銀貨30枚(ぎんか30まい、英語: Thirty pieces of silver)とは、新約聖書に登場する象徴的な器物の1つ。マタイによる福音書26:15によれば、イスカリオテのユダはイエス・キリストを裏切った代価として銀貨30枚を得たという[1]。最後の晩餐の前に、ユダは祭司長のところに行って銀貨30枚と引き換えにイエスを引き渡すことに同意したが、後に後悔の念に苛まれてそれを返そうとしたとされる。
銀貨30枚("Thirty pieces of silver")という言い回しは、ある人が売られた対価を表すのに使われる。ドストエフスキーの『罪と罰』では娼婦ソーニャが30ルーブルで自身を鬻いでいる。イギリス民謡の『ジョン王と大司教(King John and the Bishop)』では大司教が王にかけられた「自分の王としての価値はいかほどか」というなぞなぞに対して銀貨29枚と答える(歌詞では "nine and twenty pence"、すなわち29ペンスと歌われる)が、これは「王の中の王であるイエス・キリストが銀貨30枚で売られたというのに、ただの王でしかないジョン王にそれ以上の値がつくわけがない」という含意である。また、シェイクスピアの歴史劇『ヘンリー四世 第2部』では、ファルスタッフの妻が「キスしないでよ、あたしを30シリングで売ってきたとでも言うの?」というシーンがある[32]。F・テニーソン・ジェシーは "Treasure Trove" の中で現代において銀貨30枚を再発見し、それがいかにして人を謀殺や故殺、殺人、安楽死、自殺などといった形で他人を殺すよう駆り立てるのかについて述べている。
現代の使用法
キリスト教圏において、銀貨30枚(Thirty pieces of silver)という句は、政治家や芸術家が自身の原則や理想を経済的利益と引き換えに売り払ったと非難するのに使用される。たとえば、1975年のオーストラリア憲政危機の際には、総督ジョン・カーの生地の通りの多くの住民が、カーが危機の責任の多くを負うべきだとしてカーに銀貨30枚を送りつけている[33]。また、2009年の第15回気候変動枠組条約締約国会議において、ツバルのスポークスマンは最終文書の文言を批判して"It looks like we are being offered 30 pieces of silver to betray our people and our future ... Our future is not for sale."(銀貨30枚で国民と我々自身の未来を裏切れと言っているようにみえる。…我々は未来を売りに出してなどいない)と述べている[34]。このほか、ドレフュス事件でドイツに軍事機密を漏洩したとされたアルフレド・ドレフュスはユダヤ系であったため、反ユダヤ主義者が盛んにこの句を取り上げた[35]。
^John Calvin, for example, says that "the passage itself plainly shows that the name of Jeremiah has been put down by mistake, instead of Zechariah, for in Jeremiah we find nothing of this sort, nor any thing that even approaches to it." John Calvin, Commentary on a Harmony of the Evangelists, Matthew, Mark and Luke.
^Craig S. Keener, The Gospel of Matthew: A Socio-Rhetorical Commentary (Grand Rapids: Eerdmans, 2009), 657.
^Craig L. Blomberg, "Matthew," in G. K. Beale and D. A. Carson (eds.), Commentary on the New Testament Use of the Old Testament (Grand Rapids: Baker Academic, 2007), 96.
^William Hendriksen, Exposition of the Gospel According to Matthew (Grand Rapids: Baker, 1973), 948.
^Gertrud Schiller, Iconography of Christian Art, Vol. II (trans. Janet Seligman; London: Lund Humphries, 1972), 190–196.
^G. F. Hill, "Coins and Medals (Western)," in James Hastings and John A. Selbie, (eds.), Encyclopedia of Religion and Ethics, Part 6 (Whitefish, Montana: Kessinger Publishing, 2003), 703.
^Johannes A. Mol, Klaus Militzer, and Helen J. Nicholson, The Military Orders and the Reformation: Choices, state building, and the weight of tradition (Hilversum: Uitgeverij Verloren, 2006), 287.
^Piero Della Francesca, Enigma of Piero, (2nd ed., trans. Martin Ryle and Kate Soper; London: Verso Books, 2001), 68.