「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア 」(Here, There and Everywhere )は、ビートルズ の楽曲である。1966年に発売された7作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『リボルバー 』に収録された。レノン=マッカートニー 名義となっているが、ポール・マッカートニー によって書かれたラヴ・バラード。作者であるマッカートニー自身のお気に入りの楽曲の1つとなっており、2000年に『モジョ 』誌が発表した「100 Greatest Songs Of All Time 」では第4位にランクインした[ 6] 。
「ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア」は、アルバム『リボルバー』のためのセッションの終盤にレコーディングが行われた楽曲で、直近に行なわれたザ・ビーチ・ボーイズ のアルバム『ペット・サウンズ 』のリスニングパーティーに参加したマッカートニーは、ブライアン・ウィルソン 作の「神のみぞ知る 」からインスピレーションを得て作曲した。
背景
ポール・マッカートニー は、本作のインスピレーションの源として、ブライアン・ウィルソン 作の「神のみぞ知る 」を挙げている。この楽曲は、ザ・ビーチ・ボーイズ が1966年に発売したアルバム『ペット・サウンズ 』に収録された楽曲[ 9] で、同作が収録された『ペット・サウンズ』はビートルズが1965年に発売したアルバム『ラバー・ソウル 』に影響を受けて制作されたアルバムだった[ 10] 。マッカートニーとジョン・レノン は、1966年5月18日にザ・ウォルドーフ・ヒルトン・ロンドンで行なわれたビーチ・ボーイズのアルバム『ペット・サウンズ』のプライベート・リスニング・パーティに出席した。
1990年にマッカートニーは、ザ・ビーチ・ボーイズの伝記作家であるデヴィッド・リーフ (英語版 ) との対談で、本作の冒頭におけるマッカートニーとレノンが考えたハーモニーについて、「ザ・ビーチ・ボーイズから影響を受けたのは、ちょうどこの冒頭の部分だ」と語っている。
マッカートニーは、1966年6月初旬にウェイブリッジにあるレノンの自宅で、眠っているレノンが目を覚ますのを待っている間に「ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア」を書き始めた。マッカートニーは「僕はギターを持ってプールの側に置いてあったサンチェアに座って、Eコードをかき鳴らし始めた。そしてすぐにいくつかのコードが浮かんで、ジョンが目を覚ますまでにある程度書き上げていたから、部屋に持ち込んで仕上げにかかったよ」と振り返っている[ 13] 。
レコーディング
「ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア」は、EMIレコーディング・スタジオ で行なわれたアルバム『リボルバー』のレコーディング・セッションの終盤に録音された楽曲で、6月14日、16日、17日の3回のセッションで取り組まれた。ベーシック・トラックを13テイク録音した後、オーバー・ダビング が施された。
本作はマッカートニー、レノン、ジョージ・ハリスン が3回のセッションの大半を費やして仕上げたハーモニーが特徴となっていて、前述のザ・ビーチ・ボーイズからの影響だけでなく、マリアンヌ・フェイスフル の歌唱法も取り入れられている。本作におけるマッカートニーのリード・ボーカル は、マルチトラック録音 したもの。曲の最後には管楽器を思わせる音色が含まれているが、このほかにレスリースピーカー を通してマンドリン のような音色に変えたリードギター のパートも試された。
1996年に発売されたシングル『リアル・ラヴ 』には、テイク7と13を組み合わせた音源が収録された。
リリース・評価
1966年8月に『リボルバー』が発売され、「ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア」はハリスン作のインド音楽の様式が取り入れられた「ラヴ・ユー・トゥ 」と、童歌の「イエロー・サブマリン 」の間の5曲目に収録された。音楽評論家のティム・ライリー (英語版 ) は、アルバムにおける曲順について、「『ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア』が、『ラヴ・ユー・トゥ 』の持つエロティシズムを“飼い慣し”ている」とし、「マッカートニーがこれまでに作曲した中で最も完璧な曲」として称賛している。『オールミュージック 』のリッチー・アンターバーガー (英語版 ) は、本作について「『ラブ・バラード』というジャンルへの傑出した貢献」とし、「演奏の繊細さが雅で、官能的なイメージがより明確で、欲望と充実感が具体的に表現されている」と評している[ 21] 。
音楽評論家のイアン・マクドナルド (英語版 ) は、本作における「音楽の創意工夫」を称賛する一方で、「ソフトフォーカスの魅力のために、曲全体が安っぽくてかなり陰気」と評している。ジェームス・ペローネは「シニア・プロムのバンドのセットリストに入っていそうな、1960年代半ばのラブ・バラード」とし、「リスナーにとっては『甘ったるく、感傷的すぎる』ように思える」と評している。『コンシークエンス・オブ・サウンド (英語版 ) 』のクリス・コプランは、アルバム『リボルバー』における「一見場違いな曲」として本作と「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ 」の2曲を挙げている[ 23] 。
作者であるマッカートニー自身は、お気に入りの楽曲として本作を「最高傑作のひとつ」として挙げており、プロデューサーのジョージ・マーティン も本作をお気に入りの楽曲として挙げている。また、レノンは曲が完成した際にマッカートニーに対して「本当に素晴らしい曲だ。大好きな曲だよ」と伝えており[ 24] 、1980年の『プレイボーイ 』誌のインタビューでも「ビートルズの曲の中で僕のお気に入りの1つ」と語っている。
2000年に『モジョ 』誌が発表した「100 Greatest Songs Of All Time 」では第4位[ 6] 、2004年に『ローリング・ストーン 』誌が発表した「100 Greatest Beatles Songs 」の第25位にランクインした[ 13] 。
マッカートニーは、1984年に公開された映画『ヤァ!ブロード・ストリート (英語版 ) 』のサウンドトラックとして再録音した。この時に録音された演奏は、同作のサウンドトラック・アルバム に収録されている。その後、1991年の「Unplugged Tour 」、1993年の「New World Tour 」、2002年の「Driving World Tour 」、2003年の「Back in the World Tour 」などのコンサート・ツアーで演奏されており、『公式海賊盤 』(1991年)、『ポール・イズ・ライブ 』(1993年)、『バック・イン・ザ・U.S. -ライブ2002 』(2002年)、『バック・イン・ザ・ワールド 』(2003年)などのライブ・アルバムにライブ音源が収録されている。
クレジット
※出典
カバー、文化的影響など
オールミュージック のリッチー・アンターバーガー (英語版 ) は、「最も有名なカバー・バージョン」としてエミルー・ハリス によるカバー・バージョンを挙げている[ 21] 。エミルー・ハリスによるカバー・バージョンは、1975年に発売されたアルバム『エリート・ホテル 』に収録された[ 27] 後にシングル・カットされ、翌年のBillboard Hot 100 では最高位65位[ 28] 、アダルト・コンテンポラリー・チャート で最高位13位を記録した[ 29] 。この他にも、ビージー・アデール [ 30] 、クレイ・エイケン 、デイヴィッド・ベノワ 、ジョージ・ベンソン [ 30] 、ジーナ・ジェフィリーズ (英語版 ) 、ピーター・ブラインホルト (英語版 ) 、ペトゥラ・クラーク 、ペリー・コモ 、カウント・ベイシー楽団 (英語版 ) [ 30] 、ダレン・デイ (英語版 ) 、ジョン・デンバー 、ロミナ・パワー 、セリーヌ・ディオン [ 30] 、アリク・アインシュタイン 、マット・モンロー (英語版 ) 、ホセ・フェリシアーノ (インストゥルメンタル)[ 30] 、ザ・フォーモスト 、ジェリー・ガルシア &マール・サンダース (英語版 ) (インストゥルメンタル)[ 31] 、ボビー・ジェントリー (英語版 ) 、ステファン・グラッペリー [ 30] 、オーフラ・ハーノイ [ 30] 、フライング・ピケッツ (英語版 ) 、ジェイ・アンド・ジ・アメリカンズ (英語版 ) 、レターメン 、ロックスリー 、ケニー・ロギンス [ 30] 、クロディーヌ・ロンジェ 、ジョン・マクダーモット (英語版 ) 、カーメン・マクレエ [ 30] 、オリビア・オン 、ジョージ・シアリング [ 30] 、シンガーズ・アンリミテッド 、シセル 、イェラン・セルシェル [ 30] 、マリーナ・ヴェレニキナ (英語版 ) 、ホセ・マリ・チャン (英語版 ) 、カミロ・セスト (英語版 ) 、ジョン・ウィリアムズ (インストゥルメンタル)、アンディ・ウィリアムス 、デヴィッド・ギルモア 、ウンベルト・トッツィ (英語版 ) 、ブールー&エリオス・フェレ (英語版 ) (インストゥルメンタル)らによってカバーされた[ 32] 。日本でも坂本真綾 [ 33] 、深町純 [ 34] 、山下和仁 、キャンディーズ 、Mi-Ke 、KAN (弦楽四重奏 版)らによってカバーされた。
シャドウズ のブルース・ウェルチ は自伝の中で、マッカートニーがビートルズの楽曲としてレコーディングする前に、シャドウズのリードギタリストであるハンク・マーヴィン に本作を提供したことを明かした。その後、マーヴィンは2007年に発売したアルバム『Guitar Man 』でインストゥルメンタルとしてカバーした[ 36] 。
アメリカのテレビ局NBC で放送されたシチュエーション・コメディ『フレンズ 』の結婚式のシーンで、本作がスティールパン で演奏された。日本では日産・サニー (B12型)のCMソングとして使用された[ 37] 。
フランク・オーシャン のWhite Ferrariでは、本曲がサンプリングされている。
脚注
出典
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外部リンク