『劇場版 マクロスF』(げきじょうばん マクロスフロンティア)は、サテライト、エイトビット[注 1]制作の日本のアニメーション映画。2008年放送のテレビアニメ『マクロスF』の劇場版2部作である。
2009年に前編『劇場版 マクロスF 虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜』(げきじょうばん マクロスフロンティア イツワリノウタヒメ)、2011年に完結編(後編)『劇場版 マクロスF 恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜』(げきじょうばん マクロスフロンティア サヨナラノツバサ)が公開された。
2021年に『劇場短編マクロスF 〜時の迷宮〜』(げきじょうたんぺんマクロスフロンティア ときのめいきゅう)が公開された[3]。
テレビアニメ『マクロスF』(以降、「テレビ版」と表記)を原典に、劇場版として再構築した作品。2008年11月のテレビ版最終話(第25話)終了後のCMにて「劇場版マクロスF始動」と発表し、その後2部作となることが決まった。2009年11月に前編『虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜』、2011年2月に「完結編」と銘打たれた後編『恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜』が公開され、2007年のTVスペシャルから始まった『マクロスF』シリーズを締めくくった。前編、完結編の総動員数は95万人以上を記録[4]。
テレビ版の総監督である河森正治は、劇場版では監督として制作を指揮する。テレビ版の監督の菊地康仁は演出にまわったが、テレビアニメ『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』を担当するため、完結編には監修として参加。代わって、河森と付き合いの長い佐藤英一が副監督に就任した。テレビ版に続き、脚本は吉野弘幸、音楽は菅野よう子が担当する。
河森はテレビ版の制作やライブイベントの開催を通してエンターテインメントの力を再確認し[注 2]、「絵でしかないアニメでも、いろんな要素を掛け合わせて、密度を上げていけば、頭でなく心や魂をダイレクトに揺さぶる領域に達することができる[5]」と感じた。劇場版の制作については「ライブ感覚[6][7]」や「エンターテインメントの臨界点を超える[6][7]」というキーワードを挙げ、「歌、セリフ、SE、映像が全部ミックスされたとき、一種の感覚洪水が起きるように試みているんです。それには映画館という舞台が不可欠になってくると思います[6]」と語っている。
河森の作品では、テレビシリーズから映画やOVAへと展開する過程で、ストーリーや人物設定を大胆に脚色している例が多いが[注 3]、『マクロスF』の場合は内包する要素が多岐に渡るため、初見の人でも分かるよう映画として構築するのは難しかった[8]。そこでダブルヒロインのひとりであるシェリル・ノームの設定を変え、「銀河の妖精と呼ばれるトップスターの少女がスパイかもしれない[8]」というミステリーを軸に、ドラマや人間関係を再構成する方法を選んだ。このアイデアを製作委員会で切り出した時は、賛否両論真っ二つだった[9]。物語はテレビ版と似た状況から始まるが、時系列的には「劇場版の始まる数年前にTVシリーズとの分岐点があって、そこからドミノ倒し的に、いろいろなことが変化している[10]」展開となる。テレビ版と異なる結末については、どちらが正史という訳ではないとしている[11][注 4]。
登場人物の精神年齢は若干高く設定されており、状況に対してテレビ版とは異なる決断や行動をとる。「何かを選択する過程を通じて成長していく姿」が作品のひとつのテーマとなっている[12]。テレビ版からファンの関心を引きつけた三角関係の行方にも、ひとつの答えが示される。河森はラストシーンについて、単なる恋愛感情を超えた人間のつながりを見つけ出したり、その次への始まりになれたらいいな、という思いを述べている[11]。
音響設計は映画用5.1chサラウンド仕様となり、大画面・大音響による「戦場ライブ」のような空間を目指している[13]。ふたりの歌姫のライブステージには「時計の歯車」「工場船」「錬金術」「魔法少女」といったテーマを設定し、3DCGやモーションキャプチャ、実写などの素材を交えたミュージカル風の演出を行っている。河森は「初めて聞くからこそインパクトのある曲もあれば、耳になじんでるからこそ前と違うシーンとの融合でぐっと来る曲もあって、配置やバランスには気をつけました[14]」と語っている。
メカニックデザインは主役機として、前編にはVF-25/TW1 メサイア トルネードパック仕様、完結編には新デザインのYF-29デュランダルが登場する。テレビ版のCGアクションは意図的にスピード感を抑えたり、情報量を省いた部分もあったが[13]、劇場版では大画面向けに再設計を行っている。本格的な市街地戦闘や大気圏内での高速空中戦、大型艦マクロス・クォーターの活躍などが見所となっている。
2009年11月21日公開。1995年上映の『マクロスプラス MOVIE EDITION』『マクロス7 銀河がオレを呼んでいる!』以来、14年ぶりの「マクロスシリーズ」の劇場用作品となる。キャッチコピーは、シェリルを描いたキービジュアル第1弾を掲載したティーザーポスターでは「歌で銀河が救えるわけないでしょ」、シェリルとランカを中心に描いたキービジュアル第2弾を掲載した本ポスターでは「歌で銀河が救えるわけないでしょ!」に「でも私、歌いたいんです」と続く[15][注 5]。
当初はテレビ版からの流用を含めて「総集編プラスアルファ」「新規作画は3割」とされていたが、登場人物の新コスチュームや新曲ライブシーン、メカデザインの改稿などが加わり、新規作画7割、再撮影9割、アフレコは全編新録音となった。物語はシェリルのマクロス・フロンティア船団来訪に始まり、おおむねテレビ版第7話までの展開をたどるが、クライマックスにはテレビ版終盤の要素も加わっている。河森は「テレビシリーズに沿っているのは前編の最初の1時間くらいかもしれないですね。以降はほぼオリジナルストーリーと思って頂いていいかもしれません[17]」「完結編を見終わって、もう一度前編を見ると、新しく発見できることがある。そういう風に設計して作っています[18]と語っている。
封切り時の上映館は30館。当時のハイターゲット向けアニメの興行形態である小規模公開での封切りながら、2009年11月21、22日の映画週末興行成績で第9位を記録し[19]、1スクリーンあたりの平均興行収入ではトップとなった[注 6]。公開後2週間で観客動員22万人を突破し[20]、最終的に興行収入6.5億円を記録した[2]。
第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査員推薦作品に選出された。
2018年6月8日からは、『マクロスF』10周年記念としてTOHOシネマズ各劇場にてMX4D️版が公開された[21][22]。
2011年2月26日公開。サブタイトルの「恋離飛翼」は、男女の仲睦まじいさまをあらわす中国の故事「比翼連理」にちなんでいる(「楊貴妃」を参照)。公開までに3つのキービジュアルとキャッチコピーが発表されており、第1弾は「歌は魔法☆」、第2弾は「歌は祈命(いのち)」、第3弾は「歌は死なない。」。
物語は前編エンディングの3か月後から始まり、新規作画のオリジナルストーリーでクライマックスへと進行する。戦闘・歌・恋愛・謀略といった要素が目まぐるしく展開し、菅野は「まるでディズニーランドのアトラクションに乗っているような体感とエンターテインメント性を感じました[23]」と感想を述べている。河森は「2時間弱の中に詰め込めるだけ歌を詰め込み、それでも作品として成立しうるかが、トライしたところですね[14]」と語っている。
前編同様、全国38スクリーンの小規模公開ながら、2011年2月26、27日初日2日間で興業収入約1億1,800万円、動員約8万1,800人を記録。映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)では初登場第4位、1スクリーン当たりの平均興行収入では他を大きく引き離し約310万円を記録した[24][25]。また、ぴあ初日満足度ランキング(ぴあ映画生活調べ)では第3位に評価されている。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の震災により、東北・関東地方の上映館では一時休館・スケジュールの変更などの影響を受け、関連イベントの一部は中止・延期となった。マクロスF公式サイトでは被災地支援のため「マクロスフロンティア義援金口座」を開設し、制作スタッフからのメッセージ付きイラストを公開した[26]。
第16回アニメーション神戸作品賞・劇場部門[27]、および2011年のニュータイプアニメアワード作品賞(劇場上映作品)[28]を受賞した。
2018年11月9日からは、『イツワリノウタヒメ』と同じく『マクロスF』10周年記念として、TOHOシネマズ各劇場にてMX4D版が公開された。同年11月11日にはTOHOシネマズ新宿で、ランカ・リー役の中島愛が舞台挨拶を行った[29]。
2021年10月8日公開。『マクロスF』単独作品としては『サヨナラノツバサ』以来10年ぶりの新作となる。キャッチコピーは「この声、聴こえてますか[30]」。同時上映は『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』[3]。
2021年2月6日、オンライン番組「#エアマクロスF ライブ 2021」で製作情報が発表された。この日は10年ぶりの単独ライブ「マクロスF ギャラクシーライブ 2021~まだまだふたりはこれから!私たちの歌を聴け!!~」(東京・国立代々木競技場第一体育館)の2日目が予定されおり、本来であればそのステージで発表されるはずだったが、新型コロナウイルス感染症の流行拡大のためライブは11月に延期となった[31]。
西暦2009年、巨人種族ゼントラーディとの間に勃発した第一次星間大戦において絶滅の危機に瀕した地球人類は、種の保存のため大規模な移民船団を作り、銀河系各方面へと旅立っていった。50年後の西暦2059年、銀河系中心宙域を旅するマクロス・フロンティア船団において、マクロス・ギャラクシー船団の人気歌手シェリル・ノームのライブが行われた当日、巨大な昆虫型宇宙生物バジュラの群れが襲来し、人類対地球外生命体の新たな戦いが始まる。
その最中で、パイロットを目指す少年、早乙女アルトと歌手を夢見る少女、ランカ・リーはシェリルと巡り会う。アルトは民間軍事企業S.M.Sに入隊してバジュラとの戦いに身を投じ、ランカはアイドルを目指して下積みの仕事に励む。シェリルはギャラクシー船団からのスパイではないかと疑われ、3人の間には恋愛と疑いの感情が交錯する。
バジュラの襲撃によりギャラクシー船団は壊滅し、フロンティア船団もバジュラ艦隊の攻撃を受ける。市街地の激戦において、シェリルとランカの歌声から伝わるフォールド波がバジュラの活動に影響を与えることが分かる。ふたりはフォールド波を放つフォールド細菌の宿主(キャリア)だったが、生まれながらに共生関係にあるランカの能力が覚醒する一方、免疫を持たないシェリルは声帯を蝕む死の病に侵されていく。
3か月後、バジュラを操り銀河系征服をもくろむ為政者の野望があらわとなる。フロンティア政府は難民船団に潜むギャラクシー船団幹部のクーデター計画を制圧し、歌姫の力を利用してバジュラネットワークを掌握する。バジュラを物理的に支配し、希少資源フォールドクォーツが眠るバジュラ母星へと侵攻するが、土壇場でギャラクシー勢力の再蜂起にあい船団を乗っ取られる。S.M.Sは人類の暴虐を食い止めるため、旗艦マクロス・クォーターで単独追撃する。
決戦を迎えてランカはアルトに思いを告白し、アルトはシェリルとの縁(えにし)を知る。アルトはふたりの歌声をバジュラに伝えるためYF-29デュランダルに乗り、大空に黄金色の舞を描く。群れの中枢たるバジュラクイーンをギャラクシーの支配から解放するが、直後に援軍から一斉砲撃を浴びる。爆発間際、アルトはシェリルとランカに己の気持ちを伝え、バジュラクイーンと共に超空間転移(フォールド)して姿を消す。
1か月後、フロンティア市民はバジュラ母星への入植作業を行う日々を過ごしている。生命を賭して歌ったシェリルは静かに眠り続け、ランカはアルトの帰還とシェリルの目覚めを信じて歌を捧げる。
フロンティア船団とバジュラの戦いから数年後[32][注 7]、ランカはライブツアー「From Me, To You」の途中、突如フォールド反応に襲われ、護衛のS.M.Sメンバーら[注 8] とともに古代星間文明種族プロトカルチャーの末裔が残したという「魂の井戸」と呼ばれる遺跡に向かう。ライブでの歌に反応した遺跡が動き出し、アルトの呼び声を感じ取ったランカはそのなかへ飛び込んでゆく。
記憶に反応して出現したプロジェクションのなかでランカは、アルトが戻ってきてシェリルを目覚めさせることを望みながら、懸命に歌う。その歌は眠りつづけるシェリルの潜在意識[34]にも届き、現れたシェリルのプロジェクションと合わさったふたりの歌が遺跡のフォールド波を増大させ、やがて遺跡から一筋の光がアルトのいる方向[35]へと伸びてゆく。歌いきったランカは空に手を伸ばし「もう絶対逃がさない」とつぶやく。
各メカの詳細な解説については、テレビ版の記事と下記のリンク先を参照。登場人物と同じく、ここでは簡潔な解説とともに劇場版での動向と変更点を記述する。
フロンティア船団を襲う宇宙生物。
劇場版で追加されたのは以下のタイプ。
映画公開前後には、マクロス船団の生活を疑似体験する「街中アイランドワン計画[51]」というコンセプトのもと、各企業とタイアップした期間限定の宣伝活動を行った。
特記なき場合は前後編、共通。
※は劇場版用の新曲。他はテレビ版より流用、またはアレンジバージョン。
2012年11月25日、アニメ専門チャンネルのアニマックスで、『イツワリノウタヒメ』と『サヨナラノツバサ』が連続放送されたのが、テレビ初放送事例[注 10]であった(『イツワリノウタヒメ』が19時 - 21時10分、『サヨナラノツバサ』が21時10分 - 23時20分)。アニマックスではこれに先駆けて劇場版マクロスシリーズ全作品を放送するなど、大々的な企画編成を実施した。2013年2月11日の再放送では、『イツワリノウタヒメ』がスカパー無料開放デーに編成され、初の無料放送を実現している。
地上波ではTOKYO MXが、2015年12月31日放送の『マクロスΔ』特別番組に先駆ける形で、12月29日に『イツワリノウタヒメ』、12月30日に『サヨナラノツバサ』を放送したのが初の事例。放送時間はいずれも18時 - 20時30分。本編はノーカットで、『dシュディスタb BOX』(後述)の追加映像が付かない通常ソフト版であった。
2023年、『マクロスF』放送15周年記念として、BS12日曜アニメ劇場にて3月12日に『イツワリノウタヒメ』、3月19日に『サヨナラノツバサ』を2週連続放送した[75][76]。9月3日、10日、同番組にて再度放送された[77][78]。
最初のブルーレイソフトは映画本編とPlayStation 3 (PS3) 用コンピュータゲームを収録した"Hybrid Pack"として発売された。通常のブルーレイ再生機の場合は映像のみ、PS3の場合は映像とゲームを利用することが可能。
2015年末に発売された廉価版(税抜5,000円)には、新規録音のオーディオコメンタリーが収録されたほか、江端里沙・天神英貴の描き下ろしスリーブケースが付属する。
DVDソフトは映像(映画本編と特典映像)のみで、ゲームは収録されていない。また、容量の都合から本編ディスクと特典ディスクの2枚に分割して収録されている。映像特典や付属品、初回特典などはブルーレイ版と同様。
前述したPS3用『マクロストライアルフロンティア』『マクロスラストフロンティア』については、そちらを参照。このほか、『マクロストライアングルフロンティア』(2011年2月3日発売)に『イツワリノウタヒメ』が参加している。
バンダイナムコエンターテインメントより発売されているシミュレーションRPGテレビゲームソフトシリーズ「スーパーロボット大戦シリーズ」のシリーズ数作品にも登場(シリーズでは「参戦」と呼称する)している。
ブシロードから発売されているトレーディングカードゲーム・『ヴァイスシュヴァルツ』(および同ゲームのPSP版『ヴァイスシュヴァルツ ポータブル』)にも参加している。
小山鹿梨子著。シェリルを主人公とするオリジナルストーリー。単行本の背表紙では『劇場版マクロスF 〜イツワリノウタヒメ〜 シェリル キス・イン・ザ・ギャラクシー』と表記されている。劇場版のストーリーをそのままなぞっているわけではなく、テレビシリーズとも劇場版とも違うオリジナルのストーリーとなっている。
原案協力は河森正治。テレビシリーズや劇場版では時間が足りないために描ききれなかった芸能界や学園生活の部分をより強調した作品が作れないかということで、「マクロスシリーズ」としては異例の少女漫画となった[83]。隔月刊の『別フレ2010』7月号(講談社)より『別フレ2011』3月号まで5話が連載され、最終話は単行本第3巻に描き下ろしで掲載された。 完結後、『別フレ2012』5月号、夏号において、幼少期のシェリルとアルトの出会いに焦点を当てた「空色トパーズ」、シェリルとランカがバジュラ本星で行方不明になっていたアルトとブレラに再会する「エターナル エメラルド」の2編が掲載された。これらを収録した単行本第4巻には後日談としてシェリルとアルトの仲睦まじい様子を描いた「ゴールデンハニートラップ!」「RING a Ding Dong♪」が描き下ろしで掲載されている。
『マクロスFF』(マクロスフォルテシモ)は、喜久屋めがね(原案・監修 - 河森正治)の漫画作品。『ニュータイプエース』2012年発売の第10号から2013年発売の第19号まで連載された。劇場版前編『イツワリノウタヒメ』と完結編『サヨナラノツバサ』の間に位置するエピソードを描いている。単行本は2013年3月26日、角川コミックス・エースより全1巻 (ISBN 978-4-04-120629-4) が発売された。
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