第15族元素(だいじゅうごぞくげんそ)は、周期表において第15族に属する窒素・リン・ヒ素・アンチモン・ビスマス・モスコビウムのこと。窒素族元素、V族元素(ごぞくげんそ)、プニクトゲン (またはニクトゲン、pnictogen)とよばれることもある。プニクトゲンの名はギリシャ語のπνίγειν(pnigein)が語源で、窒素の特性である「窒息する」を意味する。
15族は窒素族とも呼ばれるが、特にプニクトゲンと呼ぶ場合は窒素(N)を除外する。これは窒素が非金属であるのに対し、他の元素(P、As、Sb、Bi)は半金属元素であり特性が異なるためである。
これらの単体は古くから知られており、ヒ素、アンチモン、ビスマスは近代以前に知られていた。リンが17世紀、窒素は18世紀の発見である。
性質
第15族元素は価電子に ns2np3 の5電子を持つ電子構造を有する。
|
窒素
|
リン
|
ヒ素
|
アンチモン
|
ビスマス
|
モスコビウム
|
電子配置 |
|
|
|
|
|
|
第1イオン化エネルギー (kJ·mol−1) |
1402 |
1012 |
947 |
834 |
703 |
-
|
電子付加エンタルピー (kJ·mol−1) |
- |
- |
- |
103.23895 |
- |
-
|
電子親和力 (kJ·mol−1) |
-6.75 |
72.0 |
- |
- |
- |
-
|
電気陰性度 (Allred-Rochow) |
3.07 |
2.06 |
2.20 |
1.82 |
1.67 |
-
|
イオン半径 (pm, M3−) |
132(4配位) |
- |
- |
- |
- |
-
|
イオン半径 (pm, M3+) |
- |
58(6配位) |
72(6配位) |
90(6配位) |
117(6配位) 131(8配位) |
-
|
イオン半径 (pm, M5+) |
27(6配位) |
31(4配位) |
48(4配位) 60(6配位) |
74(6配位) |
90(6配位) |
-
|
共有結合半径 (pm) |
75 |
106 |
119 |
138 |
146 |
-
|
van der Waals半径 (pm) |
155 |
180 |
185 |
- |
- |
-
|
融点 (K) |
63.14 (N2) |
44.1 |
1090 (3.6 MPa) |
903.78 |
544.4 |
-
|
沸点 (K) |
77.35 (N2) |
280 |
887(昇華) |
1860 |
1837 |
-
|
還元電位 E0 (V) |
- |
- |
+0.25 (M3+/M) |
+0.21(M3+/M) |
+0.32(M3+/M) |
-
|
第15族元素単体のうち、窒素のみが常温で気体であり、ほかは固体である。また窒素とリンの価電子は混成軌道を形成し、共有結合物質として振舞う。一方、第4周期のヒ素より周期の大きい単体は、共有結合性と金属との性質を併せ持つ物性を示し半金属と呼ばれる。これらのヒ素、アンチモン、ビスマスは混成軌道を形成するよりは、2つの電子が占有したs軌道と、3つの1つずつ電子が存在するp軌道として振舞うので、酸化数は+3と+5が安定である。
第15族元素の一部は炎色反応を示す。
リン (リン酸イオン) |
ヒ素 |
アンチモン
|
淡青色 |
淡青色 |
淡青色
|
第15族元素は半導体デバイスにおいて重要な役割を演じる。第14族元素の真性半導体に対して、第15族元素と第13族元素の化合物から形成される半導体をIII-V族半導体と呼ぶ。III-V族半導体のバンドギャップは可視光領域に相当するため、発光ダイオード・半導体レーザーなど光デバイスの素材として重要である。また、真性半導体に第15族元素を微量ドーピングすることでN型半導体を形成する。
水素化物
第15族元素は一般式 MH3 で示される水素化物を形成する。いずれの水素化物も三角錐状の構造をとるが、アンモニアのみが傾向よりも高い沸点を示し、水素結合を形成する性質を有する。
水素化物の種類
酸化物
窒素とリンは多様な酸化状態を持つ酸化物を形成するが、窒素は酸化数が大きいほど自由エネルギーが大きく不安定であり、酸化数0の単体窒素が最も自由エネルギーが小さくて安定な為、窒素酸化物は酸化剤として利用されるものが多い。一方、リンの酸化物はいずれも単体リンよりも自由エネルギーが小さく、酸化数が大きいものほど自由エネルギーが小さくて安定である。それゆえリンの酸化物は酸化剤としては利用されない。
一方、ヒ素、アンチモン、ビスマスは酸化数+5に比べ+3が安定化しているので、いずれも一般式 M2O3 で表される酸化物が安定である。
ハロゲン化物
第15族元素は一般式 MX3 もしくは MX5 で表されるハロゲン化物などを生成する。
リンのハロゲン化物は、有機化学においてヒドロキシ基、カルボン酸を相当するハロゲン基、酸ハロゲン化物に変換する試薬として利用される。
関連項目