ポップ・ミュージック (英 : pop music )とは、1950年代 から1960年代 にかけて西洋 でロックンロール から派生して現代的形態で始まったポピュラー音楽 のジャンル の1つ。「ポピュラー音楽」と「ポップ・ミュージック」はしばしば同義で扱われ、「ポピュラー音楽」は人気がある全ての音楽を指すと定義される。
ジャンルとしてのポップ・ミュージックは極めて折衷的であり、多くの場合は他ジャンル(ダンス・ミュージック 、ロック 、ラテン音楽 、カントリー・ミュージック 等)からの要素を取り入れる。一方で楽曲に割り当てられる時間が長すぎず、動きのあるメロディ が重視され、基本的な楽式 (西洋では主にヴァース‐コーラス形式 )を用いてコーラス(サビ )を楽曲中で繰り返すといった普遍的な特徴を持つ[ 1] 。
特色
多くの場合ポップ・ミュージックはヒットチャート 志向のものと見られているが、ジャンルとしてのポップ・ミュージックはヒットチャート志向とは別の意味を持って存在している[ 文献 1] 。若者向けの音楽の中でもロック よりはソフトなものの代替として特徴づけられる[ 文献 2] 。
イギリス の音楽社会学者 であるSimon Frith (英語版 ) によると、ポップ・ミュージックは企業が生産 するものであり、芸術 的な性質よりも技術 的な質の良さに重点が置かれ、特定のサブカルチャー やイデオロギー に依拠せず全ての人にアピールすることを目的に音楽が設計されているとしている[ 文献 2] 。また、ポップ・ミュージックは特定の場所や性質を持たず、利益と商業の報酬以外の野心からは生まれていないとして、本質的に保守的であるとしている。主にレコード会社 、ラジオ放送局 、プロモーター 等の比較的地位の高いところから提供されるため、DIY の音楽ではないとしている[ 文献 3] 。
音楽学者Timothy Warner によると、ポップ・ミュージックは一般的にライブ よりもレコーディング 、生産、テクノロジー に重点を置いているとし、進歩的な開発よりも流行 が反映される傾向があるとしている[ 文献 4] 。また、ダンス を促進し、ダンス向けのリズム を使用している傾向があるとしている[ 文献 4] 。
主なポップ・ミュージックの楽曲は2分半から3分半の長さで、一般的に一貫性のある楽曲が多く、リズミカルで、シンプルな構造、主流のスタイルが用いられる[ 文献 5] 。歌詞 は一般的に単純なテーマに焦点が当てられ、特に愛 や恋愛 に関するテーマが多い[ 文献 2] 。和声 の構成は、古典的なヨーロッパ の調性音楽 をシンプルにしたもの(ポピュラー和声 )が多い[ 文献 6] 。
歴史
ビートルズ(1964年)
「ポップ・ソング(英 : Pop song )」という用語は、人気がある事のアピールとして1926年に初めて使用された語であるとされ[ 文献 7] 、1920年代 のカントリー・ミュージック 、ブルース などにおける様々なイベントから現代のポップ・ミュージックが誕生したとみなすことができるとされている[ 文献 8] 。
『ニューグローヴ世界音楽大事典 』の電子版「グローヴ・ミュージック・オンライン」によると、ポップ・ミュージックは1950年代 半ばにイギリスでロックンロール に影響を受けた新しい若者の音楽スタイルとして始まったとされる[ 2] 。
“The Oxford Dictionary of Music”による説明では、1950年代後半以来コンサートでの大衆向けの音楽として「ポップ」が位置づけられていたが、次第に非古典音楽であるという特有の意味も持つようになり、ビートルズ 、ローリング・ストーンズ 、ABBA などがその例として挙げられるとしている[ 3] 。1967年頃からポップとロックは対極的な意味を持つ様になる一方で、汎用性のある用語としてポップが位置づけられていく[ 文献 9] 。ロックには音楽としての本格的な性質や可能性の拡大が求められて行き[ 文献 9] 、ポップは商業的な性質や一過性のもの、わかりやすいもので形成されていく様になる[ 文献 4] 。
影響と発展
ポップ・ミュージックはほとんどの他ジャンルに影響され要素を吸収しており、初期のポップ・ミュージックは主にバラード でゴスペル やソウルミュージック からボーカル のハーモニー の使用を取り入れ、楽器の演奏法はジャズ 、カントリー、ロックから奏法を取り入れ、編曲をクラシック音楽 から取り入れ、その他ダンスミュージック 、電子音楽 、ヒップホップ 、ラップ の要素を取り入れている[ 文献 2] 。
技術革新 がポップ・ミュージックにもたらした影響として、1940年代 にマイクロフォン の機能が改善された事により様々な歌唱法を用いる事が可能となり、その10 - 20年後には安価で耐久性のあるシングル盤(45rpm)レコード が普及したことで革命的にポップ・ミュージックが広まっていく事となった[ 6] 。
また、1950年代にはテレビ が普及した事で、テレビに出演するポップスターはその容貌 の良さを求められる様になり[ 6] 、1960年代には安価なポータブル トランジスタラジオ や[ 6] 、マルチトラック・レコーダー (MTR)が普及し、1980年代 にはサンプリング が導入される[ 文献 2] 。1980年代初頭にはMTV などの音楽専門チャンネルが台頭し、マイケル・ジャクソン やマドンナ などのアーティストによるポップ・ミュージックの普及に大きな影響を与える[ 6] 。象徴的な楽曲としてバグルス の「ラジオ・スターの悲劇 」があり、MTVで最初に放送されたミュージック・ビデオ でもある[ 5] 。1985年にa-ha が発表した楽曲「テイク・オン・ミー 」は、特殊効果を用いたアニメーションによるミュージック・ビデオが評判となる[ 5] 。
ポップ・ミュージックはアメリカ とイギリス(1960年代半ばから)の音楽産業 が強い影響力を持っていた事により、国際的にモノカルチャー 的な影響を与えた。一方でほとんどの地域や国は、独自のポップ・ミュージックの形式を持っており、それぞれの地域や国の特性が反映された形で生成される[ 文献 12] 。それらのローカルな特性もまた新たなジャンルの開発を導くなどした(例:ユーロポップ )[ 文献 13] 。また、日本などの非欧米諸国でもポップ・ミュージックの音楽産業が繁栄[ 7] 。西洋のポップ・ミュージックの普及の解釈として、アメリカニゼーション 、コモディティ化 、近代化 、創造的な処分、文化帝国主義 、グローバリゼーション などが挙げられる[ 7] 。
2000年代以降
2000年代 以降、ポップ・ミュージックは違法コピーなどの海賊版 の影響もありCDの売上が減少傾向にある。これについて音楽評論家 [ 8] 、社会評論家[ 9] [ 10] 、デイヴ・グロール [ 11] は、「ポップ・ミュージックの品質が低下した」、「型にはまった音楽であった」、「収益主導型であった」、「創造性が無かった」、「古い時代に比べて歌手の才能が低下」と述べた。売り上げの低下は[ 12] 、2012年から2013年までには[ 13] iTunes などによる合法の音楽配信 による市場 が確立され落ち着いた[ 14] 。
アメリカの音楽批評家ロバート・クリストガウ の2014年の発言によると、世界中のポップ・ミュージックにエレクトロニック・ダンス・ミュージック (EDM)が浸透しているとした[ 15] [ 16] 。
脚注
注釈
^ 引用:“Madonna helped make MTV as much as [MTV] helped make her, says Mark Bego, author of Madonna: Blonde Ambition..[ 4] ”
出典
書籍
^ R. Serge Denisoff、William L. Schurk、Tarnished Gold: the Record Industry Revisited (Transaction Publishers 〈3rd edn〉、1986年)、pp. 2–3.
^ a b c d e S. Frith、W. Straw、J. Street共編著、The Cambridge Companion to Pop and Rock (ケンブリッジ大学出版局 )、pp. 95–6.
^ S. Frith, "Pop music", in S. Frith, W. Straw and J. Street共編著、The Cambridge Companion to Pop and Rock (ケンブリッジ大学出版局 )、pp. 95–6.
^ a b c T. Warner, Pop Music: Technology and Creativity: Trevor Horn and the Digital Revolution (Ashgate 、2003年)、pp. 3–4.
^ W. Everett、Expression in Pop-rock Music: A Collection of Critical and Analytical Essays (テイラーアンドフランシス 、2000年)、p. 272.
^ Winkler, Peter、"Toward a theory of pop harmony"、In Theory Only [Vol. 4] 、(University of Michigan School of Music, Theatre & Dance 、1978年)、pp. 3–26.
^ J. Simpson and E. Weiner、Oxford English Dictionary (オックスフォード大学出版局 、1989年)、参照:"pop".
^ D. Hatch and S. Millward、From Blues to Rock: an Analytical History of Pop Music (Manchester University Press )、p. 49.
^ a b Kenneth Gloag in The Oxford Companion to Music (オックスフォード大学出版局 、2001年)、p. 983.
^ Christopher P. Andersen 、MJ Michael Jackson: unauthorized (Simon & Schuster 、1994年)、p. 215.
^ R Jones and S. Brown、Michael Jackson, the man behind the mask: an insider's story of the king of pop (Select Books、2005年)、p. 49.
^ J. Kun、Audiotopia: Music, Race, and America (University of California Press 、2005)、p. 201.
^ "Star profiles" in S. Frith, W. Stray and J. Street、The Cambridge Companion to Pop and Rock (ケンブリッジ大学出版局 、2001年)、pp. 199–200.
ウェブ
関連項目