酸化カルシウム (さんかカルシウム、Calcium oxide、quick lime)は化学式 CaO で表される化合物。慣用名として、 生石灰 (せいせっかい[ 5] [ 6] )とも呼ばれる。生石灰は「しょうせっかい」とも読めるため、消石灰 と区別するため「きせっかい[ 7] 」と呼称 される場合がある。腐蝕性 (英語版 ) のあるアルカリ で、室温 では結晶である。石灰 という語はカルシウム を含む無機化合物 の総称であり、石灰岩 のようにケイ素 やマグネシウム 、鉄 、アルミニウム などよりカルシウムの炭酸塩 や酸化物 、水酸化物 が多く含まれている岩石も指す。対照的に、生石灰 は純粋な化合物のみを指す。
生石灰は比較的安価で、酸化カルシウム(塩基無水物 (英語版 ) )とその誘導体 である水酸化カルシウムは重要な汎用化学物質 (英語版 ) である。
調製
炭酸カルシウム の熱分解 を利用する。炭酸カルシウムを825 °C 以上[ 8] に加熱すると二酸化炭素 を放出して生ずる。融点は2572 °C 。通常は石灰岩や貝殻 を石灰窯 で強熱して製造する。このプロセスは煆焼 と呼ばれる。
CaCO
3
⟶ ⟶ -->
CaO
+
CO
2
{\displaystyle {\ce {CaCO3 -> CaO + CO2}}}
しかし放置すると空気中の二酸化炭素 と自発的に 反応し、上記の反応の逆反応 が起こる。ただし水を加えて消和すれば反応は止まり、ライムプラスター (英語版 ) やライムモルタル (英語版 ) になる。
反応
水 を加えると発熱し、数百℃にまで温まった後、水酸化カルシウム (消石灰)を生成する。この反応を、1リットル の水に約3.1キログラム の生石灰を投入して行うと、おおよそ3.54メガ ジュール のエネルギー が得られる。
乾燥 剤や、殺虫剤 などに用いられるほか、缶入の清酒 や弁当を温めるために水と生石灰を袋詰し、紐を引くと両者が混合して発熱するようにしたものもある。火も使わず煙も出ないため、火を使えない状況や火に弱い素材でパックされた食品を温める用途や、自己加熱缶 (英語版 ) に使われることが多い。
CaO
(
s
)
+
H
2
O
(
l
)
⟶ ⟶ -->
Ca
(
OH
)
2
(
aq
)
:
{\displaystyle {\ce {CaO(s) + H2O(l) -> Ca(OH)2(aq) :}}}
Δ Δ -->
r
H
=
− − -->
63.7
k
J
/
m
o
l
{\displaystyle {\rm {\Delta _{r}H=-63.7kJ/mol}}}
なお反応が進行すると熱平衡 の状態となり、発熱は止まる[ 9] 。発熱反応で溶液 は膨張する。ここでできた固体を強熱すると水酸化カルシウムは水和 水を失う。
利用
工業的には製鋼 用、セメント 原料が多く、陶磁器、ガラスの副原料そして土壌改良 剤、るつぼ の内張り用耐熱材などにも利用される。あるいは炭化カルシウム (カーバイド)、水酸化カルシウムの生産原料でもある。
また19世紀 中頃から20世紀 初頭にかけてガスマントル(水素ガス灯 の発光体)として使用された。これは酸化カルシウムを2400 °C まで加熱すると強烈な光を放つ性質を利用したものである。 電気 による照明 が発明されるまで特に劇場 で多く用いられた[ 10] 。
石油化学 工業でも重要な役割を果たす。水を検出するペーストは酸化カルシウムとフェノールフタレイン を含んでいる。燃料を貯蓄するタンクに水が入り込むと、水と酸化カルシウムが反応し水酸化カルシウムができる。水酸化カルシウムは強い塩基性 を示すため、フェノールフタレインが濃いピンク色 に変色し、水の存在を確認できる。
製紙産業 においては、クラフトパルプ で炭酸ナトリウム から水酸化ナトリウム を作り直す。
土器前 (英語版 ) 新石器時代 Bにフローリング などに石灰岩を使用した漆喰 を使っていたことが考古学 的に証明されている[ 11] [ 12] [ 13] 。特に石灰と灰の床 (英語版 ) は19世紀まで用いられていた。
酸化カルシウムの固体のスプレー やスラリー は脱硫 の過程で二酸化硫黄 を除去するのに使用される。
バイオディーゼル の塩基に酸化カルシウムが用いられている[ 14] [ 15] 。
武器利用
歴史家 で哲学 者のデイヴィッド・ヒューム は、著書英国の歴史 (英語版 ) の中で、ヘンリー3世 の初期から、イギリス海軍 はフランス海軍 の侵略を艦隊 の視界を消すことで撃退してきたと述べている。
ダルビニーは彼らに対して勝利に貢献したと言える作戦を練った。開戦当初フランスが優勢であったため、彼はフランス軍を奇襲する作戦を採用した。イギリス軍はフランス軍の船に乗り込み目の前に大量の生石灰を投げつけ、兵士を失明させた。そのためフランス軍は防御ができなくなった
[ 16] 。
生石灰はギリシア火薬 の成分であると考えている説もある。生石灰を水中に投入すると温度が150 °C まで上昇し、燃料に引火すると考えられている[ 17] 。
食品加温
水を加えると発熱する性質を利用し、主に火が使えなくなってしまう状況での利用が予測される防災食品 や、レーション (いわゆるミリメシ)等の加温をするための製品が各社から発売されている。
生産量
世界で見たときの年間生産量は2億8300万トン である。中国 での生産量が最も多く、年間約1億7000万トンである。ついでアメリカ で、2000万トンである[ 18] 。2016年度日本国内生産量は 734万885 トン、消費量は 92万7927トンである[ 19] 。
法規制
水を加えると発熱するため、消防法 の危険物 第3類に指定されていたが、1989年の消防法改正によって危険物からは除外された。現行法においては、危険物の規制に関する政令 第1条の10に「生石灰(酸化カルシウム含有量80 % 以上のもの)を500キログラム以上取り扱う(貯蔵する)場合、最寄り消防署への届出義務」が規定されている。
人体への影響
酸化カルシウムが人 の肌 に触れたり、酸化カルシウムを吸入したりすると、水との高い反応性のためひりつきや炎症 が生じる。吸入した場合、咳 やくしゃみ を伴い、呼吸困難 になることもある。熱を放出して鼻中隔 の穿孔 や腹 部の痛み 、吐き気 や嘔吐 などの症状 が出ることもある。酸化カルシウムは、水と反応しても発火 しないが、可燃物 を燃焼させるのに充分な熱を放出する[ 20] 。
なお地獄では獄卒(地獄の鬼)が罪人(地獄へ堕ちた亡者)の口に生石灰を詰め込む責苦を行うという。
脚注
^ a b Haynes, William M., ed (2011). 化学と物理のCRCハンドブック (英語版 ) (92nd ed.). CRC Press . p. 4.55. ISBN 1439855110
^ Calciumoxid . GESTIS database
^ Committee on Water Treatment Chemicals, Food and Nutrition Board, Assembly of Life Sciences, National Research Council (1982). Water Chemicals Codex . p. 20. ISBN 0-309-07368-5 . http://www.nap.edu/openbook.php?record_id=159&page=20
^ a b Zumdahl, Steven S. (2009). Chemical Principles 6th Ed. . Houghton Mifflin Company. p. A21. ISBN 0-618-94690-X
^ 岩波書店「広辞苑」第六版、2008年、p1546
^ 三省堂「新明解国語辞典」第三版、1981年、p.626
^ 日本石灰協会・日本石灰工業組合
^ Merck Index of chemicals and Drugs , 9th edition monograph 1650
^ Collie, Robert L. "Solar heating system" アメリカ合衆国特許第 3,955,554号 issued May 11, 1976
^ Gray, Theodore (September 2007). “Limelight in the Limelight” . Popular Science : 84. http://www.popsci.com/node/9652 .
^ Neolithic man: The first lumberjack? . Phys.org (August 9, 2012). Retrieved on 2013-01-22.
^ Karkanas, Panagiotis; Stratouli, Georgia (2011). “Neolithic Lime Plastered Floors in Drakaina Cave, Kephalonia Island, Western Greece: Evidence of the Significance of the Site”. The Annual of the British School at Athens 103 : 27. doi :10.1017/S006824540000006X .
^ Connelly, Ashley Nicole (May 2012) Analysis and Interpretation of Neolithic Near Eastern Mortuary Rituals from a Community-Based Perspective . Baylor University Thesis, Texas
^ Kozu, Masato; et al (2008). “Calcium oxide as a solid base catalyst for transesterification of soybean oil and its application to biodiesel production” . Fuel (Elsevier) 87 (12). doi :10.1016/j.fuel.2007.10.019 . http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0016236107004589 19 March 2014 閲覧。 .
^ Zhu, Huaping; et al (2006). “Preparation of Biodiesel Catalyzed by Solid Super Base of Calcium Oxide and Its Refining Process” . Chinese Journal of Catalysis (Elsevier) 27 (5): 391-396. doi :10.1016/S1872-2067(06)60024-7 . http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1872206706600247 19 March 2014 閲覧。 .
^ デイヴィッド・ヒューム (1756). History of England . I . http://www.gutenberg.org/files/19212/19212-h/19212-h.htm#2H_4_0002
^ Croddy, Eric (2002). Chemical and biological warfare: a comprehensive survey for the concerned citizen . Springer. p. 128. ISBN 0-387-95076-1 . https://books.google.co.jp/books?id=MQMGhInCvlgC&pg=PA128&redir_esc=y&hl=ja
^ Miller, M. Michael (2007). “Lime” . Minerals Yearbook . アメリカ地質調査所 . p. 43.13. http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/lime/myb1-2007-lime.pdf
^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
^ CaO MSDS . hazard.com
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
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外部リンク