ユジャ・ワン [ 注 1] (中国語 : 王 羽佳 、Yuja Wang、1987年 2月10日 - )は、中国 出身のピアニスト 。
概要
6歳からピアノを習い始め、北京の中央音楽学院 、フィラデルフィア のカーティス音楽院 で学ぶ。2000年代後半より世界各地の指揮者やオーケストラと共演、ドイツ・グラモフォン での録音もおこない、技巧、表現、公演におけるカリスマ性ともに高く評価されている。また、グラモフォン 賞などいくつもの賞を受賞している。おもなレパートリーとしてはラフマニノフ やプロコフィエフ 、スクリャービン といったロシアの近現代音楽 が挙げられるが、ベートーヴェン やシューマン 、モーツァルト やバッハ などのドイツのバロック ・古典派 ・ロマン派 ・現代音楽の作曲家にも取り組んでいる。
来歴
カーティス音楽院卒業まで
1987年 2月10日 にパーカッショニスト の父とダンサー の母のもと、北京 の音楽一家に生まれる。両親が結婚祝いとして貰ったピアノ でメロディに親しみはじめ、6歳よりピアノのレッスンを開始した。母からはダンサーとなることを望まれていたが、体が硬かったため挫折したという。また、パーカッショニストだけでなく譜面起こしの仕事もしていた父はリズムに厳しく、完璧であることを求められたとも語っている。ピアニストになることを意識し始めたのは7、8歳のころであるという。
7歳のときより3年間北京の中央音楽学院 にて学んだ。このころはブラームス以前の標準的なレパートリーに取り組み、曲を細部まで完璧に仕上げるよう指導されたという。1999年に12歳で奨学金を得て、カナダ のカルガリー のマウント・ロイヤル・カレッジ (英語版 ) におけるモーニング・サイド・ミュージック・サマー・プログラムに当時最年少で参加。2001年には仙台国際音楽コンクール で3位に入賞。同年にはマウント・ロイヤル・カレッジにフルタイムで通い始め、スタインウェイ・アーティスト にも選ばれている。15歳からはアメリカ合衆国 フィラデルフィア のカーティス音楽院 にてゲイリー・グラフマン に師事したほか、レオン・フライシャー
の薫陶も受けた。また17歳のときにはマイケル・ティルソン・トーマス と出会い、以降師と仰ぐことになる。
この間2002年に、アスペン音楽祭 のコンチェルト・コンペティションで優勝を果たし、翌年デイヴィッド・ジンマン 指揮のチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 の共演でヨーロッパ・デビューを果たしている。2005年にはラドゥ・ルプ の代役としてピンカス・ズーカーマン 指揮の国立芸術センター管弦楽団 と共演し、メジャー・コンサート・デビューを果たした。さらに2007年 3月には、マルタ・アルゲリッチ の代役としてシャルル・デュトワ 指揮のボストン交響楽団 と共演、カーティス音楽院を卒業した翌2008年にはマレイ・ペライア の代役も務め、21歳で世界的な名声を獲得した。
カーティス音楽院卒業後
2009年 にドイツ・グラモフォン と契約し、ショパン 、スクリャービン 、リスト 、リゲティ の楽曲を演奏した『ソナタ&エチュード』を発表。同年には、ロレックス の文化大使にも選ばれている。その後2011年にカーネギー・ホール にて、ソロ・リサイタル・デビューとなる公演をおこなった。
2011年以降も、2012年のサンフランシスコ交響楽団 とのアジア・ツアーや2019年のシュターツカペレ・ドレスデン とのツアーなど、大御所から若手まで数多くの指揮者のもと世界各地のオーケストラと共演。2017年にはミュージカル・アメリカ (英語版 ) 年間最優秀アーティストに選ばれ、同年以降マーラー室内管弦楽団 およびヨーロッパ室内管弦楽団 において弾き振り もおこなっている。2018年の『ベルリン・リサイタル』が高い評価を受けるなど、ドイツ・グラモフォンでのスタジオおよびライブでの協奏曲・室内楽・独奏曲の録音も継続的におこなっており、複数の賞を獲得している。
評価と発言
演奏について
幼少時にはピアノ教師から手が小さすぎるためプロのピアニストになるのは難しいと言われており、成人後も小柄[ 注 3] であるが、彼女の演奏はそれを感じさせないと評されている。超絶技巧を要する曲を正確に弾きこなすだけでなく、深い洞察力や新鮮な解釈、情緒的な表現においても評価されている。 パーカッショニスト である父の影響もあり、しばしば優れたリズム感覚[ 注 4] について指摘される。また、対位法 の明快な解釈を評価する批評もある。また下田 (2017 , pp. 66f.) は、ショパン 『ピアノ・ソナタ第2番 』の演奏が論理的かつシリアスであると評し、ピアニスト像の目標としてピエール=ローラン・エマール 、ミハイル・プレトニョフ 、グリゴリー・ソコロフ 、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ 、ウラディミール・ホロヴィッツ を挙げていることからも派手な外見と演奏マナーとは裏腹の大変真面目な部分が見える と述べている。
ステージにおけるドラマティックで活気あふれるカリスマ的な魅力についても、耳の肥えた聴衆からクラシック初心者まで幅広く好評を博している。躍動的な演奏は、アスリートさながらと評されることもある。またソロ・リサイタルにおいては、しばしば直前まで数度に渡って演奏曲目を変更することでも知られている。なおIsacoff (2017) によると、彼女自身は批評家の意見は気にしないと述べている。
作曲家や他の音楽家について
幼少時、母がチャイコフスキー の《白鳥の湖 》のリハーサルをしているのを見た経験が、ロシアの作品 への愛着へと繋がっている。また、9歳のころに音楽プレイヤーを手に入れてからは、マウリツィオ・ポリーニ やアルトゥール・ルービンシュタイン の弾くショパン 、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー 指揮のベートーヴェン などロマン派 的な音楽にもLPレコード で親しんだ。
フィネーン (2013) によるインタビューでは、プロコフィエフ 、ラフマニノフ 、スクリャービン といったロシアの作曲家の情熱的で多彩な魅力について語るとともに、ベートーヴェン やモーツァルト 、バッハ などのドイツ古典派 以前の作品についてはじっくりと腰を据えて徹底的に取り組みたいと、両者をロック・コンサートと講義の違いに例えて語っている。いずれにしても譜読みには時間を掛け、基本的なアプローチは変わらないが、ものになるまでどれだけ時間がかかるかは作曲家によって異なるという。2018年のイギリス 版ヴォーグ 誌によるインタビューにおいても、作曲家は作品を書くのに多くの時間を費やしたのだから、私たちがそれを何年もかけて解読するのは正しいこと であると述べている。
上記以外に敬愛するピアニスト としてはヴィルヘルム・ケンプ 、 アルトゥル・シュナーベル 、エフゲニー・キーシン を挙げている。Kustanczy (2019) によるインタビューでは、チェリスト のゴーティエ・カピュソン について、相手がなにも言わずとも一緒に呼吸するだけで自然に音楽が流れ、そのような他の音楽家は亡きクラウディオ・アバド だけであったと語っている。公演前にはロック を聴き、公演後にはバーに電子音楽 を聴きに行こうとするなど、クラシック音楽以外にも関心を持っており、2013年時点でキース・ジャレット 、レディオヘッド 、ブラック・アイド・ピーズ 、ザーズ 、スティング を、2017年時点ではリアーナ 、レディー・ガガ 、ブルーノ・マーズ を好きなミュージシャンとして挙げている。
その他
思想やほかの芸術ジャンルについて
中国 のテレビ番組に出演した際には、中国人であることを誇りに思っており、禅 をおこなっているほか道教 についても学びたいと語っている。また『論語 』を原文で読むほか、ゲーテ の『ファウスト 』や村上春樹 も愛読している。
Vankin (2017) によるインタビューでは、自分にとって音楽とは女優のように別の生き方に移るためのものであり、音楽を営んでいなくてもほかの手段で同じようなことを追究していただろうと語っている。また、写真を撮ることやユニバーサル・スタジオ の大作映画が好きであるとも述べている。
ファッションについて
タイトなミニ・スカート やハイヒール などで演奏に臨むことでも知られており、エルベ・レジェ (英語版 ) のボディ・コンシャス なドレスやクリスチャン・ルブタン のピンヒール、アルマーニ などを好んでいる。彼女のステージ・ファッションは賛否双方で評価されている。
Kovan (2017) によるインタビューでは、クラシック音楽 における堅苦しいドレス・コード やルールは、音楽の演奏自体とは関係なく、自分はそれを壊したのだと語っている。一方で自分自身にとっては、ファッションは身につけると音楽へと変容し自信を与えてくれるものであるともいう。また、小柄であるため体に合うドレスを見つけるのが難しいとも述べている。Wigler (2017) によるインタビューでは、デザイナーたちをとても愛しており、彼女/彼らの服を身につけているとスタンウェイ のフル・コンサート・グランド の前でも自分が小さいとは感じないと語っている。
2016年には、アルマーニ のキャンペーン「Yesと言える女性のサークル」[ 注 5] に5人の女性の1人として取り上げられている。また2019年 には、リモワ のキャンペーン「Never Still」においても起用されている。
ディスコグラフィー
タイトル
発売年、レーベル
備考
収録曲
第1回 仙台国際音楽コンクール 入賞者記念アルバム
2001年、音楽之友社
CD1 #3 –# 6、ワン・ユーチィア名義
予選での演奏
ソナタ&エチュード
2009年、DG
クラシックFMグラモフォン ・アワード新人賞
グラミー賞 最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ部門ノミネート
トランスフォーメーション
2010年、DG
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、パガニーニ狂詩曲
2011年、DG
ファンタジア
2012年 、DG
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番、プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番
2013年 、DG
Summer in February
2013年、DG
ベンジャミン・ウォルフィッシュ:映画『2月の夏 (英語版 ) 』のサウンドトラック
ラヴェル:ピアノ協奏曲集
2015年 、DG
ベルリン・リサイタル
2018年 、DG
ライブ録音
グラモフォン 賞器楽部門受賞
グラミー賞 最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ部門ノミネート
※ YouTube において全曲がドイツ・グラモフォン によりアップロードされている[ 注 6] 。
The Berlin Recital – Encores
2018年、DG
ブルー・アワー
2019年、DG
ショパン、フランク
2019年、エラート
Rachmaninov: Cello Sonata in G Minor, Op. 19
2020年、DG
ジョン・アダムズ:Must The Devil Have All The Good Tunes?
2020年 、DG
※ YouTube において第1楽章がドイツ・グラモフォンによりアップロードされている[ 注 7] 。
主な受賞歴
主な公演歴
2000年代
2010年代
来日公演
2000年代
2010年代
主な共演者
※以下特記のない限りDG (2018) 、BSO (n.d.) ないしKAJIMOTO (n.d.) による。
指揮者
オーケストラ
*は弾き振りを含むことを意味する。
ヨーロッパ
イギリス
ドイツ
その他
アジア
北アメリカ
南アメリカ
多国籍
YouTubeシンフォニー・オーケストラ (英語版 )
ソリスト
脚注
注釈
出典
参考資料
公式
インタビュー
批評
Allen, David (2013年5月20日). “Rhythm in heels — Yuja Wang at Carnegie Hall ” (英語). Bachtrack . Bachtrack. 2020年12月8日 閲覧。
Swed, Mark (2015年7月8日). “Review: Pianist Yuja Wang sets off fireworks of her own at the Bowl ” (英語). Los Angeles Times . Los Angeles Times Communications. 2020年12月7日 閲覧。
Malcolm, Janet (2016年8月29日). “Yuja Wang and the Art of Performance ” (英語). The New Yorker . Condé Nast . 2020年12月8日 閲覧。
下田, 幸二「現代のスターピアニストを探る — ユジャ・ワンとダニール・トリフォノフ〜この両極が示すもの〜」『音楽の友 』第75巻第3号、音楽之友社 、2017年3月1日、65-69頁、ISSN 0289-3606 。
Vankin, Deborah (2017年5月26日). “Piano virtuoso Yuja Wang could have gone anywhere for this interview. She chose ... Universal Studios? ” (英語). Los Angeles Times . Los Angeles Times Communications. 2020年12月8日 閲覧。
Isacoff, Stuart (2017年). “Artist of the Year 2017: Yuja Wang ” (英語). MusicalAmerica . Performing Arts Resources. 2020年12月7日 閲覧。
Banno, Joe (2019年3月9日). “Yuja Wang dazzles in new John Adams concerto in LA ” (英語). The Washington Post . WP Company. 2020年12月8日 閲覧。
Vittes, Laurence (2019年3月11日). “Must the Devil have all the good tunes? John Adams’ concerto premieres at the LA Phil ”. Bachtrack . Bachtrack. 2020年12月8日 閲覧。
上村, 友美絵 (2019年8月). “ユジャ・ワン、グスターボ・ドゥダメル 『ラプソディ・イン・ブルー ウィーン・フィル・サマーナイト・コンサート2019』今年のテーマはアメリカン・ナイト! ”. Mikiki . タワーレコード . 2020年12月8日 閲覧。
Tommasini, Anthony (2020年5月20日). “Does Knowing What You’re Hearing Matter? ” (英語). The New York Times . The New York Times Company . 2020年12月7日 閲覧。
管弦楽団、作曲家によるウェブページ
音楽祭、音楽賞関連
その他ウェブページ
外部リンク
公式サイト/SNS
動画/音源配信サイト
その他関連サイト