二酸化硫黄
識別情報
CAS登録番号
7446-09-5
ChemSpider
1087
EC番号
231-195-2
E番号
E220 (防腐剤)
国連/北米番号
1079, 2037
RTECS 番号
WS4550000
InChI=1S/O2S/c1-3-2
Key: RAHZWNYVWXNFOC-UHFFFAOYSA-N
特性
化学式
SO2
モル質量
64.07 g mol-1
外観
無色気体
密度
2.551 g/L[要出典 ] , 気体
1.354 g/cm3 (-30 ℃)[要出典 ] , 液体
1.434 g/cm3 (-10 ℃)[ 1] , 液体
融点
-72.4 ℃ (200.75 K)[要出典 ]
沸点
-10 ℃ (263 K)[ 1]
水 への溶解度
9.4 g/100 mL (25 ℃)
蒸気圧
-10 ℃ : 1013 hPa
20 ℃ : 3300 hPa
40 ℃ : 4400 hPa
酸解離定数 pK a
1.81
構造
分子の形
折れ線形 (O-S-O 結合角は120度)[ 2]
双極子モーメント
1.63 D
危険性
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード
警告(WARNING)
Hフレーズ
H314 , H331
Pフレーズ
P260 , P261 , P264 , P271 , P280 , P301+330+331 , P303+361+353 , P304+340 , P305+351+338 , P310 , P311 , P321 , P363 , P403+233
NFPA 704
引火点
不燃性
関連する物質
関連物質
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
二酸化硫黄 (にさんかいおう、英 : sulfur dioxide )は、化学式SO2 の無機化合物 である。常温では刺激臭 を有する気体 。気体は別名亜硫酸ガス [ 3] 。化石燃料 の燃焼 などで大量に排出される硫黄酸化物 の一種であり、きちんとした処理を行わない排出ガス は大気汚染 や環境問題 の一因となる。
二酸化硫黄は火山活動 や工業 活動により産出される。石炭 や石油 は多量の硫黄 化合物を含んでおり、この硫黄化合物が燃焼 することで発生する。また、火山活動でも発生する。二酸化硫黄は二酸化窒素 などの存在下で酸化 され硫酸 となり、酸性雨 の原因となる[ 4] 。空気よりも重い。
合成
二酸化硫黄は硫黄の完全燃焼 により発生する。
S
(
s
)
+
O
2
(
g
)
⟶ ⟶ -->
SO
2
(
g
)
{\displaystyle {\ce {S(s) + O2(g) -> SO2(g)}}}
硫化水素 や他の有機硫黄化合物 の燃焼においても似たような反応が進行し、二酸化硫黄が発生する。
2
H
2
S
(
g
)
+
3
O
2
(
g
)
⟶ ⟶ -->
2
H
2
O
(
g
)
+
2
SO
2
(
g
)
{\displaystyle {\ce {2H2S(g) + 3O2(g) -> 2H2O(g) + 2SO2(g)}}}
黄鉄鉱 や閃亜鉛鉱 、辰砂鉱石 などの硫化鉱 の加熱によっても発生する。
4
FeS
2
(
s
)
+
11
O
2
(
g
)
⟶ ⟶ -->
2
Fe
2
O
3
(
s
)
+
8
SO
2
(
g
)
{\displaystyle {\ce {4FeS2(s) + 11O2(g) -> 2Fe2O3(s) + 8SO2(g)}}}
2
ZnS
(
s
)
+
3
O
2
(
g
)
⟶ ⟶ -->
2
ZnO
(
s
)
+
2
SO
2
(
g
)
{\displaystyle {\ce {2ZnS(s) + 3O2(g) -> 2ZnO(s) + 2SO2(g)}}}
HgS
(
s
)
+
O
2
(
g
)
⟶ ⟶ -->
Hg
(
g
)
+
SO
2
(
g
)
{\displaystyle {\ce {HgS(s) + O2(g) -> Hg(g) + SO2(g)}}}
セメント 製造の際には、無水硫酸カルシウム をコークス と加熱しケイ酸カルシウム を生産するが、二酸化硫黄が副生成物として発生する。
2
CaSO
4
(
s
)
+
2
SiO
2
(
s
)
+
C
(
s
)
⟶ ⟶ -->
2
CaSiO
3
(
s
)
+
2
SO
2
(
g
)
+
CO
2
(
g
)
{\displaystyle {\ce {2CaSO4(s) + 2SiO2(s) + C(s) -> 2CaSiO3(s) + 2SO2(g) + CO2(g)}}}
熱濃硫酸と銅 とを反応させると、二酸化硫黄を発生させることができる。
Cu
(
s
)
+
2
H
2
SO
4
(
aq
)
⟶ ⟶ -->
CuSO
4
(
aq
)
+
SO
2
(
g
)
+
2
H
2
O
(
l
)
{\displaystyle {\ce {Cu(s) + 2H2SO4(aq) -> CuSO4(aq) + SO2(g) + 2H2O(l)}}}
この他にもチオ硫酸ナトリウム と酸 の反応、亜硫酸ナトリウム と硫酸 の反応、亜硫酸水素ナトリウム の熱分解 などによっても発生する。
反応
水 と反応し、亜硫酸 を生成する。
H
2
O
+
SO
2
⟶ ⟶ -->
H
2
SO
3
{\displaystyle {\ce {H2O + SO2 -> H2SO3}}}
二酸化窒素 との酸化還元 反応により、一酸化窒素 と三酸化硫黄 が生成する。
NO
2
+
SO
2
⟶ ⟶ -->
NO
+
SO
3
{\displaystyle {\ce {NO2 + SO2 -> NO + SO3}}}
過酸化水素 との反応では硫酸 が生成する。
H
2
O
2
+
SO
2
⟶ ⟶ -->
H
2
SO
4
{\displaystyle {\ce {H2O2 + SO2 -> H2SO4}}}
構造
二酸化硫黄の構造
二酸化硫黄の2つの共鳴構造
二酸化硫黄はC2v 対称 の折れ線形 構造である。電子 に着目すると、硫黄原子の形式酸化数 は+4、電荷 は0で、5つの電子対 を持っている。分子軌道法 の点から見ると多くの電子対が結合に関与しており、典型的な超原子価化合物 であると言われていたが、実際にはオゾン類似の比較的単純な結合構造であることが判明している。
硫黄酸化物 の一酸化硫黄 と二酸化硫黄のS-O結合長は、一酸化硫黄SO (148.1 pm)、二酸化硫黄SO2 (143.1 pm) とOの数が増えるにつれて短くなっているが、酸素の同素体 の二酸素 とオゾン のO-O結合長は、二酸素O2 (120.7 pm)、オゾンO3 (127.8 pm) と長くなっている。さらに、結合解離エネルギー が一酸化硫黄と二酸化硫黄ではSO (524 kJ mol-1 )、SO2 (548 kJ mol-1 ) と大きくなっているのに対し、二酸素とオゾンではO2 (490 kJ mol-1 )、O3 (297 kJ mol-1 ) と小さくなっている。これに関しては、オゾンの各O-O結合が1.5重結合[ 5] であるのに対し、二酸化硫黄の場合はd軌道 の混成による超原子価構造によりS=O二重結合となっている証拠であると説明された時代もあった(現在でもその誤った説明がなされている書籍などもある)。しかしながら硫黄を含む超原子価化合物(と呼ばれていた分子)の場合、理論計算(自然結合軌道 を用いる)ではd軌道の結合への寄与は無視出来る程度に小さいことが少なくとも1980年代には判明しており[ 6] [ 7] [ 8] [ 9] [ 10] 、この解釈が誤りなのは明らかである。つまり、硫黄原子の3d軌道は結合に関与するにはエネルギー的に高すぎであり[ 11] 、2本のS-O σ結合 とO-S-O鎖を繋ぐ三中心四電子 π結合 からなるルイス構造が最適な描写である(この結果S-O結合の結合次数 は1.5となる)[ 5] 。近年の実験により、二酸化硫黄のS-O結合はオゾンと同じように1.5重結合であるが、電気陰性度の違いにより硫黄原子が+2価、酸素原子が-1に近くなる事による両者の間のイオン結合的な力が働き、これが加算されることで2重結合なみの結合エネルギーとなっている事が判明している[ 12] [ 13] [ 14] 。
用途
二酸化硫黄には抗菌作用があるため、食品添加物 として酒 やドライフルーツ の保存料 、漂白剤 、酸化防止剤 に使われている。腐敗 を防ぐためというより、見た目を保つために用いられることが多い。ドライフルーツは独特の風味を持つが、二酸化硫黄もその一因となっている。ワイン 製造にも重要な役割を果たしており、ワイン中にもppm単位で存在している。抗菌剤 や酸化防止剤の役割を果たし、雑菌の繁殖や酸化を防ぎ、酸性度 を一定に保つ手助けをしている。
二酸化硫黄は還元剤 としても用いられる。水の存在下で還元的な脱色作用を示すため、紙や衣服などの漂白剤 として用いられる。しかし空気中の酸素 により再酸化が起こるため、この漂白作用は長くは続かない。
二酸化硫黄は硫酸の生産にも用いられる。この場合二酸化硫黄の酸化により三酸化硫黄 を合成し、ここから硫酸が合成される。この方法は接触法 として知られている。
クロード・リブ (Claude Ribbe ) の『ナポレオンの犯罪 The Crime of Napoleon 』によると、二酸化硫黄は19世紀の初めまで、フランス皇帝によりハイチ の奴隷の反乱の鎮圧に用いられていた。
二酸化硫黄は肺 の伸縮に関する受容体の信号を止め、ヘーリング・ブロイエル反射 を止める。
フロン の開発に先立ち、二酸化硫黄は家庭用冷蔵庫 の冷媒 に用いられていた。
昆虫の標本を作る際、酢酸エチル を使うと体毛がぬれたり体色が変化したり油が染みでたりすることのある昆虫の殺虫剤 として用いられている。
排出量
人為的なもの
アメリカ合衆国 のEPA が2002年 に報告したデータ[ 15] によると、アメリカ合衆国の二酸化硫黄排出量の変遷は以下のようになっている(単位:S/T )。
年
排出量
1970年
31,161
1980年
25,905
1990年
23,678
1996年
18,859
1997年
19,363
1998年
19,491
1999年
18,867
主にEPAの酸性雨対策プログラムの主導により、アメリカ合衆国の二酸化硫黄排出量は1983年 から2002年の間で約33%減少した。これは排気ガスの脱硫技術 が進み、硫黄を含む燃料を燃焼させても硫黄酸化物を回収できるようになったためである。特に酸化カルシウム は二酸化硫黄と反応し、亜硫酸カルシウム になることで二酸化硫黄を吸着する。
CaO
+
SO
2
⟶ ⟶ -->
CaSO
3
{\displaystyle {\ce {CaO + SO2 -> CaSO3}}}
2006年 現在、中華人民共和国 が世界で最も二酸化硫黄を排出している国である。2005年 の排出量は2549万トンであった。この排出量を2000年 のものと比較すると約27%増加しており、アメリカ合衆国の1980年 の排出量に相当する。
自然発生的なもの
火山 自体や噴火 の規模にもよるが、火口 などからは相当量の二酸化硫黄が放出される。日本の桜島 は、2011年 12月に125回も爆発的な噴火を記録する活発な時期を迎えていたが、この際に観測された平均放出量は日量1,800tから2,900tと推計されている[ 16] 。
1991年 に発生したフィリピン のピナツボ山 の噴火では1500万から2千万トンの二酸化硫黄が放出された。成層圏に達した二酸化硫黄は硫酸エアロゾルを形成し、長期間にわたり地表の日射量を減少させ穀物の収穫量に影響を与える(例:夏のない年 、1993年米騒動 )こともある。影響が出始める量は500万トン以上と推計されている[ 17] 。
水への溶解度の温度依存性
温度
溶解度
0 ℃
22 g/100ml
10 ℃
15 g/100ml
20 ℃
11 g/100ml
25 ℃
9.4 g/100ml
30 ℃
8 g/100ml
40 ℃
6.5 g/100ml
50 ℃
5 g/100ml
60 ℃
4 g/100ml
70 ℃
3.5 g/100ml
80 ℃
3.4 g/100ml
90 ℃
3.5 g/100ml
100 ℃
3.7 g/100ml
毒性
二酸化硫黄は呼吸器 を刺激し、せき 、気管支喘息 、気管支炎 などの障害を引き起こす[ 18] 。
0.5 ppm 以上でにおいを感じ、30-40 ppm 以上で呼吸困難を引き起こし、100 ppm の濃度下に50〜70分以上留まると危険。400 ppm 以上の場合、数分で生命に危険が及ぶ。500 ppm を超えると嗅覚が冒され、むしろ臭気を感じなくなる。高濃度の地域に短時間いるよりも、低濃度地域に長時間いる場合の被害のほうが多い。
代表的な例として、日本における第二次世界大戦後の四大公害事件 とされ、1961年頃より発生した四日市ぜんそく があげられる。1960 〜70年 代に高濃度の汚染を日本各地に引き起こしたが、工場等の固定発生源 や石油 の使用による発生も脱硫装置 により対策が進められた結果、汚染が改善された。また足尾銅山鉱毒事件 も有名である。海外では1952年に数週間で一万人以上が死亡したロンドンスモッグ がある。
19世紀半ばのクリミア戦争 ではセバストーポリ の戦いでイギリス軍 が化学兵器 として使用したのではないかとも言われている。
2007年現在、日本では二酸化硫黄の環境基準 は1時間値 の1日平均が 0.04 ppm 以下であり、かつ1時間値が 0.1 ppm 以下であることとされている。
参考文献
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^ “トンガ噴火は日本に「令和の米騒動」引き起こすか? 米教授が指摘する“圧倒的に少ない”物質とは ”. AERA.com (2022年1月20日). 2022年1月24日 閲覧。
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関連項目
外部リンク