国際労働機関 (こくさいろうどうきかん、英語 : International Labour Organization 、略称:ILO )とは
国際労働基準の制定を通して世界の労働者 の労働条件 と生活水準 の改善を目的とする、国際連合 の専門機関 。1919年に国際連盟 に創設され、国際連合において最初で最古の専門機関である。本部はスイス のジュネーヴ 。加盟国は187か国(2016年2月現在)。
ILOは、結社の自由、団体交渉権 の効果的承認、強制労働 の撤廃、児童労働 の廃止、差別の撤廃を擁護してきた。1969年には、国家間の友愛と平和に貢献し、労働者のディーセント・ワーク と正義を追求し、途上国に技術支援を行ってきたことをたたえノーベル平和賞 を受賞した。
日本は労働者保護に関わる重要な条約である155号条約(労働安全衛生)、47号(週40時間制)、132号(年次有給休暇 )、140号(有給教育休暇)などが未批准 である。
沿革
1919年 - 第一次世界大戦 後、当時の社会活動家による国際的な労働者保護を訴える運動、貿易競争の公平性の維持、各国の労働組合 の運動、ロシア革命 の影響で労働問題が大きな政治問題となっていたため、国際的に協調して労働者の権利を保護するべきと考えられた。パリ講和会議 において国際連盟 の姉妹機関としての国際労働機関の設立が合意され、ヴェルサイユ条約 第13編労働などの各講和条約には規約が記載された。そのILO憲章の前文では『普遍的で持続的な平和は社会正義 によってのみもたらされる』と明記された[ 1] 。当初の参加国は43か国[ 2] 。
第1回ILO総会(1919年、ワシントンD.C.)
1944年 - 第二次世界大戦 中は活動が縮小していたが、フィラデルフィア宣言 を採択し、戦後に向けて活動を再開した。フィラデルフィア宣言において、下記の根本原則を確認した。
(a) 労働は、商品ではない。
(b) 表現 及び結社の自由 は、不断の進歩のために欠くことができない。
(c) 一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
(d) 欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、且つ、労働者及び使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によって、遂行することを要する。
1946年 - 国際連合 と協定を結び、国連の目的達成の一翼を担う、最初の専門機関 となる。ILO憲章を改正し、フィラデルフィア宣言をその付随文書として取り込む。
1969年 - ノーベル平和賞 を受賞した。
1977年 - アメリカ合衆国 は、社会主義国への批判とイスラエルへの支援の目的で脱退したが、1980年に復帰した[ 3] 。
1999年 - 総会において21世紀のILOの目標として「すべての人へのディーセント・ワーク (働きがいのある人間らしい仕事)の実現」を掲げた。
2018年 - 年次総会で職場でのセクハラ を含むハラスメント をなくすため、条約を制定すべきとした委員会報告を採択、2019年総会でハラスメント対策として初の国際基準となる条約制定を目指す[ 4] 。
組織
ILOの組織は、総会・理事会・国際労働事務局等の本部組織の他に40以上の国に地域総局と現地事務所を設けている。また、ILOは社会対話の推進から国際連合機関 のなかで唯一[ 5] 、加盟国が政府 、労働者 、使用者 の三者構成で代表を送っている(三者構成の原則 )。
開発途上国 への技術研修などの役割も果たしており、そのために国際研修センター(トリノ に設置)を置いている。
スイス ジュネーヴ のILO本部
総会
総会はILOの最高意思決定機関で、「国際労働会議」(英 : International Labour Conference 、「国際労働総会」とも訳される)[ 6] [ 7] と呼ばれる。通常は毎年1回、6月に開催され、国際労働条約・勧告の審議・採択、各国の実施状況の審査、加盟国の承認などを討議する。加盟国の代表は政府 代表2名、労働者 代表1名、使用者 代表1名の計4名からなる三者構成を採っている。政労使の各代表はそれぞれ独立して発言や投票を行う。
この他に、約10年に一度、船員 労働のみを審議する「海事総会」がある。
理事会
理事会はILOの執行機関である。総会の決定事項の執行やILO事務局の監督を行う。理事は政府理事28名、労働者理事14名、使用者理事14名の計56名で構成される。このうち政府理事10名は常任理事国(アメリカ合衆国 ・イギリス ・フランス ・ドイツ ・日本 ・イタリア ・ロシア ・中華人民共和国 ・インド ・ブラジル )から任命される[ 8] 。
国際労働事務局
国際労働事務局はILOの日常業務を遂行する機関である。事務局には理事会が任命する事務局長の下に2000名を超える職員がおり、諸会議の報告書作成や労働・生活条件の国際的な資料収集と分析等を行っている。
歴代事務局長
機能
国際労働条約
ILO総会で採択される条約を国際労働条約 (ILO Conventions)という[ 9] 。それを批准 した国だけしか拘束しない。しかし、採択時に反対した加盟国も、条約を自国で批准権限を持つ機関(日本では国会 )に提出しなければならない。ILOには190の条約(うち撤回・廃止11、棚上げ19)[ 10] と206の勧告(うち撤回36、置き換え22)[ 11] がある(2023年1月現在)。
設立以来、具体的な国際労働基準の制定を進めてきており、近年では、男女の雇用均等 や同一労働同一賃金 の徹底、強制労働 と児童労働 の撲滅、移民 労働者や家庭内労働者 の権利にも力を注いでいる。
Fundamental convention (中核的労働基準)[ 12] [ 13]
その他
日本は、50の条約を批准している[ 9] が、これは全条約のうち約4分の1、ヨーロッパ諸国のおよそ半分またはそれ以下である(例、ドイツ 83、イギリス 86、スウェーデン 92、フィンランド 98、オランダ 106、ノルウェー 107、フランス 123、スペイン 133)。一方、アメリカ 、カナダ 、韓国 などは日本よりも批准数が少ない。
勧告
勧告(Recommendation)は、条約と異なり拘束力はなく、批准の対象にはならない[ 9] 。
日本との関係
日本 は設立時から参加しており国際会議には政府・使用者・労働者(松岡駒吉 他)のそれぞれ代表を送っている。1938年 に脱退し、サンフランシスコ講和条約 調印の1951年 にILOへの復帰を果たした。
1922年 以来、脱退・再加盟を経て1954年 から常任理事国を務めている。1975年 からは政府、労働者、使用者の三者すべてが常任理事となっており、理事会における議席を占めているものの国内では、派遣業界がILO勧告を守らないなどといった例も数多く見られる。これに対し拠出金や人的協力においては非常に協力的でありILO側からも高く評価されている。
日本の主な未批准条約
ILOが採択した184条約(失効5条約を除く)のうち、日本が批准しているのは48条約で、全体のおよそ四分の一にあたる。以下は日本の主な未批准条約;
日本では特に、労働時間関連[ 注 1] 、母性保護関係[ 注 2] 、雇用形態についての条約批准に消極的である傾向がうかがえる。連合 、全労連 など、日本の労働団体はこれら未批准の条約の早期批准を求めている[ 15] [ 16] 。
「いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となる 」とILO憲章に書かれているとおり、日本も国際労働機関から早期批准を求められている。
脚注
注釈
^ 18本の労働時間 ・休暇 関係の条約を1本も批准していない。
^ 3本の母性保護に関する条約、第3号、第103号、第183号(母性休業 の最低期間についても規定する)を一本も批准していない。
出典
関連項目
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外部リンク