『松川事件』(まつかわじけん)は、1961年製作、山本薩夫監督による日本映画。松川事件の発生から仙台高裁の二審判決までを描く。
概要
松川事件で最初に逮捕されたA被告の任意の取り調べ前後の経過から、虚偽を含む自白調書を忠実に再現した部分に続き、19名の相次ぐ逮捕、取り調べの模様、第一審、第二審の公判記録を中心に、事実に忠実にシナリオが書かれ、細部にわたって再現性が追求された。被告と家族、弁護人の氏名、弁護士の所属団体(自由法曹団)は実名である等、実録ものとしての体裁をとっている。
最高裁判所によって仙台高等裁判所の二審判決が破棄され、仙台高裁に差し戻した日の翌日、1959年8月11日に劇映画の製作が決定され、差戻公判の事実の取り調べ(1960年3月21日から1961年1月21日)の間に製作がすすめられ、同年2月14日からの検察論告を前に完成、同年1月27日、全国公開された。
製作の中心となったのは、松川事件の被告の無罪を訴え、裁判での全面勝利を求める「松川事件対策協議会」(会長・広津和郎)や労働組合等。松川事件を被告全員無罪の立場から捉えた映画は、すでに数本の記録映画が製作されていたが、本作は、記録フィルムのない密室の取り調べや法廷シーンを再現し、松川事件にあまり関心がない、映画好きの観客向け(労働組合員・一般市民ほか)に劇映画として製作された[1]。
スタッフには、独立プロダクション協同組合の推薦によって、監督に山本薩夫、製作に伊藤武郎、絲屋寿雄、脚本に新藤兼人、山形雄策、撮影に佐藤昌道、美術に久保一雄、音楽に林光ら総勢約50名が担当した[1]。
キャスティングにあたっては、新劇の各劇団研究生を含めて300人の新劇俳優の中からオーディションを経て、劇団舞芸座(舞台芸術学院卒業生の劇団)、劇団新人会、劇団汐、劇団青俳、劇団三期会(現・東京演劇アンサンブル)、劇団東芸、劇団新演(新演劇研究所の後継)、劇団現代座(北沢彪らが創立)、劇団俳優座、俳優座養成所、東京芸術座から20人の被告役が選ばれ、ベテランらが客演、総勢約100名が出演した[1]。
寺島幹夫は、テレビ出演を一切ことわり、私費で松川事件関連の書物を購入し、事件の背景を学んだ。宇野重吉は、出演料の全額を松川事件対策協議会にカンパした[1]。
製作の経緯
配給と上映
- 1961年1月27日、35mmフィルム版は、36本がプリントされ、一般常設館792館で上映。160万人が鑑賞。京都市では祇園会館(1958年3月開館)での一週間の上映だけで2万人を動員。本作がヒットしていることを知った映画館主のなかには、浜松市と船橋市の大映、若松市(現・北九州市若松区)の東宝直営または系列館のように、割当の映画上映の義務に違反して違約金を配給元に支払って本作を優先して上映してもなお利益を確保したケースもあった[1]。
- 16mmフィルム版は67本が活用され、1300会場1600回、210万人が鑑賞。本作の16ミリ版の自主上映運動は、各地の労働組合での視聴覚教育への関心を高め、16ミリ映写機の購入等の弾みになった。占領下の1948年から民間情報教育局(CIE)の貸与する16ミリトーキー映写機1300台による教育映画の地域の巡回映画上映は盛んであったが、まだ長編劇映画の巡回上映が珍しい農山村も少なくなく、そうした地域でも上映され、住民ぐるみ動員を得たケースも少なくなかった[1]。
- 35ミリフィルムは中国にも送られ、中国の声優によって中国語吹き替え版が製作され、上映された[1]。
あらすじ
1949年9月の初旬のある日、警察署で本間刑事による元国鉄線路工の青年Aへの取り調べが始まる。8月に起きた列車転覆事件の見込み捜査の一環であった。Aは、拷問や脅迫等に耐えきれず、すでに警察官、検察官によって筋書きがつくられ、その通りの虚偽の供述書を認めることになった。この自白にもとづいて、国鉄労働組合から9名、東芝労組から10名が次々と逮捕された。同年12月5日、福島地方裁判所での第一回公判でAは冒頭から供述書の自白内容を翻して、無実を主張した。
公判では様々な矛盾点が明らかにされたが、1950年12月6日、死刑5名、無期懲役5名を含む全員に有罪の判決が下った。1953年12月22日、仙台高等裁判所における第二審判決は、3名をのぞいて全員有罪。被告たちは、新しい証拠の存在をたよりに全員無罪を求めて運動を続ける決意を固めた。
出演者
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 旬報社デジタルライブラリー 松川運動史編纂委員会編「松川運動全史」第5章III~V 「Ⅲ劇映画運動」
外部リンク
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