新疆ウイグル自治区 の地図。水色がサリコル語が話されている領域
サリコル語 (サリコルご)はインド・ヨーロッパ語族 インド・イラン語派 のイラン語群 東イラン語群 南東イラン語群 パミール諸語 に属する言語 である。タシュクルガン語 、サリコリ とも呼ぶ。中華人民共和国 新疆ウイグル自治区 のタジク族 により話されている。
中華人民共和国政府はこの言語をタジク語(塔吉克語)と読んでいる[ 2] が、これはタジキスタン で話されているタジク語 とは大きく異なる[ 3] 。
タシュクルガン語と呼ばれることもあるが、これはかつて存在したサリコル王国 の首都 タシュクルガン が由来である[ 4] 。サリコル語は漢字表記で色勒庫爾語とも書く。
サリコル語の話者の大半は新疆ウイグル自治区 のタシュクルガン・タジク自治県 に居住している。この地域では他民族とはウイグル語 や中国語 で話す。また、新疆ウイグル自治区近くのカシミール地方 のパキスタン が実効支配している地域でもこの言語の話者が確認されている。
ワヒー語 も中華人民共和国 新疆ウイグル自治区 のタジク族 により話されているが、サリコル語とは意思疎通は困難である[ 5] 。
公的な書き言葉はこの言語に存在していない。また、大半のサリコル語話者は教育の場ではウイグル語 が用いられる。
高爾鏘により中国で発行された国際音声記号 を用いた音声記述[ 3] [ 6] とパハリナによりロシア で発行された、自身の考案によるワヒー語の表記法と同様のアルファベット式による表記法が存在する[ 7] [ 8] 。
音韻
母音
ロシアで発行されたアルファベット(()内は国際音声記号)
a [a]、 e [e]、 ɛy [ɛi̯] (方言によっては æy または ay [æi̯ / ai̯])、 ɛw [ɛu̯] (方言では æw または aw [æu̯ /au̯]), ə [ə], i [i], o [o / ɔ], u [u], ы [ɯ] (方言によっては ů [ʊ])。
いくつかの方言では長母音も現れる。( ā、 ē、 ī、 ō、 ū、 ы̄、 ǝ̄)
子音
サリコル語の子音は29ある。
ロシアのイラン学者の転写によるサリコル語の子音(//内は国際音声記号)
p /p/, b /b/, t /t/, d /d/, k /k ~ c/, g /ɡ ~ ɟ/, q /q/, c /ts/, ʒ /dz/, č /tɕ/, ǰ /dʑ/, s /s/, z /z/, x̌ /x/, γ̌ /ɣ/, f /f/, v /v/, θ /θ/, δ /ð/, x /χ/, γ /ʁ/, š /ɕ/, ž /ʑ/, w /w/, y /j/, m /m/, n /n / ŋ/, l /l/, r /r/
アクセント
大半の単語は最後の音節にアクセントがあるが、少数の単語は最初の音節にアクセントがある。また、命令文や疑問文を含むいくつかの名詞や動詞の語形変化 で規則的に最初の音節に移動する[ 3]
。
語彙
サリコル語の語彙の大半は他の東イラン語群 の言語に近い。ただし、多くのサリコル語に特有な単語は密接に関係のあるシュグニー語 以外では、ワハーン語 、パシュトー語 、アベスター語 のような他の東イラン語群の言語には見られない。
7つのイラン語派の言語による語彙比較 [ 3]
意味
ペルシャ語
タジク語
ワヒー語
パシュトー語
シュグニー語
サリコル語
アベスター語
1
[jæk] (یک)
[jak] (як)
[ji]
[jaw] (يو)
[jiw]
[iw]
aēva-
肉
[ɡuʃt] (گوشت)
[ɡuʃt] (гушт)
[ɡuʂt]
[ɣwaxa, ɣwaʂa] (غوښه)
[ɡuːxt]
[ɡɯxt]
?
息子
[pesær] (پسر)
[pisar] (писар)
[putr]
[zoi] (زوی)
[puts]
[pɯts]
putra
火
[ɒteʃ] (آتش)
[otaʃ] (оташ)
[rɯχniɡ]
[or] (اور)
[joːts]
[juts]
âtar
水
[ɒb] (اب)
[ob] (об)
[jupk]
[obə] (اوبه)
[xats]
[xats]
aiwyô, ap
手
[dæst] (دست)
[dast] (даѕт)
[ðast]
[lɑs] (لاس)
[ðust]
[ðɯst]
zasta
足
[pɒ] (پا)
[po] (по)
[pɯð]
[pxa, pʂa] (پښه)
[poːð]
[peð]
pad
歯
[dændɒn] (دندان)
[dandon] (дандон)
[ðɯnðɯk]
[ɣɑx, ɣɑʂ] (غاښ)
[ðinðʉn]
[ðanðun]
?
目
[tʃæʃm] (چشم)
[tʃaʃm] (чашм)
[tʂəʐm]
[stərɡa] (سترګه)
[tsem]
[tsem]
cashman
馬
[æsb] (اسب)
[asp] (асп)
[jaʃ]
[ɑs] (آس)
[voːrdʒ]
[vurdʒ]
aspa
雲
[æbr] (ابر)
[abr] (абр)
[mur]
[urjadz] (اوريځ)
[abri]
[varm]
maēγa-
小麦
[ɡændom] (گندم)
[ɡandum] (гандум)
[ɣɯdim]
[ɣanam] (غنم)
[ʒindam]
[ʒandam]
?
多い
[besjɒr] (بسيار)
[bisjor] (бисёр)
[təqi]
[ɖer, pura] (ډېر، پوره)
[bisjoːr]
[pɯr]
paoiri, paoirîsh, pouru
高い
[bolænd] (بلند)
[baland] (баланд)
[bɯland]
[lwaɻ] (لوړ)
[biland]
[bɯland]
berezô, berezañt
遠い
[dur] (دور)
[dur] (дур)
[ðir]
[ləre] (لرې)
[ðar]
[ðar]
dûra, dûrât
良い
[χub] (خوب)
[χub] (хуб)
[baf]
[xə, ʂə] (ښه)
[χub]
[tʃardʒ]
vohu
小さい
[kutʃik] (کوچک))
[χurd] (хурд)
[dzəqlai]
[ləɡ, ləʐ] (لږ)
[dzul]
[dzɯl]
?
言う
[ɡoft] (گفت)
[ɡuft] (гуфт)
[xənak]
[wajəl] (ويل)
[lʉvd]
[levd]
aoj-, mrû-, sangh-
する
[kærd] (کرد)
[kard] (кард)
[tsərak]
[kawəl] (کول)
[tʃiːd]
[tʃeiɡ]
kar-
見る
[did] (ديد)
[did] (дид)
[wiŋɡ]
[winəm] (وينم)
[wiːnt]
[wand]
dî-
脚注
^ Sarikoli at Ethnologue (18th ed., 2015)
^ "Sarikoli"は言語学的な特徴説明の場においては「萨里库尔语 」(Sàlǐkùěryǔ )、「萨雷阔勒语 」(Sàléikuòlèyǔ )、「色勒库尔语 」(Sèlèkùěryǔ )、「撒里科里语 」(Sǎlǐkēlǐyǔ )というように様々な転写がなされている。
^ a b c d Gawarjon (高尔锵/Gāo Ěrqiāng) (1985). Outline of the Tajik language (塔吉克语简志/Tǎjíkèyǔ Jiǎnzhì) . Beijing: Nationalities Publishing House
^ Rudelson, Justin Jon (January 2005). Lonely Planet Central Asia Phrasebook: Languages Of The Silk Road . Lonely Planet Publications. ISBN 1-74104-604-1
^ Arlund, Pamela (2006). An Acoustic, Historical, and Developmental Analysis of Sarikol Tajik Diphthongs. . Arlington, Texas: The University of Texas. p. 8
^ Gawarjon (高尔锵/Gāo Ěrqiāng) (1996). 塔吉克汉词典 (Tǎjíkè-Hàn Cìdiǎn) Tujik ziv – Hanzu ziv lughot . Sichuan: Sichuan Nationalities Publishing House. ISBN 7-5409-1744-X
^ Pakhalina, Tatiana N. (1966). The Sarikoli Language (Сарыкольский язык/Sarykol'skij Jazyk) . Moscow: Akademia Nauk SSSR
^ Pakhalina, Tatiana N. (1971). Sarikoli-Russian Dictionary (Сарыкольско-русский словарь/Sarykol'sko-russkij slovar') . Moscow: Akademia Nauk SSSR
参考文献
外部リンク