放送法
放送法(ほうそうほう、昭和25年5月2日法律第132号)は、日本放送協会・放送・放送事業者に関する日本の法律である。 主務官庁は旧・郵政省を経て、総務省情報流通行政局放送政策課となった。同省総合通信基盤局をはじめ、国民保護分野で内閣官房国家安全保障局、放送持株会社で公正取引委員会経済取引局企業結合課、放送大学学園の監督で文部科学省高等教育局私学行政課など、他省庁と連携して執行にあたる。 概要日本での公衆によって直接受信される目的とする電気通信の送信を行う者は、すべてこの法律によって定められたところにより規律される。 放送法は、戦前の無線電信法に代わるものとして電波法、電波監理委員会設置法とともに電波三法の一つとして1950年(昭和25年)5月2日に公布、同年6月1日より施行された。これによって日本放送協会(NHK)は同法に基づく特殊法人と規定されて、社団法人(現・一般社団法人)から公共企業体へと改組されることとなった。 また、NHK以外の事業者(民間放送事業者)の設置が認められて以後の放送に関する基本法となった。その後、1959年(昭和34年)に放送番組審議会の設置義務付け規定の設置や1988年(昭和63年)の全面改正、2010年(平成22年)の有線電気通信を用いる放送の法統合及び条名整理など、さまざまな改正が行われて現在に至っている。 構成目次
目的は、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることにある(第1条)。また、番組編集についての通則として、何人からも干渉・規律されない(第3条)とし、義務として、公安・善良な風俗を害しない、政治的公平、報道は事実をまげない、意見が対立している問題はできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること(第4条第1項)を定めるとともに、放送番組の種別(教養番組、教育番組、報道番組、娯楽番組等)及び放送の対象とする者に応じて編集の基準を定め、それに従い放送番組の編集をしなければならない(第5条第1項)。 放送事業者→詳細は「放送事業者」を参照
まず本法を設立根拠とし、かつ全国に向け公共放送を行うことを主目的とする日本放送協会(NHK)、及び本法の根幹である放送番組編集通則の大幅な適用除外規定を設ける必要が生じる放送大学学園に関する規定が設けられている。 それらを含めて物理的な伝送形態により基幹放送事業者と一般放送事業者に大別し、それぞれについて規定している。また、視聴料の有無の観点からみた、有料放送事業者の規定もある。
その他の事業者放送法において放送に関連する事業者として、基幹放送局提供事業者、有料放送管理事業者、認定放送持株会社及び放送番組センターについても規定している。
改正廃案となった、主要な改正案についても記載する[2]。 1952年改正
1953年改正案廃案となった。
1959年改正案民放の新規開局が盛んだった時期であり、番組規制のあり方が変更された。
1966年改正案廃案となった。
1967年改正
1968年改正案1968年に小林武治郵政大臣が放送法の改正案を明らかにしており、NHK会長の政府任命制、NHK受信料の政府認可制、放送局に対し勧告権をもつ「放送世論調査委員会」の設置、民間放送の事業免許制(1968年現在は施設免許制)などが含まれていた[3]が、政治問題化して実現しなかった。 1982年改正1987年改正
1988年改正全般にわたる見直しを行った。
1989年改正1990年改正
1995年改正
1997年改正
1998年改正1999年改正
2005年改正
2007年改正2001年放送の「シリーズ「戦争をどう裁くか」第2夜「問われる戦時性暴力」」をめぐる紛糾を前提に、日本放送協会が制作する番組の内容を監視するために、NHK経営委員会の監督を強めようとした与党原案に対して、民主党が反対して削除、また、経営委員会の個々の編集への介入を禁止。また、日本国政府が国際的地域を指定した「命令放送」ができたのを「要請放送」「邦人の生命、財産の保護、国の重要な政策にかかる事項」と狭く規定した。その他、インターネット、ワンセグ放送、地上デジタル放送への法律対応など[4]。
2009年改正
2010年改正2010年(平成22年)3月5日の鳩山由紀夫内閣の閣議にて「放送法等の一部を改正する法律案」が決定された。この案では放送関連4法(放送法、有線ラジオ放送法、有線テレビジョン放送法、電気通信役務利用放送法)が新たな「放送法」として統合され、「放送」の定義自体も変更するなど、通信・放送法体系の見直しを60年振りに行うことになった。第174通常国会では衆議院通過も参議院審議未了のまま会期満了により一旦廃案となったが、同年10月に菅直人第一次改造内閣が同文のまま改めて閣議決定し、第176臨時国会へ提出した。 そしてNHKの経営委員会にNHK会長を加えるとの規定の削除や、同じ資本が新聞やテレビなど複数のメディアを支配する「クロスメディア所有」規制の見直しに言及した附則の削除など、修正案に与野党が同意した上で[5][リンク切れ]、11月26日に改正が成立[6][リンク切れ]。12月3日公布され、同日及び翌年3月1日、同月31日にそれぞれ一部、2011年6月30日に完全施行[7]。
2014年改正マスメディア集中排除原則の規制緩和、放送局の県域統合等の規制緩和、国際放送(NHKワールドTV)の恒久化、NHKオンデマンド、NHK Hybridcastの本格的な実施を可能とすることを盛り込んだ改正案が6月27日に公布。1年以内の政令が定める日に施行[8]。
2024年改正2024年5月17日、参議院本会議(第213回国会)で賛成多数で可決された。インターネットを通じた番組提供をNHKの必須業務とすることを柱としている。[9] 政治的公平性に関する問題有限な資源ともいうべき電波の周波数帯域を利用して放送が行われる一方で、テレビ・ラジオ等放送を行うためには膨大な設備投資を行う必要と反面で巨大な利権となりうる可能性、放送された内容が大きな社会的・政治的影響力を持つ可能性があるため、その利用の公正さの確保と政治からの独立確保が問題となる。また、放送法および電波法に違反した場合には、電波法第76条[10][11]を根拠とした無線局の運用停止や免許の停止・取り消しなどを行うことができると電波法に規定されている。そのため、具体的には、あらたな無線局の免許を出す際に誰に出すかをめぐって、あるいは、もし免許の制限・停止・取消等を行う際にはその公正さをめぐって、また、それらを武器に政府側が放送内容に干渉を行わないか、それらが放送事業者に委縮効果をもたらさないかといったことが、問題となりうるとされてきた。 また、放送法第一条第二項では「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」、第四条第一項第二号では放送事業者が「政治的に公平であること」が定められている。 これについて、法曹家には元東京第二弁護士会会長の川端和治のように、戦前のマスコミに言論統制が課され、それがもたらした苦い経験に鑑み、第一条第二項は政府側に課されたものであり、第四条第一項二号は放送事業者へのあくまでも倫理規範だとする説も強い[12]。しかし、政府側は、第四条第一項二号に放送事業者が反した場合、免許を取り消すことも出来るとの立場をとってきた。ただし、その場合も、あくまで一つ一つの番組についてではなく、放送事業者の番組全体を見て判断すべきとの見解であった[13]。 しかし、2015年5月当時の高市早苗総務大臣は、参院総務委員会で内容が極端な場合は一つの番組であっても問題になりうるとの総務省見解を披歴、さらに2016年2月の衆院予算委員会では、政治的公平さの欠落を理由とした免許取消も一般論としてありうることを述べた。なお、令和2年12月発行の情報通信振興会『放送法逐条解説』(金澤薫 (元総務事務次官)監修)では「放送される番組全体を見て判断すべき」と記載された従来の内容は変更しなかった[14]。 2018年、当時の内閣総理大臣だった安倍晋三は総務省や日本民間放送連盟(民放連)などに対して、放送法第四条の撤廃を検討していることを明らかにした。しかし、政治的公平性撤廃の代わりとして、外資規制やマスメディア集中排除原則などについても廃止を容認するよう要請したことから、当時民放連副会長で日本テレビ放送網社長だった大久保好男を始めとした放送局や新聞社が激しく反発したため、安倍によるこの改革案は撤回となった[15]。 2023年3月、立憲民主党の小西洋之参議院議員の国会質問により、この一連の動きが当時の安倍官邸側からの「今までの解釈がおかしい」との働きかけによるものであることが明らかにされた[12]。官邸圧力による解釈変更ではないかということが問題とされる中、松本剛明総務相は、一つの番組であっても内容が極端な場合には問題になりうるとの高市見解を踏襲、さらにこれは当初1964年の政府参考人答弁から変わるものでなく、解釈を変更したものではないとの見解を主張した[16]。 主な事件・処分以下に、放送法に違反したとされる実例を記載する。
その他の事件・処分
脚注
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