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この項目では、多島海の一般的な内容について説明しています。フィンランド領海で「多島海」の名前を持つ海域については「フィンランド多島海域」をご覧ください。 |
多島海(たとうかい)は、多数の島嶼が存在する海域である。
英語の archipelago(アーキペラゴ)に対する訳として用いられる。この語はもとは「多数の島を含む海域」すなわち多島海を意味していたが、現代ではほぼ例外なく「多数の島嶼」(諸島・列島・群島)を指す言葉となっている[1][2]。
名称
英語の archipelago(アーキペラゴ/アーチペラゴ)は、もともとギリシア語の Arkhipélagos(Αρχιπέλαγος; ἄρχι-〈最初の〉+ πέλαγος〈海〉)、すなわちエーゲ海を指した固有名詞に由来する[3]。かつては英語でも語頭を大文字とし定冠詞を付した the Archipelago はエーゲ海のことを指し、エーゲ海のように島の多い海域(多島海)をも意味するようになった。しかし現代英語ではアーキペラゴが「多島海」を意味する用法はごく少なく、むしろ「多数の島」(諸島・列島・群島)を指す言葉として使われる。ただ、Archipelago が固有名称に用いられる海域(あるいは群島)に「多島海」という訳が宛てられる例も稀にはある。
- エーゲ海(英: the Archipelago) - 地中海の一部
- フィンランド多島海域(芬: Saaristomeri サーリストメリ、英: Archipelago Sea) - バルト海の一部
地理
土地が沈降するなどして、海水が陸地に浸入してできた複雑な海岸地形を沈水海岸という。この沈水海岸において、更に沈降が進んだり、海面が上昇したりすると、かつての山地の頂上部分だけが海面に頭を出し、多くの島ができる。比較的狭い海域に集中する2つ以上の島嶼の集まりを島嶼群、大規模な島嶼群を諸島といい、諸島のうち列状に並ぶものは列島、塊状の形状をなすものは群島と呼ばれる。
このようにして多くの島々ができた海域を多島海という。ギリシャのエーゲ海をはじめ、地球上には多くの多島海が存在する。多島海で構成された国としては、インドネシア、日本、フィリピン、ニュージーランド、イギリスが挙げられる。そのうち最大の多島海がインドネシアである[4]。
主な多島海
エーゲ海
エーゲ海は、地中海の東北部にある海域で、ギリシャ本土、アナトリア半島、クレタ島に囲まれ、約2,500の島々が浮かぶ。主要な島としては以下が挙げられる。
バルト海
バルト海は、ヨーロッパ大陸本土とスカンジナビア半島に囲まれた海域。海域北部にはボスニア湾、東部にフィンランド湾・リガ湾、南部にはグダニスク湾などの湾があり、多数の島を含む。後述するフィンランド沿岸を除く海域には主に以下の島々がある。
フィンランド
バルト海のうちフィンランド沿岸にはサーリストメリとも呼ばれる多島海域(英: Archipelago Sea)がある。沿岸の主な島々は以下の通り。
イギリス
イギリスは、ブリテン諸島で構成される多島海国家。グレートブリテン島とアイルランド島の2つの大きな島と、その周囲の大小の島々からなる。特にスコットランド地方沿岸には700もの島がある。
北アメリカ
カリブ海
カリブ海は、カリブ諸島(西インド諸島)、フランスやオランダではアンティル諸島とよばれる多島海である。アメリカのフロリダ半島南端、および、メキシコのユカタン半島東端から、ベネズエラの北西部沿岸にかけて、少なくとも7000の島、小島、岩礁、珊瑚礁がカーブを描くようにして連なる。
西インド諸島は、次のいくつかの諸島に分けられる。
- バハマ諸島 - 約700の島がある。うち、30の島が有人島。
- アンティル諸島
日本
日本も多島海国家である。日本の領土はすべて島から成っており、14,125の島々で構成される島国である[注 1]。
ここでは多島海景観で有名なものを挙げる。
フィリピン
フィリピンは、大小合わせて7,109の島々から構成される多島海国家である。
インドネシア
インドネシアは、多数の島嶼を抱え、大小の18,110もの島々により構成される。
その他
多島海文明
経済史家の川勝平太は、『文明の海洋史観』や『文明の海へ』といった著書において、近代文明の勃興には海洋国家(ヴェネツィア、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス)が大きく関与したとし、「海洋史観」を提唱している[9][10]。そのなかで、「多島海文明」という概念を提出し、世界史は「陸の文明」から、「海洋への離陸期」の近代を経て、「多島海文明」に向かっているとした[10]。また「西太平洋世界は多島海である」とする「西太平洋の多島海文明」についても言及した[10]。
人文思想における多島海
人類学者の今福龍太は『群島—世界論』において、カリブ海出身の詩人エドゥアール・グリッサンなどを紹介しながら、「カリブ海の詩人たちは、どこに生まれようと、ついには群島的な出自を持つにいたる。それぞれの故郷である固有の島にたいする生得的な帰属は、あるとき、より広汎で接続的な、カリブ海島嶼地域全体にたいする帰属意識へと置き換えられる。そして彼らの住み処はこの多島海、この群島全体にひろがってゆく。」とカリブ海の詩と多島海との関係について考察している[11]。
フィクションにおける多島海
フィクション作品においても『ゲド戦記』の「アースシー」や『アタゴオル』の「銀しぶき海」など、架空の多島海を舞台にしたり、架空の多島海が登場したりする作品がある。
脚注
注釈
出典
関連項目
外部リンク