金生山

金生山
養老山地から望む金生山
(2018年10月20日)
標高 217[1][2][注釈 1] m
所在地 日本の旗 日本
岐阜県大垣市赤坂町揖斐郡池田町
位置 北緯35度24分20.2秒 東経136度34分24.4秒 / 北緯35.405611度 東経136.573444度 / 35.405611; 136.573444[3][注釈 2]
山系 伊吹山地
種類 隆起石灰層
初登頂686年役小角開基[4]
金生山の位置(日本内)
金生山
金生山
金生山 (日本)
金生山の位置(岐阜県内)
金生山
金生山
金生山 (岐阜県)
プロジェクト 山
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金生山(きんしょうざん[5][6][7])は、岐阜県大垣市赤坂町から揖斐郡池田町に跨る[2]伊吹山地の南東端に位置するである。

掘削前の最高標高は217.1 m[8][9][注釈 3]、東西1km、南北2kmの丘陵で、全体が古生代ペルム紀の赤坂石灰岩で構成されている[10]。細かくは金生山、更紗山、愛宕山、月見山、花岡山などのピークの総称だが[5]、日本一の石灰石生産地として山の大部分が削り取られたため、これらのピークは現在はなくなり、明星輪寺のある南東部が残るのみである[11]

概要

数多くの化石を産出することで知られ、「日本の古生物学発祥の地」と呼ばれることがある[12][13]。地質学的価値も高く、フズリナの化石が多く産出し、特にペルム紀中期のネオシュワゲリナ科のフズリナ類について詳しく研究されたため、赤坂世(地質年代)・赤坂統(地層)として日本の中部ペルム系上半の標準層序とされ[14]、かつてはペルム紀中期の国際標準模式地の一つとされていた[15]。山全体が石灰岩の日本有数のその産出地であり、石灰岩、大理石の採掘が盛んに行われており、山容が変わり景観は損なわれつつある[16]

古くから「赤坂山」と呼ばれ、関ヶ原の戦いの記録でも「赤坂山」や「虚空蔵山」と記されているなど[17]、江戸時代までは赤坂山の方が一般的だった[18]。金生山(きんしょうざん)は686年朱鳥元年)の建立とされる明星輪寺山号であり、赤鉄鉱が古くから掘られていたことに由来するとか[5][7]、修験の山として奈良・吉野の金峯山(きんぷせん)になぞらえる中で金生山(きんぷせん・きんふせん)となったなどの説がある[18][19]

その後、明治時代に小字を付ける必要が出たことからピークの1つを金生山とし、やがて山全体の総称となったとみられる[17]。この時点では「かなぶさん」との呼び方もあり[17]1869年明治2年)に明星輪寺より分離した金生山神社(かなぶじんじゃ)や、金生山の南東に位置する大垣市立赤坂小学校(旧赤坂尋常高等小学校)が1905年明治38年)7月8日に制定した校歌の歌詞「高くそびゆる金生山(かなぶやま) 清く流るる杭瀬川」などに残っている[20]。現在は地名辞典[5][6][7]、岐阜県[21]、地理院地図[22]、地質分野[23]、鉱物分野[24]、大垣市史などはいずれも「きんしょうざん」としているが、正式名称が「かなぶやま」だとする主張もある[25][26]

環境

西濃鉄道DE10形501号機。石灰石専用貨物列車を牽引する。

1967年昭和42年)3月17日に、山域は岐阜県の「伊吹県立自然公園」に指定されていたが[16]、現在は指定地域から解除されている[27]。山域に固有種アメイロヒルゲンドルフマイマイなど38種類の陸貝が生息し、「金生山の陸貝と生息地」が1980年(昭和55年)11月11日に岐阜県の天然記念物に指定されている[28]。この他に、「金生山のヒメボタル」が2007年平成19年)12月14日に、「ユウスゲ自生地」が2013年(平成25年)2月21日に大垣市の天然記念物に指定されている[29]。また、1993年(平成5年)2月に岐阜県山岳連盟により、続ぎふ百山のひとつに選定されている[30]

地史

約2億5000万〜2億7000万年前の古生代ペルム紀中〜後期に、海洋プレート上でサンゴによってつくられたとみられる石灰岩がある。当時の海山にできたサンゴ礁の名残とみられる。ペルム紀末にあたる最上部はPーT境界の大量絶滅の痕跡を残している可能性がある。その後、プレートが移動しジュラ紀に海溝で沈み込む際に陸側のプレートにめり込んだ付加体(美濃帯)となり、地殻変動による逆断層隆起して、この金生山の原型ができたと推測されている。そのため、生成された当時のペルム紀の生物の化石が多数採取されている。19世紀の終わりにドイツの古生物学者ギュンベル(Carl Wilhelm von Gümbel)が金生山の化石を紹介したことから、化石の山として世界的に知られるようになったという[13]。採取される化石は主にフズリナ、サンゴ石灰藻ウミユリ巻貝二枚貝であるが、頭足類オウムガイ)のほか三葉虫もある。貝類化石は世界の他地域に比べて巨大な物が多いことで世界に知られ[31]、特にシカマイアという二枚貝やウミユリの化石は世界一の大きさを誇る。2016年5月10日には日本地質学会により、金生山の「ペルム紀化石群」が「岐阜県の化石」に選定されている[12]

金生山の特産種

金生山周辺には以下の陸貝の特産種が生息している[32]

金生山の鉱山・鉱脈

石灰岩

南側の石灰岩の昼飯鉱山とその鉱業関連の事業所

良質な石灰岩大理石があることから、江戸時代より採掘が行われていて大垣城の石垣にも石灰岩が使われている。石灰岩を焼いて石灰にした美濃国赤坂の「美濃灰」は、武蔵国青梅成木の「武州灰」、下野国葛生の「野州灰」と並び、左官石灰として江戸初期の石灰石焼成黎明期から供給されていた[38]1919年大正8年)開業の東海道本線の支線(大垣駅 - 美濃赤坂駅、通称:美濃赤坂線)や1928年(昭和3年)開業の西濃鉄道は、この金生山から採掘される石灰を運搬するために開業した鉄道である。南東山麓に西濃鉄道市橋線乙女坂駅がある。南山麓にあった西濃鉄道昼飯線2006年平成18年)に廃止された。「金生山鉱山」のほか、周辺に「愛宕鉱山」、「河合石灰鉱山」、「清水鉱山」、「昼飯鉱山」などの石灰岩の採掘場があり、関連する以下の事業所がある。

赤鉄鉱

かつて金生山の赤坂地区には露頭の赤鉄鉱の鉱脈が東西200m、幅40m、高さ8m以上の台形状に存在した。豊富な鉱脈は1944年(昭和19年)に、日本軍により採掘され、北九州八幡製鉄所に送られ活用された[50]。この赤鉄鉱から鉄製武器を大量供給できることが、皇位継承を争った壬申の乱大海人皇子の勝利につながったという説がある[51]。また赤坂町には中世、刀鍛冶集団が存在し、「関の孫六」として知られる孫六兼元(2代目兼元)の先代、清関兼元(初代兼元)はこの地で活躍した[52](その後、刀鍛冶集団は関市の地へ移った)。

ベンガラ

弥生時代後期の朝日遺跡で出土した土器は、金生山のベンガラ顔料で彩色されていたことが知られている。平安時代絵巻物には白壁で赤い柱の建築物が描かれているが、平安宮にあった建築物の瓦に付着したベンガラからは金生山で採取されたと考えられるものが見つかっている。江戸時代本草書にも「代赭」もしくは「赤土」と呼ばれた赤色顔料の産地について「和産ハ濃州赤坂ニアリ」と記されている[53]

地理

石灰岩採掘による山容の変遷
帰属:国土交通省「国土画像情報(カラー空中写真)」
配布元:国土地理院地図・空中写真閲覧サービス

北西の池田山から続く山域(池田山塊)の南東端に位置する。西には同様に石灰岩鉱山(伊吹鉱山)がある伊吹山があり、東山麓を揖斐川支流である杭瀬川が流れ、国道417号が通る。南西には垂井町の市街地を挟んで南宮山が対峙している。南山麓を「金生山産業道路」が通り、その南側には岐阜県道216号赤坂垂井線(旧中山道)が通る。

金生山は東西1km、南北2kmの石灰岩のブロック(赤坂石灰岩)で、西側の梅谷層(中生代ジュラ紀)と東側の沖積層とは断層で接している。かつての頂上部には更紗山(標高217m)、愛宕山(同217.1m)、月見山(同130m)と呼ばれる3つのピークがあったが、石灰岩の採掘により現在はいずれも失われている[54][55]。また、愛宕山の正南には花岡山(標高115m)が存在したが、こちらも採掘により姿を消している。

周辺の山

北西側の池田山から望む棚田状に石灰岩の採掘が行われている金生山。その背後に大垣市街地
山容 山名 標高
(m)[56][57]
三角点等級
基準点名[57]
金生山からの
方角と距離(km)
備考
伊吹山 1,377.33 一等
「伊吹山」
西 15.6 日本百名山
滋賀県の最高峰
池田山  923.72 二等
「池田山」
北西 7.0 池田の森
金生山  217[1][2][注釈 1] 0 続ぎふ百山
金華山  328.77 二等
「金花山」
東 19.0 岐阜城
笙ヶ岳  908.33 四等
「笙ヶ岳」
南南西 14.3 養老山地の最高峰
金生山の山頂の明星輪寺上部にある岩巣公園。石灰岩の奇石が多数並んでいる。

周辺

金生山山頂の明星輪寺境内の上部に、2008年(平成20年)3月31日に「岩巣公園」(面積1.10 ha)が開設された[58]。大垣市名勝指定。周辺からは東に濃尾平野を見渡すことができる。2010年(平成22年)10月1日に大垣市景観条例(平成21年3月25日条例第4号)に基づき「明星輪寺の境内地とそこからの眺望」が大垣市景観遺産(風景資産)に指定されている[59]

岩巣公園周辺では、小規模だがカルスト地形の一種であるピナクル(石灰岩柱)と岩石表面のカッレンフェルト(溶食水溝)が見られる[60]

脚注

注釈

  1. ^ a b 現在の標高は地理院地図によれば214m。
  2. ^ 山頂は池田町との境界に位置する「更紗山」と呼ばれた場所に相当。
  3. ^ 山頂の「更紗山」から南に位置する「愛宕山」と呼ばれた場所。

出典

  1. ^ a b 金生山”. 大垣市 (2009年3月10日). 2017年12月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月10日閲覧。
  2. ^ a b c 岐阜県の地名 (1992)、268頁
  3. ^ 地理院地図(電子国土Web)「金生山」”. 国土地理院. 2020年2月15日閲覧。
  4. ^ 岩巣公園”. 大垣市 (2011年1月1日). 2023年10月21日閲覧。
  5. ^ a b c d 『岐阜県の地名』 21巻、平凡社〈日本歴史地名大系〉、1989年7月14日、268-269頁。 
  6. ^ a b 『角川日本地名大辞典21岐阜県』角川書店、1980年9月20日、300頁。 
  7. ^ a b c 『岐阜県地理地名辞典』地人書房、1978年12月25日、20頁。 
  8. ^ 巨大二枚貝の復元模型を展示する「大垣市金生山化石館」の館長、高木 洋一さん”. 大垣地域ポータルサイト西美濃 (2016年11月1日). 2020年2月15日閲覧。
  9. ^ 国土地理院 (1949年1月30日). “2万5千分1地形図「大垣」”. 今昔マップ on the Web. 2020年2月15日閲覧。
  10. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」『赤坂石灰岩』 - コトバンク
  11. ^ 続ぎふ百山 (1993)、29頁
  12. ^ a b 岐阜県の「県の石」”. 日本地質学会 (2016年5月10日). 2020年2月15日閲覧。
  13. ^ a b 日本の古生物学発祥の地 金生山”. 大垣市金生山化石館(化石館だより No.21) (2013年1月). 2020年2月15日閲覧。
  14. ^ 「応用地質用語集」”. 日本応用地質学会 応用地質用語集委員会 (2019年11月25日). 2020年2月15日閲覧。
  15. ^ 「チバニアン」に思う”. 大垣市金生山化石館(化石館だより No.75) (2017年7月). 2020年2月15日閲覧。
  16. ^ a b コンサイス日本山名辞典 (1992)、164頁
  17. ^ a b c 『金生山 ー空と海と石ー』大垣市文化財保護協会、1995年7月16日。 
  18. ^ a b 金生山化石研究会 編『金生山ー西美濃の生いたちをさぐるー』大垣市教育委員会、1997年3月31日、150-153頁。 
  19. ^ 『大垣市域 地名と民俗の歴史』濃飛地名民俗研究会、1999年10月1日、92頁。 
  20. ^ 校歌、大垣市立赤坂小学校
  21. ^ 金生山の陸貝と生息地 - 岐阜県公式ホームページ(文化伝承課)”. www.pref.gifu.lg.jp. 2023年10月20日閲覧。
  22. ^ 地理院地図 / GSI Maps|国土地理院”. maps.gsi.go.jp. 2023年10月20日閲覧。
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  60. ^ 14.赤坂・春日地域の石灰岩と関連する地質現象(+鍾乳洞)”. ジオランドぎふ「モバイル端末版」. 2020年2月23日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク