エナガ (柄長[ 5] 、Aegithalos caudatus )は、エナガ科エナガ属に分類される鳥 の一種である。
分布
ユーラシア大陸 の中緯度 地方[ 注 1] を中心にヨーロッパ から中央アジア 、日本 まで広く分布する。
冬のウクライナ のエナガ
日本では九州 以北に留鳥 または漂鳥 として生息する。渡り はしない[ 9] 。
形態
全長は約14 cm ないし13 cm。翼開長 は約16 cm[ 11] [ 12] 。体重は5.5 - 9.5 g 。左記体長には長い尾羽 を含むので、尾羽を含めない身体はスズメ (体重約24 g[ 13] )と比べるとずいぶん小さい[ 11] が、羽が柔らかく膨らみ、尾が長いため、実際よりやや大きく見える[ 14] 。尾の長さは約75 mm [ 14] 。
黒いくちばし は小さく(約7 mm)[ 注 2] [ 14] 、嘴峰は湾曲している[ 8] 。首は短く、丸い体に長い尾羽がついた小鳥である[ 17] 。雌雄同形同色で、外観上の区別はできない[ 17] 。
成鳥 は瞼が黄色く、南方系の亜種 (エナガなど)の場合は黒色の太い眉斑があるが、北方系の亜種(シマエナガなど)の場合は頭部全体が白い[ 18] 。眉斑を有する南方系亜種の場合[ 18] 、眉斑はそのまま背中まで太く黒い模様になっている。肩のあたり(背の両側)と尾の下(下尾筒)は淡い葡萄色で、額から頭上[ 9] 、および顔と体下面は白い。翼・尾は黒い。羽毛 は薄褐色の初列風切が10枚で野外では黒く見え、次列風切りが6枚で重ねると黒く見え、3列風切が3枚で他の風切羽より褐色味が強く、尾羽は6枚で内側3枚は黒色、外側3枚は黒色に白色の模様が混じる[ 19] 。
幼鳥は成鳥で黒色になる部分が淡色で、眉斑などは褐色味を帯びる。また頬は淡黄色で、瞼は赤く、背・下腹部の淡い葡萄色味はない。
名前の由来
属名 Aegithalos はギリシャ語 で「シジュウカラ類 の一種」を、種小名 caudatus は中世ラテン語 で「(長い)尾の」をそれぞれ意味する単語で、学名 は「長い尾のシジュウカラ類の一種」という意味である[ 20] 。
和名 は極端に長い尾[ 注 3] (全長14 cmに対して尾の長さが7 - 8 cm)を柄の長い柄杓 に例えたことに由来し[ 11] 、江戸時代 には「柄長柄杓(えながひしゃく)」、「柄柄杓(えびしゃく)」、「尾長柄杓(おながひしゃく)」、「柄長鳥(えながどり)」などとも呼ばれていた[ 13] [ 21] 。
尾羽が長いのが特徴
飛行中の様子
Aegithalos caudatus
分類
A. c. europaeus
A. c. irbii
亜種エナガA. c. trivirgatus
エナガ Aegithalos caudatus は体の大きさ・体の各部の羽色の相違から20前後の亜種に分類されている[ 20] 。以下の亜種の分類・分布は、IOC World Bird List (v10.1)に従う[ 3] 。基亜種を除く日本に分布する亜種の分布・和名は、日本産鳥類目録 改訂第7版に従う[ 4] 。
Aegithalos caudatus caudatus (Linnaeus, 1758)[ 注 4]
ヨーロッパ北部および東部からシベリア にかけて、日本、朝鮮半島
亜種シマエナガ A. c. japonicus はシノニム とされるが、系統関係について十分な研究が行われていないという指摘もある。
Aegithalos caudatus japonicus Prazák, 1897 シマエナガ
シマエナガ(漢字表記:島柄長)[ 注 5] [ 27] は日本では北海道 に分布する。本州中部以北では迷鳥として記録されることもあり、冬期には青森県を中心に東北地方での記録がある[ 28] 。本州以南に分布する3亜種とは異なり、黒い眉斑(過眼線)がなく、頭部全体が白い。ただし、幼鳥はエナガと同様に眉斑などが褐色味を帯びるため、幼鳥の亜種間の区別は難しい。
Aegithalos caudatus alpinus (Hablizl, 1783)
アゼルバイジャン 南東部、イラン 北部、トルクメニスタン 南西部
Aegithalos caudatus aremoricus Whistler, 1929
フランス 西部
Aegithalos caudatus europaeus (Hermann, 1804)
フランス北東部・ドイツ からイタリア 北部・トルコ にかけて
Aegithalos caudatus irbii (Sharpe & Dresser, 1871)
スペイン南部、ポルトガル、コルシカ島
Aegithalos caudatus italiae Jourdain, 1910
イタリア中部および南部、スロベニア 南西部
Aegithalos caudatus kiusiuensis Kuroda, 1923 キュウシュウエナガ
四国 、九州 [ 4]
胸の黒斑が薄い[ 14] 。
Aegithalos caudatus macedonicus (Salvadori & Dresser, 1892)
アルバニア ・ギリシャ から、ブルガリア ・トルコ北西部にかけて
Aegithalos caudatus magnus (Clark, 1907) チョウセンエナガ
朝鮮半島、対馬 、壱岐 [ 4]
Aegithalos caudatus major (Radde, 1884)
トルコ北東部、コーカサス
Aegithalos caudatus passekii (Zarudny, 1904)
イラン 南西部、トルコ南東部
Aegithalos caudatus rosaceus Mathews, 1938
ブリテン諸島
Aegithalos caudatus siculus (Whitaker, 1901)
シチリア島
Aegithalos caudatus taiti Ingram, 1913
フランス南部および南西部から、スペイン 中部・ポルトガル にかけ
Aegithalos caudatus tauricus (Menzbier, 1903)
クリミア半島
Aegithalos caudatus tephronotus (Gunther, 1865)
ギリシャ東部から、イラク 北部・シリア ・トルコ中部にかけて
Aegithalos caudatus trivirgatus (Temminck & Schlegel, 1848) エナガ
本州 、佐渡島 、隠岐 [ 4]
日本産の亜種
日本ではシマエナガ(北海道[ 18] / 基亜種のシノニムとする説あり)・エナガ(本州など)・キュウシュウエナガ(四国および九州)・チョウセンエナガ(対馬など)4亜種が生息するが、北方系亜種であるシマエナガを除き、いずれも南方系の亜種である[ 18] 。南方系3亜種の場合[ 18] 、(成鳥の)亜種間の羽色にはほとんど差異はない。また、幼鳥には亜種間の差異はほとんどない。
なお千葉県 北西部を中心に、眉斑の色が淡い亜種シマエナガのような個体 が見られる場合があり[ 注 6] 、そのような個体は「チバエナガ」という通称で呼ばれる[ 31] 。江戸時代中期の書物『観文禽譜 』には「どろえなが」の名で「或云 形えながに似て 頭灰白 今此鳥を以て偽て島えながとなす 上総 の産なり」という記述があり、エナガの変異個体である可能性も示唆されているが、正体は不明である[ 31] 。
生態
主に平地 から山地 にかけての林 [ 注 7] に生息するが[ 11] 、樹木の多い庭園 ・公園 や街路樹 などでも見ることができる。冬季は山地上部にいた個体が越冬のため、低地の里山 に降りてくることがある。
繁殖 期は群れの中につがいで小さな縄張り を持つ[ 33] 。非繁殖期も小さな群れ[ 注 8] をつくるが、シジュウカラ 、ヤマガラ 、ヒガラ 、メジロ 、コゲラ などの違う種の小鳥と混群[ 注 9] することも多い[ 11] 。エナガはその混群の先導を行う[ 13] 。また、非繁殖期にはねぐらとなる木の枝に並列し、小さなからだを寄せ合って集団で眠る習性がある[ 11] 。街中の街路樹がねぐらとなることもあり、ねぐらとなった街路樹は夕方にはたくさんのエナガの鳴き声でザワザワと騒がしくなり木の下には糞がたくさん落とされることになる。地鳴きで仲間を確認しながら、群れで雑木林の中を動き回る。
木の枝先などで小さな昆虫類 [ 注 10] ・クモ 類・木の実 など、草の種子 を食べる[ 9] 。特にアブラムシ を好み[ 9] 、葉先にいるアブラムシを停空飛行 しながら捕食したり、枝にぶら下がって種子を食べたりすることもある。また、樹皮 から染み出る樹液 を吸うこともある[ 注 11] [ 11] 。
3月ごろから繁殖期に入り、つがいとなって、樹木の枝や幹のまたに、苔 をクモの糸 [ 注 12] で丸くまとめた袋状の精巧な巣 を作る[ 注 13] [ 11] 。このため、巧婦鳥(たくみどり)と呼ばれることもあった[ 21] 。巣は円形ないし楕円形(横幅約8×10 cm、縦約15 cm)の袋状[ 注 14] で、側面上部に小さな丸い出入口(直径約2.5 cm)がある。巣は樹幹の瘤のように見え[ 14] 、似たような巣を作る鳥は他にいない。
4月 - 6月に白色有斑の卵 [ 注 15] を7 - 12個産み、主に雌が12 - 14日間抱卵する[ 注 16] [ 9] 。4月には雛が見られることがある[ 12] 。産座には大量の羽毛 が敷きつめられる[ 11] 。雛は孵化後、約14 - 17日で巣立ち、巣立ち後はいくつかの家族群が集まり、群れで行動する[ 35] 。つがい以外の繁殖に失敗した雄が育雛に参加することもあり[ 11] [ 17] [ 38] 、雌だけでなく雄が給餌する場合もある[ 18] 。また、シジュウカラの育雛にも参加する例が確認されている[ 39] 。
日本では岐阜県 で2001年 - 2004年に行われた178巣の調査では、56巣がなんらかの捕食者(ハシボソガラス ・ハシブトガラス ・ニホンイタチ ・ヘビ 類)による襲撃により繁殖に失敗し (31.5 %) 、繁殖に成功したのは51巣 (28.7 %) という報告例がある[ 40] 。
昼に樹上・藪の中・地上・空中などで鳴く[ 35] 。鳴き声は1年を通じて同じで、さえずりは、「チーチー」、「ツリリ」、「ジュリリ」[ 11] 。地鳴き は「チュリリ」、「ジュリリ」[ 11] 。猛禽類 のハイタカ 、ツミ 、モズ などにより捕食されることがあり、これらの外敵を察知すると警戒発声を行う[ 41] 。またオオカマキリ などの大型の肉食性の昆虫に捕食されることもある。
種の保全状況評価
日本の以下の都道府県 でレッドリストの指定を受けている[ 42] 。
脚注
注釈
^ ただしヒマラヤ と中央 の高地を除く[ 8] 。
^ 山形則男 (2001) は「鳥の中で最も短い嘴をもつ」と述べている[ 16] 。
^ 尾の先は太めである。
^ シマエナガを基亜種 A. c. caudatus のシノニムとする学説が提唱される以前には、基亜種をコウライシマエナガ と呼称する場合もあった[ 23] 。。
^ シマエナガの「シマ」は「縞」ではなく「島」(=限られた特定の地域、すなわち北海道)の意味。また北海道産であることから「えぞえなが」、頭部が白いことから「わたぼうし 」とも呼ばれる。
^ 『日本鳥類目録』改訂第7版によれば、シマエナガは千葉県でも記録されているが「偶然飛来したもの」とされているため、日本野鳥の会 千葉県支部はこのような個体はシマエナガとは別物という見解を示している[ 30] 。
^ 特に落葉広葉樹林 や、針葉樹 との混合林 を好む[ 18] 。特に林縁部や、クリ ・ナラ とマツ の混交した二次林 でよく見かける[ 18] 。
^ 数羽 - 約30羽前後の小群を作り、一定の区域内で行動する。
^ 夏の終わりごろには小型ツグミ類 やムシクイ類 、サンコウチョウ などと混じって行動することもある。ただし、長時間にわたり混群していることはない。
^ カイガラムシ や[ 31] 昆虫の卵[ 16] 、ガ などやその幼虫 も食べる。
^ クヌギ などの樹液を飲む[ 35] ほか、冬季はホバリングしながら、樹液が凍ってできた氷柱から樹液を舐めることもある[ 16] 。
^ クモの糸だけでなく、ガ の繭 など虫の糸を用いる場合もある[ 18] 。
^ 巣について「低山の林内で地上から約2 - 5 m の高さの枝の上に巣を作る」、「枝または幹に、蘚苔類 をクモの糸で楕円形にまとめ、ウメノキゴケ をはりつけた巣をとりつける」とする文献もある[ 9] 。また、早春の寒い時期から繁殖を開始するため、保温性を高くする目的で、巣の内部(産座)には各種の鳥の羽毛を多量に詰めており、その枚数は1,000枚以上におよぶこともある。
^ 内径(産座)は約4×6nbsp;cm、深さは約3 cm。
^ 卵は長径約15 mm、短径約11 mmで、汚白色の地に淡紫色と淡赤褐色の微小斑がある。
^ 日中は雌のみが抱卵するが、夜は雄も抱卵を行う[ 11] 。また、抱卵している個体は尾羽に曲がり癖がつく。
出典
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
エナガ に関連するメディアがあります。
ウィキスピーシーズに
エナガ に関する情報があります。