『ブルークリスマス』は、1978年(昭和53年)[6]11月23日に公開された日本映画。実際の映画プリントのタイトルは「ブルークリスマス BLOOD TYPE:BLUE」と英語副題がつく[2][注釈 2]。東宝映画製作、岡本喜八監督の演出により、倉本聰のオリジナルシナリオ『UFOブルークリスマス』を映画化した[2][5]。
アメリカ映画『スター・ウォーズ』によるSFX映画ブームの渦中にあって、特撮映画の本家である東宝が「特撮を一切使わないSF映画」を目指した意欲作として知られる[7][8][2][5][注釈 3]。
カラー、スタンダード・サイズ[4]。
あらすじ
1978年。国際科学者会議で突然、UFOの実在を訴えた兵藤博士が直後に失踪した[2]。国営放送の報道部員である南一矢は博士の行方を追ううちに、世界各地に青い血を持つ人間が急増している事実を知る[2][5]。彼らは普通に生まれて来た人間だが、UFOと遭遇したことにより血が青く変質したのだ[5]。
国防庁特殊部隊員の沖退介は、東京で西田冴子という理髪店店員の女性に一目惚れし、アプローチをかけた直後に、UFOの目撃が相次ぐ北海道に派遣された。各国の政府はUFOの存在を認識し、隠匿していたのだ。UFOは現れては消えるのみで、青い血になった人々は性格が穏やかになるなどの良い影響を受けていた。
南は兵藤博士が米国大統領直属のブルーノート(UFO調査の極秘機関)にいるという情報を得て、アメリカに飛んだ。極秘で接触して来た兵藤博士は南に、「青い血が危険だという根拠は無い。しかし、各国首脳は青い血の人間に対する恐怖を人々に植え付けている」と語り、直後に何者かに拉致された[2]。帰国した南も事実の報道を政府の圧力で阻止され、パリ支局に移動させられた[2]。
日本政府は血液点検制度を強引に立法化し、青い血の国民は患者として隔離されることになった[5]。しかし実際の行き先は強制収容所で、異星人だという疑いにより彼らには残酷な生体解剖やロボトミー手術が施された[5]。
超能力を持つと評判の人気ロックバンド「ヒューマノイド」は、クリスマス・イブに何かが起こると予言した。それは宇宙人の仕業ではなく、ナチズムの復活を望む人間による謀略だという。UFOや青い血に対する恐怖は、民衆を御し易くするための目眩ましだったのだ。発言直後に「ヒューマノイド」のメンバーは飛行機事故により全員が死亡した。南がパリで再会した兵藤博士もロボトミー手術によって癈人にされ、口を塞がれていた[2]。
冴子と恋仲になる沖退介。だが、冴子は青い血の持ち主だった。悩みながらも冴子との結婚を望む沖。しかし、クリスマス・イブの夜に沖は青い血の人々を一掃する作戦への出動を命じられた。冴子を射殺した沖は特殊部隊に銃口を向け、銃撃されて果てた[2][5]。
キャスト
スタッフ
登場兵器
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- 国防庁
- アメリカ軍・政府
- その他
- UZI短機関銃
- XM177短機関銃
- MP40短機関銃
制作
映画化の経緯
倉本聰のオリジナルシナリオは、UFOと地球人類の遭遇そのものよりも、それによってもたらされる変化を異物として排除しようとする国家の謀略に重点を置いた政治ドラマである。その謀略は、最終的には軍事力による青い血の人間根絶で達成されるが、その過程として倉本は、放送メディアを利用した政治的プロパガンダを執拗に描く。
倉本のシナリオは製作の前年に『キネマ旬報』に掲載されて、それを当時東宝映像の社長だった田中友幸が目に留めたことが製作の契機になっている。田中は東宝特撮映画のプロデューサーであると同時に、『マタンゴ』(1963年)のころにはSF作家を招いた企画会議を開催するなど大のSFマニアとしても知られる人物で、そうした性格が東宝のお家芸である特撮とは縁遠い倉本の脚本を「SFとして面白ければ」として受け入れる英断につながった。
岡本喜八の起用は長年コンビを組んできた田中の要望によるものだったが、岡本自身UFOとの遭遇を常に夢見ているような性格だったという。岡本は映画の公開に併せて出版されたシナリオ本の序文で、1977年のクリスマス・イブに倉本の脚本を思いがけない「プレゼント」として喜んで受け取ったことを述懐している。また、即座にカメラマンを手配してクリスマスの実景を撮りまくった[注釈 5]。しかし「脚本の改変一切不可」という倉本の要望には岡本も相当難色を示したという。岡本は倉本の脚本を「電話帳のように分厚く、世界各地でロケ撮影をしなきゃいけない、莫大な予算と労力がかかる脚本」であり、一時は映画よりもテレビドラマでやるべきと不平をもらしたこともあった。しかし、倉本と協議した結果、アメリカ大統領と国務長官が青い血の人間の処理を画策するホワイトハウスのシーンと、暴走族が特殊部隊に襲撃される北海道のシーンをカットすることで、岡本は映画を完成させる自信を得ることとなった。脚本を一言一句変えてはならないという倉本の言葉に従ってこれらのシーンを実際に撮影し、編集時にカットしたのは岡本の意地であった。なお、一般には仲代達矢主演の第一部が岡本タッチであり、第二部の勝野洋と竹下景子のラブストーリーが倉本タッチと言われているが、むしろ後者の方に岡本タッチが如実に現われていると本人は語っている。
音楽
音楽は佐藤勝が担当した[9]。佐藤は岡本映画の常連であったが、本作品ではそれまで用いていなかったシンセサイザーを導入し、インドの打楽器であるタブラも用いてミステリアスな雰囲気を演出した[9]。
劇中のロックバンド「ヒューマノイド」が歌う主題歌「ブルークリスマス」も佐藤が作曲した[9]。Charが歌唱を務めた同曲はヒットしたが、佐藤は急遽制作が決まったためイメージがわかずうまくいかなかったと述懐している[9]。
評価
- 興行的には不振に終わり、キネマ旬報ベスト・テンでも26位と評価も低かった。倉本自身も『映画宝庫』[要文献特定詳細情報]の石上三登志との対談で出来栄えに強い不満をもらしている[注釈 6]。不評の多くは、為政者たちが青い血の人々を恐れ虐殺に走る理由が説明不足というものだが、今日ではむしろそのあたりの省略の不気味さが再評価されている。
- 批評家たちの評価が芳しくない中、三人の大物作家、都筑道夫、星新一、田中小実昌が当時から支持を公言している。星はエッセイ中で「名作」という言葉を冠し、田中は同年の日本映画1位に推した。都筑も弱点を指摘しつつ全体として高く評価し、小さな点では劇中の「ユーエフオー」という発音[注釈 7]を褒めている。ちなみに、この3人はほぼ同世代[注釈 8]で、翻訳家としても知られている[注釈 9]点が共通している。鏡明は『キネマ旬報』[要文献特定詳細情報]に長文の批評を寄せ、細部の甘さを多く批判したが意欲作であることは認めた。
- 予告編にはホワイトハウスの場面があり、また倉本・石上の対談でも大統領役について両者とも不満を述べている。
その他
- アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で、使徒の波長パターンとして表示される「BLOOD TYPE: BLUE」が、本作の英語題名からの引用である。
- 竹下景子と田中邦衛は、この作品で初めて倉本聰の脚本作品に出演した。本作品では兄妹役であったが、『北の国から』では義理の兄妹役を演じている[2]。一方、倉本ドラマにレギュラー出演している俳優では、中条静夫が『6羽のかもめ』と同じくテレビ局員の役で、『うちのホンカン』の大滝秀治はイメージを変えて謎めいた解説委員の役で出演している。なお『北の国から』において原田美枝子がUFOに吸い込まれる幻想シーンは、本作において竹下景子がUFOと遭遇するシーンと同じく光線だけで表現している[2]。
- 本作のロケに国鉄夕張線東追分駅(現:石勝線東追分信号場)が使用された[10]。当時の駅は現在の敷地とは若干離れた位置であった。
脚注
注釈
- ^ 書籍によっては、「1時間55分」[1]、「133分」[5]と記述している。
- ^ 海外公開を意識してつけられたものであったが、アメリカでの実際のタイトルは『BLUE CHRISTMAS』であった[2]。
- ^ 書籍『ゴジラ大全集』では、「SFの衣を被った文芸作品」と評している[8]。
- ^ 劇中では「原子力空母ミッドウェイ」と呼称されているが、現実の同艦は通常動力艦である。
- ^ 翌年クリスマス前公開の場合は実景撮影は不可能なため。
- ^ 石上は買いの立場から必死でフォローしている。
- ^ 前年にピンク・レディーの楽曲「UFO」が大ヒットしたことに象徴的だが、当時は「ユーフォー」という読み方が完全に定着して久しかった。
- ^ 1920年代後半生まれ、岡本と倉本の中間に位置する。
- ^ 田中は百冊近く、最も少ない星でも5冊の訳書がある。
出典
- ^ a b c ゴジラ画報 1999, p. 197, 「ブルークリスマス」
- ^ a b c d e f g h i j k l m 小林淳 2022, pp. 397–401, 「第十章 多様なエンタテインメント映画を謳う音律 [1975 - 1978] 五『ブルークリスマス』」
- ^ 東宝写真集 2005, p. 112, 「ブルークリスマス」
- ^ a b c d e f g h i j k l m 小林淳 2022, p. 434, 「付章 東宝空想特撮映画作品リスト [1984 - 1984]」
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u ゴジラ大鑑 2024, p. 286, 「東宝SF映画の世界 ブルークリスマス / さよならジュピター / ガンヘッド / ミカドロイド」
- ^ ブルークリスマスコトバンク
- ^ ブルークリスマス - ウェイバックマシン(2018年2月5日アーカイブ分) 日本映画専門チャンネル公式ホームページ
- ^ a b ゴジラ大全集 1994, pp. 72–73, 「東宝特撮映画史 ゴジラ誕生 特撮復権にむけて」
- ^ a b c d 小林淳 2022, pp. 401–403, 「第十章 多様なエンタテインメント映画を謳う音律 [1975 - 1978] 五『ブルークリスマス』」
- ^ 「映画」『北海道年鑑 昭和54年版』1979年1月、346頁、doi:10.11501/9490776。
参考文献
外部リンク
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