罵る。
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真の悲劇の始まり
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魂を抜かれたようなマヒデブランのもとを訪れた皇帝の使者は帝都に近い屋敷に移るよう伝える。ミフリュニーサは息子の命を奪おうとする意図を感じ不安を抱く。敬愛する皇子の処刑に憤った民衆はヒュッレムとリュステムに報いを受けさせよと叫び暴徒化すると歩兵常備軍も加勢する。暴徒に屋敷を包囲されたリュステムと家族は密かに抜け出しユスキュダル宮殿に身を隠す。マヒデブランらはブルサを去ることに応じ出立の日を迎えるが、孫のメフメトは慣習に従い家族とは別の先頭の馬車に乗ることになる。途中でマヒデブランらの馬車が止まると車輪が破損し修理が必要だという。ミフリュニーサは先を行く息子の馬車を止めるよう護衛に命ずるが動かないため自ら駆け出す。しかし馬車を止めることが叶わぬと知ると崩れ落ちるように膝をつき泣き叫ぶ。馬車の中でメフメトは母親にはもう会えないと伝えられる。宮殿でヒュッレムは号泣する。亡き皇子に対して、自分の息子だったらこの望まざる不幸な争いなどなかったと吐露した日を思い出していた。スレイマンは食事を拒否し衰弱するジハンギルに無理矢理に薬を飲ませようとし拒まれる。しかしそれでも必ず回復すると信じている。ムスタファ亡き後はヒュッレムの息子たちの間の玉座争いが災いを招き、そこから真の悲劇が始まるとファトマは見透かす。死んだと思われたアトマジャは帝都に戻ると、リュステムの隠れ家に向かう弟のシナンの姿をとらえる。
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背に翼を持つ皇子
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ユスキュダル宮殿であれば誰にも知られず安全だとシナンはリュステムに保証する。アトマジャはフセインとの再会を果たすと、ムスタファのかたきを討つべくリュステムの殺害を誓う。そしてリュステムの居場所を明かし、そこで仕える内通者を引き合わせる。身体の激しい痛みに喘ぐジハンギルの姿を見かねたスレイマンは医師から勧められたアヘンチンキの服用を許可する。痛みはやわらいだものの朦朧としたジハンギルは、涙ながらに言葉をかける父の気遣いも虚しく、薬の瓶に手を伸ばし過剰摂取の罠にはまる。夜中にヒュッレムの部屋に駆け込んだファーリエは、リュステムの居場所が発覚し民衆が大挙して向かっていると知らせる。危急の知らせにリュステムは家族らとともに地下通路から脱出するが、内通者の手引きで屋敷に侵入したフセインはその後を追う。林に抜け出たリュステムたちだが追手はすぐそこまで迫る。ついには刀を交える事態になったところに兵を率いたバヤジトが駆けつけ暴徒らを追い散らす。薬物の影響で夢うつつの状態のジハンギルの枕元に一人の娘が現れ、皇子は安らぎ幸せな気分に浸る。バヤジトに救出されたミフリマーフはヒュッレムに迎えらると、この危難は夫のせいだとなじり、そのまま宮殿に滞在することになる。宮殿前には大勢の民衆が集まりリュステムを出せと叫ぶ。事態の収拾のため介入の指示を求めるソコルルに対してバヤジトは自ら群衆に対峙することを決意する。
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魂の解放
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バヤジトは暴徒の前に毅然として立つとムスタファ処刑の聖断は何人も議論してはならぬと説き、リュステムの引渡しを拒否する。武力による制圧も辞さないとの皇子の決意に気圧された群衆は解散する。ジハンギルはセリムに帰還を乞うが、スレイマンは自分の良心であるという末の皇子を手離したくない。しかしジハンギルの精神の破綻が顕著になると、皇帝は弟を帝都に連れ帰るようセリムに命ずる。ヒュッレムはジハンギルの深刻な容体を伝える手紙を受け取るとバヤジトを伴い陣営に向かう。皇子が再び激しい痛みに襲われると、皇帝は医師長に処置を命ずるが手の施しようが無いと宣告される。瀕死の皇子のもとに現れた白衣の美しい娘は、安らかに旅立てるよう迎えに来た天使だと若い医師はつぶやく。ジハンギルは握りしめていた兄の形見の指輪を父に手渡すと魂を解放するよう懇願する。さじでアヘンチンキを与えようとする父の手から瓶を取り上げ口をつけて飲み干した皇子のもとに娘が現れる。差し出されたバラの香りを大きく吸い込むと皇子は肉体から解放され旅立つ。シナンは押し入ってきたアトマジャに危険を感じ、配下の者に取り押さえるよう命ずるが誰も従わない。アトマジャはリュステムを呼び出すよう求め、持っていた斧をシナンに振り下ろす。リュステム夫妻のもとにシナンからという箱が届けられる。その中にはシナンの右手と、リュステムを呼び出すアトマジャからの手紙が入っていた。
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罪の代償
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アトマジャに拉致されたシナンの救出に向かうべく帯刀するリュステムをミフリマーフは思いとどまらせる。弟が生きている保証がない中において危険を犯すことにリュステムは躊躇する。要求に従わなかったリュステムのもとに解放されたシナンは痛々しい姿でたどり着くと、非情な兄を激しく責め立てる。降りしきる雨の中を急ぐヒュッレムらは帰還途上のセリムと行き合う。無言で立ち尽くす息子に胸騒ぎを覚えたヒュッレムは、見やった先の馬車の上の棺でジハンギルの死を悟る。ヒュッレムは息子の亡骸を目にすると慟哭しその場に倒れる。息子の死に打ちひしがれたスレイマンは医師の勧めに応じ、小部屋のような地下の礼拝室に籠もり精神的な治療を受ける。自らの罪の代償として奪うならジハンギルでなく自分の命であるべきだったとヒュッレムは神に向かい泣き叫ぶ。師父はバヤジトに皇帝代理として賢明に振る舞うよう忠言し、フーリジハンに帝都に来ないよう手紙で知らせることを求める。リュステムはアトマジャをこの手で殺すとシナンに誓い、かたきの居所を探すため人員を増やすよう配下に命ずる。しかし前大宰相の命令には従わないようにとの下達ゆえにそれは不可能と聞かされ憤る。セリムの侍従ガザンフェルは不正に入手した手紙をヌールバーヌーに渡す。フーリジハンへのバヤジトの知らせを読んだヌールバーヌーは、宮殿で騒動が起きセリムを支持しない者は代償を払うことになると微笑む。
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挽歌
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バヤジトからフーリジハンに宛てた手紙をセリムに渡し二人の極秘結婚を明かしたヌールバーヌーには秘策がある。ミフリマーフは二人の弟とともにジハンギルの部屋に籠もるヒュッレムを訪れ、残された子供らのために立ち直るよう乞う。地下の礼拝室で40日間を過ごし精神の安定を取り戻したスレイマンは、ムスタファの居たアマスヤ行きを決意する。マヒデブランはミフリュニーサを伴い宮殿に到着すると、生き続けるただひとつの理由は同じ苦しみを残忍な敵に与えるためだとファトマに打ち明ける。ヒュッレムはジハンギルが生前に書き記した短い箴言の紙片を手に取り読むと、悲嘆に暮れる日々からようやく抜け出す。立ち直ったヒュッレムは大部屋でマヒデブランとの対面を果たしたところ、短剣を手にして近づいてきたミフリュニーサに名を呼ばれる。ミフリュニーサはヒュッレムが夫と息子の命を奪ったと涙ながらに訴え、自分の冬はこれで終わるがヒュッレムの冬はこれからは始まると言い残すと、自らの首に刃を当て自害する。アマスヤ宮殿に到着したスレイマンは主を失った皇子の部屋の寝台の上に置かれた書き物を手に取るとそれは皇子を悼む挽歌だった。皇帝はその作者であるタシュルジャルを呼び寄せると出来を称え、反逆者を悼む挽歌ゆえに迫害を受けぬよう保証するが、二度と顔を見せぬよう言い渡される。帰還したアフメトは偽のムスタファが現れ反乱を計画しているとバヤジトに報告する。
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計略の代償
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バヤジトの師父はトプカプ宮殿に降り立ったフーリジハンを目にし、思惑とは正反対の成り行きに唖然とする。キュタフヤに留まるよう伝えたはずとバヤジトに咎められたフーリジハンは皇子からの呼び出しの手紙を渡すと偽物だと分かる。ヌールバーヌーは画策どおりに極秘結婚が発覚しバヤジトが窮地に立たされるのを待つ。皇帝が崩御した場合、ヒュッレムの望みどおりバヤジトが即位すればリュステムの復権もありうるとファトマは危惧する。そこで母親とはうわべだけの関係のセリムを味方に取り込むようアフメトに入れ知恵をする。アフメトはセリムに会うと、偽ムスタファによる反乱の制圧にあたり直情的なバヤジトが失態を演じる可能性を利用しセリムを優位に立たせる構想を話す。廊下で出会ったヒュッレムに呪いの言葉を浴びせかけ首を絞める醜態をさらしたマヒデブランは、宿敵への報復をファトマに託しブルサにわびしく帰ってゆく。事態を知ったヒュッレムの差し金で画策どおりの進展がないことにヌールバーヌーは業を煮やす。そこでバヤジトの秘密を宮殿内に広めるが、噂の出元を知り怒ったフーリジハンに平手打ちをされる。宮殿から退去を命ぜられたリュステムはシナンとともに仮の住まいに移るが、部屋に潜んでいたアトマジャと格闘になる。シナンを羽交い締めにして人質にとったアトマジャは、リュステムに対してこれが計略の代償だと言い捨てるとシナンを殺害してその場から走り去る。
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59
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迫られる選択
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極秘結婚の皇帝への発覚を防ぎバヤジトを守ろうとするヒュッレムの姿勢にセリムは不信感を抱く。自分とともに歩むという約束を守っているかとの母親への問いの答えがないことに、セリムは約束が反故にされたことを知る。するとセリムはアフメトの提案の受け入れを決意し、ルメリ州の反乱を利用してバヤジトの失墜を狙う。中立の立場はあり得ないとし、バヤジトは自分か兄のどちらかを選ぶようヒュッレムに迫るが母は答えを拒む。リュステムはバヤジトに会い側近に登用してもらえれば最強兵器として仕えることを誓う。セリムとアフメトの同盟を知ったバヤジトはリュステムの大宰相職への復帰を望む。セリムを支持しヌールバーヌーに接近するファトマと自分とでは志が異なるとギュルフェムはフーリジハンに明かす。そしてバヤジト即位のためにはこれまでの確執を捨ててヒュッレムを味方にすべきとフーリジハンに選択を迫る。アトマジャはバヤジトに密かに会うと、ムスタファが言い残した命令に従い玉座への道に仕えると誓う。しかし皇子からのアトマジャへの最初の命令は過去は水に流しリュステムには危害を加えないことだった。リュステムを殺すことが唯一の心の救済であるアトマジャは苦渋の選択を迫られる。ヒュッレムはバヤジトによって離宮に追い出されたセリムに赴任県に戻るよう求める。しかし皇帝が帰還しバヤジトが自滅するのを見届けるまではセリムはここに居座る決意は変わらない。
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癒えない傷
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アフメトはエジプトが納める税金のうち、合法的に記録を免れた部分を出元を伏せて反乱勢力に供与する。スレイマンは2年の歳月を経て帰還するが、出迎えたヒュッレムらに対して険しい表情のまま言葉もなく通り過ぎる。バヤジトは反乱鎮圧のために出立したが、亡き兄を慕う者たちから犠牲者を出さずに解決するよう手を回す。しかし皇帝は軍がエディルネ宮殿で待機していることに苛立ち、直ちに介入するようアフメトに命ずる。ミフリマーフに諭されたフーリジハンはバヤジトとの結婚を明かそうとスレイマンを訪れるが、とうの昔に知っていたと聞く。眠れないスレイマンはジハンギルの部屋に入ると寝台で寝ていたヒュッレムは目を覚ます。時は過ぎても子を失ったふたりの心の傷は癒えず絆は再生しない。ミフリマーフはスレイマンにリュステムの復権を乞うが、前大宰相を免罪していない皇帝は拒む。そして間もなくリュステムを連行させると帝都からの永久追放を言い渡す。ムスタファ皇子を騙る反乱の主導者と会う約束のアトマジャらだが、発覚を恐れた本人は現れず側近が伝言を携えて来る。バヤジトは自ら皇子であることを証明すると、その側近は主が偽者であることを理解する。そして偽ムスタファを連れてくればその者だけを斬首し、他の者は罪に問わないとする皇子の要求を飲む。しかしバヤジトがエディルネ宮殿に戻ると軍は帝命によりソコルルとともに反乱の鎮圧に向かったと聞き愕然とする。
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皇太子宣下
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ソコルル率いる軍が反乱を鎮圧するが、バヤジトが反乱勢力に資金提供をしていたという噂にスレイマンは激怒し、真偽を確かめるため皇子の帰還を命ずる。ムスタファの末路が脳裏をよぎるバヤジトは身の潔白が証明されるまではエディルネに留まる意向を示す。しかし命令に背けば反乱への支援を認めることになるとアトマジャは異を唱える。皇帝による派兵を恐れたヒュッレムにバヤジトを連れ戻すよう乞われたリュステムはエディルネに向かう。バヤジトは説得に応じ皇帝の前に参上すると、反乱勢力への支援は中傷だと否定するがフーリジハンとの結婚は事実と認める。スレイマンはバヤジトが自分を欺き反逆者の兄ムスタファと同じ道を行くのであれば死が待っていると皇子に掴みかかり激怒する。処罰が下るのは弟かそれとも自らなのか不安な面持ちで知らせを待つセリムにスレイマンからの呼び出しがある。皇帝はバヤジトがいる前でセリムを玉座を継ぐ皇子として指名する。弟の目は怒りと嫉妬ににじむ。皇太子宣下の後、宮殿の外でリュステムと会ったバヤジトは自分を見限った皇帝に対して反旗を翻す決意を告げる。ヒュッレムはスレイマンに手紙を渡す。皇太子宣下に深く傷ついたことと、そしてそのような兄弟の闘争を煽ることは自分ならしないとしたためられた手紙を皇帝は燃やす。ヌールバーヌーはセリムを祝福し、皇子が玉座に就くことへの強い執念と必要なら自ら良心をも捨て去る覚悟を見せる。
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母の苦悩
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バヤジトとリュステムはセリムが罠を仕掛けたのだと口々にヒュッレムに訴える。ヒュッレムから疑惑について問いただされたセリムは、母子の仲を裂くための中傷だと即座に否定する。ソコルルは反乱勢力に資金提供をしていたのはマヒデブランであったとスレイマンに偽の報告をし、バヤジトの潔白を証明する。皇帝はマヒデブランの資産の没収と手当の支給の打ち切りを命ずる。疑惑を否定した直後にセリムがアフメトを訪ねたことを知ったヒュッレムは怒り大宰相邸に乗り込む。アフメトがセリムとの会話を明かすことを拒否し屋敷からの退去を求めるとヒュッレムは苛立つ。そこに現れたファトマはセリムが罠を仕掛けたことを暴露すると、この代償は必ず払わせるとヒュッレムはアフメトに警告し宮殿に戻る。ヒュッレムはすぐさまセリムの部屋に駆け込み、怒りをぶつける。兄弟の悲愴な最期を目にして以来、死の恐怖に支配されるセリムはもう綺麗事では済まされない局面を迎えたのだと言う。ヒュッレムは黙り込み、息子を許しこの不始末を隠さざるを得ない。かつての配下の宰相アリの許可で財務長官室に入ったリュステムは、財務長官の青ざめうろたえる姿からここに秘密があると確信する。ファトマが催した皇太子宣下を祝う宴にヒュッレムが不意に現れる。皇子らにまつわる二人の激しい諍いの末、ヒュッレムは皇女に対して、じきに寡婦になるから喪服を用意するようにと不吉な言葉を残して立ち去る。
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黒の礼服(ヒラット)
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リュステムは財務長官室で帳簿を調べるが資金流出の証拠は見つからない。エジプトから増税への苦情が殺到していることを知ったスレイマンはソコルルに調査を命ずる。リュステムはアフメトに会議の間に呼び出され帳簿の調査の件で叱責を受ける最中、皇帝が隣接する小部屋に入ったことに気づく。小窓越しに皇帝が聞いているとは知らないアフメトはリュステムの挑発に乗り自らの慢心を晒け出す。苦悩の末、スレイマンは黒の礼服を仕立てさせるようロクマンに命ずる。フーリジハンに脅されたと怯えて話すヌールバーヌーをガザンフェルは必ず守ると誓う。それを見たジャンフェダーは皇子妃に片思いをする侍従は危険だとして距離を置くようヌールバーヌーに忠言する。バヤジトらは財務長官を問い詰め、アフメトの命令で反乱勢力に資金供与したことを自供させる。リュステムは財務長官を証人にして皇帝にアフメトの悪事を暴露するが、ヒュッレムとの約束によりセリムの関与は伏せる。御前で関与についてしらをきるソコルルもリュステムは見逃してやる。急遽会議が招集され二人の皇子と高官らが参集する。着用を命ぜられた者はその場で処刑されるという黒の礼服を持ったロクマンが入室すると、皇帝はアフメトにその着用を命ずる。在任中は処刑されないと安心しているアフメトに対して皇帝は大宰相職を解任に出る。皇帝を裏切ってはいないと叫ぶアフメトは広間の外の処刑人のもとに連行される。
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皇子妃のいさかい
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処刑人により首に縄を巻きつけられたアフメトは皇帝に対し呪詛の言葉を言い続けた後、息絶える。その直後リュステムは大宰相職への復帰を命ぜられる。ファトマは夫が処刑されたことを告げられ茫然自失となる。息子の割礼の祝宴の最中、ヌールバーヌーはガザンフェルに呼び出され中庭に足を運ぶが、不意に愛の告白として指輪を手渡されるところを、後をつけてきたフーリジハンに目撃される。フーリジハンは追いかけてきたヌールバーヌーに従者との密会を暴露し破滅させると脅す。つかみ合いの争いの末、ヌールバーヌーに燭台で頭を殴られたフーリジハンは倒れて動かなくなる。動揺するヌールバーヌーが大部屋での宴に戻った後、間もなく朦朧としたフーリジハンもその場にたどり着くが言葉も無く倒れる。セリムと歓談する皇帝を尻目に、ヒュッレムはバヤジトに終身支援することを約束し抱き寄せる。深刻な容体のフーリジハンが運ばれた治療院の前でうろたえるヌールバーヌーの姿をヒュッレムは怪しむ。医女は事故ではない証拠として強くつかまれたフーリジハンの腕の痕をバヤジトに見せる。ヌールバーヌーは片方の耳飾りがなくなっていることに気づく。バヤジトは現場に落ちていた耳飾りを発見すると持ち主を捜すよう指示が出される。資産没収と手当の打切りの勅命を伝えられたマヒデブランは毅然として受け入れるが、軍政官との結婚を命ぜられた孫の皇女ネルギスシャーとの別離に取り乱す。
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蛇の切り札
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フーリジハンへの暴行の現場に落ちていた耳飾りのもう片方を捜すため、すべての部屋の捜索が命ぜられる。ヌールバーヌーはセリムの部屋に置いてきた片方を始末するために取りに行くが見つからない。セリムはヌールバーヌーを抱き寄せドレスを脱がせると鏡に映った妃の体の痣に気づく。問い詰められたヌールバーヌーはセリムに過ちを告白する。フーリジハンはいったん意識が戻ったもののバヤジトの願いも空しく、無言のまま帰らぬ人となる。ヒュッレムはヌールバーヌーにふたつの耳飾りを見せ、ひとつはセリムの部屋にあったと伝える。ヌールバーヌーは暴行を認め、激怒したヒュッレムは告発を決意する。しかしヌールバーヌーは切り札を使い、告発されればナーゼニン妃殺しを命じたヒュッレムの手紙を暴露すると迫る。ヒュッレムは窮余の策として、バヤジトのもう一人の妃ラナに罪を着せたうえで自殺に見せかけ殺害し事件の幕引きを図る。リュステムはバヤジトを策略から守るため、セリムの行動を監視、抑制するに相応しい師父としてバヤジトに仕えていたムスタファを推挙しヒュッレムは了承する。ブルサを訪れたアトマジャはユスフと久方の再会を果たすが、度重なる苦難に見舞われたマヒデブランらを見捨てたと非難される。その後アトマジャはマヒデブランに会うと、ムスタファの霊廟へのバヤジトからの金貨の提供を伝える。しかしマヒデブランは誰からであろうと喜捨は受けないと拒絶する。
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皇帝の疑心
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皇子らの赴任県への帰還にあたり、ヒュッレムは自らの耳目手足としてファーリエをセリムのもとに、ロクマンをバヤジトにもとに送る。またバヤジトには傷心を癒やすために自ら選んだ数人の側女も送る。ファーリエはディルシャーをセリムの夜伽に連れて行くところをヌールバーヌーに見つかり激しい反発に遭う。やむなく引き返すファーリエは、ヒュッレムにとっても邪魔な存在であるヌールバーヌーを消し去るため、ディルシャーに手を組むことを持ちかける。忍びで外出したスレイマンはムスタファの死はヒュッレムとリュステムの策略によるものだという口さがない臣民らのうわさ話を耳にする。ヌールバーヌーはヒュッレムが送った側女のひとり、デフネに対してバヤジトの命運を左右する存在になるよう密かに指令を与えていた。デフネは幼い妹を人質にとられ命令に従わざるを得ない。バヤジトの部屋で食事の用意をした後、デフネは書き置きを本に忍び込ませる。ジャンフェダーはヌールバーヌーの入浴の付き添い中にファーリエから呼び出され浴室を離れる。ディルシャーは女官不在の浴室に忍び入ると浴槽につかるヌールバーヌーの頭を押さえつけ沈める。スレイマンから呼び出されたヒュッレムはようやく融和の機会ができたと期待を持つ。しかし待ち受けていたのはムスタファの死に関するスレイマンの強い疑念だった。皇子を中傷し皇帝が殺害するよう仕向けたのかと問われたヒュッレムは凍りつく。
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獅子の性(さが)
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ヒュッレムはスレイマンの問いに自分は清廉潔白ではないと答え、ムスタファの死への関与を認める。しかし権力を持つ者にも権力に群がる者にも罪なき者などいないと言い自らへの断罪を拒む。ヌールバーヌーの殺害を企てたディルシャーは、浴室に躍り込んだガザンフェルによって振り払われると頭を強打し絶命する。九死に一生を得たヌールバーヌーはファーリエがディルシャーに殺害をそそのかし、その裏にはヒュッレムがいると喝破する。バヤジトはデフネの書き置きに気づき短く返事をしたためて本に戻すと、それを読んだデフネは皇子と通じ合ったことを喜ぶ。ファトマは後任の後宮出納官に侍女メレキを推挙し後宮の支配を目論む。それを知ったヒュッレムはこれまで敵対関係にあったギュルフェムを推し任命を実現することで皇女の出鼻をくじく。セリムは皇子妃の浴室に入るという禁忌を犯したガザンフェルに対して情状酌量したうえで追放処分を決める。地下牢のガザンフェルはヌールバーヌーから処分を伝えられると、妃との別離を拒み処分撤回を懇願する。ヒュッレムの魔手から身を守るための守護者が必要なヌールバーヌーは、ガザンフェルを後宮に入れるため宦官になることを迫る。ミフリマーフは朝起きると胸の皮膚炎に気づくが医師長の診察でも原因は分からない。ソコルルは捕虜であるスペイン人医師ペドロによる診察を進言するとスレイマンは許可するが、嫉妬深いリュステムの抵抗に遭う。
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占い
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ガザンフェルは宦官としてこの先もヌールバーヌーに献身するという選択を引き受ける。デフネはバヤジトから二度目の書き置きの返事を口頭で伝えられると、求めに応じ初めての夜伽を果たす。ヒュッレムは娘の病が呪術によるものかを確かめるため占い師の家を訪れる。デフネはバヤジトが寝ている間に部屋の中を探るとミフリマーフ宛ての手紙に目が留まる。県の借金返済に窮したバヤジトが姉に資金援助を求めることを知ったデフネはそれを伝える密書をヌールバーヌーに送る。ファトマの密命を帯びた男はヒュッレムが近くに来ていると市中で言いふらし、ムスタファの復讐の好機だと煽ると民衆は呼応する。ヒュッレムは娘の病状が快方に向かうとの占いに安堵するが、玉座に就く皇子がもうひとりの皇子を殺すとの占いに動転する。占い師の家の前に押しかけ投石を始めた暴徒に対し、警備にあたっていたマフムードは武力による鎮圧を決意する。すると扉が開きヒュッレムが姿を見せると周囲は一瞬にして静まり返る。息子の末路の占いに絶望し暴徒への恐怖すら失せていた皇帝妃は立ちすくむ者たちの間を歩いて行く。扇動者は自ら凶行に及ぼうとするが危急の知らせに駆けつけたスレイマン率いる衛兵により阻止される。デフネからの知らせを受け取ったヌールバーヌーはバヤジトの資金調達を阻止することをセリムに提案する。スンビュルはヒュッレム襲撃の黒幕がファトマである証拠を見つけたと報告する。
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終末の悪夢
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ミフリマーフがバヤジトを援助するために送った金貨が輸送中に強奪される。バヤジトらは賊を追い詰めると襲撃はセリムの命令だと首領は自供する。侍女によりヒュッレム襲撃の黒幕だと暴露されたファトマはスレイマンに呼び出される。罪を認めたファトマはヒュッレムを中傷するにとどまらずスレイマンにも悪態をつく。皇帝の逆鱗に触れ宮殿からの退去を命ぜられた皇女は二度と戻ることはない。セリムの口添えによりベネチアで捕虜として拘束されている大商人グラツィア・メンデスの亡命をスレイマンは許可する。嫉妬するリュステムに邪魔されながらも、解放と一攫千金を狙うペドロはミフリマーフを診察し薬の塗布にまで漕ぎつける。スレイマンはヒュッレムに告げずにエディルネ宮殿に行く。幾年もの間、ムスタファの死が原因でスレイマンは心を閉ざしている。小姓頭フェルハトの勧めでその象徴である遺書を火にくべるとスレイマンは亡き息子の幻影から解放される。世界が崩壊する悪夢から醒めたヒュッレムは、ふと首の付け根の腫れ物に気づく。占い師に悪夢の内容を話すとそれは妃自身の死の予兆だとを告げられるが真には受けられない。バヤジトは襲撃犯であるセリムの腹心の生首ともに兄への絶縁状を送りつける。怒った弟に命を奪われる前に相手の命を奪えと煽るヌールバーヌーにセリムは激怒する。ヌールバーヌーは現実から目を背けるセリムに代わり、脅威を排除することを独断で決意する。
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埋まらぬ溝
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スレイマンは滞在先のエディルネ宮殿にベネチアから解放されたグラツィアを招く。その知らせを耳にしたヒュッレムは鮮やかな衣装をまといスレイマンのもとへと急ぐ。師父ムスタファはバヤジトがセリムに生首を送りつけてきたことから兄弟が一触即発の状況にあることを察知する。自分の手には負えないと判断した師父は事態をヒュッレムに書簡で伝え二人の仲裁を請う。飲酒で死の恐怖を紛らすセリムに側女が酒を注ぐとヌールバーヌーはセリムを制止し側女に毒味を命ずる。側女が息絶えるとヌールバーヌーはバヤジトの仕業だと騒ぎ立てるが、セリムに弟殺害を決意させるため自ら仕込んだものだった。不安が昂じて酒が進んだセリムは朦朧となり、ヌールバーヌーの意のままに側女に弟を殺させるよう命令してしまう。朝になり過ちに気づいたセリムは命令の撤回を伝えるが、ヌールバーヌーはキュタフヤへの伝令はまだ出ていないと嘘をつく。ヒュッレムは庭園で憩うスレイマンの傍らでかつて皇帝が自分のことを詠んだ詩をそらんずる。愛を取り戻すために切々と語りかけるヒュッレムだがスレイマンの表情は硬く、途中で招かれたグラツィアにその場を仕切らると黙り込む。ペドロの治療により快方に向かうミフリマーフは完治まで診察を求めるがリュステムは許さない。ミフリマーフはリュステムに無断でペドロを呼び、強制されていた目隠しを外させ治療を受けている。そこに何も知らない夫が帰ってくる。
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忍び寄る死の影
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ヒュッレムは師父からの書簡で皇子らの危機的な対立を知るとスレイマンとの関係修復に見切りをつけマニサへ向かう。デフネはヌールバーヌーの使者からバヤジト暗殺指令を受けるが自分の任務ではないとして拒否する。しかし従わねば妹の命はないと脅されたデフネは意を決しバヤジトの食事に毒を盛る。不審者を見かけたアトマジャは危難を察知しバヤジトの部屋に駆け込む。アトマジャは毒が回り苦しみ悶える皇子を抱きかかえると事態を把握し、部屋から逃げ出すデフネを捕らえさせる。毒薬が特定されることで適切な処置が施されたバヤジトは一命をとり留める。デフネはアトマジャの追及に対してヌールバーヌーの命令だと自白する。アトマジャはデフネを処刑しようとするがバヤジトの子を身ごもっていると聞き思いとどまる。バヤジトは子供が生まれた日に処刑するとデフネに言い渡すが、妹を守るための行動だったことを知り心が痛む。我慢の限界に達したバヤジトは数千もの軍勢を率いてセリムに報復することを決意する。完治したミフリマーフはペドロとの再会の口実を作るために炎症の原因と気づいた香油を体に塗りつける。フェルハトはヒュッレムこそがスレイマンの心を癒やす妙薬であり遠ざけるべきではないと進言する。ヒュッレムは馬車の中で腫瘍の激痛に耐えきれず医女の診察を受ける。スンビュルから密かにヒュッレムの病状を尋ねられた医女は不治の病であり余命幾ばくもないと宣告する。
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ヒュッレムの病
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宮殿に向かって進軍するバヤジトらを目の当たりにしたセリムとヌールバーヌーはひどく狼狽する。マニサへの道中でヒュッレムはバヤジトが起こした無謀な行動を知り焦燥する。覚悟を決めたセリムは甲冑をまとい門の外に姿を現すと、バヤジトは暗殺を命令したセリムへの報復として正々堂々と命を奪いに来たと告げる。セリムの師父の制止もむなしくバヤジトが刀を抜くとついに兄弟同士の決闘が始まる。しかし間もなくヒュッレムの来訪を告げるスンビュルの声が響くと二人は刀を下ろす。仲裁に入ったヒュッレムは兄弟同士で命を賭けた対決に至ったことを厳しく叱責するが、突然発作を起こし気を失う。意識が戻ったヒュッレムは二人の息子を部屋に呼びそれぞれの言い分を聞く。兄の卑劣な行為をスレイマンに書簡にしたためた軽率なバヤジトにヒュッレムは憮然とし、また母親の目を見ながら平然と嘘をつき続ける不誠実なセリムには失望する。医女は病魔に侵されたヒュッレムに余命わずかであることを伝えるべきだとスンビュルを説得する。セリムは指示を無視してバヤジト暗殺を決行させたヌールバーヌーに対して烈火のごとく怒る。ヒュッレムはヌールバーヌーに死をもって償うよう迫るが、その場に割って入ったセリムはヌールバーヌーをかばい、必要な措置を講ずると母親に約束する。師父がいまだにバヤジトの腹心であることを知るセリムは、弟への忠誠を断ち自分の側につくよう求めるが拒まれる。
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皇子たちへの警鐘
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兄の卑劣な行為を書き連ねたバヤジトの書簡はスレイマンに届けられることなくソコルルの手に渡るとセリムを守るため処分される。バヤジトはスレイマンへの書簡の隠匿工作があったとヒュッレムに不服を言う。しかしその書簡はバヤジト自身の首を絞めるものであり届かなくて幸いだとヒュッレムは諭す。皮膚炎の再発を口実にミフリマーフに呼び出されたぺドロは皇女が満たされぬ心を抱えていることに気づく。ソコルルは自分の奴隷であるペドロをミフリマーフに献上する。リュステムは屋敷に着いたペドロに暴行を加え、駆けつけたミフリマーフの前で殺そうとする。ミフリマーフは殺害を阻止するためペドロを奴隷の身分から解放し法的な保護を与える。しかし同時に屋敷にいる正当性を無くしたペドロにリュステムは追放を言い渡す。ペドロの受入れに激怒したリュステムはミフリマーフへの愛と忠誠を断ち切る決意を伝える。セリムの師父はヒュッレムの病状を医女に問い詰め余命わずかと知る。ヒュッレムは兄弟に和解の場を用意すると、バヤジトはセリムの謝罪を受け入れる代わりにデフネの妹を連れて帰ることを伝える。帝都への入港を許可されたグラツィアの船には迫害を逃れた同胞のユダヤ人が多数乗船していた。スレイマンは密入国の通報を受けるが、神の御心のままに多様性と調和を重んじ受け入れを命ずる。急に天幕から出て行くスンビュルを不審に思ったヒュッレムは後を追い、涙の訳を尋ねる。
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愛の復活
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自らの不治の病をスンビュルから聞いたヒュッレムは動転するが気を取り直すと他言しないよう命ずる。セリムは息子ムラトの地方赴任をスレイマンに認めてもらうと慣習上ヌールバーヌーの同行が決まる。これはヌールバーヌーを自分から引き離すことで、その殺害を命じたヒュッレムの追及をかわすためのセリムの苦肉の策だった。宮殿に戻ったヒュッレムは部屋に置かれたスレイマンからの手紙を読むと愛の復活を感じ取る。スレイマンはスンビュルからヒュッレムの病状を知らされると、そのもとに駆けつけ抱擁を交わし必ず病を治すことを誓う。病状は絶望的と話す側近の医師らに対しスレイマンは名医を集め必ず治療法を見つけるよう厳命する。ヒュッレムはスレイマンに秘密を口外したスンビュルに怒り追放を言い渡す。熟慮の末、師父はバヤジトへの忠誠を断ちセリムが玉座に就けるよう尽力することを誓う。そしてセリムがスレイマンに対してバヤジトを告発する書簡を代筆するとともに、自身からバヤジト宛ての書簡を送る。師父は書簡を読み暴走を始めるバヤジトがスレイマンからの信頼を完全に失うこと目論んでいる。スレイマンは過去の出来事は水に流すとともに、愛の火が消えることはないとヒュッレムに誓う。出産後の処刑を待つデフネは再会した幼い妹に我が子を託す。ペドロが出国することに塞ぎ込むミフリマーフは本人からの手紙を受け取り逢い引きをすると命をかけた逃避行の誘いを受ける。
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最悪、最強の敵
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バヤジトのもとにセリムの師父から2通の書簡が届く。1通はセリムが自分の非は棚に上げバヤジトの咎をスレイマンに告発するもので、もう1通はその書簡を阻止した師父がセリムに対して警告の書簡を出すようバヤジトを促すものだった。ミフリマーフは港に忍んで行くと、待ちわびていたぺドロに別れを告げる。そして旅立つペドロとともに自分の魂の一部が自由になれるようにとその髪を入れた箱を渡す。様々な治療法が試されるものの疲弊するだけのヒュッレムはスレイマンに治療の中止を請うが認めてもらえない。リュステムは屋敷でグラツィアの訪問を受け同胞への厚意の礼として金貨の箱を受け取る。会話を進めるうちにリュステムはそれまで嫌悪していたグラツィアへの態度を改める。師父からの知らせに激怒したバヤジトはセリムに書簡を送る。書簡の中でバヤジトはセリムに決闘を突きつけ、もし拒むならいっしょに送った女物の衣装を着るのがお似合いだと侮辱する。この衣装をスレイマンに送れば師父の思惑どおりにバヤジトは不敬のかどで罰せられるはずだった。しかし激怒したセリムがそれを拒否しバヤジトの申し出を受けて立つことを告げられた師父は困惑する。決定的な治療法を見いだせない医師長に苛立つスレイマンに対して、フェルハトは皇帝の愛こそが唯一の良薬となだめる。スンビュルからヒュッレムの病を聞いたミフリマーフは直接病状を尋ねに行くが本当のことは教えてもらえない。
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76
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許し
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ヒュッレムはギュルフェムに死の病に冒されていることを伝える。そして過去の過ちへの許しを請うとギュルフェムは応ずる。グラツィアは仕事の話を口実にリュステムを屋敷に招くと深い関係になることを求める。リュステムは一瞬背を向けるがグラツィアを激しく抱き寄せる。ヒュッレムは湯治を勧めるスレイマンとともにブルサに赴く。スレイマンは当地のムスタファの霊廟を訪れるとマヒデブランに出くわす。マヒデブランはムスタファを殺したスレイマンを非難し、神以外に誰も許さないと言い捨て立ち去る。沈黙を押し通したスレイマンはこの苦悩から死ぬまで解放されないことを知る。ヒュッレムはマヒデブランの宮殿を訪れ死期が近いことを告げ、逝く前に許しを請いに来たと伝える。先にヒュッレムはメフメト殺害を命じたマヒデブランを許す。マヒデブランから許しを得たヒュッレムは立ち去るがその表情は重苦しい。敵に与える最大の罰は許すことだとマヒデブランはフィダンに話す。セリムとバヤジトは約束の地で出会うと一騎打ちが始まる。倒されたセリムはバヤジトに喉元に刀を突きつけられると、どうせ兄弟を殺せないだろうと悪あがきを見せる。バヤジトは雄叫びとともに地面を刀で突くと次は容赦しないとセリムに怒りをぶちまける。ヒュッレムは帝都に帰り子供らを呼び寄せ愛する者に看取られ逝きたいとスレイマンに話す。運命を受け入れ死を覚悟したヒュッレムは最愛の者に微笑みかける。
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77
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魂の伴侶
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ヒュッレムはスレイマンに寄り添われかろうじて宮殿内に戻ると不意に訪れたスンビュルを歓迎し過去の放言を詫びる。ヒュッレムの様子に不安を募らせたミフリマーフは神に祈るしか術はないとスレイマンに打ち明けられ泣き崩れる。スレイマンは母が幸せで穏やかな余生を過ごすために尽くすよう娘に伝える。リュステムは医女からヒュッレムの真の病状を聞き愕然とする。スレイマンは皇子らに至急帝都に戻るよう伝令を送る。無断で宮殿に戻ったヌールバーヌーは頬に刀傷を負ったセリムを気遣い、師父への不信感を漏らす。アトマジャはバヤジトがセリムを殺さなかったことは将来に禍根を残すと不安を伝える。ロクマンが良心に従ったバヤジトの行動を称えると、アトマジャは良心によって玉座に就いた皇子はいないと反論する。ヒュッレムはマヒデブランに会い過去を清算したことをスンビュルに伝えると、もう一つ清算すべきことがあるという。それは秘密裏に埋葬されたイブラヒムの墓参をすることだった。バヤジトは男児を出産し処刑を待つだけとなったデフネに授乳を許す。スレイマンは寝所にヒュッレムを食事に招き夜は傍らで眠るように言う。グラツィアの屋敷に通い詰めるリュステムはヒュッレムの死が世界の運命すら変えると語る。スンビュルはマトラークチュの従者からイブラヒムの墓の場所を聞き出しヒュッレムを連れて行く。およそ墓地とは思えない山間の雑草地をヒュッレムは目の前にする。
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78
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祈り
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スレイマンは着工から長い年月が経つモスクの完成を急ぐよう建築家シナンに命ずる。ヒュッレムは墓石すらないイブラヒムを憐れみ、この地位と境遇は自分を選び皇帝に献上してくれたおかげと感謝する。そしてイブラヒムが生きている間にこれを伝えたかったと悔やみ祈りを捧げる。ヒュッレムは自分の亡き後はスレイマンに寄り添うことをギュルフェムに託す。リュステムはミフリマーフの体調不良を外泊する自分の気を引くための仮病と疑うが、間もなく妊娠が原因であることを告げられると動揺を隠せない。バヤジトの兄メフメトにちなんで名付けられた赤子を残しデフネは部屋から連れ出される。処刑を覚悟し今生の別れを告げるデフネにバヤジトは息子メフメトに免じて許しを与える。スレイマンと話をするヒュッレムは宮殿の外で自分の名を口々に呼ぶ声を耳にする。ヒュッレムがテラスから目にしたのは敬愛する皇帝妃を見舞いに宮殿を訪れた名も無き女性たちの一群だった。万感の思いのヒュッレムは屋外に出向き彼女ら一人ひとりが自身と謁見できるよう取り計らう。ヒュッレムはスンビュルに自分に関するすべてを書き記した日記を渡し後世に語り継がれるよう保管を託す。妃と子を連れて帝都に来るよう命ぜられた皇子らは宮殿に到着すると母親が余命わずかであることを告げられる。先日の皇子らの決闘を知ったスンビュルは平穏な日々を過ごせるようヒュッレムには隠すことをロクマンらに指示する。
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79
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永遠の愛
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リュステムは改めてバヤジトへの忠誠を誓い、同席したセリムの師父までもがバヤジトに尽くすと言い出す。ソコルルとヌールバーヌーはヒュッレム亡き後に向け万全の対策を講ずるようセリムに進言するが時期尚早として受け入れてもらえない。ヒュッレムに呼び出されたヌールバーヌーは必ずやセリムが玉座に就き自らはヒュッレムの部屋に住むのだと豪語する。ヌールバーヌーの不遜な物言いに憤ったヒュッレムは覚悟を問うが、どんな犠牲もいとわないと言い返される。ヒュッレムはリュステムを呼び、自らの死後にふたりの皇子の争いを阻止したうえでバヤジトを玉座に導くよう誓いを立てさせる。スレイマンは自らの名を冠したモスクの完成後初の礼拝に赴き、ヒュッレムが造らせた同所の複合施設では弱者らに食事が振る舞われる。朝方テラスで倒れていたヒュッレムはスレイマンに起こされると今日が最後だと伝え、盛大な食事会を開き愛する者たちを集めるよう請う。ヒュッレムは17歳の奴隷アレクサンドラ・ラ・ロッサの歩んだ苦難と栄光の道を振り返る。庭園での食事会を中座したヒュッレムはスレイマンに支えられながら部屋に戻る途中、崩れるように倒れ込む。寝台に運ばれたヒュッレムはかつて自分を詠んだ詩を聞かせて欲しいとスレイマンにせがむ。スレイマンはヒュッレムと見つめ合いながら、ゆっくりと詩を読み続ける。最愛の者に見守られながら皇帝妃ヒュッレムは眠るように息を引き取る。
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80
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母の遺言
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二人の皇子はヒュッレムが最後にそれぞれに言い残した戒めの言葉を思い出す。残酷な者たちが支配するこの世界で、勇敢ながら慈悲深いバヤジトが生き残り玉座に就くためには残酷になれという。臆病なセリムには恐れや怒りにまかせ玉座に就いたとしても良心が痛むなら意味はないとして、勇敢で平穏な心を持てという。スレイマンは自らの名を冠したモスクの敷地内にヒュッレムを生前の望みどおり埋葬する。ヒュッレムはスレイマンから贈られた手製のエメラルドの指輪を自らとともに埋葬するようスンビュルに言い残していた。その指輪が亡骸から盗まれていたことにスンビュルとファーリエは気づくが、犯人はヌールバーヌーに命ぜられたジャンフェダーだった。スンビュルらはジャンフェダーを怪しいと睨み詰問しヌールバーヌーにも嫌疑をぶつけるがかわされてしまう。ヒュッレムが自分の葬儀後に渡すようロクマンとファーリエに託した贈り物と手紙が二人の皇子のもとに届く。贈った鎧は共通の敵に対してともに助け合って戦う際にまとうものであって、互いに刀を交えるときのものではないとヒュッレムは手紙の中で忠告する。深い喪に服すスレイマンは寝所から華美な調度品を排除し、自らの食事も質素にするようフェルハトに命ずる。ミフリマーフは誰にも会おうとしないスレイマンに、ヒュッレムの忘れ形見である自分らに会い慰め合うよう請う。しかしスレイマンはその切なる願いを一顧だにしない。
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81
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明けぬ喪
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セリムは喪が明けたらバヤジトからの不敬な贈り物をスレイマンに見せ弟の失墜を狙う。アトマジャはヒュッレムの忠臣だったリュステムがセリムの側につくことを懸念する。その場合はリュステムを殺してもよいと、ムスタファの仇討ちを封印してきたアトマジャにバヤジトは伝える。ヒュッレムの行く末を言い当てた占い師はベネチア人が産んだ皇子から皇統が続くとヌールバーヌーに予言する。ヌールバーヌーは自分のことだと喜ぶが男児を産んだデフネも同郷であることに気づき不安になる。セリムはリュステムに接触し自らの陣営につくよう揺さぶりをかける。これを目にしたバヤジトはリュステムの忠誠を確かめるが兄の動きに危機感を強める。ミフリマーフは明け方に男児を出産するが、その夜リュステムはグラツィアの屋敷に泊まっていた。ミフリマーフに問い詰められたリュステムはグラツィアとの関係を認めるがそうなったのは妻のせいだと言い返す。バヤジトがセリムに贈ったという木箱の存在をリュステムはグラツィアから聞く。リュステムはそれがスレイマンとバヤジトの絆を断絶する恐れがあることをバヤジト本人に確かめる。その場に呼び出された師父はセリムが帝都に木箱を持ってきたことは知らないと嘘をつく。グラツィアは朝目覚めると喉を掻き切られた侍女の姿に驚愕する。この殺害はリュステムの不貞をミフリマーフから聞いたスンビュルがグラツィアを引き離すために下した警告だった。
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82
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セリムの策略
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セリムはバヤジトが送りつけた女物のドレスをスレイマンに見せる。バヤジトはドレスを送った事実は認めるが、事の発端であるセリムの卑劣な行いをスレイマンに暴露し証人としてセリムの師父を呼ぶ。師父はバヤジトから口裏を合わせるよう強要されたと偽証するとバヤジトから裏切り者と罵声を浴びせられる。スレイマンはバヤジトの無礼な振る舞いと兄弟同士の醜い争いに激怒する。リュステムはグラツィアの呼び出しに屋敷に行くと待っていたのはセリムだった。セリムはスレイマンに不貞を暴露しない代わりにバヤジトのアマスヤ追放を奏上するようリュステムに要求する。バヤジトを陥れることに成功したセリムだが、裏で手を回したミフリマーフにより自身にも処分が言い渡される。バヤジトはアマスヤ行きを拒み兵士を集めセリム討伐を準備する。セリムはスレイマンに書簡を送りバヤジトの不穏な動きと皇帝への反乱の可能性を伝えるとともに弟の攻撃に備える。ファーリエはヌールバーヌーの部屋でヒュッレムの指輪を発見するが、ヌールバーヌーと出くわしたところにセリムが現れる。ヌールバーヌーはもらった指輪をファーリエが盗んだと言い、ファーリエはヌールバーヌーによる盗みをほのめかす。セリムはヌールバーヌーの嘘を見透かしていたがファーリエを牢に送り、皇子妃を中傷した罪は命で償わせると告ぐ。ミフリマーフはバヤジトに慎重に対応するようスレイマンに請うが聞き入れられない。
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父帝の最後通告
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スレイマンはすでに命じた赴任先に即刻向かうよう二人の皇子に最後通告をする。バヤジトはキュタフヤに3人の軍政官を呼び寄せセリムを倒すために同盟を結ぶことを迫るが結論は持ち越しとなる。皇帝の書簡を携えた宰相アリによるバヤジトの説得は不調に終わる。するとアリはスレイマンの許しを得て同行したミフリマーフに任務を委ねる。スレイマンはバヤジトによる募兵の情報が真偽不明のままセリムに通告を出すが、セリムは赴任途上での弟からの攻撃を恐れている。ソコルルはリュステムが皇子らの間で中立を保ち静観する構えだとセリムに説明するが油断はできない。牢から脱出したファーリエはヌールバーヌーの部屋に忍び込みヒュッレムからの殺害命令を遂げようと襲いかかるが逆に刺し殺される。ミフリマーフはバヤジトの募兵がセリムによる中傷ではなく事実であると知り驚愕する。バヤジトはミフリマーフの説得に応じアマスヤ行きを約束するが、どこにいようと兵力を増強しセリムを討つ決意は変わらない。ミフリマーフはセリムとの戦いに備えるバヤジトを支持し、自らが盾となりバヤジトをセリムとスレイマンから守ると誓う。リュステムは自分との情事をセリムに白状したグラツィアを非難し個人的な関係を清算する。スレイマンはミフリマーフとアリにバヤジトに関する報告を求める。帰還の途上でミフリマーフから口裏を合わせるよう強要されたアリはキュタフヤでの募兵の事実を隠蔽する。
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バヤジト挙兵
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勅命に従いバヤジトはアマスヤに出立する。それを知ったセリムも同様にコンヤへと向かうが、早晩、弟が攻撃を仕掛けてくることを覚悟している。ヒュッレムの前でコーランに手を置き皇子同士の争いの阻止を誓ったリュステムだが、バヤジトの挙兵の支持はその誓いを破ることになる。その代償をいかに払うべきか悩むリュステムは軍法官の見解に従い、悔い改めるとともにモスク複合施設の建造と寄進に多額の私財を投ずる。3人の軍政官が味方につき多数の軍勢を確保したバヤジトは勝利を確信する。リュステムはバヤジトのセリムへの攻撃は同時にスレイマンへの敵対行為であり反乱を起こした皇子の行く末は明らかだとアリに話す。そしてバヤジトを支援する軍政官にセリムの側につくよう書簡を出す。バヤジトの動向の報告を受けたスレイマンは自らの命令に背き兄に対して挙兵する準備をする皇子をイスラム法はどう裁くか長老に見解を求める。するとエブッスードはかくなる反逆行為には処刑が相当との考えをスレイマンに伝える。ついにバヤジトは進軍を開始するとスレイマンは反乱の鎮圧を命じ、ソコルルに帝国軍とセリムの軍の指揮を任せる。アリはミフリマーフにリュステムがセリムの側に回ったことを伝える。ミフリマーフから裏切りを激しく非難されたリュステムはバヤジトに死刑宣告の聖断が下されたと明かし、もう終わったのだと諭す。ついに戦いの地でセリムと対峙したバヤジトは援軍を待つ。
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運命の一矢
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帝国軍を目にしたバヤジトは父帝から見限られたことを知る。そのうえ軍勢を率いた軍政官らは期待を裏切りセリムの陣営に合流する。形勢不利なバヤジトだが降伏を要求する勅命を拒否すると戦いの火ぶたは切られる。バヤジトは自ら前線で武勇をふるいセリムの目前にまで迫ると傍らの師父は観念する。しかしその時セリムの息子ムラトがバヤジトに向けて一本の矢を放つ。それは戦局を一変させるだけでなく帝国の運命をも左右するものだった。胸に矢を受けた皇子に敵の兵士が襲いかかるがアトマジャの援護により窮地を脱する。戦いは幕を下ろし、バヤジトは致命傷を負ったと思われたが奇跡的に生還を果たす。ミフリマーフはスレイマンにバヤジトへの赦しを請うが拒絶される。するとミフリマーフはバヤジトへの裏切りを理由にリュステムとの離縁を切り出す。しかしリュステムは勅命を忠実に遂行したにすぎず、離縁は断じて許さないとスレイマンは激怒する。再起後に増大するであろう弟の脅威への不安ゆえ、凱旋したセリムは塞いでいる。バヤジトは傷がまだ癒えていないが再び兵を集めるようアトマジャに指示する。バヤジトはスレイマンへの反逆の意図はなく敬愛と忠誠は変わらないことをしたためた書簡を帝都へ送る。しかし伝令は殺され奪われた書簡はセリムの師父のもとに届けられる。バヤジトの釈明を知る由もないスレイマンは反逆者とみなした我が子を必ず帝都に連行するようソコルルに命ずる。
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逃亡
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スレイマンはソコルルが率いる軍と合流しバヤジトを追撃するようセリムに命ずる。快方に向かうバヤジトだが兵力不足のため敵軍との対決を回避し息子らとともにアマスヤからの出奔を図る。アトマジャと旧知の軍政官アヤスが治める州に身を寄せることをバヤジトは決める。リュステムは弟を殺したアトマジャを捕らえることを命じ復讐を遂げることを決意する。ミフリマーフは持病の痛風が再発したスレイマンを見舞う。スレイマンの体調の悪化は、バヤジトに下した聖断が心に重くのしかかっていることが原因だとミフリマーフは見抜く。バヤジトらを出迎えたアヤスは勅命を読み上げるとアトマジャは警戒する。しかしアヤスは読み終えた勅命を破り捨て皇子への忠誠を誓う。ほどなくしてアヤスから大軍が迫っていることを知らされたバヤジトは出立する。アヤスのもとに到着したセリムは弟の居場所を問う。アヤスは問いには答えずバヤジトを擁護しセリムらを非難すると、逆上した皇子に刺し殺される。国境付近を行軍するバヤジトらにイラン王タフマースブの使者が現れ接触を図る。使者はバヤジトに次の目的地に追っ手が向かっているとの情報と、タフマースブからの首都カズヴィーンへの招聘の意を伝える。バヤジトはタフマースブの宮殿で歓待されるがスレイマンを倒すための同盟を結ぶ提案をした王に対して怒り中座する。スレイマンは皇子が最大の敵からの庇護を受けていることを知らされ暗澹となる。
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87
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執念の仇討ち
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ミフリマーフを経由させることでようやくバヤジトの手紙はスレイマンのもとに届く。父帝への反乱の意思はなく無実であることをバヤジトは手紙で訴えるが、父は息子に罪を認めて赦しを請うよう諭す。バヤジトはアトマジャの積年の願いであるムスタファの仇討ちを許し、帝都に戻りリュステムを仕留めるよう命ずる。アトマジャは密かにミフリマーフに会い帰還の目的を伝え力添えを請う。スレイマンがイラン王とバヤジト引渡しの交渉をするとの情報を得たデフネは、直ちに皇子に知らせ脱出させるために自らイランへ向かう。ミフリマーフが子供を後宮に泊まらせた夜、アトマジャは屋敷に忍び込む。そして衛兵らを一網打尽にするとリュステムとの格闘の末、悲願を遂げる。しかし負傷したアトマジャも駆けつけた衛兵の手により絶命する。リュステムの遺体を目にしたミフリマーフは最近の体調不良を死因にするようスンビュルに命ずる。デフネはイランの宮殿でバヤジトと再会し、金と領土を得るために王がバヤジトを引渡す企みを明かす。軍政官となったセリムの師父はタフマースブに謁見しセリムがバヤジトの引渡しを望んでいることを伝える。引渡しの条件としてスレイマンが応じた金額の倍を王が要求すると、護衛に扮し背後にいるセリムの合図を見た師父は承諾する。バヤジトへの恩赦を可能性の芽を摘むため、セリムは断じて弟を帝都に連行させまいとする。バヤジトは王を殺害し脱出する計画を練る。
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迷える皇子
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セリムはイラン王との取引に必要な資金を調達するためにグラツィアに呼ぶが全額が揃うまでには時間がかかるという。リュステムの突然の訃報をグラツィアから聞いたセリムはその死因と後任の人事が気にかかる。ミフリマーフは後宮内のかつての母の部屋に移り住む。スレイマンの使者ヒュスレヴはバヤジトとともに直ちに帝都に帰還するつもりでイランに来たものの状況は整っていない。タフマースブはセリムが要求どおりの金貨を用意したことを確認するまでスレイマン側への回答を引き延ばしにかかる。スレイマンはリュステムの後任として序列に従い宰相アリを大宰相に任命する。バヤジトに会ったヒュスレヴはタフマースブとの交渉の事実を認めスレイマンの手紙を渡す。子供の頃から父に愛されなかった記憶と長兄の末路に見る父への不信感から、バヤジトは説得に応じることなくグルジアへの逃亡の準備を急がせる。ミフリマーフは母と夫の亡き後の宮殿内での影響力を保つため、大宰相に就任したアリを利用することを考え離宮に呼び出す。高官の中で唯一人バヤジトを支持するアリが地位を強固なものにするためには皇統とのつながりが必要だとミフリマーフは説く。しかしアリは皇女の支援がなくともひとりで権力闘争に臨む決意を伝え同盟の提案を拒否する。ヌールバーヌーはセリムに隠れてソコルルに書簡を送り、将来セリムの脅威とならないようアマスヤに残されたバヤジトの末息子の処置を委ねる。
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王(シャー)の宴
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ソコルルはヌールバーヌーの指示に従いバヤジトの息子メフメトが反乱勢力に利用されないようスレイマンにあることを提案する。タフマースブを襲撃しバヤジト父子を脱出させる計画を実行に移す日が来る。しかし周辺で待機していた兵士らがタフマースブにより追放または殺害され、ほぼ壊滅状態になったとの知らせに皇子は焦燥する。王の襲撃は断念するがその夜、宮殿からの脱出を図ったバヤジトらはすぐさま取り押さえられ王の待つ宴へ導かれる。もてなしを拒むバヤジトをもはや客人としてではなく捕虜として扱うことにした王は、配下に命じその場にいたロクマンら側近と護衛を殺害する。バヤジト父子は地下牢に幽閉されデフネはアマスヤへの帰還を強いられる。タフマースブはスレイマンの要求どおり皇子の側近を排除したこととともに要求額を倍にするとヒュスレヴに伝える。再びセリムの宮殿を訪れたグラツィアは目の前で金貨を見せ約束の全額を用立てたことを伝える。アマスヤに戻ったデフネはメフメトがブルサに連れて行かれたことを知り悲嘆に暮れる。同じ道筋をたどった亡きムスタファの幼子の悲運が頭をよぎる。タフマースブが合意を破棄し要求を上乗せしたとの報告にスレイマンは激怒する。そしてタフマースブが無条件で皇子の引渡しに応じねばイランに進軍し宮殿を攻略することを命ずる。セリムはイラン国境の州に自ら赴き、かつての師父である軍政官にタフマースブに渡す金貨を託す。
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90
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無情な仕打ち
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幽閉されたバヤジトのもとにヒュスレヴの使いを名乗る者が現れると親子はようやく解放される。父の慈悲に一縷の望みをかけバヤジトは帝都に向け出立する。再び王に謁見したヒュスレヴは直ちに皇子を引渡すよう最後通告をするが、その時すでに皇子はいない。バヤジトらを乗せた馬車はヒュスレヴが待っているという場所で止まる。しかしそこでセリムの姿を目にしたバヤジトはこの解放が罠であることに気づき己の死を覚悟する。命乞いをすれば息子らは無事に帝都に送り届けると約束したセリムにバヤジトは従い最後の望みを託す。しかしセリムはその約束を反故にし子供らを取り押さえた処刑人に合図を出す。そしてバヤジトの処刑人にも同じ仕草をすると執行を見ることなくセリムは立ち去る。弟の怨嗟の叫びを背中で受け止める兄の目には涙が溢れている。首に縄を巻きつけられた我が子が一人ひとり崩れ落ちるさまをバヤジトは滲む瞳で見取る。血を分けた兄からの非情な仕打ちを受けたバヤジトの慟哭も間もなく途絶える。デフネはブルサに行き幼いメフメトの命乞いをするが叶わぬことを知ると心中を遂げる。それから5年の歳月が過ぎた今もミフリマーフのセリムへの怒りは収らない。セリムの3人の娘は高官に嫁ぎ、ひとりは大宰相となったソコルルの妻になる。痛風が悪化の一途をたどるスレイマンへの周囲の不安が高まっている。セリムはハンガリー国境付近の紛争解決にソコルルの出陣を提案する。
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91
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寂しい祭り
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ギュルフェムの悲劇的な死の秘密をフェルハトは守っている。鎮痛薬により朦朧となったスレイマンに向かってバヤジトの敵を討つべくギュルフェムは短刀を振り上げる。駆けつけたフェルハトによって取り押さえられた際にはずみでギュルフェムは自分の胸を刺したのだった。断食明けの祝祭で皇族が宮殿に集う。ミフリマーフは疎遠になっていたセリムに対してバヤジト殺害を強い口調で非難する。セリムは唯一の後継者である自分への態度を改めねば姉を破滅させると脅す。マニサの軍政官となったセリムの息子ムラトは懐妊した側女サフィエを連れて宮殿に到着する。ミフリマーフがムラトに側女を贈ったことをそのとき初めて知らされたヌールバーヌーは皇女への不快感を露わにする。セリムの最大の競争相手であるムラトを自らの影響下に置くためにミフリマーフが教育した元侍女がサフィエの正体だった。ミフリマーフはスレイマンから気に入られるようにとムラトに献上品を渡す。ムラトは御前会議で献上品である地図を広げ領土を拡大した当代皇帝を賛美し歓心を買う。セリムは自分を差し置いて会議に出席したムラトを叱責する。するとムラトは知恵と経験はスレイマンから享受し父のことは反面教師にすると言い捨てる。サフィエがバヤジトの仇討ちのために送り込まれたことをヌールバーヌーは見抜く。ヌールバーヌーに忠誠心を示すよう迫られたサフィエはセリムに皇子を産むことがその証明だと答える。
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92
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最後の遠征
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スレイマンは忍びで出かけた市場で商人が自分を侮辱するのを目の当たりにする。憤慨して商人につかみかかったスレイマンは身分を明かし自分の過去の偉業を突きつける。宮殿に戻ったスレイマンはマトラークチュによるスレイマン帝記の細密画に見入り過去を振り返る。キュタフヤ赴任はスレイマンによる罰であると信じるセリムは宮殿のかつての主バヤジトの幻影に怯える。悲嘆に暮れ、それを紛らすように酒に溺れるセリムにヌールバーヌーは手を焼いている。またヌールバーヌーはサフィエを遠ざけようとムラトに側女を送るが見通しは暗い。ミフリマーフに出遭ったマヒデブランは自分たちを苦しめたすべての厄災のただ一つの元凶はスレイマンなのだと言い放つ。スレイマンは自ら軍を率いてオーストリアに進軍することを決意する。スレイマンは臣民と全世界に再びその名を轟かせ自らの支配と権力の健在ぶりを顕示したいのだ。しかし高齢かつ不例の皇帝の決定に宰相らは戸惑い懸念する。医師は出征に反対し断行するのであれば命を失うと警告する。もう一種類の皇帝記の最後の空白となっているページに今回の遠征での勝利を描き完成させるよう、スレイマンは細密画家に命ずる。親征を断念させるようソコルルから請われミフリマーフは御前に参上する。スレイマンは自分の治世は征服に始まり征服に終わると娘に語り、これが最後の遠征になると断言する。ミフリマーフはもう二度と父に会えないと悟る。
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93(最終回)
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壮麗なる皇帝スレイマン
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ハンガリーをめぐる火種が拡大し休戦条約が無効になるとスレイマンは神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世に対して攻勢をかける。スレイマンはハンガリー遠征における最初の目標として難攻不落の要塞を持つシゲトヴァルの攻略を命ずる。スレイマンが重病を押して親征した知らせを受けたセリムは玉座に就く準備を始める。ヌールバーヌーはいずれ母后の地位を手に入れヒュッレムを超えるとサフィエに話す。その妃を超えヒュッレムの指輪も引き継ぐという野心を語るサフィエにヌールバーヌーは不快感を示す。セリムに対して負けを認めたミフリマーフはトプカプ宮殿を去りエディルネに移り住むことを決意しスンビュルに同行を求める。皇女の誘いを断ったスンビュルはヒュッレムが託した日記を手に誰もいない大部屋にたたずむと在りし日々の出来事が脳裏によみがえる。戦況は熾烈を極め、いったん撤退し明くる春に総攻撃をかける旨の提案がなされる。自らに残された時間が僅かであると知るスレイマンはこれを拒否すると軍勢の前に立ち、日の出までに攻略するよう檄を飛ばす。しかしその直後、天幕の中で突然倒れたスレイマンは悲願の勝利を見届けることなくそのまま息を引き取る。皇帝の死後、シゲトヴァル城は陥落しオスマン帝国は領土の奪還に成功する。キュタフヤのセリムのもとに皇帝崩御の知らせが届く。オスマン帝国の全盛期を築き壮麗帝と呼ばれたスレイマン1世の46年の治世は幕を下ろす。
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