メルセデス・ベンツ・SSK (W06 II / W06 III / WS06)は、ダイムラー・ベンツ が1928年から1932年にかけて製造・販売した自動車である。メルセデス・ベンツ・Sシリーズ のショートホイールベース仕様の車両で、2座席のスポーツカーとして販売され、レースにおいても活躍した。特にレースにおいて数多くの勝利を挙げたことから、戦前のメルセデス・ベンツや、レーシングカー、スポーツカーを代表する車両のひとつとして知られる[ 3] 。
概要
SSKはフェルディナント・ポルシェがダイムラー・ベンツを去る前、最後に設計した自動車である。1927年に発売したタイプSが基になっており、タイプSはレースにおいても活躍したが、元々グランドツアラーとして開発されたこともあって全長が長く、旋回性能に難があった。そこで、ホイールベースを短くし、旋回性能を向上させたのがSSKである。全長とホイールベースが短縮されたこと以外は同時に開発されたモデルSSと基本的に同じで[ W 1] 、SSKは車体長が短くなったことで重量も軽くなり、ヒルクライム やツイスティーなレースにおいて優位性を持った[ W 1] 。
まずヒルクライムに投入され、1928年7月末のデビュー戦、8月のレースで楽勝したことで、通常のサーキットレースでも使用することや[ W 2] 、量産車を少量市販することが決定した[ W 3] 。そうして、市販仕様は1928年10月にSSとともに製品ラインナップに加えられた[ W 3] 。
SSKはSSKLを含めて33台が製造されたが、その内の20台は1929年までに製造された[ W 3] 。姉妹車のSSは1928年から1933年にかけて計111台が製造されたとされており、SSKの製造台数は少なかった。SSKは1928年10月から一般販売が始められ[ W 2] 、1933年2月までカタログに載っていた[ W 3] 。
バリエーション
4座席のツアラー仕様などが様々に作られたSやSSとは異なり、車体が短いSSKは4座席にすることはできないため、2座席のロードスターとして販売された[ 注釈 1] 。
エンジンは7.1リッター(7,079 cc)・直列6気筒 という点はSSKの各仕様で共通しているが、性能は仕様によって異なり(→#主要諸元 )、エンジン本体は140馬力から180馬力を発生し、スーパーチャージャーを使用することで、一時的に200馬力から250馬力の出力を発生させることができた。最高時速はおよそ190 kmに達し、当時の市販車としては最速の車両だった。
名前
製品名(モデル名)として使われた「SSK」は「ドイツ語 : Supersport Kurz 」の略で、同時期に発売された「SS」(Supersport)よりもホイールベースが短い仕様であるため、「Kurz(短い)」を意味する「K」が加えられた。
名称は「S」の短縮型ということで「SK」でもよかったのだが[ W 3] 、姉妹車である「SS」との共通性を強調するため「SSK」という名称になった[ W 3] 。
レースにおける活躍
当時のドイツではヒルクライム の人気が高かったため、SSKは蛇行する山道を登るのに適したショートホイールベースの車両として開発された[ W 2] [ W 1] 。
SSKは1928年7月29日にガベルバッハ・ヒルクライム (ドイツ語版 ) でデビューし、ルドルフ・カラツィオラ によって新記録を樹立し、翌月に開催された複数のヒルクライムレースでも圧勝した[ W 2] 。開発当初、ダイムラー・ベンツのワークスチーム (自社チーム)は、SSKをヒルクライムに用い、SSを通常のレースに使うという使い分けをする予定だったが、SSKがデビュー後すぐに高い性能を示したことから、通常のレースにおいてもSSだけではなくSSKも使うことを決定した[ W 2] 。
主要諸元
仕様
27/140/200PS
27/160/200PS
27/170/225PS
27/180/250PS
車両型式
W06 II
W06 III
WS06
製造・販売期間
1928年 - 1929年
1929年 - 1932年
1928年 - 1930年
1929年 - 1930年
エンジン
搭載エンジン
メルセデス・ベンツ・M06エンジン (英語版 )
排気量
7,069 cc
ストローク長 ×ボア径
150 mm × 100 mm
圧縮比
5.2:1
6.2:1
最大出力(非過給時)
140馬力 @ 3,300 rpm
160馬力 @ 3,300 rpm
170馬力 @ 3,300 rpm
180馬力 @ 3,300 rpm
最大出力(過給時)
200馬力 @ 3,300 rpm
225馬力 @ 3,300 rpm
250馬力 @ 3,300 rpm
最大トルク
450 Nm @ 1,920 rpm
458 Nm @ 1,900 rpm
562 Nm @ 1,900 rpm
車体
全長 / 全幅 / 全高
4,250 mm / 1,700 mm / 1,725 mm
ホイールベース
2,950 mm
トレッド(前 / 後)
1,425 mm / 1,425 mm
重量(車体 / 車両 / 総重量 )
1,400 kg / 1,700kg / 2,000kg
駆動系
トランスミッション
4速マニュアル(ギア比:2.75 / 1.55 / 1.12 / 1.0)
クラッチ
乾式多板クラッチ(4枚)
性能
燃費
L/100 km
27
km/L
3.7
最高時速
185
192
その他
製造台数
計33台(SSKLを含む)[ 注釈 2]
価格(ライヒスマルク )
29,000 RM(車体)、33,000 RM(スポーツ2シーター架装済み)
出典
[ W 5]
[ W 6]
[ W 7]
レース仕様
市販仕様の初期型の公称出力は、高性能版(27/170/225PS)でも225馬力程だったが、レース仕様では、「エレファント」と呼ばれる巨大なブロワーを装着し、過給時に最大で275馬力を出力したとされる[ 4] 。1929年にはさらに性能が増し、レース仕様車の最大出力は300馬力に到達したと言われている[ 4] 。
現存車両
SSKは全体で33台が製造されたとされ、その内の約半数はレーシングカーとして販売された。
その多くはレース中のクラッシュなどで破損し、共食い整備が行われたため、オリジナルの状態を完全に保って現存している車両は4、5台のみだと言われている。
また、SSKは製造台数そのものが少なかったため、販売されていた当時も入手は困難であったことから、SSの全長を短くしてSSK仕様にするという改造が行われた例もあり、それらがSSKの現存車として認識されている例もあると言われている[ 5] 。
取引価格
公道仕様の数も必然的に少ないため、その希少性と当時の人気、数々の逸話によって、現存車両は高額で取引されている。
2004年9月にボナムズ (英語版 ) が行った競売で、1929年型SSKが出品され、417万ポンド(740万USドル)で落札された。これは当時の時点で自動車の取引価格としては史上2番目の高値となった。
著名な個体
SSKカウント・トロッシ
関連作品
アニメ
ゲーム
関連項目
メルセデス・ベンツ・SSKL - SSKに軽量化やスーパーチャージャーの強化といったレース用の改良を施して開発されたレース専用モデル。1931年に製造された。
エクスカリバー (英語版 ) - SSKを基に製作・販売されたレプリカの自動車。1963年から1990年にかけて、3,500台以上が製造されたとされる。
脚注
注釈
^ ただし購入後に4座席に改造した顧客もいた。
^ SSKLは製造時に「SSK」として扱われているため、製造記録から両者を区別することはできない[ W 4] 。
出典
ウェブサイト
参考資料
書籍
メルセデス・ベンツ (1926年 - 1939年)
主な関係者 主なドライバー グランプリカー スポーツカー 速度記録車 関連組織 / 用語
メルセデス(1894年 - 1925年 )
ベンツ(1894年 - 1925年 )
※1894年から1939年の期間、上掲の国旗の多くは政治体制の変遷に伴って(複数回)変更されている。上掲の国旗は国籍を示すことのみを目的にしているため、見た目の煩雑さを避ける便宜上、2021年現在の国旗を使用している。