電送人間
『電送人間』(でんそうにんげん)は、1960年(昭和35年)に東宝が製作した特撮ホラー映画[6]。カラー、東宝スコープ[出典 6]、パースペクタ立体音響[4]。監督は福田純、主演は鶴田浩二。
併映は宝塚映画作品『爆笑嬢はん日記』(監督:竹前重吉、主演:佐原健二)[出典 7]。
概要
『美女と液体人間』(1958年)に続く変身人間シリーズの第2作である[出典 8]。検討用台本の段階で「怪奇空想科学映画シリーズ」と銘打たれており、第3作『ガス人間㐧1号』(1960年)も本作品とほぼ同時期に検討用台本が完成しているなど、当初よりシリーズものとして製作が進められた[17][18]。
原作表記はないが、海野十三が「丘丘十郎」名義で発表した小説『電送美人』[注釈 2]が下敷きになっていると考えられている[17][18]。物語は、怪奇色を押し出していた前作と異なり、SF設定を用いたミステリー映画という趣向になっている[出典 9][注釈 3]。
ストーリー
ブローカーの塚本が多摩川園のお化け屋敷へ呼び出され、突如現れた人影に銃剣で刺殺されるという殺人事件が発生する[11][14]。事件を追う東都新聞の学芸部記者・桐岡勝は現場に残されたクライオトロンを発見し、大学時代の同窓生である警視庁の小林警部から塚本が密輸に関わっていたことを知らされる。桐岡と小林は、塚本とつながりのあるキャバレー経営者・隆昌元を張り込む[11][14]。しかし、隆は発光する不気味な怪人によって刺殺され、警官隊の追跡もむなしく怪人が逃げ込んだ倉庫は火災で焼失する[11][14]。倉庫内に怪人の死体はなく、冷却装置と放電装置を組み合わせたような謎の機械の残骸だけが残されていた[11][14]。
小林は隆の殺害現場に居合わせ、塚本や隆と同様に従軍時代の認識票を郵送された滝と大西を追求し、大西の元部下である須藤兵長の存在を知る[11][14]。14年前、大西、隆、塚本、滝は敗戦の混乱に乗じて軍資金の金塊の横領を目論み、それを阻止しようとした須藤と陸軍技術研究所の仁木博士を金塊もろとも洞窟へ生き埋めにしていた[11][14][注釈 4]が、そこからは金塊はおろか須藤と仁木の死体も見つからなかったという[14]。仁木が人間を電送する装置を開発していたことや、物体電送機に必要な冷却装置が軽井沢の小谷牧場へ発送されたことを知った桐岡は、牧場経営者の中本が須藤ではないかと推理する[11][14]。しかし、桐岡の権限では決定的な証拠をつかめず、滝は予告通り物体電送機を使った犯行により、警官隊の眼前で殺害されてしまう[11][14]。
捜査本部は小谷牧場への一斉摘発を行い、仁木と物体電送機を発見するが、やはり中本を偽っていた須藤は逃走する[11]。一方、最後の標的となった大西は愛知県知多半島の小篠島の別荘へ身を隠していたが、島内には物体電送機が運び込まれていた。小谷牧場内に潜伏していた須藤は、殺人に反対する仁木の首を絞めて昏倒させ、物体電送機を使って小篠島へ向かう。須藤は大西を殺害して復讐を完遂し、またしても物体電送機で逃亡を図る[11][14]。だが、浅間山の噴火によって電波が乱れ、まだ息のあった仁木が物体電送機を停止した結果、須藤は苦悶しながら消滅する[11]。小谷牧場も浅間山の噴火によって崩壊し、物体電送機の秘密は闇に葬られたのだった[14]。
登場キャラクター
- 電送人間
- 物体電送機を用いる神出鬼没の復讐鬼[出典 10]。その正体は、太平洋戦争末期に私腹を肥やそうと国家や軍を裏切って軍資金の金塊の横領を目論んだ上官らに銃剣で殺害されて生き埋めにされた元旧日本陸軍兵長の須藤であり、現在は中本伍郎という偽名を用いている[出典 11]。陸軍技術研究所の科学者であった仁木博士を欺いて物体電送機を利用し、銃剣を用いて上官たちを殺害した[出典 12]。
- 普段は精巧な覆面を被って端正な顔立ちに見せかけているが、実は顔中に焼けただれた痕がある。これは「電送中に電波が乱れると映像がゆがみ、同時に電送されている物体も溶ける」という電送装置の欠陥によるものである。
- 他の変身人間と異なり、設定上は電送装置を使用しているだけの人間だが、体に電流が走るなど怪人として描写されている[25][12]。合成は、ロトスコープを用いて1コマずつ手作業で行われたとされる[26]。ラストの消滅シーンは、演じる中丸の映像を変型ガラスに投映して撮影し、さらにそのフィルムに合成処理を行っている[26]。脚本を担当した関沢新一は、執筆にあたり科学的な検証は行っていないといい、理屈よりも目で見て納得できることを優先した旨を語っている[27]。
- 検討用台本での戦時中の回想シーンでは、須藤は左目を失い顎も欠けていると描写され[17]、これに準じた特殊メイクのテストショットも撮られているが、本編では用いられなかった[26]。
- 電送人間を演じた中丸忠雄は「お化け役」のように感じたそうで、当時に試写を見て「とんでもない作品に出てしまった」と真っ青になったという。そのため、田中から「『ガス人間㐧1号』のガス人間・水野役をやってくれないか」と声をかけられた際には思わず断ってしまい、しばらく干されてしまったという[28][29]。
キャスト
ノンクレジット
スタッフ
参照[5][6][29]
制作
監督の福田純は、本作品で初めて特撮作品を監督した[出典 13]。本来は本多猪四郎が監督を務めるはずであったが、『日本誕生』の製作遅延によって順延となった『宇宙大戦争』の製作に追われていたため、『空の大怪獣 ラドン』などで助監督を務めた福田が監督に選ばれた[17][14][注釈 14]。特撮班も『宇宙大戦争』の後に『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』が控えていたため、その合間の年末年始にかけて特殊技術の撮影が行われた[17]。本作品では傾斜フレームの構図を多用している[12]。
『恐るべき火遊び』に続いて本作品が監督2作目である福田はおおむねの好評を受けたことにより、以降もアクション作品を中心に監督していく。主演の鶴田浩二は福田の助監督時代から親交があり、彼がキャスティング作業を始める前の時点で主演に決定していた。このことについて、福田は「鶴田との関係を知っていたプロデューサーの田中友幸の配慮があったのではないか」と述懐している[出典 14]。
音楽は池野成が担当した[47]。本作品では場面ごとに印象の異なる楽曲を用いており、映像と音楽の相関的な効果を重視した池野の代表作の1つに数えられる[47]。
視覚効果
本作品における重要なガジェットとして「物体電送機」が挙げられるが、これ自体は当時のSFとしてそれほど珍しいものではなく、本作品以前のアメリカ映画『ハエ男の恐怖』(1958年、日本未公開)にも同様の機械が登場している。本作品で「物体が電送される原理を観客に眼で見て解らせる」ための映像を作り上げることにこだわった円谷英二がそのヒントとしたのが、テレビである[注釈 15]。当時のブラウン管方式のテレビ映像は、画面上にある「走査線」と呼ばれる細かい横縞模様に沿って管内の電子ビームが映像信号をスキャンしていくことによって映像を再生していたが、送受信の不具合によっては乱れた縞模様が発生する場合があった。円谷はこれに着目し、電送人間役の中丸忠雄の上に光学合成で青白く光る細かい横縞模様を焼き込み、「脳天から足の爪先へと徐々に消えていく」という映像を完成させた[7][15]。また、電送機で瞬間移動した直後の犯行中でも、ときどき全身に横縞模様が走ってバリバリと雑音を発するという[12]、芸の細かいところを見せている。
美術助手の井上泰幸は、美術の渡辺明が電送装置のデザインに苦心していたことを証言している[25]。福田は、円谷とともに電送装置のデザインも試行錯誤したといい、撮影時も半信半疑であったが、後年のSF作品で同様のテレポート装置が多く見られるようになり、間違っていなかったと安堵したという[45]。設計は美術助手の立川博章が手掛けており、立川は東京大学の理系の研究所にあったそれらしい装置を参考にしたと述べている[49]。
列車爆破のシーンはミニチュアで撮影された[出典 15]。ワンカットのみではあるが、蒸気を吹きながら自走する精巧なミニチュアが用いられた[7][26]。
クライマックスの浅間山の噴火とそれに伴い崩壊する研究所も、ミニチュアによって表現された[出典 16]。
映像ソフト
| この節の 加筆が望まれています。 (2014年10月) |
備考
アニメ映画『GODZILLA 怪獣惑星』(2017年)の前日譚を描く小説『GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)では、その前巻『GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)で後先を考えずに思いついたアイデアや東宝怪獣を出し過ぎたことから選定に困り、さらなる続編を想定した打ち合わせの際には「ガス人間やマタンゴは無理でも電送人間なら出せるのでは」という考えにまで至ったという[55]。
脚注
注釈
- ^ a b ノンクレジット
- ^ 『海野十三全集 別巻 2』(三一書房、1993年、ISBN 4-38-093538-8)に収録[19]。
- ^ 書籍『東宝特撮怪獣映画大鑑』では、SFドラマとしての面白さを評価しつつも人間ドラマの弱さを指摘しており、平凡な怪奇映画であったと評している[20]。
- ^ 当時は殺人罪に「時効15年」という法制度があった(詳細は公訴時効#かつての公訴時効期間を参照)ため、大西らの刑事責任を捜査当局が問うことはなく、むしろ須藤の報復殺人から護衛することに躍起になっていた。
- ^ 資料によっては、「不明」と記述している[21]。
- ^ 資料によっては、「60キログラム」[22]、「不明」[21]と記述している。
- ^ 書籍『動画王特別編集ゴジラ大図鑑』では、中条昭子と表記している[11][10]。
- ^ 書籍『東宝特撮映画大全集』では、大西正義と記述している[29]。
- ^ 書籍『東宝特撮映画大全集』では、仁木嘉十郎と記述している[29]。
- ^ 書籍『東宝特撮映画大全集』では、吉村と記述している[29]。
- ^ 書籍『東宝特撮映画全史』では、おばけの易者と記述している[35]。
- ^ 書籍『東宝特撮映画大全集』では、地元の警官と記述している[29]。
- ^ 資料によっては、小玉清の役名を地元の警官としている[5][35]。
- ^ 福田は、プロデューサーの田中友幸から本多だけではスケジュールの問題が生じやすいため、彼とは異なるSF路線を育成するとして白羽の矢を立てられたという[45]。
- ^ 当時は多くの映画関係者が、テレビのことを「電気紙芝居」と呼んで馬鹿にしていたという[48]。
出典
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出典(リンク)
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